『ずっとずっと、友達でいようね』──十五になる夏に、幼馴染から言われた言葉。
その日は夏休みも終わりに近づく晴れた日で、焼けるように暑いはずなのに、その宣告は氷のように冷たく感じた。
俺の視界には、ひまわりみたいに明るい彼女の笑顔と、その向こうに見える入道雲。
それを何かの形にぼんやりとなぞりながら、蝉の声がうるさく降りしきる中、彼女の言葉に何故か酷く落ち込んでいる自分に、「何か」を気付きかけていた。
彼女は俺の、残酷な、一番の、友達。
それから五年後。大学二年の二十歳を迎える、夏──。
夏休みに入り一ヶ月が過ぎ、八月も終わりに近づく頃。集中講義とサークル以外は学校に用もなく、俺も同級生と同様、バイトに明け暮れる毎日だった。
「お疲れ様でしたー」
午後九時。街灯に虫が群がり、じりじりと音がする。今日も配送業のバイトが終わり、バイト仲間で夕飯を食べて解散となる。
その店の駐車場で原付にまたがった瞬間、突然鳴り響いた携帯電話の着信音。無機質なコール音と共にポケットの中で電話が光り、開けてみれば登録されていない番号からだった。
──誰だよ、面倒臭えな。
そう思ったが、バイトかサークル関連の連絡かもしれないしと思い、俺はその電話を取った。
今思えば何かが知らせたのか、夕飯の最中だったり原付に乗っていれば気付かず、後から知らない番号に掛け直すこともしない。だからその電話に出られたのも、もしかしたら何かの運命なのかも知れなかった。
「……はい」
だが誰からか分からない怪しい電話に、少し相手を威嚇するよう低い声を出す。
『あ……、突然、ごめんなさい。有川くん、……ですよね』
──誰だ?
こちらの声色に不安げに返したのは、細く高い、女の声。知り合いか?と思わず黙って考え始めた俺に、相手は慌てて説明する。
『えっと、中学の時同じクラスだった佐々木くんから番号、聞いたんだけど──』
嫌いな響きではないその声は、どこかで聞いたことがあるような気もし、相手の口ぶりからも知り合いなんだろうと記憶を手繰りよせる。
──!? まさか……!
その時、脳内に火花が散ったように、もしかしたら、と一人の人物が蘇った。
『ずっとずっと、友達でいようね』
記憶の片隅に、今でもひまわりみたいな笑顔と共に焼き付いている言葉。
その約束は、果たされることがなかったけれど。
「み……、仲里……?」
五年前まで呼んでいた「水葵(ミズキ)」という相手の名前を咄嗟に呼びそうになり、それをぐっと飲み込んだ。相手も俺のことを、「心矢(シンヤ)」と昔のように呼ばなかったから。
『覚えてて、くれたんだ』
五年前まで、自称・親友だったけれど俺がそれを裏切った──女は、電話の向こうでほっとしたように、笑った。
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