フォルクスワーゲンは「本当に業績が悪い」のか?…VWを「国内工場閉鎖」に追い込んだ「真の犯人」

 

フォルクスワーゲンは「本当に業績が悪い」のか?…VWを「国内工場閉鎖」に追い込んだ「真の犯人」 - ライブドアニュース


誰もが「優良企業」と思っていたのに

「50万台の車が売れ残っている。これは、2工場で生産している車の数とほぼ同じだ。ただ、それは我々の製品(の品質)とは関係がないし、会社の運営が悪かったわけでもない。単に、市場が無くなってしまったのだ」

9月2日、フォルクスワーゲン(VW)の財務担当の役員は、工場を閉鎖しなければならないかもしれない理由を、こう説明した。この調子では、VWが1994年より実施していた雇用保証も無効になるのではないかと、従業員は慄いた。一定期間、クビになる心配がないと信じて立てた人生設計が、ひょっとして狂い出すかもしれないのだ。当然のことながら、VWの社内は爆弾が落ちたような騒ぎになった。

思えば自動車産業は、戦後ずっとドイツの基幹産業として発展した。VWはその中でも帝王のような存在で、本社はドイツ北部、ニーダーザクセン州のヴォルフスブルクだ。工場の立地でもある同地は、まさしくVW帝国の心臓部。日本の豊田市を想像すればわかるように、町の経済全体をVWが牽引してきた。

しかし、ニュースによれば、VWの経済状態は、すでに10年も前から非常に悪かったという。それにもかかわらず、雇用を増やし続け、従業員には雇用保証まで与え、その結果、このままでは26年までに50億ユーロが不足するという事態に陥った。ただ、たいていの国民は、VWは優良企業というイメージを持ち続けていたので、これらのニュースに衝撃を受けた。

翌3日に開かれた社内説明会には何千人もの社員が詰めかけ、役員らは、延々と続く凄まじい抗議の呼子や口笛に立ちすくんだ。VW社側は、この説明会がいわゆる“非常事態”となることを想定し、会場から報道陣のカメラを締め出していたが、その騒然とした雰囲気はマイクでしっかりと捉えられ、建物の映像と共に、即、夜のニュースで伝えられた。

それにしても、なぜ、こんなことになったのか?

簡潔に言うと、会社側の発表の通り、VWの車が売れないからだ。しかし、会社側の主張は、果たして正確なのだろうか?


電気自動車シフトに舵を切った背景

VWのディーゼル・スキャンダルが起こったのが、15年9月。この時も、VWは社歴始まって以来の衝撃に見舞われたが、その後、18年にCEOの座についたヘルベルト・ディース氏は、同社の製品を全面的に電気自動車にシフトすると宣言した。

こうしてVWは、100年以上かけて作り上げたガソリン車と、CO2削減のために開発したディーゼル車という、掛け替えのない2つの宝を葬ることを決めたわけだ。経済学者で、ミュンヘンのifo研究所の前所長であったハンス=ヴェルナー・ジン氏は、これを、「ドイツは最良のサラブレッドを厩に置いて、電気自動車で勝ち目のない競争に乗り出さなければならなくなった」と表現した。

VW社が全面的に電気自動車にシフトしようとした背景には、政府の、「何が何でも電気自動車」という政治的な圧力が強く働いていた。そのため、一時は他のメーカーも一斉に電気自動車シフトに舵を切ったが、ポルシェやベンツは、その方針をいち早く修正している。

それどころかBMWは最初から、テクノロジーの選択肢を一本に絞ることはできないとして、電気自動車を開発しつつ、ガソリン車も温存するという方針を取った。そんな中、VWだけがなぜか、あたかも舵切りのできない大船の如く、氷山に向かって進み続けた。その結果がこれだ。

ドイツの大企業は、どの党が政権を握っていようが、政府との結びつきが非常に強い。特に自動車メーカーは、常に政府の一番のお気に入りで、この二人三脚があったからこそ、戦後、ここまで順調に急成長できたとも言える。それどころかVWの株は、20%以上をニーダーザクセン州が所有しており、州営企業的なカラーも濃い。大株主である州は、経営に口を出したり、拒否権を行使したりすることができた。

その贔屓の自動車産業が、いつの間にか継子になってしまった背景には、EUが押し進めていたGX(=グリーントランスフォーメーション)がある。これは、石油、石炭といった化石燃料から、太陽や風といった再生可能エネルギーへの転換を目標とするもので、EUの中枢にいる環境議員が強引に展開した。


根拠のない理論を堂々と主張し続けた政府

いうまでもなく、ドイツの緑の党や社民党内の左派勢力にとっても、化石燃料の撲滅、およびガソリン自動車の消滅は積年の夢だった。そこで、ドイツ政府はGXを重視し、他のEU国よりも5年早く、2045年に脱炭素という、どこよりも画期的な目標を、すでにメルケル政権時代に掲げていた。

21年12月、メルケル政治を引き継いだショルツ政権では、環境原理主義の緑の党が政権に加わったこともあり、脱炭素の圧力はさらに強まった。ちなみに、エネルギー危機の真っ最中に、無謀にも脱原発を断行したのも、緑の党の経済・気候保護相である。それ以来、電気自動車普及のための前提である電気は、ドイツでは恒常的に不足、かつ高騰したままだ。

それでも政府は、脱炭素の社会を達成すれば新たな経済成長が起こるという、どう考えても根拠のない理論を堂々と主張し続けた。以来、ドイツの産業界では、高い電気で高い製品を作ることを強いられた企業が、急激に国際競争力を失っていった。経済成長と脱炭素の相性が良くないことは、一目瞭然である。ところがVWは、冷静に考えれば誰にでもわかったはずのその結論を無視し、一途、不毛なGXに向かって突き進んだ。

VWの売れ筋の乗用車の価格は、“フォルクスワーゲン=国民車”としてはすでに価格が高すぎる。中でも電気自動車はとりわけコスパが悪く、誰も欲しがらない車となった。その理由が、「単に市場がなくなってしまったから」というのは本当なのか。産業の糧である電気を奪ってしまった不条理な政治こそが、一番の原因ではないだろうか。

緑の経済相は、現在のドイツ産業不振の原因は、GXに出遅れたことだと言い張っているが、前述のジン氏は、政府の過度な介入が産業界を膠着させたと指摘している(1月24日付Die Welt紙のインタビュー)。たとえば、35年のガソリン車とディーゼル車の新規販売禁止。ドイツ政府が、国民に電気自動車を買わせるために決めたこの強圧的な規則に、当然、国民は付いてこない。

しかし、どうしても抵抗できないとなれば、国民は少しでも安い車を探すだろう。そうなれば、どのみち高いドイツの電気自動車は売れない。それをドイツ政府は考えていなかった。
誰がVWを「追い出した」のか?

一方、フランス政府は、当時、これを願ってもないチャンスと見た。フランスは以前より、電気自動車の開発、および普及では、ドイツよりもかなり進んでいた。原発を駆使しているので電気代も安く、夜間の安い電気で電気自動車を充電するのは合理的な方法だったからだ。そこでフランス政府は、環境派NGOと協力して、GXを推し進めた。これにより、ドイツ経済の一人勝ちに終止符を打てると、彼らは踏んだのだ。

そして、もう一国、世界を熱心に電気自動車に誘導した国があった。これまでどんなに努力しても、世界で売れるガソリン車を作れなかった中国である。しかし、今やその中国の作る逸品の電気自動車が、生産量においても、購入台数においても、世界を制覇しつつある。これは、フランスにとっては完全な番狂わせだった。このままでは、フランスの市場もドイツと同じく、中国の電気自動車に淘汰されてしまう日は遠くない。

VWに話を戻すと、9月10日には、雇用保証の廃止が正式に通告され、来年の7月からはリストラが可能になるという。主要メディアは今も一斉に、VWの放漫経営を批判的に報じているが、左派イデオロギーに取り憑かれてわざわざ電気の高騰を引き起こした政府の責任については、誰もほとんど触れない。

実は私は、VWは本当にそれほど業績が悪いのか、という疑いも捨てきれない。もちろん電気自動車部門は大赤字だが、ガソリン車の売れ行きは良いからだ。それどころか、VWの営業利益は伸びている。また、ドイツで計画していた電気自動車の製造はご破産にしたが、中国の安徽省にある工場の拡張には25億ユーロを投じるという。

つまりVWは他の多くの大企業と同じく、ドイツに見切りをつけただけではないか。高い電気で高い商品を作っても、国際競争では勝てない。しかも今のドイツには、将来、電気が安定に供給される保証さえ無い。だから今のうちに、もっと希望のあるところに生産工程を移す。当然の決定だろう。

もし、そうだとすれば、VWを追い出したのは、現政権の無謀なエネルギー政策ということになる。ただ、当のVWもメディアも、その点にだけは触れない。三者の間に何らかのディールでもあるのかと思いたくなるほど、不自然である。


国民の感情を逆撫でするVW救済策

そうするうちに、ハーベック経済・気候保護相が、愚かなVW救済策を打ち出した。最近止めたばかりの電気自動車に対する購入補助金を、社用車に限って復活させるというのだ。それも今回は、9.5万ユーロ(約1400万円)の超高級車までが補助金の対象となる。

補助金の原資は国民の血税である。大会社の社用電気自動車に回されるなど、これほど国民の感情を逆撫でする話はない。電気自動車を救いたい一心のハーベック氏は、今や良識も常識も失い、暴走している。

一方、VWの従業員がこのまま引き下がるはずもなく、また、彼らの背後にはドイツ最強の労組「AGメタル」がいるため、今後の修羅場が予想される。

そして、9月22日は、注目の旧東ドイツのブランデンブルク州の州議会選挙。社民党の惨敗が予想されている。

ドイツの空気は、今、極めて荒々しい。

ドイツはもうおしまいだ…フォルクスワーゲンが国内工場を閉鎖した「真の原因」

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