イランの最高指導者ハメネイ師は、2017年6月7日の演説で、次のように述べている。
敵はソフト・パワーを利用して政権を倒すチャンスを狙っている。油断してはいけない。このような
敵との戦いにおいては、あなたたちは兵装使用自由なのだ。
兵装使用自由(武器使用許可)とは、脅威に対して自己の判断で兵装を使用してよいという意味だ。国内のマスコミは、ハメネイ師の演説を大きく取り上げ報道したが、誤解を招かないように、「自由」とは作戦上必要な判断を行う自由であり、勝手に人を殺す権利を意味するのではないという見解を付け加えた。
その演説から2年経った2019年11月、政府はガソリン価格を突然(国民に通知せず)三倍に値上げした。それに対し、イランの多くの地域で抗議行動が起こった。名付けてガソリン騒動。治安部隊が出動し、抗議を厳しく弾圧した。市民によって撮影された多数の画像では、治安部隊や民兵組織が抗議する市民に実弾を発射しているところが見られた。海外の人権団体は死者数を1500人と見ているが、政府は死者数230人と発表した。逮捕された後で殺された人も、また18人の子供も、その中に含まれている。
抗議行動が沈静化し、しばらくして、内務大臣が国会に呼ばれ、次の質問を受けた。
「法律によれば、抗議者に発砲する場合には、上半身を狙って撃ってはならないと決められている。それにも関わらず、頭を撃たれた抗議者が多数いるのは何故か」
内務大臣は
「頭を撃たれた抗議者がいたのは事実である。しかし、下半身を撃たれた人も少なくない」と、落ち着き払って答弁した。国会はそれ以上追及しなかった。内務大臣には、直接の責任は問われるべきではないということは、誰でも考えるであろう。弾圧の責任は最高指導者に帰せられるべきである。しかしながら、その責任はおろか、最高指導者を批判することさえ許されないのがイランの現状だ。最高指導者を批判すると、不敬罪が適用され、最大2年の懲役が科される。