http://www.iza.ne.jp/kiji/world/news/161230/wor16123008330006-n1.html 2016.12.30 08:33
ドナルド・トランプ次期米大統領(70)の就任まで1カ月を切ったが、早くも中国政府との駆け引きが激しくなっている。トランプ氏は選挙戦中から「就任初日に中国を為替操作国に指定するよう指示する」と発言するなど中国経済に関する厳しい態度が目立っていたが、ここに来て台湾の蔡英文総統(60)との電話協議に応じるなど対中牽制(けんせい)の動きを積極化。「予測不可能」といわれるトランプ氏が中国とのディール(取引)を有利に進めるため、今後、どのような“交渉カード”を切ってくるか、その言動が注視されている。
「“空中戦”はすでに始まっている」
中国経済に詳しい富士通総研の金堅敏・主席研究員は、トランプ氏と中国との間で経済をめぐる駆け引きが既に活発になっていると指摘する。
“空中戦”の始まりを告げたのはニューヨークと台北を結んだ1本の電話だ。12月2日、トランプ氏は台湾の蔡総統との電話協議を実施。米大統領や当選した次期大統領との協議が明らかになったのは1979年の米台断交以来初めてだった。その後、北京から反応が出始めると、自身のツイッターで「米国は台湾に何十億ドルもの兵器を売りながら、私がお祝いの電話を受けてはいけないとは興味深い」と投稿。さらに、11日放映のFOXニュースのインタビューで「一つの中国」原則について「貿易を含む事柄で取引できなくても『一つの中国』の政策に縛られなければならないのか」と発言した
当初、中国側ではビジネスマン出身のトランプ氏について「話ができる相手」という好意的な印象があった。だが、この一連の行動でトランプ氏に対する不信感は一気に高まる格好となった。中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は12日付の社説で、FOXニュースのインタビューにおける発言について「トランプ氏は米国が『一つの中国』政策を覆すことで圧力をかけ、ゆすることで、中国に経済と貿易において妥協させようと思っている」との見方を示した。その上で、外交面においてトランプ氏は「子供のように無知だ」と非難した。
米国メディアも、トランプ氏が切った交渉カードの危うさに懸念を示す。米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版、13日)は「台湾の位置づけを交渉の切り札にしたことで、急激にリスクを高めた」と指摘した。
今後、米中経済をめぐる対立の舞台になりそうなのが貿易問題だ。米国の対中貿易赤字は拡大しており、トランプ氏も選挙期間中に中国の対米輸出拡大を批判し「45%の関税をかける」と繰り返し主張した。富士通総研の金氏は「膨らみ続ける対中貿易赤字は、(米中に)波風を立たせる可能性がある」と分析する。
対中貿易摩擦で、トランプ氏が選択し得る交渉カードとして、金氏は「スーパー301条」の復活という選択肢を挙げる。
スーパー301条は、貿易相手国の不公正な貿易慣行に対する報復措置を規定したものだ。日米通商摩擦が激しかった1980年代後半から90年代に同規定が頻繁に取り沙汰されたが、世界貿易機関(WTO)の登場もあり2001年に失効した。
自由貿易体制を推進してきた米国がスーパー301条を復活させれば、世界的に批判を招くことは必至だ。だが、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)離脱を宣言するなど保護主義の傾向が強いトランプ氏ならば、そういった批判を受けてもスーパー301条を復活させる可能性がゼロではないというわけだ。
予測不可能なトランプ氏の動きに対し、今のところ中国側は静観の構えを保っている。前述の環球時報の社説も「(トランプ氏は)ホワイトハウスに入る前で、何を言っても構わないと思っている。それならば、彼がホワイトハウスに入った後に『一つの中国』について何と言うのか見守ろう」との構えを示した。
実際、トランプ氏が反中の動きで一貫しているわけではないのも事実だ。トランプ氏は、新しい駐中国大使に中西部アイオワ州のテリー・ブランスタド知事(70)を指名すると8日に表明。ブランスタド氏は、中国の習近平国家主席(63)を「旧友」と呼ぶ関係で、トランプ氏が中国に対して硬軟織り交ぜた姿勢を示しているように見える。
来年1月20日、就任式を終えたトランプ氏が大統領として、実際に中国を相手にどのようなカードを切るのか。その一挙手一投足を中国のみならず、世界が固唾をのんで待っている。
/