とってもみすぼらしい身成りのニャン子がいました。 ニャン子は若い頃は可愛い猫と噂されておりましたが、年を重ねてからはそんな噂も全く聞かれなくなりました。 それでもニャン子は生きがいの確信を得たかのように大好きな絵本作りに没頭しておりましたので、そんなことはちっとも気になりませんでした。
ある日、絵本が沢山売れてニャン子は有名な猫になり、周りからニャン子先生と呼ばれるようになりました。 ところが絵本作りに没頭するあまり、ニャン子は自分の身成りにもっと構わなくなってゆきました。 そしてある日、先生と呼ばれていたニャン子は先生ではなく、ボロニャンとニックネームを付けられました。
それからというもの、周りのみんなからもボロニャンと気易く呼ばれるようになり、ニャン子は名前のようにますますボロボロの服を纏うようになって行きました。 そしてニャン子を先生と呼ぶ人は誰もいなくなりました。 それでもニャン子は絵本さえ作っていれば幸せでした。 いえ、そう思い込むことにしていました。 だって本当はボロニャンと呼ばれて嬉しくはなかったのですから。
「……わたし、尊敬なんてされたい訳じゃない…… でも、ボロニャンじゃない」
急に悲しくなってニャン子の目からボロボロと涙があふれて来ました。 そして泣きながら自分の姿を絵に描きました。
「わたしってこんなにステキな猫なのよ!」
出来あがった絵は今まで作ったどんな絵本の絵よりも綺麗な絵でした。 そして不思議なことに、その日からニャン子は無意識に描いた絵のように綺麗に身成りを整えるようになってゆきました。 そしてある日、通りがかりの猫がニャン子を見て言いました。
「まぁ、なんてステキなの? ビニャンコね!」
「?ビニャンコ?」
「えぇ、美しい猫だからビニャンコ! ニャハハハハハ、吾ながら良いネーミングね」
そう言って笑いながら通りがかりの猫は去ってゆきました。
それからと言うもの、ニャン子は絵と同じくらい身成りにも気持ちを配りました。 するとボロニャンと言っていた周りの猫たちも一匹二匹と減り、いつしか誰から言うともなくビニャン子先生と呼ばれるようになってゆきました。 それでもニャン子はそんな風に呼ばれることを自負するでもなく、特に喜んでいる風でもなく、いつも通り絵本作りに没頭したままでした。 ただ、前よりも何だかとっても幸せな気分で毎日を過ごせている自分には気が付いていました。