2012年12月18日
「中日新聞」コラム「中日春秋」 http://ow.ly/goz56
<みなさんの中には、こんどの戦争に、おとうさんやにいさんを送りだされた人も多いでしょう。ごぶじにおかえりになったでしょうか。それともとうとうおかえりにならなかったでしょうか>
▼『あたらしい憲法のはなし』は、文部省が一九四七年に出した中学生の社会科教科書である。当時の政府が、新憲法の精神をどう伝えようとしたかを物語る本として、今も、復刻版が売れている
▼冒頭の文は「戦争の放棄」の章の書き出し。続けて<こんな戦争をして、日本の国はどんな利益があったでしょうか。何もありません。ただ、おそろしい、かなしいことが、たくさんおこっただけではありませんか。戦争は人間をほろぼすことです>
▼現実に父や兄を失い、泣きたくなるような気持ちで読んだ子どももいたに違いない。人権や選挙の重みを、やさしく説く文からは、時代の悲しみと希望があふれ出てくる
▼自民党と維新が衆院で改憲の発議ができる三分の二以上の議席を獲得した。自民はまず、改正手続きを定めた九六条を変え、その後九条を改める考えらしい
▼『あたらしい憲法のはなし』は五二年に教室から消えた。朝鮮戦争が起き、米国の求めで日本が事実上の再軍備を進めた背景がある。だが今「あたらしい憲法」の理念まで消し去っていいのか。憲法を論じることは、戦争とは何かを考えることでもある。