日本国債格下げは「増税を急げ」なのか?
ついき秀学氏ブログ転載
3http://tsuiki-shugaku.hr-party.jp/index.php?p=&d=blog&c=&type=article&art_id=6
今月27日、米格付け会社
スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、日本政府の長期国債の
格付けを「ダブルA」(AA)から「ダブルAマイナス」(AA-)に
一段階引き下げたと発表しました(bit.ly/hTzXCs)。
欧州での公的債務問題の一角をなすスペインを下回り、中国やサウジアラビア
と同じ水準とされました。
これを受けて、同日の為替・債券市場は売りで反応し、円は対ドルで
前日比71銭下落、長期金利は前日比で0.015%上昇しました。といっても、
債券相場に関しては、国債の9割は格付けに反応しない国内投資家が保有
しているため、格下げの影響は限定的で、長期金利が急騰するといった
事態はまず無いでしょう。
一方、与謝野馨経済財政担当相はテレビ番組で、この格下げについて
「(消費税増税を)早くやりなさいという催促だ」と述べました。
平成の貧乏神・与謝野大臣のおっしゃることゆえ、「ん? 本当に
そうなのか、怪しい」と、多くの皆様は感じられたのではないでしょうか。
S&Pのリリースを直に読んでみたら、やっぱりそうではありませんでした。
確かにリリースでは、格下げの理由として「日本の財政赤字が今後数年に
わたって高止まり」することを挙げており、「中期的には、大規模な
財政再建策が実施されない限り、2020年より前に基礎的財政収支
(プライマリーバランス)の均衡は達成できない」と予測しています。
とはいえ、リリースの中に「財政再建策」として「増税が望ましい」と
いったことを述べている箇所はありません。むしろ「政府は2011年に
社会保障制度と消費税率を含む税制の見直しを行うとしているが、これ
により政府の支払い能力が大幅に改善する可能性は低い」と判定し、かつ
「民主党政権には債務問題に対する一貫した戦略が欠けている」と批判
しています。
そして、「長引くデフレも日本の債務問題をさらに深刻化させている」
と述べており、デフレを悪化させるリスクの高い消費税増税を牽制して
いるように見えます。
また、S&Pは「急速な高齢化が日本の財政・経済見通しを悪化させ
ている。社会保障関連費は国の2011年予算案の31%を占めており、2004
年度の社会保障制度改革を上回る規模の改革を実施しなければ、この比
率は上昇する見通しである」と述べ、高齢化に伴う社会保障関連費の増大
をやり玉に挙げています。
上記にいう「2004年度の社会保障制度改革」とは、当時政府が
「100年安心プラン」と太鼓判を押した年金改革のことですが、この年金
改革のポイントは、保険料負担の限界を設定し、それに合わせて給付水準
を下げた、ということにあります。要するに、将来の年金給付をカットした
ということです。
したがって、S&Pは「2004年のとき以上の年金給付カットを行わなけれ
ば、財政の見通しは悪い」と述べているわけで、逆に言えば「年金改革で
歳出削減したら財政は良くなる」ということになります。
結局、S&Pはこのリリースで、明確な歳出削減につながる社会保障制度
改革を伴わずに増税論議に終始している菅政権の取り組みを積極的に評価
しておらず、むしろ反対に財政再建に当たっては増税よりも歳出削減を優先
するように勧めていると読み取れます。
与謝野大臣はこのリリースにしっかり目を通したのかどうか疑問です。
頭の中に「国債格下げ=財政悪化=増税必要」という固定観念があってこれ
に基づいて反射的に反応されただけではないかと推察されます。
まあ、菅首相も国債格下げの報せを受けて「そういうことに疎いので改めて
にしてほしい」と率直に述べたくらいですから、菅内閣に適正な経済リテラ
シーを求めるのはかなり厳しい話なのでしょう。間違った政策で国民に被害
を出さないうちに退陣されますことを心よりお勧めします。