直木賞作家・角田光代の同名ベストセラーを「サッドティー」「パンとバスと2度目のハツコイ」の今泉力哉監督が映画化。どんなに邪険に扱われてもなお好きでいることをやめられないヒロインの滑稽ながらも切実で切ない一途な恋の行方と、そんな彼女を取り巻く人物たちのままならない恋愛模様を描いた群像ドラマ。主演は「おじいちゃん、死んじゃったって。」の岸井ゆきのと「チワワちゃん」の成田凌。共演に深川麻衣、若葉竜也、江口のりこ。
あらすじ:28歳のOLテルコは一目惚れした男マモルを愛しすぎるあまり、全てがマモル最優先の日常を送っていた。そのせいで仕事にも支障をきたし、会社もクビ寸前。それほど尽くしているのに、実はマモルにとってテルコは恋人ではなかった。そこのことを十分自覚しているテルコだったが、それでもマモルが大好きで、幸せだと思っていた。親友の葉子は、そんな都合のいい女で良しとするテルコの恋愛観に呆れるばかりだったが…。
<感想>全部が好き。でもなんでだろう、私は彼の恋人じゃない。一途すぎるアラサー女子の一方通行の恋を、彼女と関わる4人の男女の想いを絡めて描いている恋愛ドラマでした。
人を好きになる、ということはそれは素敵な体験ではあるが、自分をどんどん見失い、底なし沼にハマってしまう場合もある。恋愛映画の形を借りて、これまで再三「人が人を好きになる」甘酸っぱさと面倒くささの“シーソーゲーム”を考察してきた今泉力哉監督。
新作では、一目惚れしてしまったマモルに常軌を逸した愛情を捧げるテルコの暴走ぶりを描き出し、男女問わず観る者の感情を激しく揺さぶるのだ。
完全なる一方通行の恋、片思いを極めてゆくタフなヒロイン、テルコに岸井ゆきのが演じていて、「こういう女の人っているよね」なんて思ってしまった。デートもセックスもするが、付き合っているわけではないと言うマモル。もし妊娠でもしたらどういうふうに打ち明けるのだろう。きっと「俺の子供じゃない」ときっぱりと言われそうだ。酷い言葉で、「ウザイ、君とは恋人じゃないから」なんてキツイ言葉を浴びせられても、テルコは一途に電話を待っているのだ。
自分はテルコとはまったく違うタイプなので、相手のマモルが自分本位な行動でテルコを翻弄する男を演じた成田凌くん、自分のことを好きになっている女を利用するというか、都合のいい時だけ寝て、ご飯食べて、後は好きになってしまう女が出来るとポイと簡単に捨ててしまう男。始めっからこういう男とは付き合いませんし、好きにもなりませんね。
テルコもそれで諦めればいいのに、電話がくるとすぐに飛んでいくし、いいようにあしらわれているということに気が付いていないのだ。まじ可哀そうな女で、テルコみたいな女性でも好きになってくれる新しい男が現れるハズなのに、諦めきれずに一途に待っているなんてね。
すみれというライバルにムカついたときに、テルコがラップ調に唄うシーンが大好きです。負けるなテルコ、きっと自分に見合った男がきっと現れるはずだから。すみれも大人の女で、テルコの心情を知ってか知らずか、マモルがしつこく付き合おうとすると、やんわりと態度をひるがえす魅力的な大人の女。だからこそ、マモルもテルコも振り回されてしまうのが説得力ありですよね。
「愛なんて」明確な答えなんて出せないものですからね。
友人の自由奔放な葉子と、邪険な扱いをされながらも彼女に好意を寄せるカメラマン志望のナカハラくん。想いを寄せている葉子の言いなりになっている心の優しい青年であり、葉子の家に居候をしている。でも、自分の気持ちを葉子に伝えようとはしないのだが、写真展で葉子の素顔を撮った自然なポーズが素敵でした。それを見て、葉子の心が搔き乱されてゆく。ナカハラくんも、だからテルコの一途な恋の気持ちも充分に理解しているのだ。
それにマモルが恋に落ちるキーパーソン、年上の女性すみれを演じた江口のりこは、大人の女って感じで中々良かった。こういう人いる、って思わせるリアルな人物を出演陣が的確に体現しているのもいい。
片思いとは、誰でもが通る恋愛の感情を、濃密で瑞々しく、リアルで生々しくもありそれで痛々しい。“愛されてはいない“と、頭では分かっているのに感情が追い付かない一方通行の苦しさ。そんな人間のどうしようもなさを、突きつけられる恋愛映画です。
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