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誘拐されたひまわり先生の子ども、勇樹を捜すために、君子、悟、美佳、太一、徹たちの6年2組の新聞班は、10年後にもう一度、小学校の桜の古木の下に戻ってきた。5人は手をつなぎ桜の満開の下で、今この時の再会に感涙した。時の経過と共に失ったものに哀しみ、世界を彷徨い探し続けた心の糧を見つけた。
小さな街は、宇宙に繋がっていた、広い世界の先は、生まれた街の臍の緒に繋がっていた。生きることは、いつも時空を翔る冒険だ。多摩川小学校には、茜や竜や緑たちの仲間がいた。知識は、地球を駆巡る魔法の杖だ。見つけたものは、地球を闊歩した巨大恐竜の足跡とグーテンベルクと戯れる蝶だった…
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★登場人物の紹介★悟編
悟は、多摩川町の街にある、商店街の薬局「ヒポクラテス」の息子です。将来は、母の実家が経営する神戸の総合病院の薬剤師か医師になれと、運命付けられ、期待されていました。医者になれなければ薬剤師…。でも悟は徹のようにあまり勉強好きでなかった。医者になれる薬剤師になるかは、彼の学力次第だった。君子が悟を、「サトチャン」と呼ぶのも、彼の薬局の前に「サトちゃん」の大きなキャラクター人形が置いてあったからです。毎朝、悟を迎えに来る君子は、眠そうに現れた悟の顔を見て冷やかし、「悟ちゃん、象のサトチャンが、笑っている…」と、クスクスと囃したて、揶揄しました。それで、いつの間にかそのまま、街では悟のニックネームになりました。だが悟の心底から望んだもうひとつの希望は、落語家になることでした。まあ、それは悟の母親への反抗心の一つでもありました。もう一つの悟の隠れた夢は、医師になることではなくて、寧ろ「病気」、人間の病をいやす薬に興味がありました。それはもう生まれたときから、悟の周りには色とりどりの薬のパッケージが並び、母親の言葉を覚えると同時に、その唇から響く薬の名前が、母の乳房と共に意識に刻まれのですから、自然に薬の箱は悟のおもちゃのようでした。世界の果てのアマゾンの未知と神秘に満ちたジャングルやアフリカの未開の未開の奥地を歩き、難病や不治の病気を治す新しい薬種を発見する探検家に興味は大きく膨らんでいた。果たして、10年後の彼は、ユーラシア大陸やアフリカ大陸などを植物ハンターとして放浪していました。偶然に、日本を遠く離れた外国のある町で、悟は君子と再会する。
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朝の6年3組は、騒がしかった。1時間目の授業が始まるつかの間の数分間、教室内は無政府状態になる。その中で飛び交う、切れ切れの会話の騒々しさと猥雑さは、町内の事件から日本の裏情報まで、地球の出来事は、その数分間に圧縮されているかのように地球の出来事が充満していた。まるで、ガラスのジグソーパズルが教室の真中にぶち蒔かれたように、種々雑多の事件と噂と言葉が散乱していた。級長の徹はさっきから、「静かに、静かにしましょう…」と、カトマンズの僧侶が読経を読むように、教室の隅々にゆっくりと声を響かせたが、一向に沈静しそうになかった。
すでに6年2組の役者の一人、悟の独特会が始まっていた。興奮の坩堝の朝は、鎮まりそうになかった。机にランドセルを置くや否や、悟は、古典落語話の寿限無の一席を喋り始めている、「…和尚さんにめでたい名前を紙に書いてもらったが、そりょ長々、おーいあのそのあれ、朝子供の声を聴いて一言。おはよう、イイ子だねー」と子供に声をかけても長くて長くて、…寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の、水行末、雲来末、風来末、食う、寝る所に、住む所、薮ら柑子のぶら柑子…ジュゲムジュゲム、ゴコウノの、パイポパイポの…長くて長くて、子供の名前を言い始めて日が暮れちまったよ…もう暮れ六つのお寺の金が…ゴーンと鳴り始めちゃったよ…」と、唾をあちこちに飛ばしながら、体を後ろに曲げてひとくさり、隣に身をのり出したりしてまたひとしゃべり。仕草も玄人はだしだしです。彼独特のおどけた声で、いっそうテンションが上がってくる。「茜、おれの落語って案外、面白いだろ!?」。寄席に行ってじっくりその仕草まで観察して、よく真似ている。ア~ダメだ。ちょっと、上手くなーい? 「茜、その内に寄席の高座に立つからさ、聞きに来いよな…」と、しきりに茜に吹聴している。トキ婆さんの噂だと、「悟は茜に惚れてるね・・・」だってさ。
反抗期に入った悟は、母親の期待通りに、医学部に入って、勉強して、母の実家の大病院の医者か薬剤研究者になるのが嫌でイヤでたまらない。でも、ときどき、落語家の語り口をそっくり真似て、教室の前列に二つ並べた机を高座に見立て、みんなを前に駄洒落まじりの一席を、剽軽と披露するのが、今の悟の唯一の反抗と楽しみだったー。幼いころから悟を一番よく知っている君子に、よく愚痴を吐いていた。「あーあ、医者なんかになりたくねーえ。だいたい、俺はね、注射も薬も嫌いなんだーよ。中学を卒業したら家出して、名人を目指して落語家一門に弟子入りするぞ。子供がなりたい仕事に一心不乱に努力して、名人と呼ばれるのが、それがママに見せたい俺の晴れ姿だーよ。そうだろ、君子」。君子は笑い乍ら、「悟はバカね!お母さんが許すわけがないでしょ。悟の神戸の実家って、ものすごい家系なんでしょー。昔の御殿医で、大きな病院を経営しているんでしょ…。」と、些か呆れ果てている。悟をだけよりも理解している君子は、悟の幼稚な気まぐれと見ていました。悟の運命づけられた医師という職業も、子供たちの憧れの職業でもあります。
でもとうの君子は君子で、授業中に勉強はそっちのけで、ノートに漫画を制作中です。君子を一番よく知っている悟によると、「君子は漫画家になることが夢だから、がんばれ君子…。人間は、なりたい仕事で一流になるのが、一番幸福なんだーよ」。だから悟も君子を心から応援している。ペン先から自分によく似た楽しいキャラクターを雑誌に描きたいそうだ。「君子よ、キャラクターの瞳がちょっとキラキラ輝きすぎていないかな、なんか眼が大きすぎるよ?今の流行のキャラクターを追いかけんだ、君子。いまどきの少年少女が求めているキャラクターは、イチロウのようなスポーツヒーローか、ウィンブルドンで活躍しているテニスの錦織か、ITで巨万の富を掴む青年実業家、例えばだな、マイクロソフトのビル・ゲーツとか、アップルのスティーブ・ジョブズとか、そう、日本で言えばソフトバンクの孫正義とか、楽天の三木谷浩史とか、医者ならば、手塚治虫の登場人物のブラック・ジャックみたいな謎のドクターがいいよね。、今のアニメならば≪ワンピース≫ナンカいいよねり…、肉体か、金か、夢だよ…ね」と、悟は、君子のマンガを応援している。若者たちのマン人気は凄いものです。近頃の漫画家の収入は、「ONE PIECE」の漫画家、尾田栄一郎の年収は31億円以上と言われています。漫画一本のヒット作で、昨日まで教室の片隅でノートの切れ端にチョコチョコ漫画を描いていた地味で見立たないマンガオタクが、突然の幸運と偶然のヒットによって、趣味が高じてプロの漫画家への夢を実現した漫画家はたくさんいます。途端に、高級マンションに住み、ベンツを乗り回し、ハワイにペンションを持つ贅沢でゴージャスな生活を送れる人気漫画家になるのだから、凄い社会現象です。ひょっとしたら、パティシエやサッカー選手なんかよりもずっと若者の憧れの職業かもしれません…。
地域通貨の事件以来、頻繁にディズニーのキャラクター漫画を描いては、富田工場長へ見せに行っているようだ。近頃、君子と悟の仲は、新しい関係になりつつある。ミッキーマウスの鼻の形や、ミニーちゃんの耳の大きさを、ああだ、こうだと、結構真剣に楽しく会話している。
教室の中でも、太一の大声はガラス戸をビーン、ビーンと共鳴させていた。一心太助の店先で、並んだ野菜を前に絶叫しているようだ。野菜の話になると夢中になってしまう。どうやらまたは始まったようだ、「春の七草は、昔から身体にいいものばかり、いいかていいか、七草粥は今流行の「薬膳料理」なんだぞ、七草粥を食べると風邪ひかない…。すずしろは、大根。すずなは、蕪のこと。芹は便秘にいいんだ。今朝、ウンコでなかった奴は居ないか?君子、大丈夫だったかよ、顔色悪いんじゃないか? 」と、太一らしい話題の第一声が大きな笑いを誘った。「太一の変態、朝から汚いこと言わないでよ、バーカ~」と、早速に君子が噛み付いた。太一のそんな冗談に顔を赤らめている君子ではない。季節感がなくなった現代、八百屋に並ぶ野菜も春夏秋冬を次第に失ってきました。正月の後に、あっという間に節分が来て、すぐに雛祭り、やれやれと言う間にバレンタインデー、おやっという間に端午の節句、エー、あれよあれよと、暦が次々とめくられていきます。太一の叫ぶ野太い掛け声も、季節の移ろいを知らせる時の声なのであろうか。
初春を迎えたひまわり先生の挨拶は、妙に熱がこもっていた。「1月15日は先生のお誕生日であり、旧暦のお正月でもあります。おめでたい日が二つ重なってます…」。
ひまわり先生が言った時、ウォーとどよめきが涌いた。乙女の微妙な年齢をはっきりと聞けないが、多分、成人式のお祝いはとうに終わってしまっただろう?「…お正月には、お年玉をたくさんもらって、おせち料理をたくさん食べたと思います。五穀を司る年神から与えられる魂が≪お年玉≫ね、年神を迎えてお祝いする膳が≪お節料理≫です…」と、ひとみ先生のいつもの薀蓄がさりげなく披露されました。
教室の入り口で、太一の口上を耳にはさんだのか、七草粥にも触れた。「・・1月七日には一年の邪気を払う≪七草粥≫を食べる風習もありますね。それでは太一君に質問、春の七草は、どんな植物がありますか?」と、太一をすっかり調子にのせるような質問をした。太一は、先ほどの口上を再び力んで繰返した。「…先生、僕にそれを聞いてくれてよかった、僕のうちは八百屋だよ。他の人に聞いても知るわけがありませんが、それを知らないと言ったら、父ちゃんにどやされます、母ちゃんにお小遣いを貰えません」。思わず「いいぞ、一心太助」と、喝采の声が飛んで、みんながドゥーと笑った。「…エーと、芹、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ七草…これで七草。どうだ、俺はヤッパリ八百屋の息子だな」と、立て板に水、春の七草をスラスラと言った。
「太一君、すごい、本当に凄いわ、100点満点よ。でも先生にもちょっとだけ言わせてくれる。七種粥は平安時代からあった日本人の旧い習慣。昔は、米、粟、黍、稗、胡麻、小豆、ミノなどの穀物を入れて炊いていたそうよ。6日の夜に、ヒイラギの小枝を入り口に挟んで、〈七草なずな、唐土の鳥が日本の土地に渡らぬ先に、七草なずな…〉と、包丁で刻み、邪気を払つたそうよ。今頃に丁度インフルエンザが流行るでしょうー。あれは厳しい寒さの季節にシベリヤや中国などの大陸から日本に、渡り鳥が風邪の菌、ウィルスを運んでくるのよ。だから、よくインフルエンザがはやると、今年流行のインフルエンザは、香港B型とかA型とかいって予防接種を受けてるでしょー。ある時は、鳥ウィルスH5N1が人間に感染したとか騒いでるでしょー。あれよあれ。鳥とか家畜だけにしか感染しないインフルエンザが人間にも感染して死んでしまうのー。これは悟君が詳しそうねー。だから昔の人は知っていたのねー。、唐土の鳥が日本の土地に渡らぬ前に、厄払いしましょう…と言ってるのよ。ちょっと面白い風習でしょう。日本人って、不思議な民族でしょ…」、と、付け加えた。自慢にならない、さり気無い教養、仕草からにじみ出てくる優しさ、うっとりするような話し方、天使のように明るい笑顔。太一まで、ひとみ先生の話しにうっとりと聴き惚れていました。憧れの先生に太一が寝ぼけたように夢心地に囁いた、「ひまわり先生こそ、不思議な先生ですーね。」
それから、グーくぅーグーと、教室の中から気持ちのよさそうな鼾が聞こえてきました。「おい、太一、起きろ、目を覚ませ !」と、徹が太一の体をゆすっている。ひまわり先生の声は、太一を夢見心地の居眠りに誘ったようだ。
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