http://dailynk.jp/archives/65678 より
金正恩氏が「核の逆ギレ」を準備している
国連の会議に出席するためニューヨークを訪問した北朝鮮のリ・スヨン外相は23日、AP通信のインタビューに応じ、米韓合同軍事演習が中止されれば、北朝鮮は核実験などの挑発行為を中止する用意があるとの考えを示した。
これに対し、ドイツを訪問中のオバマ大統領は24日、メルケル首相との会談後の共同記者会見で、「北朝鮮が朝鮮半島の非核化に対し真剣な態度を示すなら、われわれも緊張緩和に向けた真剣な対話に乗り出す準備がある」としながらも、演習を中止する計画はないとして、リ外相の提案を一蹴した。
北朝鮮は今、5回目の核実験に向け最終準備段階にあるとされている。
(参考記事:金正恩氏の「核弾頭爆発」が迫っている)
その状況下でのリ外相の発言を、どう読むか。筆者ならば、北朝鮮が新たな核実験後、米国に対し「われわれの歩み寄りを蹴った」との非難を浴びせるための「逆ギレ」の伏線を引いたのだと見る。
オバマ氏の「死刑宣告」
一方、オバマ氏は対話の条件として「北朝鮮が非核化に対し真剣な態度を示す」ことを挙げている。
北朝鮮は、金正恩第1書記が3月に「核実験と核弾頭装着可能な弾道ミサイルの発射実験を早いうちに断行する」と述べて以来、それに沿った動きを着々と進めている。オバマ氏が提示した条件から、遥か遠い所にいるわけだ。
オバマ氏はこれまでにも、たとえば米韓共同声明で同様の提案を行っている。しかし、そこでは北朝鮮の人権侵害追及にも言及されており、金正恩氏にとってはむしろ「死刑宣告」に等しいものだった。彼の「核の暴走」は、そうした状況から生まれているとも言える。
(参考記事:金正恩氏に「死刑宣告」した米韓首脳会談)
(参考記事:北朝鮮「核の暴走」の裏に拷問・強姦・公開処刑)
結論を述べるなら、人権問題に言及しないままの米朝間の「対話うんぬん」のやり取りなど、あまり意味がないのだ。金正恩氏は、国連の場で「人道に対する罪」に問われる可能性が提起されており、本当にそうなれば、ヒトラーなどと同列の虐殺者として扱われることになる。
そんな人物と、オバマ氏は握手することができるのだろうか? オバマ氏どころか、ドナルド・トランプ氏が大統領になったところで無理ではないだろうか。
北朝鮮でムスダンが「待機状態」 近く再発射か
【ソウル聯合ニュース】北朝鮮で中距離弾道ミサイル「ムスダン」の再発射の兆候がとらえられたようだ。北朝鮮は故金日成(キム・イルソン)主席の生誕記念日だった15日にムスダンの発射を試みたものの、失敗したとみられている。韓国政府の関係者は26日、「(北朝鮮は)ムスダン2発のうち1発を発射して失敗した。残り1発が発射待機状態に入ったもようだ」と伝えた。
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「ムスダン」=(聯合ニュース)
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別の関係者は「韓国軍当局は現在の兆候から北がムスダンを近く発射する可能性が高いと判断し、監視していると聞いた」と述べた。
北朝鮮は15日午前5時半ごろ、東海岸の江原道・元山からムスダン1発を発射したが、数秒後にレーダーから消えた。韓米の情報当局は移動式発射台から発射された後、空中爆発した可能性が高いと分析した。
北朝鮮がムスダンの再発射に動いているとすれば、失敗の原因を見つけ欠陥を修正したことになる。ムスダンの発射、5回目核実験の実施の順で、北朝鮮が挑発する可能性も指摘される。 情報当局は、北朝鮮が23日に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験に成功したと主張しているだけに、これに自信をつけてムスダン発射を試みる可能性もあるとみている。
一方、北朝鮮北東部の豊渓里にある核実験場では現在も人の動きが活発とされる。韓国軍関係者は「北が不意をついて核実験を強行する可能性に備えている」と話した。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kohyoungki/20160425-00056993/
金正恩氏の「核弾頭爆発」が迫っている
北朝鮮北東部・豊渓里(プンゲリ)の核実験場で、5回目の核実験の準備が最終段階にあるようだ。「新たな核実験近し」との観測情報は、少し前から取りざたされている。そして新たに、「実験場にある多数のトンネルが塞がれている」との情報が、韓国のある筋からもたらされた。
実験場には、核爆弾を搬入・設置するメインのトンネルの他に、作業用など大小様々なトンネルが100~200もある。その相当数が塞がれたということは、核爆発を封じ込めるために地下の空間を密閉しているものと推測できる。
仮に北朝鮮が核実験を強行する場合、注目されるのは、それがミサイルに搭載できるよう小型化された「核弾頭」であるか否かだ。
金正恩第1書記は3月、「核攻撃能力の信頼性をより高めるために、早いうちに核弾頭の爆発試験と核弾頭装着可能な数種類の弾道ロケット(ミサイル)の試射を断行する」よう指示を下している。北朝鮮はその後、中距離弾道ミサイルのノドン(射程1300キロ)やムスダン(同3000キロ以上)を立て続けに発射。23日には潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験を行った。核戦力の本格配備に向け、着々とことを進めていると見ていいだろう。
独裁国家の「強み」
現在、北朝鮮に対しては国連安保理の主導で強力な経済制裁が敷かれており、いずれその効果が、様々な形で金正恩体制にダメージを与えるかもしれない。しかし、北朝鮮は今にも核兵器を実戦配備しようとしている。当面の動きは、経済制裁で止めることはできないだろう。彼らが核兵器開発を行っているのは久しく前から分かっていたのに、どうしてこんなことになってしまったのか。その答えのひとつは、日米韓などが長きにわたり、北朝鮮を「追い詰めているフリ」をしてお茶を濁してきたことにある。
独裁国家の富は権力者に集まる。国連制裁は確実に北朝鮮経済を苦しめているが、特権階級は比較的打たれ強い。民が苦しんでいても、民主的な選挙がないから政権を失う心配もない。大衆がデモなどを行えば、軍隊を送り込んで殺してしまうか、政治犯収容所で処刑してしまえばよいのだ。
(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」)
つまり、金正恩氏の「核の暴走」は、北朝鮮の極度に非民主的な体制と不可分であり、彼の暴走を止めるためには究極的には北朝鮮の民主化が必要だということだ。しかし、ことここに及んでも、北朝鮮の民主化――すなわち体制変更は、なかなか議論に上らない。このままでは、核兵器という最強の恫喝手段を備え、より手の付けられなくなった金正恩氏と、われわれは向き合うことになるかもしれない。
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北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 』(宝島社) 『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)がある。
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