本作はラム監督が長年温めていた企画を映画化したもの。八百長に手を出しおちぶれてしまった元ボクシング王者、夫の浮気がきっかけで息子を溺死させた母親、父親の会社が倒産して一文なしとなった元大富豪の息子という、どん底にいる三人が、総合格闘技MMAによって人生を取り戻していく姿を描く。格闘シーンでは本物のMMA選手も出演しており、現地で公開されるや『ロッキー』に並ぶ泣ける格闘技アクションドラマとして話題を呼んだ。
ボクシング王者だったファイ（ニック・チョン）は、八百長事件に関わったことで王座をはく奪、ボクシング界を追放されてしまう。すでに40代半ば、博打好きがたたって借金取りに追われる毎日の彼は、香港からマカオに渡り、知り合いが働くジムの雑用係の職を得る。下宿先でシングルマザーのクワンとその娘シウタンと知り合った彼は、ジムに通うワケあり青年・スーチーの切実な思いにもほだされ、スーチーのMMA挑戦をサポートすることに。彼を鍛えることで自らを悔い改め、人生を生きる新たな目的を見つけていくファイだったが……。
スーチー（エディ・ポン）は、バックパックで世界をめぐっていた裕福な御曹司だったが、実業家の父が破産し、今は生活費を稼ぐため、建設現場で働く毎日を送っていた。しかし、献身的に尽くすスーチーの思いは父に届かず、父は酒に溺れては、その都度息子に酒場に迎えに来てもらうという体たらくだった。そんなときスーチーの目に入ったのは、総合格闘技MMAの試合中継。自らの尊厳を取り戻し、そして強敵に果敢に立ち向かう姿を通して、父に生きる希望のメッセージを伝えるため、深夜のジムで強烈なパンチを放っていたファイに弟子入りを申し出る。過酷なトレーニングを経て、リングで彼を待っていたものは……。
夫に見捨てられ、酒浸りになっていたために、不慮の事故で愛する息子を失ったクワン（メイ・ティン）。心をふさぎ、今はしっかり者の長女で10歳のシウタン（クリスタル・リー）に守られながら暮らしていた彼女は、新しい下宿人として、ファイと出会いを果たす。当初は、がさつで無遠慮なファイと反目するクワン母娘だったが、ファイの素朴な優しさを知るうちに、徐々に心を開いていく。頑なだったシウタンが笑顔を取り戻し、クワンもまた人生の目的を取り戻す。ファイとともに新たな“家族の絆”を深めていくクワンたちだったが……。
＜感想＞「ロッキー」や「レスラー」など格闘技映画が好きには見逃せない激熱な映画が香港からやってきた。予告編で見てこれは面白そうだと、やっぱり観て良かった。八百長に関係したことからボクシング界を追放された、元チャンピオンの中年男が、香港→マカオと移り、「もう香港には戻らない」と決意するまでの物語。彼が関わる格闘技が何度も描かれるが、毎回の試合内容と撮影方法に工夫があり、試合の難度があがるにつれ、観る者の気持ちを盛り上げていくのが最高。登場する男女や師弟関係や性格づくりもキメ細かくて、ドラマ作りも無理なくうまいと感じた。
主役のニック・チョンは、日雇い労働の若者にコーチを頼まれて、共に総合格闘技戦のトレーニングに打ち込むというもの。元チャンピオン役のニック・チョンは、ダンテ・ラム監督の「密告・者」「ビースト・ストーカー／証人」が高く評価されている個性的な名優です。今回は、撮影当時46歳のチョンが壮絶な役作りを敢行。「ロッキー」をほうふつするシーンが連続ですから。
若手俳優のエディ・ポンと１１カ月間に及ぶ身体改造＆格闘技トレーニングを重ねて、男臭さムンムンのファイトシーンを見せてくれています。
気力を失くした父親を支える青年と、心を病んだ母親を支える少女。その二人ともを支えることになるのが、一度どん底に落ちた主人公のファイである。出てくる人物のすべてが、とことん落ちて、喘ぎ、嘆き、底なしのマイナスから天井しらずのアップへと。だからこそ、上がるし、燃えるのだ。
熱い戦いにベタといえばベタだが、朽ちかけたアパートで雨漏りに身体を濡らしていたニックが、リンクで紙吹雪に包まれるクライマックスには、まさかの肩を外しての相手の絞め技から抜け出て、ブラブラの右手に、利き腕の左での攻撃パンチに、震えが止まらなくなるはず。動けばなにかした変わることを訴えた物語もさることながら、４６歳であのボディを作り上げたニック・チョンにも激しく心を揺さぶられる。
常に複数のエピソードが同時進行していながら、全体がシームレスな１本の流れをなしているという驚異的な語りの技術。変化を恐れず戦い抜くことの尊さを描いた「激戦」。ここには確かに、観客の意識を変えさせるに十分な熱気が、伝わっている。
音響が各シーンをまたいで使われるのが非常に効果的で、スピード感で一気に見せている。２人の熱気に周囲が感化されていく展開や現代的にアレンジされた名曲「サウンド・オブ・サイレンス」が実に効果的に使っている。まさか、映画「卒業」の歌「サウンド・オブ・サイレント」が香港映画に流れるとは思いがけなかった。でも、実によくてハマっているのだ。文字どおり激戦映画になっていました。
２０１５年劇場鑑賞作品・・・６８
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ボクシング王者だったファイ（ニック・チョン）は、八百長事件に関わったことで王座をはく奪、ボクシング界を追放されてしまう。すでに40代半ば、博打好きがたたって借金取りに追われる毎日の彼は、香港からマカオに渡り、知り合いが働くジムの雑用係の職を得る。下宿先でシングルマザーのクワンとその娘シウタンと知り合った彼は、ジムに通うワケあり青年・スーチーの切実な思いにもほだされ、スーチーのMMA挑戦をサポートすることに。彼を鍛えることで自らを悔い改め、人生を生きる新たな目的を見つけていくファイだったが……。
スーチー（エディ・ポン）は、バックパックで世界をめぐっていた裕福な御曹司だったが、実業家の父が破産し、今は生活費を稼ぐため、建設現場で働く毎日を送っていた。しかし、献身的に尽くすスーチーの思いは父に届かず、父は酒に溺れては、その都度息子に酒場に迎えに来てもらうという体たらくだった。そんなときスーチーの目に入ったのは、総合格闘技MMAの試合中継。自らの尊厳を取り戻し、そして強敵に果敢に立ち向かう姿を通して、父に生きる希望のメッセージを伝えるため、深夜のジムで強烈なパンチを放っていたファイに弟子入りを申し出る。過酷なトレーニングを経て、リングで彼を待っていたものは……。
夫に見捨てられ、酒浸りになっていたために、不慮の事故で愛する息子を失ったクワン（メイ・ティン）。心をふさぎ、今はしっかり者の長女で10歳のシウタン（クリスタル・リー）に守られながら暮らしていた彼女は、新しい下宿人として、ファイと出会いを果たす。当初は、がさつで無遠慮なファイと反目するクワン母娘だったが、ファイの素朴な優しさを知るうちに、徐々に心を開いていく。頑なだったシウタンが笑顔を取り戻し、クワンもまた人生の目的を取り戻す。ファイとともに新たな“家族の絆”を深めていくクワンたちだったが……。
＜感想＞「ロッキー」や「レスラー」など格闘技映画が好きには見逃せない激熱な映画が香港からやってきた。予告編で見てこれは面白そうだと、やっぱり観て良かった。八百長に関係したことからボクシング界を追放された、元チャンピオンの中年男が、香港→マカオと移り、「もう香港には戻らない」と決意するまでの物語。彼が関わる格闘技が何度も描かれるが、毎回の試合内容と撮影方法に工夫があり、試合の難度があがるにつれ、観る者の気持ちを盛り上げていくのが最高。登場する男女や師弟関係や性格づくりもキメ細かくて、ドラマ作りも無理なくうまいと感じた。
主役のニック・チョンは、日雇い労働の若者にコーチを頼まれて、共に総合格闘技戦のトレーニングに打ち込むというもの。元チャンピオン役のニック・チョンは、ダンテ・ラム監督の「密告・者」「ビースト・ストーカー／証人」が高く評価されている個性的な名優です。今回は、撮影当時46歳のチョンが壮絶な役作りを敢行。「ロッキー」をほうふつするシーンが連続ですから。
若手俳優のエディ・ポンと１１カ月間に及ぶ身体改造＆格闘技トレーニングを重ねて、男臭さムンムンのファイトシーンを見せてくれています。
気力を失くした父親を支える青年と、心を病んだ母親を支える少女。その二人ともを支えることになるのが、一度どん底に落ちた主人公のファイである。出てくる人物のすべてが、とことん落ちて、喘ぎ、嘆き、底なしのマイナスから天井しらずのアップへと。だからこそ、上がるし、燃えるのだ。
熱い戦いにベタといえばベタだが、朽ちかけたアパートで雨漏りに身体を濡らしていたニックが、リンクで紙吹雪に包まれるクライマックスには、まさかの肩を外しての相手の絞め技から抜け出て、ブラブラの右手に、利き腕の左での攻撃パンチに、震えが止まらなくなるはず。動けばなにかした変わることを訴えた物語もさることながら、４６歳であのボディを作り上げたニック・チョンにも激しく心を揺さぶられる。
常に複数のエピソードが同時進行していながら、全体がシームレスな１本の流れをなしているという驚異的な語りの技術。変化を恐れず戦い抜くことの尊さを描いた「激戦」。ここには確かに、観客の意識を変えさせるに十分な熱気が、伝わっている。
音響が各シーンをまたいで使われるのが非常に効果的で、スピード感で一気に見せている。２人の熱気に周囲が感化されていく展開や現代的にアレンジされた名曲「サウンド・オブ・サイレンス」が実に効果的に使っている。まさか、映画「卒業」の歌「サウンド・オブ・サイレント」が香港映画に流れるとは思いがけなかった。でも、実によくてハマっているのだ。文字どおり激戦映画になっていました。
２０１５年劇場鑑賞作品・・・６８
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