聖書の所持だけで「この世の地獄」へ...
北朝鮮の恐るべき宗教弾圧
https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20170422-00070147/
高英起 | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト4/22(土) 6:33
北朝鮮の憲法68条には、「公民は信仰の自由を持つ」と明記されている。しかし、これは有名無実な条文だ。北朝鮮は信仰を持つ人々を抑圧しており、「世界最悪の宗教弾圧国」として国際社会の厳しい批判を浴びている。江戸時代のキリシタン迫害と同じような状況であると言ってもいいだろう。
(参考記事:金正恩氏がキリスト教を弾圧する理由…「十字架」に隠された秘密)
収容所では性暴行が常態化
一例を挙げると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)市に住んでいたパク・ミョンイル(仮名)さんは、中国を訪れた際に入手した聖書を所持していた容疑で、2000年の秋に保衛部(秘密警察)に逮捕された。裁判を経ずに過酷な人権侵害が常態化している収容所に送られ、その後の安否は不明だ。
(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も)
しかし、そんな中でも、信仰を守る人々がいる。
韓国のNGO、北朝鮮人権情報センターが脱北者1万183人を対象に調査を行ったところ、1.2%にあたる128人が北朝鮮で宗教に接した経験があると答えている。また、聖書を見たことがあると答えた人も4.2%、428人にのぼった。未確認の数字だが、北朝鮮国内には、1200もの地下教会があると言われている。
デイリーNKは、2001年の脱北後にキリスト教に入信し、中国を拠点に北朝鮮の地下教会に対する支援活動を行った経験のあるキム・チュンソンさんにインタビューを行った。
ー脱北の経緯は?
2001年7月に両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)から脱北しました。当時、銅線の卸売をしていたのですが、金正日総書記が「金属を売り買いするやつは全員処刑せよ」という命令を下したため、当局に逮捕されました。見せしめに死刑判決でも下されたら大変です。当局からも「お前はもうすぐ死ぬ」と言われました。それで、逮捕された日の夜、脱走して国境の川を越えて中国に逃げました。
最初は中国に行くなんて、考えもしませんでした。脱走して行き場を失い、川べりで地団駄を踏んでいたところ、水を汲みに来たおじさんから「何をそんなに悔しがっているのか」と声をかけられました。事情を説明してみると、「あっちへ行けばいい」とあごで中国の方を差すのです。それで「ああ、なんで中国に逃げることを考えなかったんだろう」と思い、川を渡りました。北朝鮮の人は十中八九がそうだと思うのですが、国境まで行っても、川を渡る勇気が出ないのです。
ー北朝鮮にいたときからクリスチャンだった?
北朝鮮で歌手をしていたこともあります。その頃に、テレビや映画、芸術を通じて宗教というものに触れる機会はあったけど、嫌いでした。脱北直前に見た映画も『山犬』という反キリスト教映画でした。ところが、偶然なことに中国に渡ってすぐ出会ったのが教会の人でした。
その人に助けてもらった縁で、教会で暮らすことになりました。そこで聖書というものを初めて読みましたが、「十戒」が北朝鮮の「党の唯一思想体系確立の10大原則」とそっくりだということに気づきました。それで宣教師に「なんで聖書は北朝鮮の本をパクったのか」と聞いたんですよ。聖書が2000年以上前に書かれた本であることを知らなかったんですね
教会で暮らしつつ、北朝鮮の実情について知るようになりました。金日成主席の両親の仲人が米国の宣教師(注:レムエル・ネルソン・ベル氏)だったことも。それから北朝鮮がなぜキリスト教をあれほどまでに弾圧するのか興味が湧き、さらに熱心に聖書に目を通すようになりました。
(参考記事:キリスト教を弾圧した金日成も手術前には祈っていた)
ークリスチャンになったきっかけは?
イエス・キリストを知ってすぐに決心しました。裏切られるということは大変なショックを伴います。私は金日成主席と金正日総書記を固く信じていたのに、彼らが詐欺師だったということがわかり、裏切られたことを恨みました。神様がいるべき場所に2人がいるということ、北朝鮮の人々を悪のるつぼに追いやっていることに激しい怒りを感じました。それで、人々に真実を知らせるためにクリスチャンになったんです。
次回は、クリスチャンになったキムさんが、宣教活動のため命がけで北朝鮮に潜入した経験や、北朝鮮国内で信者たちが過酷な弾圧を受けている実態を紹介する。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20170422-00070184/
「北朝鮮のキリスト教徒が『冷凍拷問』で殺されている」脱北者が証言
高英起 | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト 4/22(土) 19:04
北朝鮮の憲法68条には、「公民は信仰の自由を持つ」と明記されている。しかし現実には、北朝鮮当局は信仰を持つ人々を残忍な方法で抑圧している。デイリーNKは、2001年の脱北後にキリスト教に入信し、中国を拠点に北朝鮮の地下教会に対する支援活動を行った経験のあるキム・チュンソンさんにインタビューを行った。今回は2回目。
裸で冷凍室に
ー布教活動のため北朝鮮に戻ったことも?
はい。中国にいた頃、韓国、米国、カナダから、北朝鮮の地下教会の支援のために来た宣教師に会いました。地下教会というものがあるなんて、その時まで知りませんでした。それでこの目で見てみたいと思い、北朝鮮に戻ることにしました。普天堡(ポチョンボ、恵山の北東17キロ)の対岸まで行ったのですが、何の準備もしていなかったため、国境警備隊に見つかり追いかけられました。そこで一度退却して、神様に「道を開いてください」とお祈りして、夜を待って北朝鮮に忍び込みました。
ー北朝鮮ではどのような活動を?
20日間ほど滞在して、北朝鮮の地下教会をこの目で見ました。信者とともに聖書を開き、祈りを捧げました。驚いたのは信者の多くが北朝鮮の高級機関で働いている人々だったことです。
ー捕まらずに済んだ?
北朝鮮では捕まりませんでしたが、中国に戻ってから中国の国家安全部に逮捕されました。脱北者がなぜ韓国の宣教師と頻繁に会って布教活動をしているのか、なぜ北朝鮮に出入りしているのかなどを聞かれました。韓国の国家情報院の指図を受けて動いていると疑われたのでしょう。
しかし、北朝鮮にいる信者たちが受けている迫害に比べれば、それぐらいはなんでもありませんでした。
私は、脱北者でクリスチャンになった人に教育を施して北朝鮮に送り返す活動に携わっていたのですが、2014年に事件が起きました。中国朝鮮族で、北朝鮮での布教活動の支援をしていたチャン・ムンソク牧師が中国で北朝鮮の保衛部(秘密警察)に拉致されたのです。
彼は裁判にかけられ、労働強化刑(懲役)15年の判決を受けて、今は黄海北道(ファンヘブクト)沙里院(サリウォン)の収容所に入れられています。彼と接触を持っていた北朝鮮の信者は一網打尽にされて、両江道(リャンガンド)の白岩(ペガム)郡で捕まった3人は2015年に公開処刑されました。保衛部の追手が迫り、脱北して韓国に行った信者もいます。
(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」)
ー信者の家族はどうなるのか?
私の場合、幸い家族が処罰されることはありませんでしたが、住んでいた地域から追放されました。恵山(ヘサン)に住んでいた人は、甲山(カプサン、恵山から南に20キロ)のような電気も来ないような田舎に移されました。
ー逮捕された信者は拷問された?
もちろんです。保衛部は逮捕した信者を眠らせず、5日間ぶっ通しで暴力を振るいます。そうすれば、やっていないことでもやったと答えてしまうのです。5人がかりで丸太で殴られるのですから。目撃した人の話では、冷凍拷問というのがあるそうです。服を全部脱がせて冷凍室に閉じ込めるというものですが、ほとんどの人が低体温症で死んでしまうそうです。鉄格子に手を縛り付けて、足が地面につかないようにして放置するという拷問もあります。ろくに食事も与えずに暴力を振るい続ければ、数日で死んでしまいます。
(参考記事:「北朝鮮で自殺誘導目的の性拷問を受けた」米人権運動家)
ー北朝鮮が宗教を弾圧する理由は?
北朝鮮は人々を、金日成主席、金正日総書記の独裁体制とチュチェ思想だけが生きる道であると洗脳しています。しかし、聖書には「真理」という言葉があります。それは「光」のようなものですが、暗闇に閉ざされた北朝鮮にこの光がさせば、金氏一家がいかにして人民を欺いてきたのか明らかになるでしょう。北朝鮮の政権を崩壊させる重要な要素の一つが宗教の力だと思います。キリスト教が北朝鮮に広まれば、政権はどこかのタイミングで崩壊するでしょう。
ー宗教を弾圧する北朝鮮政府と、苦しみの中で信仰を守っている信者にメッセージを
手のひらで天を遮るという朝鮮のことわざがあります。遮ろうにも遮れないという意味ですが、いま北朝鮮国内で起きているあらゆる人権侵害、特に国家保衛省、人民保安省、政治犯収容所、教化所で行われている人道に対する犯罪行為は神様もご覧のことでしょう。私たちは北朝鮮で奇跡が起きるよう祈り続けています。北朝鮮政府の関係者には、弾圧に同調するのか、皆を自由にする真理を選ぶのか、よく考えて選択してほしいと思います。
キムさんの主張には若干教会の宣伝が入っていることは否めないが、信仰によって救われた脱北者の1人といえる。ただし韓国では、プロテスタントのキリスト教保守勢力が性的少数者の尊厳を平気で踏みにじる言動を続けている現実もある。
(参考記事:北朝鮮の「同性愛」事情…その知られざる実態を体験者が告白)
国連の人権理事会は、北朝鮮における人権侵害を「組織的かつ広範で深刻な人権侵害」と指摘している。宗教だけでなく、北朝鮮国内の全ての人権侵害に対して批判の目を向けることが重要だ。
高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。