トランプ政権「宇宙軍創設」でロシアと連携も 宇宙空間の軍事的支配もくろむ中国に対抗 藤井厳喜氏「日本も情報力強化を」
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/180829/soc1808290006-n1.html 2018.8.29
ドナルド・トランプ米政権が打ち出した「宇宙軍創設」戦略が注目されている。宇宙空間の軍事的支配をもくろむ中国に対抗して、ロシアと連携・協調する可能性が指摘されているのだ。米国が警戒レベルを高めた要因として、中国が「人工衛星」を狙った破壊兵器の開発を着々と進めていることがある。中国人民解放軍については「核の先制不使用政策」を転換した可能性も懸念されている。専門家は、米国と同盟を結ぶ日本も、宇宙空間を利用した情報収集力の強化に早急に取り組むべきだと主張している。
「中国の不透明な核近代化計画は、疑念を抱かせるのに十分だ」
米国防総省は最近、中国の軍事動向に関する年次報告書で、こう指摘した。中国軍内で、通常兵器による攻撃で体制や核部隊が危機にさらされると判断した場合、核使用を辞さないとの見解が浮上しているという。複数の軍高官が見解を公に表明しているとされる。中国はさらに、宇宙配備の早期警戒システム整備も加速させている。米中貿易戦争が激化するなか、とても看過できない動きといえる。
こうしたなか、トランプ大統領が今月9日、自身のツイッターで発信した、《必ず宇宙軍をつくる!》という決意が改めて注目されている。
投稿に先立ち、マイク・ペンス副大統領も同日、国防総省で演説し、「宇宙軍を創設すべきときが来た」「2020年までの『宇宙軍省』設置を目指し、直ちに行動に出る」と語った。さらに、「力による平和」を掲げ、「敵は新たな戦争兵器を宇宙へ持ち込むために動いている」「宇宙は、米国が支配しなくてはならない」とも訴えた。宇宙軍は、米軍が運用する偵察衛星や弾道ミサイル追跡システム、衛星利用測位システム(GPS)など、宇宙空間に関わる米軍のすべての活動を統括する。
トランプ政権が危機感を抱く背景には、中国とロシアが宇宙空間で軍事能力を向上させている現状がある。なかでも、共産党一党独裁の中国への警戒感は、際立っている。中国が、東・南シナ海などで軍事的拡大路線を進めるだけでなく、他国の衛星などを標的にした破壊兵器の開発を推進しているためだ。
中国は、2007年に自国の気象衛星を破壊する実験に成功し、最近では、ミサイルやレーザーなどの発射実験を続けざまに強行している。米メディアによると、中国は昨年8月、新型人工衛星攻撃用ミサイル「DN-3」を打ち上げた。このときは失敗に終わったが、同ミサイルの実験は、15年と16年にも1回ずつ確認されているという。
現代社会は、人工衛星を利用した通信や放送、気象観測、GPS情報などによって支えられている。この状況を放置すれば、「自由と民主主義」「人権」「法の支配」を重視する民主主義陣営が、独裁国家に宇宙から支配されかねない。
国際政治学者の藤井厳喜氏は「冷戦時代から、米国とロシア(ソ連)の間では、『互いに偵察衛星は撃ち落とさない』という暗黙の了解があった。中国の破壊実験は、この慣例を破棄するものとして受け止められ、米国は危機感を強めている」と説明する。
そして、米国の宇宙軍創設は、「対中牽制(けんせい)」を目的としながら、副次的に、ロシアとの軍事的な協調を加速させる可能性があるというのだ。藤井氏が続ける。「これまで米ロは、国際宇宙ステーションの開発で協力関係にあった。加えて、米国は、衛星を搭載したロケットのエンジンをロシアからの供給に頼っている。宇宙軍創設によって、米ロの連携が深まる方向に進むだろう」
7月にフィンランドの首都ヘルシンキで行われた米ロ首脳会談は「米ロ連携」の布石になったといえる。それまで、「米ロ関係の悪化」が指摘されていたが、トランプ氏と、ウラジーミル・プーチン大統領は「両国の対話を深める」ことを確認し、中国を牽制する「包囲網」が形成されつつある。
日米同盟の枠組みのなかで、日本はどう対応すべきか。
前出の藤井氏は「現代は、宇宙を含めて軍事作戦を統合的に運用する時代だ。そのために通信・偵察衛星は決定的に重要であり、日本は独自の衛星を早急に整備し、強化する必要がある。日本が情報面で『米国頼み』から脱却することは、米国にとっても悪くない」と話している。http://www.zakzak.co.jp/soc/news/180829/soc1808290006-n1.html