彼との一日
2011.4.13
彼(愛鳥のミー)とは10年以上の付き合いの中で私達と強い絆で結ばれている。彼は気高く、神経が細やかで人の心を読む。思考や感情は複雑で私と同じである。ジーッと彼の黒い瞳を覗き込む。そのピュアな目は無限も永遠も理解しているように思える。彼は私の行動を察知して、自分との関わりのあることかどうかを判断できる。私がテッシュペーパーの箱に近づくと「チン、チン」と鼻をかむまねをする。彼の視界から見えないはずなのにどうして箱に近づくだけで私の行動がわかるのか不思議である。彼は本や新聞を読むこともテレビを見ることもない。しかし、この国が傷つき、病んでいるのを心配している。大震災で露呈した高慢で危機管理能力が欠如した東電の上層部。場当たり的でパニックになったバカな総理大臣と世界に信用を無くした政府。恥知らずな御用学者や無知なマスコミを。私の左手人差し指に止まりじっと私の顔をみつめる。この国の行く末を憂慮するかのように。それは私の勘違いであった。私は意固地で自分と世の中の関わりを拒否している。また移り気で現実の処理能力の欠如した人間である。いつも庭に生えているシダ類のように背を丸め、眉間にしわを寄せて浮かない顔をしているらしい。彼の目にどう映るのか。私の顔から険しさが消えると、彼も優しく寛容な表情で私の顔を見つめる。彼は私を心配して眉をしかめるのだろう。彼の表情は私の心の鏡なのだ。ここからは彼の日常生活全般にわたって持っている固有の好みと行動を記す。
朝から昼頃まで
私は朝起きるとリビングに降り、「おはよう、もう起きているかい」と彼に声をかける。天気のよい日は「ハイ、ミミーおりこうさん」と彼が挨拶を返す。けして不機嫌な返事はしない。鳥かごにかけておいた布をとりはずしてくれという催促である。相方が朝食の準備をし、私は朝刊を取りに行く。食事中、鳥かごの中で私の方を向き、いつ出してくれるのか、様子をうかがいながら忍耐強く待っている。コーヒーが終わるやいなや「ピッ、ピー」と警告する。更に待たすと「おいで」と声をあげる。私がモタモタしていると、「おいで、おいで、早くおいで」と催促する。
歯を磨く(彼の歯ではなく、私の)。私は洗面台で通常5回口をゆすぐ。私のうがいに合わせて彼も1回ごとに「ペッ」と真似をする。私が心がけるべきことは各回の正確なインターバルと自然な動作である。芝居がかったオーバーアクションは無視される。タオルで口の回りを拭くと「フン、フン」と真似をする。何事も自然で上品な所作を好むようである。私はテニスに行く前に自室でストレッチをする。彼は本棚の自分の席で(幅55cm、奥行き36cm、高さ38cm)私を観察し、「ヨイショ、ヨイショ」と気合をいれてくれる。過去に(2010.12.8 AM9.00)「ヨイショ、ヨイショ、ガンバッテ」と気合を入れられた。
昼から夕方にかけて
彼と私はいろいろな話題で対話をする。今日も出来が悪かったテニスの話や何事も理にかなわないで突き進むこの時代のことを。彼は熱心に耳を傾けてくれるが、よいアドバイスはしてくれない。私は歳を取るにつけ、変化に逆らうようになる。特に効率、便利さなどの良い方の変化を嫌い、現在より過去に近づけようと小さな抵抗を試みる。だが日常をそう愚痴って過ごしてもいられない。隠居してから相方の指導の下、なんとかパソパソとググッテいる。一方、彼はパソコンのキーボードの上を飛び跳ね回って遊ぶ。パソコンが大好きである。彼が日中過ごす一番好きな場所は相方の書斎である。チェストの上にタオルを敷き、ブルーチェックのハンカチーフのコーナーに頭をのせてまどろむ。眠りが深くなるとくちばしを左肩につける。更に顔が下がるとシッポが帆船のようにピンと持ち上がる。熟睡してチェストの端から落下することがある。けがをしないか心配である。タオルの上に小さな三面鏡とハコベ、水、ミレット、アメを3個ならべる。鏡に自分の容姿を映しウットリしている。おなかが空くとミレット、ハコベを食べ、水を飲む。やがて彼のトレーニングの時間となる。
トレーニングは約6.3グラムのキャンデイー落としである。キャンデイーをくわえ、どこに落とせば良い音がし、遠くに転がるかを考える。良い結果が得られたときは盛大な拍手(観客は相方と私の2人)をうける。しかし、彼は冷静で表情一つ変えない。
やがておやつの時間となり、3人そろってリビングに降りる。彼は初めて目にした食べ物が自分の好みに合うものなのか慎重に判断する。彼はパリパリ、サクサクしたものが好みである。粘性のものは苦手で、けして口にはしない。彼は自分の好みを視覚のみで判断するのではなく今までの経験と想像力でわかるのだ。また庭の音、動く影、光にすばやく反応する。頭脳明晰な彼は我が家の車のエンジン音を判別する。以前乗っていたカルディナでは、相方が帰宅すると、いち早く「ピッ、ピー」と鳴いて相方の帰宅を察知する。プリウスに乗り換えてからはエンジン音が聞こえないので戸惑っていたようだ。はじめのうちは相方がいきなり玄関の鍵を開けてリビングに入ってくるので狼狽していた。やがて車のドアーを開閉する電子キーの音で判断し、相方が帰宅すると嬉しそうに「ピッ、ピー」と鳴くようになった。
彼は音楽が大好きである。好みはバラードなど静かな曲がお気に入りである。ケニー・Gのソプラノサックスがお気に入りで目を閉じ、頭を上下にゆすって聴き入る。先日、相方のラジオから偶然流れてきた「秘密のアッコちゃん」の曲にあわせてご機嫌におしゃべりをしていた。
夕方から寝るまで
17~18時になると夕刊を読んでいる私の顔を見上げて、「ピッ、ピー」と鳴く。手に止まりたいという催促をする。私の左手に止まり羽の手入れを始める。二人とも言葉少なく、静かに時間を過ごす。やがて一、二回あくびをして左足をおなかの下にしまい一本足でまどろむ。眠りから覚めると大きな伸びをする。必ず左足から先に伸ばし、次いで右足を伸ばす。四股のように、これを二ないし三回行う。満ち足りた顔をして突然「ギー」と鳴く。彼は今日も私の〈介護〉という勤めを果たし、自分の時間に入りたいらしい。
ゲージに彼を導く。プライバシーのために薄い布2枚をかける。布に覆われていても彼がカゴの中で食事をし、羽の手入れをしている様子が判る。静かな時間が過ぎ、突然、バサッと音がした。悪い夢でも見たのか、鳥かごの止まり木から落下したらしい。鳥篭の布をめくるとバツの悪い顔をしていることもあった。これから寝るまでの1~2時間が彼の思索の時間となる。私は9時頃彼にお休みの挨拶を必ずする。挨拶を忘れると「ピ、ピ、ピー」と鳴いて催促される。こうして彼との楽しい1日が終わり、私たちは各々の部屋に行き、それぞれの時間を過ごす。
2011.4.13
彼(愛鳥のミー)とは10年以上の付き合いの中で私達と強い絆で結ばれている。彼は気高く、神経が細やかで人の心を読む。思考や感情は複雑で私と同じである。ジーッと彼の黒い瞳を覗き込む。そのピュアな目は無限も永遠も理解しているように思える。彼は私の行動を察知して、自分との関わりのあることかどうかを判断できる。私がテッシュペーパーの箱に近づくと「チン、チン」と鼻をかむまねをする。彼の視界から見えないはずなのにどうして箱に近づくだけで私の行動がわかるのか不思議である。彼は本や新聞を読むこともテレビを見ることもない。しかし、この国が傷つき、病んでいるのを心配している。大震災で露呈した高慢で危機管理能力が欠如した東電の上層部。場当たり的でパニックになったバカな総理大臣と世界に信用を無くした政府。恥知らずな御用学者や無知なマスコミを。私の左手人差し指に止まりじっと私の顔をみつめる。この国の行く末を憂慮するかのように。それは私の勘違いであった。私は意固地で自分と世の中の関わりを拒否している。また移り気で現実の処理能力の欠如した人間である。いつも庭に生えているシダ類のように背を丸め、眉間にしわを寄せて浮かない顔をしているらしい。彼の目にどう映るのか。私の顔から険しさが消えると、彼も優しく寛容な表情で私の顔を見つめる。彼は私を心配して眉をしかめるのだろう。彼の表情は私の心の鏡なのだ。ここからは彼の日常生活全般にわたって持っている固有の好みと行動を記す。
朝から昼頃まで
私は朝起きるとリビングに降り、「おはよう、もう起きているかい」と彼に声をかける。天気のよい日は「ハイ、ミミーおりこうさん」と彼が挨拶を返す。けして不機嫌な返事はしない。鳥かごにかけておいた布をとりはずしてくれという催促である。相方が朝食の準備をし、私は朝刊を取りに行く。食事中、鳥かごの中で私の方を向き、いつ出してくれるのか、様子をうかがいながら忍耐強く待っている。コーヒーが終わるやいなや「ピッ、ピー」と警告する。更に待たすと「おいで」と声をあげる。私がモタモタしていると、「おいで、おいで、早くおいで」と催促する。
歯を磨く(彼の歯ではなく、私の)。私は洗面台で通常5回口をゆすぐ。私のうがいに合わせて彼も1回ごとに「ペッ」と真似をする。私が心がけるべきことは各回の正確なインターバルと自然な動作である。芝居がかったオーバーアクションは無視される。タオルで口の回りを拭くと「フン、フン」と真似をする。何事も自然で上品な所作を好むようである。私はテニスに行く前に自室でストレッチをする。彼は本棚の自分の席で(幅55cm、奥行き36cm、高さ38cm)私を観察し、「ヨイショ、ヨイショ」と気合をいれてくれる。過去に(2010.12.8 AM9.00)「ヨイショ、ヨイショ、ガンバッテ」と気合を入れられた。
昼から夕方にかけて
彼と私はいろいろな話題で対話をする。今日も出来が悪かったテニスの話や何事も理にかなわないで突き進むこの時代のことを。彼は熱心に耳を傾けてくれるが、よいアドバイスはしてくれない。私は歳を取るにつけ、変化に逆らうようになる。特に効率、便利さなどの良い方の変化を嫌い、現在より過去に近づけようと小さな抵抗を試みる。だが日常をそう愚痴って過ごしてもいられない。隠居してから相方の指導の下、なんとかパソパソとググッテいる。一方、彼はパソコンのキーボードの上を飛び跳ね回って遊ぶ。パソコンが大好きである。彼が日中過ごす一番好きな場所は相方の書斎である。チェストの上にタオルを敷き、ブルーチェックのハンカチーフのコーナーに頭をのせてまどろむ。眠りが深くなるとくちばしを左肩につける。更に顔が下がるとシッポが帆船のようにピンと持ち上がる。熟睡してチェストの端から落下することがある。けがをしないか心配である。タオルの上に小さな三面鏡とハコベ、水、ミレット、アメを3個ならべる。鏡に自分の容姿を映しウットリしている。おなかが空くとミレット、ハコベを食べ、水を飲む。やがて彼のトレーニングの時間となる。
トレーニングは約6.3グラムのキャンデイー落としである。キャンデイーをくわえ、どこに落とせば良い音がし、遠くに転がるかを考える。良い結果が得られたときは盛大な拍手(観客は相方と私の2人)をうける。しかし、彼は冷静で表情一つ変えない。
やがておやつの時間となり、3人そろってリビングに降りる。彼は初めて目にした食べ物が自分の好みに合うものなのか慎重に判断する。彼はパリパリ、サクサクしたものが好みである。粘性のものは苦手で、けして口にはしない。彼は自分の好みを視覚のみで判断するのではなく今までの経験と想像力でわかるのだ。また庭の音、動く影、光にすばやく反応する。頭脳明晰な彼は我が家の車のエンジン音を判別する。以前乗っていたカルディナでは、相方が帰宅すると、いち早く「ピッ、ピー」と鳴いて相方の帰宅を察知する。プリウスに乗り換えてからはエンジン音が聞こえないので戸惑っていたようだ。はじめのうちは相方がいきなり玄関の鍵を開けてリビングに入ってくるので狼狽していた。やがて車のドアーを開閉する電子キーの音で判断し、相方が帰宅すると嬉しそうに「ピッ、ピー」と鳴くようになった。
彼は音楽が大好きである。好みはバラードなど静かな曲がお気に入りである。ケニー・Gのソプラノサックスがお気に入りで目を閉じ、頭を上下にゆすって聴き入る。先日、相方のラジオから偶然流れてきた「秘密のアッコちゃん」の曲にあわせてご機嫌におしゃべりをしていた。
夕方から寝るまで
17~18時になると夕刊を読んでいる私の顔を見上げて、「ピッ、ピー」と鳴く。手に止まりたいという催促をする。私の左手に止まり羽の手入れを始める。二人とも言葉少なく、静かに時間を過ごす。やがて一、二回あくびをして左足をおなかの下にしまい一本足でまどろむ。眠りから覚めると大きな伸びをする。必ず左足から先に伸ばし、次いで右足を伸ばす。四股のように、これを二ないし三回行う。満ち足りた顔をして突然「ギー」と鳴く。彼は今日も私の〈介護〉という勤めを果たし、自分の時間に入りたいらしい。
ゲージに彼を導く。プライバシーのために薄い布2枚をかける。布に覆われていても彼がカゴの中で食事をし、羽の手入れをしている様子が判る。静かな時間が過ぎ、突然、バサッと音がした。悪い夢でも見たのか、鳥かごの止まり木から落下したらしい。鳥篭の布をめくるとバツの悪い顔をしていることもあった。これから寝るまでの1~2時間が彼の思索の時間となる。私は9時頃彼にお休みの挨拶を必ずする。挨拶を忘れると「ピ、ピ、ピー」と鳴いて催促される。こうして彼との楽しい1日が終わり、私たちは各々の部屋に行き、それぞれの時間を過ごす。
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