亡くなったAさんの父親は、岩手県奥州市の機械部品製造会社「㈱サンセイ・イサワ支社」で営業技術係係長として20年以上働いていました。見積もりの作成から部品の発送作業、事務作業、休日に行われる会社のソフトボール大会の運営など仕事の内容は多岐にわたり、社長の出張時には送迎も行っていました。その結果、常に毎月60時間以上の時間外労働(残業)に従事しており、身体的な負担は大きかったと考えられます。特に亡くなった直前3ヶ月間の残業時間は88、111、85時間と、国が定める過労死ライン(月80時間)を遥かに超える労働時間でした。2011年8月、Aさんの父親は自宅で倒れ、脳幹出血により翌日51歳の若さで亡くなりました。
しかし、会社は亡くなった原因は本人の健康状態にあると決めつけて、謝罪や補償をしないどころか、過労死の認定に必要な労働災害の申請も協力しませんでした。たまたま、Aさんの母親が知人から紹介されたことをきっかけに労災申請を行うことができ、花巻労働基準監督署が会社の日報やタイムカードなどを調査したところ、慢性的な長時間労働であり過労死であると2012年に労災を認定しました。
労災が認められたにもかかわらず、会社は謝罪や補償を拒否し続けてきました。さらに、Aさんの父親の労災が認められたわずか5ヶ月後には会社を解散させてしまいました。いまは同じ土地と建物を使って「㈱サンセイイサワ」という登記上は全くの別会社が事業を行っていますが、以前の名称とほぼ同じでかつ事業の内容は変わっていません。Aさんら遺族は裁判の中で、補償の支払いを回避するためにあえて「サンセイ」を解散させたと主張しています。このような会社の不誠実な対応をみて、Aさんら遺族は、2017年11月16日、「サンセイ」や当時の役員などの責任を問うために横浜地裁に提訴しました。
●提訴時に行った記者会見の報道
妻に遺した言葉「俺に何かあったら訴えろ」東日本大震災後に過労死、遺族が提訴
https://www.bengo4.com/c_5/n_6974/
過労死遺族が元役員3人に賠償求める 地裁 /神奈川
https://mainichi.jp/articles/20171117/ddl/k14/040/326000c
今年1月12日、3月16日、5月21日と横浜地裁で審議が行われました。会社側は、①偽装倒産/解散ではない、②タイムカードの時間は不正確(本当はもっと短い)、③会社は健康管理を十分に行っていた、④Aさんの父親の健康管理が不十分だった、と主張しています。しかし、ではなぜ同じ名前の会社を新設し事業を移転させたのか、会社の健康管理が十分だったのであれば、なぜ国の定める過労死ラインを超えてまでAさんの父親は働いておりそれを会社が放置・容認していたのか(タイムカードと日報で労働時間を把握しており、給料明細にも残業時間が書かれている)などの疑問には一切答えていません。さらに、会社自身が記録して保管している証拠であるタイムカードが不正確と主張するのであれば、この会社ではどうやって労働時間を管理していたのか、という疑問が湧いてきます。
前回の期日(5月21日)の際に、Aさんは国会で審議されている「高度プロフェッショナル制度」に言及しながら、「高プロでさらに過労死が起こり、自分のような遺族が増えることになる。実際に長時間労働で働いている人や家族を亡くした人自身がこの制度の問題点を主張していかないといけない」と訴えました。
次回は、2018年7月9日(月)10:30に横浜地方裁判所で行われます。残念ながら公開の法廷ではなくクローズでの審議になりますが、終了後に報告集会を行いますので、過労死問題にご関心のある方は、ぜひご支援いただけると幸いです。
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