ギャラリー三日月

~デジタルアート&フォト&エッセイ~

#3「ニャン子」

2014年06月04日 | 夢語り

 とってもみすぼらしい身成りのニャン子がいました。 ニャン子は若い頃は可愛い猫と噂されておりましたが、年を重ねてからはそんな噂も全く聞かれなくなりました。 それでもニャン子は生きがいの確信を得たかのように大好きな絵本作りに没頭しておりましたので、そんなことはちっとも気になりませんでした。

 ある日、絵本が沢山売れてニャン子は有名な猫になり、周りからニャン子先生と呼ばれるようになりました。 ところが絵本作りに没頭するあまり、ニャン子は自分の身成りにもっと構わなくなってゆきました。 そしてある日、先生と呼ばれていたニャン子は先生ではなく、ボロニャンとニックネームを付けられました。 

 それからというもの、周りのみんなからもボロニャンと気易く呼ばれるようになり、ニャン子は名前のようにますますボロボロの服を纏うようになって行きました。 そしてニャン子を先生と呼ぶ人は誰もいなくなりました。 それでもニャン子は絵本さえ作っていれば幸せでした。 いえ、そう思い込むことにしていました。 だって本当はボロニャンと呼ばれて嬉しくはなかったのですから。

「……わたし、尊敬なんてされたい訳じゃない…… でも、ボロニャンじゃない」

 急に悲しくなってニャン子の目からボロボロと涙があふれて来ました。 そして泣きながら自分の姿を絵に描きました。

「わたしってこんなにステキな猫なのよ!」

 出来あがった絵は今まで作ったどんな絵本の絵よりも綺麗な絵でした。 そして不思議なことに、その日からニャン子は無意識に描いた絵のように綺麗に身成りを整えるようになってゆきました。 そしてある日、通りがかりの猫がニャン子を見て言いました。

「まぁ、なんてステキなの? ビニャンコね!」

「?ビニャンコ?」

「えぇ、美しい猫だからビニャンコ! ニャハハハハハ、吾ながら良いネーミングね」

 そう言って笑いながら通りがかりの猫は去ってゆきました。

 それからと言うもの、ニャン子は絵と同じくらい身成りにも気持ちを配りました。 するとボロニャンと言っていた周りの猫たちも一匹二匹と減り、いつしか誰から言うともなくビニャン子先生と呼ばれるようになってゆきました。 それでもニャン子はそんな風に呼ばれることを自負するでもなく、特に喜んでいる風でもなく、いつも通り絵本作りに没頭したままでした。 ただ、前よりも何だかとっても幸せな気分で毎日を過ごせている自分には気が付いていました。


#2「懐中電灯」

2014年05月03日 | 夢語り

「あぁ~ 暗い。 暗いなぁ~」

自宅へ向かう住宅街の坂道を真っ暗な中、記憶を頼りに歩いている。

「そろそろ家なんだけど……」

不意にぼんやりと薄赤い灯が足元を照らした。

「ん? 誰か懐中電灯で照らしてくれているような……」

その灯のお陰で玄関前の階段が見えて来た。

灯を頼りに一段ずつ上がる。

玄関前には白いシートの上にカギが一つ置かれてある。

カギを見つけた私は、それを家のカギだと思い疑わない。

手を伸ばし白いシートの上のカギに手を掛けた。

と、人の気配を感じて振り返ると、懐中電灯の灯にぼんやりと姿が見えた。

「あ、おとう! 来てたんだな」

何故か普段とは違う、どこぞの方言で父親に話し掛ける。

安っぽいジャンバーに身を包んだ、おとうと声を掛けてしまった父親。

返事を求めるように父親の顔を覗き込んだ。

「あっ」

「……」

口元を見て悟った無言のメッセージ。

今は発言禁止中なのだと言う。

「そうか、おとう。 あの発言はやっぱりお許しにならねぇこったか」

どうしてもどこぞの方言で話してしまう。

「わかっただ。 そういうこったな」

懐中電灯の灯の中、暗黙の了解を得た父娘。

目覚めてもう一度、カセットテープに遺された父の声を聴き直した。


#1「尊いツムツム」

2014年05月03日 | 夢語り

「御免下さい」

「はい、何でしょう?」

「こちらに尊いお方がいらっしゃっていませんか?」

「はぁ? 尊いお方……ですか?」

「えぇ、確かこちらへお越しとお伺いしたのですが」

「はて?」

「お越しではないようですね……」

突然訪ねて来た者の後姿には何故か尻尾が付いていた。

それは何処かで見たことのあるような尻尾。

「嗚呼!」

と声に出して後姿の頭の方を見ると、丸い大きな耳が付いていた。

「なんだ、ミッキーマウスじゃないか。 ハハハ…… え?」

昨夜、眠りに就く前にやっていたゲーム、ディズニーのツムツム。

手持ちのコマはミッキーマウスではなく、チップとデールのうちのどっちか。

どっちがどっちだがイマイチ分からないままに使っていた。

「もしかして、ミッキーマウスを選ばなかったことに彼自身はご機嫌斜めだったのか?」

と考えてみても、彼が突然訪ねて来た理由にはならない。

なにせ、ミッキーマウスはチップでもデールでもなく、尊いお方の所在を尋ねて来たのだ。

「それにしても尊いお方って誰のこと何だろう?」

その夜、両手で包むには丁度良い大きさの顔を大事そうに撫でている夢を見た。

「……」

とても満たされた気分で撫でている自分。

そしてひとしきり撫で尽くした私の手が止った。

ふと見ると、それはそれは自分にとってとてつもなく尊いお方のお顔だった。

「ああああああああああああ…… なんてこと!」

しかもそのお方のお顔は正にツムツムだった。

「ミッキー…… 君にとっても尊いお方なんだね? 」