パピとママ映画のblog

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東ベルリンから来た女 ★★★

2013年03月24日 | は行の映画
緑萌える夏の海辺の町を舞台に、決別に身を引き裂かれるニーナ・ホス扮する、ヒロインの葛藤に焦点を当てる。監督は、東ドイツからの逃亡者だった両親のもと、西側で生まれ育ったクリスティアン・ペッツォルト。

エリートコースを歩んでいたはずの女医が、田舎町の病院に左遷されてやってくる。バルバラには、シュタージが常に目を光らせ、彼女の上司アンドレも監視、報告義務を課せられている。その背後に何があり、彼女はこの後どんな運命をたどるのか。それがありきたりのドラマのようにではなく、まるで観客をその場所、その時間に招き入れるように描き出されていく。

そんな孤立無援の状況下、孤高の態度を崩さず、同僚と群れない一方で、矯正収容施設から逃げてきた傷ついた少女に対してバルバラは、母親のような優しい顔をのぞかせる。アンドレは、彼女の医師としての手腕、そして女としての魅力に惹かれてゆく。また見る者も、優秀かつ献身的な医師としての務めと、シュタージの目をかいくぐり、官能的な森での束の間の恋人との逢瀬や逃走資金の受け渡しなど、息を殺して計画を準備するバルバラの二重生活に引き込まれて行く。

<感想>女医の東独脱出をめぐるサスペンス。なのだが、情報を事前に説明せず、ヒロインの行動を追っていくうちに、状況がつかめてくる。陰鬱な色彩の中、彼女が風に逆らうように自転車を走らせるのが、わけもなく素晴らしい。
出てくる女もそっけないが、作中の男にだけでなく観客にも無口だ。一人でバスを待ち、バスは来ないと言われ、男に車で送ってもらい、家の前でなく途中で降りながら嫌そうに礼をいい、越してきたばかりの家の地下で、ボロい自転車をみつけるまでで、何故かもう引き込まれた。
タイヤのチューブを浴槽につけてパンクの箇所を見つけ出す。ぷくぷくと浮かび上がる泡が寡黙な主人公の代わりにしゃべり出したようだったが、次の場面でもう女は自転車をこいでいた。自分で修繕したのだ。
そういう省略が気持ちいいが、一方でこの映画は省略のなさもいい。それと音楽、サウンド・デザインは映画にとって重要な要素だと思う。この作品の音が、目に見えるもの以上に囁きかけ、画面外の世界、それは旧東独からは見る事ができなかった西側にも繋がる予感をさせる。バルバラは住む家に横づけされる車の音、西側の逃亡資金が隠された十字架が立つ森の奥のそばで聞こえる海鳥の鳴き声、・・・それらが気配によって、再統合前の東独を構築し、ヒロイン=バルバラが住む世界と時間を観客自身のものとして感じさせる。

似た景色の中、大事なポイントには十字架が立っていたり、筋や人物を見失わせない工夫が随所にある。主人公の内面もシンプルで、苦悩したり何に直面しているのかも、とても分かりやすくて助かる。噛み砕かれているような感じがするのは、監督が上手いっていうことだろう。
亡命を企てる女を秘密警察が嗅ぎ回り、観客にはサスペンスを与え続けるが、敵であるその警察も弱く見える。乗り付ける自転車が彼女の身の丈合わずなんとも遅そう。だが、秘密警察の男も、妻が病に侵されている弱い立場であることを分かりやすく描いている。
女を見守る男の見守りぶりも、二人の距離の縮め方もちょうどいいし説得力もある。ラストも綺麗に決まった、非常に優等生的な映画ともいえるけど、嫌味に感じないのは、そういう作りの手前に絵があるからだろう。
強風の中、自転車をこぐ絵だけで格好いい。一両編成の電車の迫る踏切を自転車で越えて、車両に近づき、自転車を降りてその電車に乗ったことになんだか驚いた。
そっけない題名の邦題も悪くないが、原題どうり「バルバラ」というタイトルで良かったのではと個人的に思った。原題は主人公の名前「Barbara」

この映画は、東ドイツには秘密警察なるものがいてこれが恐い。秘密警察の出てくる映画では、名作フロリアン・ヘンケル・フォン・ドーナスマルク監督の「善き人のためのソナタ」(06)があるが、この作品ではまた違った角度から時代の真実を描いている。脚本にもう一歩踏み込みが不足した感があるものの、主人公である女医のバルバラを演じるニーナ・ホスがセクシーだ。ナスターシャ・キンスキーやエマニュエル・ベアールにも似た彫りの深い美貌と、大粒な情熱の瞳、キリリトした意志の唇、そして辛酸をなめて成熟した肉体が際立っている。おまけに金髪だし。
そしてバルバラが田舎道を自転車で走る姿がとても魅力的です。こんなシーンを見るだけでもこの映画を見る価値は充分にあると思う。何かを見つめるニーナの目がいい。
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