天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

ポケットドラゴン〜日曜朝ごはん編〜2

2020-04-11 10:27:00 | ショート ショート
ウリュは、俺と同じくらいの大きさの茶碗で、飯を食べる。小さい体で、案外大食らいだ。

ウリュ、曰く、

「僕は、高等な生き物なんだぜ?存在するだけで、すごいエネルギーが必要なんだ。」

とエバる。ただの、食いしん坊にしか見えないが。

ここで、読者諸君は、そんな小さい体で、どうやってご飯を口に持っていくの?とか、家事て、どうやってするの?と思われるかもしれない。

心配ご無用。

ウリュは、龍なので、特殊能力を持っているのだ。念力で、物を動かすことができるのです。

ただ、龍の力の源である「宝玉」をなくしてしまったため、最大出力が、掃除機をかけることらしい。(それでも、手のひらサイズの生き物がやってるとしたら、結構すごい。)

そして、俺の家に居候しているのも、「宝玉」を探すためなのだ。成り行き上、俺も手伝っているのだが、また、それは別の機会に。
「ごちそうさまでした。」
ウリュは小さな手を合わす。ヒゲ?に納豆の糸がついたままだ。
「ウリュ、納豆がついてるぞ。」
俺は、ティッシュで、ウリュのヒゲ?を拭いてやる。
「ありがとー。」
ウリュは、にっこり笑う。ギョロ目が糸の目になる。
ちくしょー、かわいすぎるだろっっ!

ポケットドラゴン〜日曜朝ごはん編〜1

2020-04-11 10:23:00 | ショート ショート
「コウタ、コウタ。朝だよー。」

俺の鼻先を、いわく言いがたい感触が掠る。うーん、なんつーか、爬虫類の尻尾のようだけれど、ヌメッとはしてない感じ。奴だ。今日は、日曜だよ。ゆっくり寝させてくれー。

俺は、布団の中に潜り込む。奴は、布団の上でポンポン飛び跳ねているようだが、小さくて、軽いので、全然、効かない。もう、ひと眠り出来そうだ…と思っていたら、奴の声が聞こえた。

「起きないねぇ。どうしたら、起きるかなぁ。火でも吐こうかな。」

ちょっ、ちょっと勘弁してくれ。俺は飛び起きた。

目の前には、手のひらサイズの龍。割烹着を着た龍だ。(どんなんやねん…。)にやにやと笑いながら、俺の方を見る。

「コウタ、おはよう。」

「ウリュ、てめえ…。」

「朝ごはん、作ったよー。」

味噌汁の香りがする。そして、言った。

「早起きは、三文の徳!!」

おまえは、おかんか!

「いただきます。」

俺は、ご飯と味噌汁と納豆という、日本古来のヘルシーな朝食を、割烹着を着た龍と食べている。ちょっとシュール。

ちなみに、ウリュの割烹着は、俺が手縫いで作ったものだ。(俺は、手先が器用で、裁縫なんぞも、お手の物なのだ。)サ○エさんのフ○さんをテレビで見て、ウリュがどうしても、割烹着を着たいと言い出したのだ。龍の感覚は、よーわからん。

俺が作った割烹着を、いたく喜んで、自分が家事をする時は、絶対に身につけるようになったのだ。

夜半の月

2020-02-16 14:28:00 | ショート ショート
 夕方、父が入所している施設から、連絡があった。

 施設で、誤飲して、意識不明になったため、急遽、救急車で病院に搬送されたとのこと。

 慌てて、搬送先の病院のICUに行った時点で、手遅れなのは、すぐにわかった。

 チューブに繋がれ、もう、排泄すらもできない父は、カテーテルを入れられ、機械に生かされていた。

 機械を外せば、もう、命はない。ただ、繋がれているのは、家族が最後の別れをするためだけ。

 母と一緒に向かった私は、父に触れるのが怖かった。死にゆく父に触ると、何かが、私に流れ込むような気がして。

 母は、逆だった。

 「お父さん。お父さん。」

 話しかけながら、自分の力を、命を、与えるかのように、父の頬を撫ででいた。

 私は、母の愛情深さや、与えることが当たり前のメンタリティに触れ、打ちのめされた。

 なぜ、そんなに献身的になれるのだろう。

 あんなに、父にないがしろにされ、罵られ、最終的には、認知症になって、子供にかえってしまったのに。

 母にとっては、夫。私にとっては、父。

 この立場の違いは、見方も変わってくるのだろうか。

 それとも私は、血の通わない、冷血な人間なのだろうか。

 私は、ただ立ちすくんで、見つめることしかできなかった。

 何時間たっただろうか。

 父のバイタルは、緩やかに下降していっていた。死に向かっているのは、明らかだった。

 「…健太に連絡してくるよ。」

 私は、病院の外に出た。

 県外に住んでいる弟に、電話をする。

 真夜中だ。眠っているだろう。何回も何回もコールをする。

 「…はい。」

寝ぼけた声。やはり、叩き起こしてしまったのだろう。

 「私。お父さんが、危篤なの。今、〇〇病院に入院してる。」

 「えっ。」

 弟は、目が覚めたようだ。

 「なんで。」

 「施設で、誤飲したらしいの。意識不明のまま、〇〇病院に搬送されて。今日が、山場らしい。」

 「…そう。」

 「帰ってこれる?」
 
 「…どれくらいにそっちにつくか、また連絡する。」

 「わかった。」

 私は、スマホを切った。父のお気に入りだった弟。弟が、到着するまでは、持って欲しいと思った。

 …そう思うこと自体が、罪なのかもしれない。父の生存を、私は、もう諦めてしまってるのだから。

 2月なのに、不気味なくらい生暖かい夜だ。ひっきりなしに、救急車のサイレンが鳴り響く。

 私は、空を見上げる。夜空に浮かぶ月は、薄雲に透けている。中天にかかる月。

 長い長い夜になりそうだ。

 



 

ポケットドラゴン 〜日曜朝ごはん編〜

2019-07-05 20:08:38 | ショート ショート
「コウタ、コウタ。朝だよー。」

俺の鼻先を、いわく言いがたい感触が掠る。うーん、なんつーか、爬虫類の尻尾のようだけれど、ヌメッとはしてない感じ。奴だ。今日は、日曜だよ。ゆっくり寝させてくれー。

俺は、布団の中に潜り込む。奴は、布団の上でポンポン飛び跳ねているようだが、小さくて、軽いので、全然、効かない。もう、ひと眠り出来そうだ…と思っていたら、奴の声が聞こえた。

「起きないねぇ。どうしたら、起きるかなぁ。火でも吐こうかな。」

ちょっ、ちょっと勘弁してくれ。俺は飛び起きた。

目の前には、手のひらサイズの龍。割烹着を着た龍だ。(どんなんやねん…。)にやにやと笑いながら、俺の方を見る。

「コウタ、おはよう。」

「ウリュ、てめえ…。」

「朝ごはん、作ったよー。」

味噌汁の香りがする。そして、言った。

「早起きは、三文の徳!!」

おまえは、おかんか!

「いただきます。」

俺は、ご飯と味噌汁と納豆という、日本古来のヘルシーな朝食を、割烹着を着た龍と食べている。ちょっとシュール。

ちなみに、ウリュの割烹着は、俺が手縫いで作ったものだ。(俺は、手先が器用で、裁縫なんぞも、お手の物なのだ。)サ○エさんのフ○さんをテレビで見て、ウリュがどうしても、割烹着を着たいと言い出したのだ。龍の感覚は、よーわからん。

俺が作った割烹着を、いたく喜んで、自分が家事をする時は、絶対に身につけるようになったのだ。

ウリュは、俺と同じくらいの大きさの茶碗で、飯を食べる。小さい体で、案外大食らいだ。

ウリュ、曰く、

「僕は、高等な生き物なんだぜ?存在するだけで、すごいエネルギーが必要なんだ。」

とエバる。ただの、食いしん坊にしか見えないが。

ここで、読者諸君は、そんな小さい体で、どうやってご飯を口に持っていくの?とか、家事て、どうやってするの?と思われるかもしれない。

心配ご無用。

ウリュは、龍なので、特殊能力を持っているのだ。念力で、物を動かすことができるのです。

ただ、龍の力の源である「宝玉」をなくしてしまったため、最大出力が、掃除機をかけることらしい。(それでも、手のひらサイズの生き物がやってるとしたら、結構すごい。)

そして、俺の家に居候しているのも、「宝玉」を探すためなのだ。成り行き上、俺も手伝っているのだが、また、それは別の機会に。

「ごちそうさまでした。」

ウリュは小さな手を合わす。ヒゲ?に納豆の糸がついたままだ。

「ウリュ、納豆がついてるぞ。」

俺は、ティッシュで、ウリュのヒゲ?を拭いてやる。

「ありがとー。」

ウリュは、にっこり笑う。ギョロ目が糸の目になる。

ちくしょー、かわいすぎるだろっっ!

バックステージ

2019-05-14 18:54:48 | ショート ショート
俺は、1人楽屋に佇む。ライブ直前は、1人でいることを好むからだ。壁にかけられた時計の秒針だけが、響いている。

何十年、俺は世界を飛び回っているのだろう。ギターを弾き、観客を熱狂させ、パッキングをし、飛行機に乗り、また違う場所で、ギターを弾く。

そして今は、湿度の高い国にいる。均一とディテールにこだわる国。俺の楽屋の隅にさえ、ちりひとつ落ちていない。鏡の前には、花が一輪、活けてある。

いろんな国をまわる。けれど、出かけようとしなければ、空港とホテルと会場の往復で終わってしまう。

そうは言っても、不思議なことに、楽屋ひとつにとっても、その国が見えてくるのだ。

鏡が曇っていたり、カラフルな落書きがそのままだったり(俺は、自分で言うのもなんだが、大きな箱をいっぱいにすることができる。だから、割と小綺麗な楽屋に通される。それでも、そんな国もあるということだ。)、真っ赤な絨毯が敷いてあったり、スパイシーな匂いが漂ったり…。

それを、面白がったり、無視したりして、対処する。そうやって、いくつもの国を通りすぎ、やり過ごしてきたのだ。

鏡に、俺の顔がうつる。色あせた瞳。シワの刻まれた顔。俺は、俺に問う。

「今の生活に満足しているか?」

俺は答える。

「わからない。」

体の節々は痛み、終演後は、体が重く、引きずるような時もある。観客のパワーが、ノイズのように感じることもある。観客によって、疲弊することがあるのだ。その逆ももちろんあるが、若い頃よりも、疲弊することが多くなってきている。おそらく、自らのパワーが、少なくなってきているのだろう。

だが、まだ、俺は、ツアーを続ける気でいる。

たくさんの人間が、死んでいった。俺だって、死にかけたことが何回もあった。(心を含めて。)

奪い奪われ、与え与えられ、壊し壊され。

それでも、俺はここにいる。

それは、神のギフトだ。それを、無駄にしてはならない。

それに、未だにまだ、俺は俺の思うところに到達していない。このまま、終われないのだ。

そして、もう残された時間も限られていることもわかっている。

リミットが迫りながらも、俺の人生はまだ保留中なのか。

鏡の中の俺の顔が歪む。

皮肉の笑みか、安堵の笑みか。

その時、ノックの音が聞こえた。

さあ、ショータイムのはじまりだ。

俺は、振り向いた。