
ドナルド・トランプ米大統領は28日、連邦議会の上下両院合同会議で初めて演説を行った。1兆ドル規模のインフラ投資などの政策を表明した今回の演説は、同氏が進めるアメリカの改革、いわゆる「トランプ革命」の見取り図を示す、重要なものだったと言える。
大統領としてのお披露目となった1月の就任演説が、15分ほどの短いものだったのとは対照的に、今回は約1時間にわたって自身の政策について語った。演説からうかがえたのは、”大統領らしく”振る舞うことに徹し、国を治める責任者としての立場を示そうという狙いだ。
融和のシグナル
トランプ氏が大統領に当選して以来、反対派のデモが今日まで続いている。2月20日は初代ジョージ・ワシントン大統領の誕生日に由来する「President's Day(大統領の日)」という祝日だったが、反対派はこの日も、「Not My President's Day」と銘うった反対運動を展開した。
そうした動きを意識してか、トランプ氏は今回の演説で、個人攻撃や挑発的な物言いを控え、落ち着いたトーンに徹した。演説の冒頭では、2月が黒人の歴史に思いをいたす「黒人歴史月間(Black History Month)」だったことに触れたほか、ユダヤ人コミュニティーに対する脅迫事件が起きていることについても言及し、国民の融和を訴えた。
大統領と、後ろに控える副大統領、下院議長が、いずれも、民主党の色である青色をネクタイの色に選んだことも、融和のメッセージを送るシグナルだったのかもしれない。
「アメリカ・ファースト」の具体的なビジョン
トランプ氏が演説で示したのは、「アメリカ・ファースト」という従来から掲げている方針のより具体的な姿であり、アメリカ再生のビジョンだ。トランプ氏は、「私の仕事は世界を代表することではなく、アメリカを代表することだ」と述べ、あくまでも自国の経済や治安、軍の再生を最優先に考える立場を示した。
具体的にはまず、働きたい人々が仕事にありつけるようにすることだ。法人税を安くして企業が国内でビジネスしやすくするとともに、1兆ドル規模のインフラ投資で、国内の雇用を創出する。中間層への減税も表明した。国民が勤勉に働き、自らの生活を切り拓いていけるように支援する。
一方で、勤勉に暮らそうにも、住んでいる場所が危険では心もとない。そこでトランプ氏は第二のビジョンとして、国民が安全に暮らせるように治安の強化を訴える。具体策としては、メキシコ国境に壁を築くというお馴染みの政策が、改めて強調された。
そして、国を守るために、防衛を強化する。トランプ氏は国防費を10%増額する方針で、今回の演説でも「アメリカ史上もっとも大幅な国防費の増額のひとつになるだろう」と述べている。国防政策では特に「イスラム国」の撃退に力を注ぐことを表明し、「この卑屈な敵を、この星から抹殺する」と語気を強めて述べると、議場からひときわ大きな拍手が湧いた。
裏を返せば嘆き節
「アメリカ・ファースト」を改めて掲げた今回の演説は、裏を返せば、トランプ氏が「自分の国よりもよその国を優先してきた」と考えるこれまでの政府の政策に対する嘆き節でもある。
インフラ投資のくだりでは「国内のインフラが崩壊する中、中東に約6兆ドルもお金を使ってきた」とこれまでの政府の政策を批判。貿易政策でも、「私たちが輸出する時には高い関税を払わされるのに、外国の企業がアメリカに輸出する時にはほとんどゼロだ」などと述べた。看板政策の国境管理についても、「ほかの国の国境を守ってあげておきながら、自分の国の国境は開けっ放しで誰でも通れるようにしてきた」と語っている。
アメリカの政治家がアメリカの国益を優先しようとするのは、しみじみ考えれば当たり前のことで、ある意味では政治の原則とも言える。しかし、「アメリカ・ファースト」の訴えに対して、怒涛のごとく押し寄せるマスコミや識者の批判を見れば、私たちがどれだけ、「当たり前の原則」を忘れさせられてきたかを考えさせられる。
トランプ氏はあくまでも平易な言葉で聴衆に語りかけた。おそらく、話術にたけたオバマ大統領に比べれば、玄人受けする話し方ではなかっただろう。しかし、分かりやすいということは、国民の誰もが理解できるという意味であり、大統領が言葉どおりの仕事をしているかを、誰もが判定することができるということでもある。
トランプ氏が演説で語ったように、9年後の2026年は、アメリカ独立宣言から250年の記念の年にあたる。ちょうどトランプ政権が2期目を終える次の年だ。そのアニバーサリー・イヤーに向けて、どのような業績を残し、どのようにアメリカを変えるのか。言葉どおりの成果をあげられるか、世界中が判定しようと待ち構えている。
(著者のブログより転載しました)