パピとママ映画のblog

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薄氷の殺人 ★★★.5

2015年04月02日 | アクション映画ーハ行
第64回ベルリン国際映画祭で金熊賞と銀熊賞を受賞したクライムサスペンス。中国北部の地方都市で起きた未解決の連続猟奇殺人事件を追う元刑事の男が、被害者たちと関わりを持つ女に惹(ひ)かれながらも事件の真相に迫っていくさまを独自の映像美で活写する。メガホンを取るのは、『こころの湯』などの脚本を手掛けたディアオ・イーナン。『戦場のレクイエム』などのリャオ・ファン、『海洋天堂』などのグイ・ルンメイらが出演。
あらすじ:中国・華北地方で切断された死体の断片が次々に発見され、刑事ジャン(リャオ・ファン)が捜査に当たるが、容疑者の兄弟が逮捕時に射殺されたため詳細は誰にもわからなくなってしまう。5年後、しがない警備員となっていたジャンは以前の事件と手口が類似した猟奇殺人が発生したことを知り、独自に調査を開始。やがて、被害者たちはいずれもウー(グイ・ルンメイ)という未亡人と近しい関係だったことを突き止めるが……。

<感想>撮影が「マルタの鷹」や「黒い罠」を何度も観て研究したというディアオ・イーナン監督。映画は、何となくフランス犯罪映画のフイルムノワールの影響を受けているような、極力台詞が少なく、説明的なカットもほとんどない斬新な作風に驚かされる。
この映画の氷のような冷たさを表現した静かなカットは、固定カメラによって雪の降り積む街、ハルビン中心でロケをしたというが、天然氷で滑る野外スケート場。男女が揃えばいくらでもロマンチックになりそうな舞台で繰り広げられるのは、物騒で哀しい犯罪劇であるようだ。

美容院の事件や、スケート靴で刑事が殺害されるシーンでは、長回しが好きだと言う監督だが、今の中国の映画のビジネスはカット割りの方が受け入れられるというのだ。

トンネルを過ぎると雪国という日本の小説にもあるが、中国のハルビンもトンネルを過ぎると吹雪いて真っ白な銀世界である。路肩でバイクの傍で酔っぱらって寝ている男が、刑事のジャンだとは、それに通りかかった男に立派なバイクを乗り逃げされてしまうのだ。

夫がバラバラ殺人の被害者の妻のグイ・ルンメイ。蒼白な綺麗さがある女優で、やせ形の切れ長の目、唇がぽってりとしていい。その妻が容疑者だとは誰が想像しようか。クリーニング店で働くウー、店主も女に夢中になり、客の毛皮のコートを持って来た男もウーに夢中、刑事のジャンも毎日のように店に通って惚れてしまう。

乏しい灯りの中で大勢の人が、ひたすらリンクをぐるぐると回る異様さ。池が凍るほどの冬の中国の寒さが身に沁みる。観ていて、刑事のジャンが滑れないのに女に付いていくスケート場のシーンで、野外スケートリンクからどんどんと外れて行く女、それを追いかけるジャン。もしかしてタイトルの「薄氷の殺人」とあるので、氷の薄い場所へ誘い出して溺れさせようということか?・・・なんて考えていたのだが、そういうことはなかった。
そして、背中に掲げているスケート靴の鋭利な刃、犯人とおぼしき男を付けてハン刑事が後を追い、その鋭利なスケート靴の刃で首や身体を切られる。そこは見せないが、切断した遺体をトラックで各地の石炭工場に運ぶアイデアに光るセンスと実写する画力。橋の上からバラバラにされた遺体を、下を通る貨物列車の石炭の上に放りなげるとは。

それにしても、警察は何をしているのだろう。主人公の元刑事のジャンとヒロインである若き未亡人のウー。警官失格者としての曖昧な感じがするのだが、所詮は男だ。自分の好みの女だとすればそうなるのがなりわい。その二人が観覧車という狭い空間で愛を交わすシーン。あってはならない二人の逢瀬がひたすら続く。

追うものと追われる者の同質性は狙いだろうし、その両者から愛される女は中国映画に突如現れたファム・ファタルである。深夜から明け方にかけて、男と女に浴びせられる赤と緑、紫、黄色にピンクの光は、中国に倒錯的なフィルム・ノワールを狂い咲かせ、その結果として極め付きの、ラストの爆弾のような白昼の花火である。これは、きっとジャンが屋上から打ち上げているのだろう。
バラバラにされた遺体は、死んではいない彼女の夫が手助けしたものであり、想像したようなエグイ残酷なシーンはなく、寒々とした雰囲気に痩せ細った女にでも、温めて貰おうとする男たちの最後が哀しい。
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