One Step ~ 橋本新企画公式ブログ

赤いジュースの話 その3

赤いジュースの話 その1

赤いジュースの話 その2

「赤いジュースちょうだい」と赤ワインを注文するオジサマが現れた。線路の向こう側に引っ越しをしてから遠ざかっていたので、久々の来店だ。「もう乗らないから売る」と豪語していたシニア用の電動三輪バイクに乗っての登場。「お久しぶりです」「そうかね?」彼は認知症であり、その進行具合は、話してみないと分からない。

「引っ越しの荷物は片付きましたか?」「まあまあだね」相変わらず会話がふくらまない。前回来店時は、ホットコーヒーを注文した。緊急事態につき酒が出せないということを理解していた。今回はどうかと身構える。椅子に座った直後に「赤いジュースちょうだい」いつものフレーズが飛び出した。時が止まった。

「赤いジュースです」と言って、脱アルワインを出せば、彼の頭の中では「緊急事態でもアルコールを出す店」としてインプットされてしまう。他の飲食店に行った際に「めぐりやでは呑めたのに」と当店の悪評をふりまくばかりか、「なぜこの店では出せないんだ」と怒り出し、迷惑をかけることになるかもしれない。つまり彼は今までは『赤ワインと認識した上で脱アルワインを飲んでいた』が、酒の提供ができない間は『脱アルワインと認識させた上で脱アルワインを飲んでもらう』しか、道は無いのである。

心を鬼にして言う。「すみません、脱アルワインしか出せないんです」初めて聞くような顔で驚くオジサマ。「あ、そう」「意外と美味しいですよ」「でも、アルコール入ってないんでしょ?」「ええ」「じゃぁ、帰るわ」そもそもアルコールを飲んでシニアバイクに乗ってもいいのだろうか。

アルコール入りしか酒と認めないという頑固さ……というか、ある種のプライドがあることは悪くない。ただ、飲食店で飲めないというストレスだけが、彼の心の中に蓄積されてしまう。認知症のオジサマとの攻防戦は、恐らくまだまだ続く。どうやったら安心してボケられる街になるのだろうか。さらに知恵をしぼる必要があるかも。

ちなみに脱アルワインは、この国の分類上は酒では無いが、微量のアルコールが入っているらしく、多量に飲むと酔うこともあるらしい。アルコールを完全に断っている方にはオススメしない。彼のプライドを傷つけることなく、すっきりと脱アルワインに移行できる日は来るのだろうか。

(5/4のTwitterより)
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