マツイエツコ写真展「地図」への思い〜インタビュー

2023-01-23 11:28:54 | 日記

pieni onni 2023年最初の写真展となる「地図」の開催にあたり、 作者のマツイエツコさんにお話を伺いました。

Q1 pieni onniとの出会いから写真展の企画が決まるまで短 かかった思うのですが、岐阜で写真展を開くことの思いをお聞か せください。

■ただただ嬉しい。その一言に尽きます。 私は表現活動として写 真を撮っていないこともあり、人生の中で写真展開催は本当に一 度あるか ないかくらいの出来事だと思っていました。どうしても形 にしたかったことを昨年『HANAMUKE/ 贐』という写真展にまと めましたが、それが最初で最後だと本気で思っていたんです。その 写真展 をきっかけに今回pieniさんでの写真展開催というお話に 繋がって、驚きとありがたい気持ちでいっ ぱいになりながら準備を 進めてきました。

Q2 昨年6月にやはり岐阜をテーマにした写真展「贐」を京都の マツイさんのPhotolabo hibiでも開いていますが、今回の「地図」 との違いについてお話しください。

写真展『HANAMUKE/贐』は、長年岐阜市で暮らしてきた祖父母 に向けて作り上げたものでし た。2人が亡くなってからもずっと区切り をつけることができなかった思いを、写真展という形で昇華してあらた めて2人を見送る。私の中では”葬式”をモチーフにしていたこともあ り、自分の店( Photolabo hibi)でしか実現できないとても内向きな ものだったと思っています

一方で今回の写真展『地図』は、pieni onniという外部の場所で開催されることが大きな違いだと思っています。自 分と関わりを持たない人が多く訪れ、あらゆる人に岐阜の街の風景を見てもらえる機会になること。撮り続けてきた故郷の写真が、同じ故郷の地に戻ること。できれば、岐阜市という街と私の関係性、そしてこの街に向け続ける私自身の まなざしやそこに乗せる思いをきちんと 整理して、この場で伝えたいと考えました。 私と岐阜市を結んでいた関係性は「祖父母が暮らしていたこと」ただそれだけでした。祖父母が亡 くなって家やお墓もなくなって、それでも私がこの街に惹かれ続ける理由は何なのか。たとえ縁が なくなったとしても、自分の手で新しく関 係性を生み出すことはできないのか。そういった問いと答えをまとめたものが写真展『地図』です。そのあらゆるものと向きあうきっかけを、今回pieni onniさんに与えて頂いたと思っています。

「大好きな岐阜を撮り続ける」

Q3 岐阜を撮りたいと思ったのはいつ頃からでしょうか? またあらためてその動機についてお話しいただけますか。

■明確に岐阜の街の写真を撮りたいと思ったのは2018年でした。この年に祖母が亡くなったのですが、亡くなる直前 にふと「街の写真を撮って棺に入れてあげたい」と思い立ったことが大きなきっか けです。 当時「こう撮りたい」という理想のイメージはあったのですが、唐突な思いつきに対して技術面が まったく追いつかず、結局納得のいく写真を撮 ることができませんでした。その後悔もあり、本当に 撮りたい写真は即興ではなく、トライアンドエラーを繰り返しながら 撮れるようになるんだということ を学びました。「同じものを撮り続けていて飽きない?」と聞かれることもあるのですが、 そうした体験が起点となったことで、今でもずっと飽きることなく撮り続けることができています。

 

「フィルムは触れられる"もの"」

Q4 フィルム写真にこだわり続けていらっしゃると思いますが、その理由について教えてください

■私がフィルムに対して感じている魅力は、”もの”として触れられるという点です。 自分が撮った写真が、ネガフィルム という”もの”として確かに存在している。そのことに大きな安心 感があります。ものって劣化したり壊れたりもしますけ ど、よっぽどのことがない限り消滅すること はあまりないんですよね。まるごと捨てるとか燃やすとか。そういったことが なければ、たとえ箱の 中にしまい込んでもや押し入れの奥底に埋もれてしまっていても、ちゃんとこの世には残るんで す。物としてひたすら増え続けるので保管場所問題がネックですが、ある意味それが生活における豊かさなんじゃない かとも思っています。

また、自分で手焼きプリントができるというのも魅力の一つです。 前回の『HANAMUKE/贐』も今回の『地図』も、作 品はすべてカラー暗室で1枚1枚手焼きしてい ます。暗室では、写真の明るさや色味など仕上がりイメージのゴールを 決めて、そこにたどり着け るように手作業ですべての調整を行います。私はこの作業が大好きで、「撮ること」「眺めるこ と」と はまったく違う形で写真と向き合える時間だと思ってます。自分が撮りたかった写真を、直接手で 触れながら”も の”として形作ることができる。やっぱり「触れる」という部分へのこだわりが強いよう な気がします。

Q5 写真を撮る時に一番大切にしていることはありま すか?

■「撮るだけで終わりにせず、あとで何度も見返すこと をイメージする」ということです。 性格的に何か明確な 意思や目的がないと物事が続かないタイプでして、写 真を撮るときも「ただな んとなく撮る」「とりあえず撮っ て満足する」ということがすごく苦手なんです。近年で は写真を撮っ たらSNSにアップする・誰かとシェアす るといった流れが主流ですが、そういったものも自分 の中で あまりピンとこない部分があります。 どちらかと いうと、自分の写真をひとりで見返す時間が好きです ね。撮った写真を見ながらいろん なことを振り返って考 えるという時間が「撮ること」と必ずセットになっていま す。

そうした時間は、自分が何を見ているかだったり、何に興味があるのかを教えてくれます。 そこから新しいヒントを得た り、意識していなかった自身と向きあうきっかけが生まれたりする。も ちろん、思い出を振り返ったり忘れたくないことを 記録したりするという役割も、写真にはあります。 でも、ただ撮るだけでは「忘れない」ということにはならないと思うん です。

最近出会った読み物の中で「忘れないとは、その出来事を何度でも思い出し、記憶の筆でなぞり、 新鮮な色を塗り重 ねていくこと。憶えるのではなく、自分で何度も思い出すことが大切なのではな いか。」という言葉がありました。 デジ カメでもスマホでもフィルムでも、シャッターやボタンを押しさえすれば目の前のことは記録で きます。でも、それはSD カードやフィルムという媒体に”記録”されるだけであって、自分自身が”憶 えた”ということにはならない。あとでそれ らを見返すことで初めて「自分がこの写真を撮った」「こん な気持ちで撮った」と認識できるのではないでしょうか。 写真屋という仕事柄もあって「自分らしい写真が撮りたい」という相談を受けたりもしますが、撮り方のスタイルや色味 以上に、まず「自分自身が何を撮っているか」ということを知るのが大切だと 思います。だからこそ「何度も見返すこと をイメージする」という意識を撮る瞬間に持っておくのは、 個人的にとてもおすすめです。

「写真を見ていると時間を忘れる」

Q6 マツイさんの写真は誰の心の中にもあるどこか遠い記憶のように感じるのですが、それはマツイさん自身は意 識していらっしゃいますか?

■ そう言っていただけるのはとても嬉しいです。 Q5で回答したように、私は「撮る写真をあとで見返す」という前提を かなり意識しています。それと 同じように、作品として誰かに見てもらうことになった時にもその余地は残したいと考え ていまし た。
昔、どこかで見たことがあるような気がするおぼろげで曖昧な記憶。そういったイメージは、きっと 誰にでもあると思って います。私の写真を見たときに、そんな記憶を思い出すきっかけになって欲 しいという思いはありますね。

そういった理由から、撮影の時にいくつか気をつけていることがあります。 例えば、客観的な視点を保つために撮る対 象にあまり近寄りすぎないこと。構図やアングルは、 自分の目線から見える風景とできるだけ同じように撮ること。写したいものだけを、可能な限りシンプルに写すこと。
カメラはほとんどOLYMPUS OM-1というフルマニュアル機を使っていますが、岐阜の街を撮ると きには大体絞り値を F5.6かF8に設定することが多いです。この数値ならボケ感が少なく、景色の 奥行きがリアルになるんです。

Q7 マツイさんが写真との関わりを仕事にすることを決めたエピソードなどがありましたら教えてください。

写真と関わる仕事というと、多くはカメラマンや写真家という職業を思い浮かべる人が多いと思う のですが、私はそちら ではなくあえて「写真屋(DPE)」という職業を選びました。というのも、撮るこ と以上に「見ること」の方が好きだという自 覚があったからです。写真を撮る仕事というのは、自分 の中に「撮りたい」という意欲を持ち続けないと継続できないも のだと思っています。私は写真を撮 ることに対して”趣味”として楽しむ分には好きでしたが、常時そのことに囚われてし まうのが嫌だっ たんです。 その一方で、自分ではない誰かが撮った写真を眺めるのは好きでした。家族の撮った古い写 真や 広告などで目にする写真、アーティストや作家が撮った写真。そこには無数の世界があり、眺めて いるとそこに引 き込まれていく、そんな感覚が心地良くて飽きることもありませんでした。 はっきりと「写真屋」という仕事を選んだのは、カメラ日和という雑誌でたまたまフィルムに特化した 日本全国の写真屋 さんが紹介されているのを目にしたことがきっかけです。 趣味で楽しんでいたフィルム写真を支えてくれるお店が、身近 にあったら嬉しい。でもどうせなら、 自分で作ったほうがもっと楽しいのでは?そういった突拍子もない思いつきで、現在 のPhotolabo hibiは生まれました。


今後の活動について

Q8 ず っと岐阜を撮り続けていらっしゃいますが、今後の活動 についてはいかがでしょう。

■岐阜の街はこれからも継続して撮り続けていきます。撮りた
めた写真たちが、この先また何かの 機会にお披露目できれば それはとても嬉しいことですが、表現活動としてではなくあくまで自分自 身が残しておきたい記録のために撮り続けたいとい う気持ちの方が強いですね。何度もこの街へ足を運ぶのは、作家活動のためというよりも単純に好きな場所へ通うといった理由のほうが大きいんです。街を歩いて写真を撮る以外にも長良 川や公園でボーっとしたり、喫茶店で読書をしたりしています。 最近では、新しい趣味として石拾いも始めました。定期的に岐阜へ 来るということそのものが私にとってひとつの習慣 になっているので、この写真展が終わってもそれは変わらないと思います。 自分が今暮らしている京都市という街もおもしろくて大好きなのですが、岐阜市という街はあらゆ る感覚や想像力を 自由にしてくれるような気がしています。知らない場所がまだたくさんある。見たことのない世界を探しに行きたい。子 供の頃の夏休みとかに体験したそういうワクワクする感覚を、未だこの街に求めているのかもしれませんね。

Q9 最後に、これはpieniの個人的な質問ですが、お名前を「まついえつこ」ではなく「マツイエツコ」に表記しているの は?

■自分の名前に限らずなのですが、言葉を文字に起こしたときに与える印象に少しこだわりがあり ます。 漢字表記の 「松井惠津子」は画数が多くて読みにくいということと「惠津子」を正しく読んでもらえな いことが多くて、仕事以外で はあまり使わないようにしています。 それをひらがな表記にすると読みやすくなるのですが、「まついえつこ」という字面 は曲線が多く、 どちらかというと優しい雰囲気に見えるという部分が自分のイメージと異なるなと思いました。そこ で 「マツイエツコ」という表記が自分の中のイメージに最も近く、誰でも読めるという理由から、作家 活動時に使用してい ます。

写真展「地図」ぜひたくさんの方に見ていただきたいと思っています。

pieni onniーーありがとうございましたーー

【 作者プロフィール 】
1987年岐阜市生まれ 京都市在住
20 歳からフィルム写真を撮り始める。
2013 年、京都市にて写真屋『Photolabo hibi』をオープン。 フィルムの現像・プリントやデータ化業務のほか、展示イベントなどの企画・開催を行なっている。

画像
長良川

マツイエツコ写真展「地図」 2023年1月26日(木)−2月5日(日)(月火休み) 水〜金 12:00−18:00、土11:00−19:00、日11:00-17:00 在廊日はinstagram @lovinson61でお知らせ
会場:photo gallery pieni onni 岐阜市清住町2-4-2大一グリーンビル
【問い合わせ】pieni onni 代表 沢田ひろみ
mail: info@pieni-onni.com    


 

 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿