巨匠クリント・イーストウッドが「グラン・トリノ」以来となる監督・主演で贈る実録犯罪ドラマ。大量の麻薬の運び屋として逮捕されたのは、著名な園芸家でもあった孤独な老人だったという前代未聞の実話をモチーフに、仕事一筋だった主人公が、思いがけずメキシコの麻薬組織に雇われ、運び屋という危険な犯罪に手を染めたことで、いつしか自らの人生と改めて向き合わざるを得なくなるさまを、長年顧みてこなかった家族との関係とともに、ユーモラスなタッチを織り交ぜ描き出す。共演はブラッドリー・クーパー、アンディ・ガルシア、ダイアン・ウィースト。
あらすじ:退役軍人のアール・ストーンはデイリリーというユリの栽培に情熱を燃やし、園芸の世界では一目置かれる存在だったが、その代償として家族をないがしろにしてしまい、90歳になろうとする今は家族との間に埋めがたい溝を抱え、孤独な日々を送っていた。やがて農園の経営も行き詰まり途方暮れるアール。そんな時、“車の運転をするだけで大金がもらえる”という仕事を紹介される。最初は荷物の中身を知らずに運んでいたアールだったが、ほどなくそれが大量のドラッグであることに気づく。それでも90歳の老人が疑われることはほとんどなく、順調に仕事をこなしていくアールだったが…。
<感想>前の監督・主演作が08年公開の「グラン・トリノ」だから、10年ぶりの監督&主演作品。これも実話であり90歳の老人が麻薬の運び屋をやっていたという記事が基になっている。麻薬カルテルから一目置かれ、警察を煙に巻いたすご腕の運び屋の正体は、犯罪歴のない90歳の老人だった! 前代未聞の“実話”と、かつてない巨匠の“挑戦”に、特とご覧あれ。
実話を基にした本作でイーストウッドが演じたのは、一度に最大13億円相当のドラッグを運んだとされる“伝説の運び屋”。仕事一筋で家庭をないがしろにし、事業の失敗で家財を失ってしまった孤独な老人アール・ストーン(イーストウッド)。車の運転さえすればいいという仕事を引き受けるが、その実は巨大麻薬組織の運び屋だった。
イーストウッドが演じたアールという男は、やっていることは若々しくて茶目っ気たっぷりなので、彼にぴったりの役なんですね。行く先々で女性に人気だったり、モーテルでコールガールを二人も部屋に連れ込んだりと、モテモテで元気いっぱいのお爺ちゃんだ。この辺りは、彼の実生活を彷彿とさせるからだ。
イーストウッドが演じている役なので、もっと重厚な役かと思ったら、意外に軽くて明るい人。他人にいいところを見せつけたくて、見栄を張っちゃたりするところは笑えるし。それでいて、家族との絆というもう一つのテーマは、しっかりと描かれていた。説明的なセリフなしに、ちょっとした仕草や表情で、主人公が過ごして来た歳月を感じさせるのは、まさに円熟の演技としか言いようがない。
しかも麻薬を運ぶシーンでは、いつバレるかとひやひやしながら画面に釘付けになってしまうし、麻薬組織の恐ろしさも迫って来る。麻薬カルテルのボスにアンディ・ガルシアが扮していて、度胸のある老人の運び屋を気に入り大金を任せる。
それを気に入らない側近たち。ドンにべったりの第一子分頭が、まさか、ドンを後ろから拳銃で殺してしまうとは、そして自分がその椅子に座るという恐ろしい世界である。それに、子分たちは、いつもあの老人を始末しようと企んでいた。
というのも、ラストの仕事を引き受けた時には、離婚をした妻が危篤だという知らせがくる。それで、麻薬を積んだ荷物もそのままに病院へと駆けつけるのだ。その後も1週間くらい子分たちには自分の居場所を言わずに、亡き妻の葬式に参列する。
カーステレオに合わせ、イーストウッドが歌を歌う。何度も車に乗り、何度も歌う。若者にはわからないオールド・ソングだ。彼のお気に入りの歌を選んだのだろうか。この男の人生が、歌を歌うその表情と声だけですべてわかる。この男の過ちや成功や誇りや悲しみや後悔が、車の中に充満する。
しかも映画の冒頭からただひたすら彼はご機嫌で、もはやこの先のことなど考えていないようにも見えるのだ。それは違う、彼はこれから先の「死後」を見つめているからだろう。いつも後ろに子分の車がぴったりと付いて来るし。いずれはDEA(麻薬取締局)の捜査員に捕まることを覚悟をして、そして有罪判決を言い渡されることを承知の上だった。
だが、家族よりも仕事や他人との関係を優先してきたことで、家族に愛想をつかされてしまった男。「自分の家より、他人の問題を片づけるほうが大事だと思っていた」「大きな代償を払って、やっと家族が大事だと気づいた」と反省するアール。ラスト近くでは元妻の傍に付いていて、詫びを入れ葬式をすませるあたりは、優しい爺さんの顔になっていた。
ハイペースで作品を作り続ける演出の秘密とは、もの凄い早撮りなんだそうです。よほどのミスがなければ、撮影はほぼ1テイクから2テイクで終わり。特にはテストカットがOKにあんることもあるそうです。ある意味、役者にお任せというブブも多いから、キャスティングには毎回気を使っているのが分かる。
今回もいわゆるスターではなく、実力派俳優が揃っている。
DEA(麻薬取締局)の捜査員がブラッドリー・クーパーとマイケル・ペーニャが、その上司にローレンス・フィッシュバーンといったシブいところをキャスティング。
それに元妻にベテランオスカー女優のダイアン・ウィーストや、娘には、自分の実の娘であるアリソン・イーストウッドが演じていた。
孫には「死霊館のシスター」のヒロインが印象的だったタイッサ・ファーミガが好演。演技派ばかりだから安心して観ていられる。
イーストウッドは、見た目は老けたけれども、映画の中身は老けていないからね、映画界の宝といえますね。それにユーモアとサスペンス、シリアスドラマが共存しているあたりは、さすが巨匠イーストウッドだと感心させられた。
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