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日記、日々の想い 

北の国から… 春楡の木

 田中邦衛さんが、亡くなった。子ども時代は、ヒーロー若大将に張り合う嫌味な青大将だった。任侠映画や、トラック野郎の時代には、やさぐれて、高倉健や、菅原文太と絡んでいた。それが、倉本聰の「北の国から」で、北海道に移住する父親役を演って、国民的俳優になったように思う。
 「北の国から」は、子役の吉岡秀隆や、中嶋朋子が、大人になるまで、続編を作られ続けた。大脚本家倉本聰さんの代表作で、歴史的高視聴率ドラマでもあった。時代に影響を与えた言えるほどの作品だったとも思える。
 ただ、この作品、自分は、実は、殆ど見た事が無い。少し、あらすじを知って、凄く興味はあったのだが、観る余裕など無かった。
 思春期鬱から、恋愛、結婚、家族を持ち、そして、もちろん会社、仕事と、社会の歯車にがっちり取り込まれて行く中で、そんな夢うつつな話に、付き合っているような余裕もないし、付き合いたくないと言う思いが、あったのだ。
 ただ、あらすじに興味があったのは、そのドラマが始まる前に放映されていた公共放送のドキュメンタリーと、とても、設定に共通性が、あったからだ。倉本さんが、このドキュメンタリーを、見たことがあるのかどうかは、知らない。ただ、自分にとって、そのドキュメンタリーは、未だに、こころに残る忘れ難い作品なのだ。
 多分、「春の楡の木」と言うようなタイトルだったと思う。ただ、だいたいのイメージは、残っているが、細部は、断片的な記憶しかない。あらすじさえ、あやふやだ。史料が残っていないかと、唯一の頼りで、ググってみたが、分からない。
 確かに、声の大好きだった自分の近い世代の女優さんの淡々としたナレーションがあった思い出はある。少し、哀愁も帯びた。確か、今、自分も住むC県の主要都市M市に暮らしていた四人家族の話だった。
 子どもは、娘二人。小学生。父親は、恐らく、首都などに通勤する普通の会社員。日本の成長期の頃のこと。収入は増えるが、過酷だった競争生活に疲れた会社員たち。Uターンや、Iターンが、密かなブームになり始めた時期だった。
 生活に疲れた30代の父親が、人間らしい生活、娘たちの大自然の中での伸び伸びとした成長を望んで、馴染みの無い北海道の海辺の街へのIターン、移住を決断する。何か、その街で、ちょっとした店をやって、職人のようなことをする。少し、借金をしたのかも知れない。危うい話だか、就職も、結婚もまだで、過酷そうな会社員生活に、恐怖しか感じなかった自分には、夢の話に思えた。
 しかし、現実は、厳しい。数年間の記録だったと思う。過疎地で、顧客をこれから開発しなければならない自営業など、悪夢でしかない。家族の生活は、困窮する。北の国みたいに、奥さんが逃げ出したりはしないが。北の国と違って、海辺の街だから、海岸で、打ち寄せた海藻を、家族で拾いに行ったりして、糊口を凌ぐ。娘二人も、きゃあ、きゃあと騒いで、家族は、大自然の中で、貧しくても、幸せに満たされているようでもあった。
 しかし、数年の間に、少し、成長した娘たちが語るのは、おとなになったら、必ず都会に出たいと。結局、寂れいく過疎地では、夢もただ虚しい。娘の同級生の若い母親が、がんで余命宣告された逸話なども、織り込まれて、うつつな夢の悲劇は、淡々と、ナレーターによって、語られて行く。家族を身近で、身守る春楡の木だけは、変わらずに。
 凄く哀しくて、愛おしくて。忘れられない。作品になった。だから、 「北の国から」も、とっても、気になった。でも、夢はあるけど。きっと、何もない。妻と子どもたち。今の自分は、目の前の現実と、必死に戦っている。だから、そんな虚しい夢は、いらない、と思ってしまったんだろう… 名優に、合掌。

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