水墨画の世界を題材にした砥上裕將の青春小説「線は、僕を描く」を、横浜流星の主演、「ちはやふる」の小泉徳宏監督のメガホンで映画化。
あらすじ:大学生の青山霜介はアルバイト先の絵画展設営現場で水墨画と運命的な出会いを果たす。白と黒のみで表現された水墨画は霜介の前に色鮮やかに広がり、家族を不慮の事故で失ったことで深い喪失感を抱えていた彼の世界は一変する。巨匠・篠田湖山に声を掛けられて水墨画を学ぶことになった霜介は、初めての世界に戸惑いながらも魅了されていく。
篠田湖山の孫で霜介にライバル心を抱く篠田千瑛を「護られなかった者たちへ」の清原果耶、霜介の親友・古前を「町田くんの世界」の細田佳央太、霜介に触発されて古前と共に水墨画サークルを立ち上げる川岸を「サマーフィルムにのって」の河合優実が演じ、三浦友和、江口洋介、富田靖子らが脇を固める。
<感想>水墨画に魅せられた青年の喪失と再生を描く青春譚。2020年の本屋大賞で3位を受賞した同名小説を、映画「ちはやふる」3部作の小泉徳宏監督が映像化。確かな演技力を兼ね備え、現在引く手あまたの横浜流星を主演に迎え、水墨画の世界に魅了された主人公青山霜介の成長を瑞々しいタッチで描いている。
青山霜介を導く師匠の湖山を三浦友和、彼の孫の篠田千瑛を清原果耶、一番弟子の西濱を江口洋介が演じ、物語をしっかりと支えている。横浜流星が実際に水墨画家、小林東雲のもとで修業に励み、1年以上をかけて会得した見事な筆さばきにも注目したい。
スポーツでも芸術でも才能の開花に必要なのは、昔のようなシゴキやライバル同士の足のひっぱりあいなどの逆境ではなく、正しいタイミングで正しい場所にいること、つまりは才能を高め合う仲間との出会いにあると思う。
光や風や音の効果で、静寂な競技に映画的な演出を生み出す監督の手法に、さらに研ぎ澄まされていく。一見静謐なイメージがある水墨画を、映像のパフォーマンスで鮮やかな立体化した小泉監督と技術スタッフには感心しました。
真っ白な紙には、無限の可能性がある、という台詞があるが、主人公を白紙に見立てた墨をする動作からの展開には、厳しいスポコンドラマに近い要素やエピソードがあり、水墨画が、主人公の青山霜介の心に、人の温もりを呼び戻してくれ、生きる意味を見出していく姿に胸がいっぱいになりました。
特に一番弟子の江口洋介のキャラには驚かされた。師匠が病に倒れ、代わりに自分が龍の墨絵を描く鋭い技法には惚れ惚れした。それにラストでは、クレジットのパフォーマンスにも遊びがあり、アートと青春、まさに絵になっていた。
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