やはり禁煙に
ある日
コーヒーを飲みながら経済新聞を読む白髪の男性が
灰皿をくださいと言ってきた
「申し訳ございません、ここは禁煙です」
「やはりそうですか」
にっこりほほ笑む
「すみませんね、こちらは狭いところだし、席を分けることもできませんので
迷ったのですが禁煙にしました」
「そうですね」
っと温和にうなずく男性
ケラケラは
切り出した
「昔は、たばこの煙を追うのが大好きだったんですけどねぇ~
おじいさんが鼻から煙を出すのを不思議に見てました」
「そうですね、私もいつの間にか煙草を口にしてました。
今ではないと困ります。この頑固爺の自慢は
世間様に逆らって禁煙をしたことが一度もないことですよ、ハハハ」
「ほんとに申し訳ないですね」
「いやいやいいんですよ、ではもうしばらくここにいさせてくださいな」
「どうぞどうぞゆっくりしていってください」
そう言って振り向いたとき
懐かしいたばこの残り香が微かにした
愛煙者の方々には受難の時代となってしまった
こちらのお客様はもう来なくなってしまうのかと
案ずる昼下がり
そのお客様は
頬杖ついて窓の外、遠くをながめていた