
見ていて腹が立ち、それがだんだん許せないという感情に変わったとする。
この感情は、一見相手に対して向けられた感情のように見えるじゃろ?」
「はい。相手に対して腹が立ってますから・・・。」

「えっ・・・自分自身?」

つまりそちはな、自分に対し、『自分ばかりしゃべる』『自分が話題の中心になる』
ということを、自分に許していないのじゃよ。」
わたしは一瞬時間が止まったような気がした。
そしてふと、学生のころの記憶が鮮明に脳裏に蘇えってきた。
学生の頃のわたしは、明るくて話題も豊富。いつもみんなの中心になって話していた。
みんなもよく笑ってくれた。
わたしは人の会話の途中でも、話を奪って、自分の話にもっていくところがあった。
それをじっと見ていた親友が、ある時わたしに言ってくれたのだ。
「自分の話ばかりしてるとだめだよ。人の話もちゃんと聞かないとね。」
わたしはショックを受けたものの、内心ありがたいと思った。
それは言ってくれた親友の言葉に、愛を感じたからだ。
誰がそんな言いにくいことを、面と向かって言ってくれるだろうか。
あの時から私は、
『自分ばかりしゃべってはいけない』
『みんなの話も聞かないといけない』
『人の会話を奪ってはいけない』というルールを、自分の中につくった。
でも本来おしゃべり好きの私にとって、それは守るのが大変なルールだった。
気をつけてはいるが、つい自分中心にしゃべりすぎてしまう時がある。
人の会話を奪ってしまいたくなる時がある。
ついしゃべりすぎてしまった時や、人の会話を奪ってしまった時は、後で後悔した。
「あぁ、またやっちゃった。自分はだめだなぁ・・・。」と。

人が同じことをするのを許してあげることができないのじゃよ。」
なんでも仙人の話し方は、穏やかで包み込むような優しさがあった。
「本当ですね・・・。私は自分を許してなかったです。
そんな自分ではダメだと思っていました。」
さっきまで「あんな人と一緒にされたくない!」とかたくなに拒絶していた気持ちが、
少しだけゆるんだような気がした。なんでも仙人は優しいまなざしをわたしに向けたまま
こう言った。

「・・・自分を許す?」

「どうやって自分を許したらいいんですか?」

そういうと、なんでも仙人はにこにこと笑いながら右手を上げ、
空中に突然現れた半紙と筆を手に取り、何やらスラスラと文字を書きはじめた。