
◆迫る第三次世界大戦
ウクライナ情勢が世界に与える影響について考えてみたいと思います。
(1)欧米の対ロ制裁
米国はロシアに対して次々と経済制裁を行っており、その中でも「SWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除」は核爆弾級の制裁だと言われています。
SWIFTは、国をまたいで送金する際に利用するインフラですが、ロシアの銀行がこれを利用できなくなることは、「世界経済からの排除」を意味します。
ただ、ドイツやフランスはロシアから天然ガスを輸入しているので、天然ガスの支払いができるロシアの銀行は対象外にはしていますが、厳しい状況に変わりはありません。
また、アメリカは、ロシア中央銀行の外貨資産を凍結し、日本も追随しました。
ロシアは、2014年のクリミア紛争の教訓で外貨を減らしてきていましたが、現在ロシアの通貨ルーブルは20%以上下落しています。
本来なら、ロシアの中央銀行は下落を止めるために、外貨を売って、ルーブルを買い支えなくてはなりません。しかし、外貨資産の凍結により、買い支えることができません。
ロシアの中央銀行は仕方なく、金利を9.5%から20%に引き上げて買ってもらいやすくしているわけですが、これも厳しい状況です。
他にも、プーチン氏やラブロフ外相の個人資産も凍結しています。
こうした欧米の制裁に対して、プーチン大統領は3月5日、「欧米の対ロ制裁は宣戦布告に等しい」と述べています。
但し、「神のご加護で、まだその事態には至っていない」と付け加え、米欧との戦争状態ではないと主張しました。
こうした経過で頭に浮かぶのが戦前の日本です。ABCD包囲網を敷かれて、原油の輸入ルートを閉ざされ、開戦に踏み切った状況に似ているような気がします。
つまり、今回の米欧の金融制裁、経済制裁がきっかけで、世界大戦に突入する可能性も出てきているわけです。
(2)飛行禁止区域の設定
ウクライナのゼレンスキー大統領はNATOに「ウクライナ上空に飛行禁止区域を設けてほしい」と要望しました。
飛行禁止区域を設けるということは、ロシアの戦闘機がウクライナの領空内に入ってきたら、NATOが撃ち落とすことになります。
これはNATOの参戦をウクライナが要求するのと一緒で、米国を含むNATOはそれはできないと即座に拒否しています。
プーチン大統領も「ウクライナに飛行禁止区域を設けることは、破滅的な結末をもたらす」と牽制しました。
(3)核恫喝
さらに心配なのが、核戦争の危機が高まっていることです。
2月27日、プーチン大統領は核戦力を運用する部隊に「任務遂行のための高度な警戒態勢」に入るように指示を出しました。
これは、ウクライナを支援する米欧に対して、核兵器の使用もあり得ると警告するものです。いわゆる核恫喝です。
そしてロシアの隣国ベラルーシは、「ロシアの核兵器受け入れ」を行うために、憲法を改正しました。
◆冷戦時代に逆戻り
現在、NATOの核保有国はアメリカとイギリスとフランスで、ドイツ、ベルギー、イタリア、オランダ、トルコの5か国は自国に米国の核兵器を受け入れ、共同運用(核シェアリング)しています。
ベラルーシが核配備することになれば、米国やNATOに対して核配備の増強を促すことになり、核軍縮どころか、お互いが核で抑止するという冷戦時代の方向に逆戻りします。
さらに、これまでNATOに加盟していなかった北欧のフィンランドとスウェーデンでは、NATOに加盟しようとする動きが出てきました。
EUには所属していてもNATOに入っていなかった国もありますが、ロシアのウクライナ侵攻を見て、NATOに加盟していなければ武器を与えられるだけで、実際に部隊を派遣してくれないことがはっきりしたからです。
ロシアの外務省は「もしスウェーデンとフィンランドがNATOに加盟すれば、軍事・政治面で深刻な結果になる」と警告しています。
◆バイデンの二つの選択肢
ロシアはNATO不拡大を要求していましたが、NATO加盟が加熱して、分断がどんどん進んでしまっています。こうした状況の中、アメリカもやることはあまりありません。
バイデン大統領は、ウクライナ侵攻に対する対応について「選択肢は二つ。ロシアとの戦争に突入し、第3次世界大戦を始めるか、代償を払わせるかだ」と答えています。
しかしバイデン大統領が言う代償とは、前述の経済制裁のことです。
これに対して、ロシアのラブロフ外相はアルジャジーラの取材で「第3次大戦の瀬戸際にあるのか」と質問され、「バイデン氏に聞くしかない。第3次大戦は、核戦争以外にない」と警告しました。
この様に、ロシアと米欧の関係を見ましたが、対立は最高度に高まっています。
◆ロシアのウクライナ侵攻を巡る東アジアの地殻変動
ロシアのウクライナ侵攻は、東アジアにも地殻変動を及ぼしつつあります。
(1)中国
3月2日の「ニューヨークタイムズ」が、中国が2月上旬、ロシアに対して、「ウクライナ侵攻を北京オリンピックが終わるまで遅らせてほしい」と頼んでいたと報道しました。
実際に、北京オリンピックが2月20日に終わり、2月24日にロシアのウクライナ侵攻が始まっています。
ロシアと中国の関係は、2014年のロシアのクリミア侵攻をきっかけに、欧米のロシアへの経済制裁が強まる中で、どんどん密接になりました。
特に、中国はロシアから原油や天然ガスを大量に輸入し、ロシアを支援しました。
今回、中国は一貫してロシアの立場を擁護する発言をしており、間違いなく中露接近は決定的になったわけです。
(2)北朝鮮
また、中国同様、ロシアの立場を一貫して擁護しているのが北朝鮮です。
北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻中のタイミングで、弾道ミサイルを発射しました。
「北朝鮮の核兵器開発を正当化し、ウクライナの二の舞にはならない」と宣言しているかのようで、トランプ政権の非核化の交渉の真逆になっています。
ちなみに、ウクライナは1994年、核を持つ「米・英・ロシア」との間で、核兵器を持たない代わりに、ウクライナの安全を約束するという「ブタペスト覚書」を交わしました。
ウクライナ側は「この時に、もし核兵器を手放していなかったら、ロシアのウクライナ侵攻は起きなかったかもしれない」という見方をしています。
こうしたこともあって、北朝鮮は核保有の意義を確信し、北朝鮮の非核化は一段と遠のきました。これで日本の国防上の危機は高まったと見るべきです。
(3)台湾
次に台湾ですが、欧米とロシアの対立が激化、しアメリカがヨーロッパに戦力を配備することになれば、当然東アジアの戦力は手薄になります。
結果、中国の台湾侵攻にチャンスを与えることになってしまいます。
台湾では現在、「今日のウクライナ、明日の台湾」という言葉が、新聞やインターネットで踊っています。
昨年8月に米軍がアフガニスタン撤退で世界に失態を晒した時も、「今日のアフガン、明日の台湾」という言葉が広がりました。
市民の間では、ウクライナ民兵が戦う姿なども見て、応急処置や訓練に関する関心が高まり、自己防衛を意識する人が多くなっています。
米国と台湾の間には「台湾関係法」がありますが、台湾防衛義務は明記されていません。
歴代政権も台湾有事に軍事介入するかどうかを明確にしない方針、いわゆる「あいまい戦略」を採用しています。
今回のウクライナ侵攻についても、欧米諸国はウクライナを支持すると口にしながら、いざ戦いが始まったら全く兵を出しませんでした。
蔡英文政権は、台湾有事の際に米国の支援を期待していますが、アフガニスタンとウクライナの教訓を踏まえ、「自分の国は自分で守る決意と能力を持つことが先決だ」と繰り返し強調しています。
(4)日本
日本も他人事ではありません。
一番象徴的なのが、3月2日にロシア軍のヘリコプターが北方領土方面から来て、根室上空で領空侵犯した動きです。
これは明らかにロシアによる日本へのメッセージです。
日本は欧米に足並みを揃えて経済制裁に参加していますが、それに対する反発です。
昨年10月には中露の艦隊が津軽海峡を通って、日本を一周しましたが、これは、「台湾有事の際に日本が参戦すれば、北海道を占領するぞ」という警告でしょう。
北朝鮮のミサイルも連動しているとみるべきで、日本は、中国と北朝鮮、ロシアと対峙する三正面作戦をを行うつもりなのか、今後、岸田政権は、ロシアとの関係を中国や北朝鮮と同じく「脅威」と位置付ける方向で進んでいます。
これは、日本の存亡に関わる危険な判断だと思います。
ロシアは北海道に米軍基地やミサイルが設置されることを防衛上の危機と見ているので、日本が敵対国になれば、ウクライナと同じく北海道を緩衝地帯として確保したくなるでしょう。
となると、北海道も、尖閣並みの脅威に対応しないといけなくなります。そのための防衛予算、戦力、自衛隊の配備をどのように考えているのでしょうか。まさに国家存亡の危機です。
日本の独立を守るための「核シェアリング」の議論も出ていますが、岸田首相は「作らず、持たず、持ち込ませず」の非核三原則を堅持する姿勢を貫いています。
「核シェアリング」とは、米国の核兵器を日本に持ち込んで、共同で管理することです。
我々は「核装備なくして、日本の独立を守れるのか」について議論を封じるべきではないし、憲法9条改正と合わせて、参院選の争点にすべきではないかと考えています。
◆米国の二つ目の敗戦
今回のウクライナの情勢に関して、大川隆法党総裁の最新刊『ウクライナ侵攻とプーチン大統領の本心』の「あとがき」で、「バイデン氏は、対コロナ戦に続いて、二つ目の敗戦だ。残念だが頭が悪すぎた」と述べています。
『ウクライナ侵攻とプーチン大統領の本心』大川隆法党総裁著
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バイデン政権は、中国がばら撒いたコロナウイルスによって、世界で4億人以上、死亡者数600万人以上を出していますが、中国の責任を全く追及できません。
これが一つ目のコロナ敗戦です。
二つ目の敗戦ですが、現在、ウクライナのゼレンスキー大統領は米国では戦争を仲裁できないと考えて、中国にロシアとの仲裁をお願いしようとしています。
中国も乗り気になっているようですが、これでは米国の面子は丸潰れです。
ロシアと米欧は、バイデン大統領の失策により、戦争を防ぐどころか核戦争の危機にあります。
東アジアでは、中露接近により日本が戦場になる可能性が高まり、北朝鮮の核開発を勢いづかせ、台湾防衛に不安を与えています。中国は高笑いという状況です。
国連はもう機能せず、冷戦後に築かれてきた米国主導の国際秩序が揺らぎ始めているのは明らかです。
このように、米国のリーダーシップが弱まる中で、ロシアと中国、イラン、北朝鮮などの国がつながり、米欧日と対立するという第3次世界大戦の構図が出来上がりつつあります。
これが、ロシアをウクライナ侵攻に追い込んでしまった、バイデンの二つ目の敗戦です。
◆プーチン大統領がNATOの東方拡大を認めない理由
ロシアにとってのウクライナはヨーロッパからの侵攻を防ぐために死活的に重要な地域です。この緩衝地帯があるおかげで、ナポレオンやヒトラーの侵略からロシアを守ることができました。
プーチン大統領にとっては、NATOの東方拡大は認めることはできず、ロシアにとってのウクライナは、米国にとってのキューバだということです。
キューバ危機では、ソ連がキューバに核兵器を配備しようとしたとき、「核戦争も辞さず」との覚悟で、ケネディ大統領は核兵器を持ち込ませないように海上封鎖しました。
アメリカでも国防省の元上級顧問ダグラス・マクレガー氏が「ロシアのウクライナ問題をアメリカのキューバ危機と一緒だ。ロシアの狙いは欧米との戦争ではない」ということを言っています。
プーチン氏をヒトラーとみる向きが大勢ではありますが、これは防衛なのかというところが決定的な見方の違いになっています。
プーチン大統領2月24日、改選前の演説を見ると、これまでのアメリカの非道ぶりを非難しており、一定の筋は通っていると思います。
◆第三次世界大戦を防ぐには
「第三次世界大戦」を引き起こすような事態を防ぐためには、どのようにすべきでしょうか。
幸福実現党は、プーチン大統領の論理とウクライナの主張とを比較考量した時に、ウクライナがEUやNATOに加盟することを認めるべきではないと考えています。
また、日本は中露北の三正面を回避するための外交努力はすべきだと考えます。
ちなみに、絶妙な動きをしているのがインドです。インドは、ロシアとの関係も強く、肩入れしないよう、中立の立場を保っています。
インド政府は、制裁後もロシアとの貿易が継続できるよう検討しているようです。
イラン制裁の時も、インドルピーで、決算を続けました。米国追従ではなく、ロシアを見捨てることはしないと思われます。
日本も、国家存続の危機という認識で、政治的・外交的な落としどころを探るべきではないかと思います。
そして、「自由・民主・信仰」という価値観のもと、新しい地球的秩序の構築に向けて努力していくべきと考えます。

執筆者:釈 量子
幸福実現党党首
ウクライナ侵攻で迫る第3次世界大戦、日本も戦場に。(釈量子)【言論チャンネル】
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