中国の国防費 周辺国を刺激する軍事力増強
(3月26日付・読売社説)
海、空、宇宙へと中国の軍事力増強、拡大が止まらない。
先の全国人民代表大会で、今年の中国の国防費は5300億元(約7兆円)と決まった。前年実績比で7・5%の増加だ。
国際世論を意識したのか、1989年以来続いてきた2<RB>桁</RB><RP>(</RP><RP>)</RP>の増加は止まったが、依然として高い伸びである。中国は現在、上海などで航空母艦を複数建造中で、地対艦弾道ミサイルも開発中と言われる。ステルス機能を備えた第5世代の戦闘機の試験飛行も近く実施する。
今年1月には、ミサイル防衛に道を開く弾道ミサイルの迎撃実験を成功させた。3年前には衛星をミサイル攻撃で破壊した。将来、宇宙空間の支配を目指す宇宙軍が登場するのかもしれない。
軍備強化の結果、中国軍は小笠原諸島やグアム島付近を南北に結ぶ「第2列島線」から西側の太平洋水域に米艦艇が進入することを阻止する能力を備え始めた。台湾との統一に向けた戦略だろう。
遠洋海軍の充実と、空軍の支援能力の強化も進めている。エネルギー資源を中東やアフリカ諸国から安全に運ぶためのシーレーン(海上交通路)や海洋権益を確保する狙いがある。
こうした一連の中国軍の動きはアジア太平洋の国々の間に、軍拡競争を引き起こしている。
中国と南沙諸島の領有権を争うマレーシアは、過去5年間に潜水艦や航空機など海外からの兵器購入費を7倍に増やした。
また、インドはロシアから空母購入を急ぎ、豪州は防衛予算を今後10年間、毎年3%増やす計画を立てている。
一方、中国の国防費は、人件費、軍事訓練費、装備費の3分野で構成されている。中国政府は、国防費の増加は、将兵の待遇改善や物価の上昇などによるもの、と説明している。
だが、装備の具体的な中身など詳細は明らかにしていない。さらに問題なのは、軍事の研究開発費が国防費に含まれず、海外からの装備購入費も国防費に計上されていないと見られる点だろう。
このため米国防総省は、中国の実際の国防費は、公表額の2倍以上になると見ている。世界第2の経済力を持つことになる国の軍事力が、ブラックボックス状態のままでは、各国が不信感を抱くのは当然だろう。
中国指導部は、国際社会の懸念をきちんと認識し、透明性や公開性を高めるよう努めるべきだ。