「Mommy マミー」「たかが世界の終わり」などで高い評価を得ているカナダ出身の若き俊英グザビエ・ドランが、初めて挑んだ英語作品。出演は「ゲーム・オブ・スローンズ」のキット・ハリントン、「ルーム」のジェイコブ・トレンブレイをはじめ、ナタリー・ポートマン、スーザン・サランドン、キャシー・ベイツら豪華実力派がそろった。
あらすじ:2006年、ニューヨーク。人気俳優のジョン・F・ドノヴァンが29歳の若さでこの世を去る。自殺か事故か、あるいは事件か、謎に包まれた死の真相について、鍵を握っていたのは11歳の少年ルパート・ターナーだった。10年後、新進俳優として注目される存在となっていたルパートは、ジョンと交わしていた100通以上の手紙を1冊の本として出版。さらには、著名なジャーナリストの取材を受けて、すべてを明らかにすると宣言するのだが……。物語は、ドランが幼いころ、憧れていたレオナルド・ディカプリオに手紙を送ったという自身の経験から着想を得た。
<感想>半自叙伝ともいえる「マイ・マザー」でデビューしたのが19歳。「レオス・カラックスの再来」とか「フランスのアンファン・テリブル(恐るべき子供)」などと映画界では最大の賛辞を彼に贈った。グザビエ・ドラン。自らの容姿の美しさも大きな武器になっただろう。臆することなくゲイであることも公言している。以来、10年。
ドランにとっての初めての英語作品。そしてハリウッド豪華キャスト。それでも自身のテーマを貫く”恐るべき子供”の成熟の仕方とは。
オープニングシーンで、女性が部屋をのぞいて「シド・ヴィシャスの死んだ部屋みたい」という。それより別なショットになるので、なんだか意味が分からないのだが、ずっと後になって、ハリウッドの若手スター、ジョン・ドノヴァンが急死していたのを発見された部屋であることが分かってくる。
セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスは、1978年ニューヨークの友達のアパートで死んだ。自殺とも薬物による事故死ともいわれた。この映画はそんな、1970年代の記憶から始まる。
ハリウッドのスター、ドノヴァンとロンドンで母親と暮らす少年ルパート・ターナーとの文通によって、奇妙な友情が生まれる。しかしドノヴァンはゲイの問題がスキャンダルになり、追い詰められ、急死してしまう。いじめられっ子であった少年は、憧れのドノヴァンの死を傷つきながら、やがて成長して、自分も映画俳優としての道を歩き始める。そしてドノヴァンとの思いでを女性ルポ・ライターに語る。
ドノヴァンのアメリカ映画界での生活と、少年のロンドンでの学校生活という二つの物語がめまぐるしくカットバックしながらよりあわされていく。かなり複雑ではあるが、グザヴィエ・ドラン監督は実に巧みに描かれていた。
ドランは監督自身、「これまで自分が描いてきたテーマの集大成」と語っているから、相当気合が入った作品なんだろう。脚本を書きあげるのに5年もかけたそうだし。それにしても、冒頭でいきなり一方の主人公であるジョン・F・ドノヴァンが死んでしまったのにはびっくりさせられる。
母親と息子の関係、俳優として生きること、ゲイとしての自分とそう向き合うか。これって今までのドランの作品で描かれてきたテーマだよね。この映画ではそれがすべて含まれる上に、母親と息子は二組も登場する。思いっきり気まずい家族団らんの風景を見ていると、あぁ、ドランの映画を観ているんだなと、思わせてくれる。
二人の主人公には、監督自身の人生が投影されている。ドラン監督自身、5歳の時から子役として活動していたから、ルパートには彼の経験が投影されているんだろう。
実はドランも、8歳の時に「タイタニック」を観て、大ファンになったレオナルド・ディカプリオに手紙を書いたことがあるということで、そのころの気持ちが人気俳優と内緒で文通を続けていたルパートの描写に活かされているのかもしれませんね。
そのルパート少年を演じたジェイコブ・トレンブレイが素晴らしかった。「ルーム」「ワンダー 君は太陽」「ザ・プレデター」などと、いずれも主役級の役どころで名演技を見せてくれた子役なんだけど、確かに今回のルパート役もお見事といえる。
母親にも言えない秘密を抱え、学校ではイジメられて孤独なのに、大好きなものの前で見せる無邪気な表情や、スターと文通をしていることを誰にも信じてもらえなくて、絶望の中で勘定を爆発させるところなんかは、もう観ていていじらしくって溜まらなかった。
そんな彼を愛しながらも、隠し事をされていたことに、ショックを受ける母親のナタリー・ポートマンも熱演でしたね。自分的には「レオン」の中のあの少女が、こんな生活に疲れた母親役が似合うようになったんだと、感慨深かった。
女優さんたちの素晴らしさ、ルパートの母にはナタリー・ポートマンが、ドノヴァンの母にスーザン・サランドンが、ドノヴァンのマネージャーにキャシー・ベイツなど、ドノヴァンとルパートを包む女性陣がいずれも素晴らしい。
TV「ゲーム・オブ・スローンズ」で人気のキット・ハリントンが演じたジョン・F・ドノヴァンにもまた、ドラン監督が投影されていた。俳優として役を演じ続けることで、自分を偽って生きてきたんじゃないか、という彼の悩みは、現役の俳優としても活躍しているドラン監督自身の想いなんじゃなかろうか。
そう考えると、極めて個人的な映画なんだと思った。主人公の片方の死から始まる映画という、一見暗い作品なのに、最後には未来への希望が見えてくる辺りでは、ドランの現在の充実ぶりが表れていると思います。
それに、音楽と映像のシンクロ具合にも注目して欲しい。特に、有名な映画のタイトルにもなっているオールディーズの名曲が、新たなアレンジで流れるシーンでは、とても感動的でした。
グザヴィエ・ドラン監督の作品:「マイ・マザー」(09)
「胸騒ぎの恋人」(10)「わたしのロランス」(12)
「トム・アット・ザ・ファーム」(13)「Mommy/マミー」(14)「たかが世界の終わり」(16)
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