臆測呼ぶ、韓国が強力な最新潜水艦を開発する理由
4/7(日) 11:12配信https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190407-00010000-globeplus-int&p=2
臆測呼ぶ、韓国が強力な最新潜水艦を開発する理由
昨年末のコラム(2018年12月30日付のGLOBE+「技術開発進む潜水艦の世界 カギを握るのは希少資源リチウムだ」)で、リチウムイオン電池を搭載した日本の新型潜水艦「おうりゅう」が各国海軍から注目を集める一方、そのリチウムという希少天然資源を巡って中国を筆頭に各国が争奪戦に乗り出している状況を論じた。
その時のコラムではリチウムイオン電池使用について、加熱による爆発という危険性を技術的にクリアするのが大前提となる一方、超高額という難点もあると説明した。それでもリチウムイオン電池は、静粛性と出力を両立させなければならない潜水艦の動力源としては、極めて効果的なバッテリーだといえる事情を紹介した。
そのリチウム電池を搭載した潜水艦の開発が韓国でまもなく開始される。KSS-III batch-2と呼ばれる潜水艦開発プログラムで、米海軍やシンクタンクの東アジア戦略家などの間で高い関心が持たれている。なぜならば、韓国の現政権の北朝鮮に対する融和姿勢や、中国による韓国を取り込もうとする動き、そして何よりも日本との極度な関係悪化といった諸状況下での高性能潜水艦の建造計画だからである。(軍事社会学者・北村淳)
韓国海軍は1990年代初頭までは沿岸域に活動が限られた小型潜水艦しか保有していなかった。しかし、より本格的な潜水艦を段階的に手にしていって、いずれは国産の潜水艦を開発保有することを目指し、潜水艦開発プログラムをスタートさせた
中略ーー
潜水艦が搭載する魚雷や対艦攻撃用巡航ミサイル、それに地上目標攻撃用巡航ミサイルなどは、基本的には魚雷発射管から発射される。ただし、弾道ミサイルや、より強力な巡航ミサイル攻撃能力を身につけるためにはVLSが装備される。アメリカやロシア、イギリス、フランス、中国、インドが運用している戦略原子力潜水艦(核弾道ミサイルを搭載する原潜)にはいずれもVLSが装備されている。このほか、強力な敵地攻撃能力を保有するためにアメリカや中国の攻撃原潜、中国のAIP潜水艦などには、巡航ミサイル発射用のVLSを装備しているものもある。
KSS-III bach-1のVLSは発射管数が6本と比較的少ないが、そうはいっても弾道ミサイルや巡航ミサイルで敵を攻撃するためのものであることに変わりはない。
現時点でKSS-III batch-1に搭載される巡航ミサイルは、「玄武-3C」対地攻撃用長距離巡航ミサイルを潜水艦発射型に改造したものと考えられている。玄武-3C巡航ミサイルは最大飛翔距離が1500kmあり、黄海や日本海の海中のKSS-III潜水艦から北朝鮮全土を余裕を持って攻撃することが可能だ。北京や上海も十分に射程圏に収めているだけでなく、日本全土も圏内になる。
対地攻撃用巡航ミサイルに加えて、KSS-IIIには韓国軍が運用中の「玄武-2B」あるいは「玄武-2C」弾道ミサイルをベースにした弾道ミサイルも搭載されるという。非核弾頭とはいえ、巡航ミサイルよりも短時間で敵を攻撃できる弾道ミサイルが搭載された潜水艦は、極めて強力な兵器となる。
玄武-2Bと玄武-2Cの最大射程距離はそれぞれ500kmと800kmとされ、それらの弾道ミサイルによって韓国国内からでも北朝鮮全土を攻撃可能である。もちろん、潜水艦から発射することができれば、黄海や日本海の海中からの攻撃というオプションが加わり、北朝鮮に対する抑止効果が高まることは確かである。しかし同時に、日本海の海中から東京を含む日本の広域を弾道ミサイル攻撃する能力を手にすることにもなる。
このようにKSS-IIIは高度な性能と強力な攻撃力を備えた潜水艦ということになるが、だからこそ「対地攻撃用長距離巡航ミサイルや弾道ミサイルまで装備する目的は何か?」という疑問が生じるのである。
北朝鮮もミサイル潜水艦を開発しているが、北朝鮮海軍相手ならば外洋での作戦を想定した3500トンといった大型潜水艦の必要性は低い。また韓国と中国との昨今の関係からすると、韓国海軍が東シナ海や南シナ海などに潜水艦を展開させ、中国海軍に対抗しようという作戦構想を持っているとは思えない。同様に、潜水艦に搭載した巡航ミサイルや弾道ミサイルで中国に反撃するシナリオなども想定され得ない。
となると、「日本海や場合によっては西太平洋から、日本をミサイル攻撃する能力を持つ強力な潜水艦を開発しているのではないか?」という推測が米海軍関係者らの間で浮かび上がらざるを得ないのである。
北村淳/朝日新聞社