乗鞍高原・上高地情報

乗鞍高原と上高地の四季の自然の姿を現地に滞在するガイドが紹介します。

ホワイトアウト コンパスナビゲーション 講習

2011-03-12 17:11:11 | わんたろう工房
日本中、大変なことになりましたね。
多勢の方が今回の地震で亡くなられたそうですね。謹んでお悔やみ申し上げます。

昨日地震のあった時、僕達は乗鞍のフィールドで雪崩講習を受けていました。
その最中に大きな地震があったのですが、それはもう地鳴りを伴いながら大きく揺れましたよ。地震で本当に雪崩れてくるんじゃないかとちょっと怖かったです。

雪崩講習のことは昨日「はんにゃさん」が書かれているので、その前日に行われたホワイトアウトコンパスナビゲーション講習について書きたいと思います。

3月10日 ホワイトアウトコンパスナビゲーション講習が行われました。講師は日本山岳ガイド協会認定上級登攀ガイドの木村道成さん。いつもODSSの研修に講師として来てくれます。


山でホワイトアウトしたらどうするか?そのときに頼りになるのは地図とコンパスしかありません。その活用方法を学びます。
といっても本当にホワイトアウトしたら僕が一番頼りにするのはGPSですが。

午前中は机上講習。
ホワイトアウトしたら、木村さんいわく、重要なことは「慌てない。まず落ち着いてお茶でも飲む」ことだそうです。

午後は、実際にフィールドに出て実践。
地形図上でチェックポイントを何箇所か作り、それらを結ぶコースを実際に歩いてコンパスと地形図を頼りにそれぞれのチェックポイントを踏むというトレーニングです。

ナビゲーションでは地形図とコンパスを用いますが、まず地形図に磁北線を描き入れておきます。
コンパスのN極は真北を指しません。真北よりもやや西を指します。
これは地球の地軸とコンパスの針が指す磁北がずれているためですね。真の北は地軸が貫く北極点にありますが、磁北はグリーンランドにあります。だから日本から見ると真北よりも少し西になります。日本の中部で約7度西にずれます。そしてチェックポイントから次のチェックポイントまでの方位と距離が分かる表(ナビゲーションログ)を作ります。あらかじめ100mを自分は何歩で歩くのかを数えておいて、チェックポイントまでの距離から歩数を割り出し、それも記入しておきます。

僕はヘリコプターの事業用操縦士のライセンスを持っていまして、以前そっち系の仕事をしていたことがあります。
ヘリで長距離を飛ぶときは、まず飛行計画を立てますがやはり同じようなナビログを作ります。
もちろん磁偏差西へ(westerly)7度も計算に入れます。カリフォルニアで訓練してたときにはこの偏差が東へ(easterly)ずれてましたね(何度だったか忘れたけど)。

↑右席が僕です。


ちなみに航空機は常に風に流されるので、風の計算が入ってくるのがややこしいです。
当日の天気図から気圧配置を読み取り、あらかじめ予想の風(何度方向から何ノットの風が吹くか)で流される角度を計算して、それに対する修正角を計算しておきます。
しかし実際の風は予想どおりには往々にして吹かないもので、実際に予想して修正角で飛んでみてチェックポイントからどれだけ流されたか、エアスピード(大気速度)に対してグランドスピード(対地速度)がどれだけ違うかによって実際の風を割り出し、それに対する更なる修正角を計算して飛ばなければ行けません。サイン・コサイン・タンジェントの三角関数が入ってくるので結構ややこしいです。
しかも地上では簡単に出来る計算が、上空ではなかなか出来ないものなんですよ。
ヘリの操縦は、計器を常にチェックし、エアスピード、高度を一定に保ちつつ、周囲に他機がいないかをスキャニングしつつ、無線で管制官が言ってくる指示にも注意を払い、計画したコースからずれていないかチェックポイントを確認し、そして面倒くさい風の計算、すべて独りで同時にこなさなければいけないのです。慣れないと頭が真っ白になって「ここは誰?私はどこ?」の世界です。ヘリパイは「ながら族」でないとやって行けません。
だから僕は車を運転するときも、「○○までの何km」とかの看板が出てくると「現在のスピードだと何分後に通過」等の計算を瞬時に出来るように練習したものです。

さてコンパスナビゲーション。
休暇村のゲートの先から、第1チェックポイント目指して皆それぞれ自分の信じる方位に向かって森の中に入っていきます。僕はひたすら目標目指して一直線に突き進みます。人ぞれぞれ作戦があるようで、遠回りでも歩きやすいところを行く人もいます。
やはり尾根直登作戦が効いたのか第1チェックポイントには僕が一番乗り。
しかし次のレグはそうは行きませんでしたね。2人くらいに先を越されたかな?マタギをやっているというヨッシーさんは足が速かったですね。

三本滝からの帰りのコースでは、自分のコースをロストしてスキー場のゲレンデに出てしまう人が何人かいたようですね。
小大野川沿いに地形図上で1mmくらいのちっちゃいピークがあるのですが、ミスコースせずにそのピークを踏めたのは僕とサシミさんの2人だけだったようです。
そんなこんなで僕は全てのチェックポイントを踏んでゴールの休暇村に戻ってきました。
なかなかゲーム性があり、道なき雪山を地図とコンパスだけで駆け回るのは楽しかったぁ。

僕もあまり山ではGPSばかりでコンパスを使わないので初心者ですが、ナビゲーションという意味ではヘリで訓練を積んできています。
コンパスの使い方を勘違いしている方が多分たくさんいると思うので、ここで僕がコンパスナビゲーションの基本を皆さんにレクチャーしましょう。

スタート地点から、ある方位にある目標に向かって進むとします。たとえばベアリング120度方向にある目的地。
ここでずっとコンパスと睨めっこしてベアリング120度を保つことだけを意識している人は、目的地にたどり着けない可能性が非常に高いです。
なぜなら山は平坦ではないし、木や川や谷や色々な行く手を阻む障害物があるからです。当然それらを避けなければ前へ進めません。つまり横にずれることになります。そこでまたベアリング120度を保とうとするとどうなるでしょう。
最初自分が設定したスタート地点と目的地を結ぶラインと平行な、別のライン上を進むことになります。
障害物を避けてはベアリングを保つ、を繰り返しているとどんどん本来のコースから離れていくのです。
平行な線は交わることはありません。つまり永遠に目的地にたどり着けないのです。

ではどうすればよいのでしょう?
まずスタート地点でコンパスを見て方位を定めます。目的地が120度方向にあるとしたら、120度方向に見える範囲でなるべく遠く、かつ特徴のある木などを自分の中で決めます。たとえば「あの白っぽい木」と決めたらその木を目指します。
あとはコンパスを見てはいけません。障害物を避けながらも「あの白っぽい木」を見失わないようにしてその木までたどり着きます。
そしてその「あの白っぽい木」の所で初めてまたコンパスを見るのです。そしてそこでまたベアリング120度方向にある次の目標を決めます。たとえば次は「あのたくさん枝分かれしている黒っぽい木」とか。
この作業を何度も繰り返すのです。つまりずっとコンパスを見ていてはいけないのです。
そうするとこの人は、障害物を避けてグネグネ歩きながらも最初に自分が設定したコース上を移動していることになるので、最終的に目的地にたどり着ける訳です。

ヘリである方位に向かって飛びたいときも同じです。コンパスしか見ていないとどんどんコースからずれてきます。
そうならないためには、ヘディング120度にとったときに前方に見えるなるべく遠い目標(山とか)を取り、それに向かって飛びます。そしてその山にたどり着いたら、また120度方向にある新たな目標を設定するのです。

今回の講師の木村さんが作ってくれたナビログにはバックベアリング(反方位)を書き込む欄がありました。
これ以上進めないという万が一のときに引き返すための方位です。つまり進行方位と180度反対方向です。
進行方位が180度より小さいときは180を足した数値、181度より大きいときは180を引いた数値になります。

でも先ほども書きましたが、あらかじめ机上で計算しておく場合にはその計算でいいかもしれませんが、これが飛行中となると簡単な計算がなかなか出来ないものなのです。そこで空を飛ぶときはいかに簡単に計算をするかということを常に考えます。

ここで「2を足して2を引く」という方法をお教えしましょう。
元海上自衛隊の教官に教わった方法なので、たぶん海上自衛隊方式です。
百の位に2を足すか引くかして、10の位に2を引くか足すかするのです。百の位に2を足した場合は10の位で2を引きます。またはその逆です。
たとえば、ヘディング245度で飛んでいるとしましょう。急遽来た方向に戻らなければならなくなったとき、245だから百の位に2を足すと4になってしまいますが方位は360度までしかないので、2を引きます。すると0。
次に百の位で2を引いたので10の位は2を足します。すると6。
結果、245度の反方位は065度と瞬時に出るのです。
皆さんもぜひ活用してみてください!

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