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日記、日々の想い 

しろっ、何だ!お利口なんじゃないか‼︎

 問題は、トイレだった。あのトラウマの犬のトイレ。でも、自分は、父とは違う。まず、しろを、玄関の土間なんかには、寝かさない。しろは、家族だ。あっ、子犬の名前は、当然、我が家の犬、三番目の息子になったのだから、自分が付けた。妻にも、子どもたちにも、相談したりはしない。しろ!だって、真っ白だっ‼︎赤ん坊のしろは、本当に、真っ白だった。それも、艶やかに、輝くような白だった。パールホワイトとでも、言ったら良いのか。
 直ぐに、しろ、と思いついた。しかし、えっ? … そんな簡単に、付けちゃって良いのか。と、思った。いや、でもしろいっ!輝いている。しろ、だっ!やっぱり。家族に、発表。そりゃ、そうだ。妻も.幼い息子たちも。しろ!納得。
 寝床は、バスタオルを敷く。ソファの上とも、思ったが。やっぱり、寝返り打って、落っこちゃうんじゃない?と、なった。リビングのフローリングに、タオルを敷いた。寝かしてみる。しばらくして、こっくり、こっくり。うとうと、し始めたんだろう。
 でも、子どもたちが、なかなか、寝室に行かない。起きたら、ちょっかいを出したいんだろう。建前は、寝かしつけてあげたい、とかだけど。おもちゃじゃないんだぞ。ここは、父親らしく、少し叱る。
 あっ、寝付いた。しろは、ついに、首を沈めた。最初の晩は、丸まっていたような気がする。後に、よく腹丸出しで、バンザイポーズで寝ていて、その野生喪失状態に、呆れたこともあるが。子どもが、一緒に寝たい、と言い出す。どちらか、一人は、ソファで寝たかも知れない。最後は、多分、兄が、弟を押し除けたと思う。我が家は、長男が、圧倒的に我儘だった。これは、自分の父に対する意識もあった。父のように、長男を、期待の余り抑圧して、萎縮した子どもにしたくなかった。まあ、これは、後々、そんなことは無くて、結局、自分も、長男に期待し過ぎて、重荷を与えていたと気付くことになる。
 問題のトイレは、もちろん別にしてあった。少し、距離があるが、玄関土間に、室内トイレを、紙のシートを敷いて、置いた。もちろん、事前知識は、頭に入れてあった。とにかく、寝床とは、別の場所に、トイレを設ける。そこで、することを繰り返し教えれば、覚えるらしい。とにかく、ハウツー本や、多彩な犬用品。自分には、あの時の父と違い、武器がいっぱいある。ただ、当日は、させた記憶がない。
 翌日、会社から帰ると、妻が、まだ、だめなの、と。ここは、自分の出番だ。犬がしたくなれば、様子を見れば分かる。そうなったら、トイレに連れて行く。出てしまいそうになったら、入れ直す。繰り返す。父のように、叱ったりしない。もう、自分が父の時代だ。大人になった今の自分は、犬を知る努力はしているし、父よりずっときちんと犬を迎えて、育てられる。自信は、あった。
 しかし。覚えない。いつまで経ってもしないから、諦める。すると、しろは、しないで、でも、我慢している様子だ。結局、こっちが、気を逸らしていると。もう、している。玄関や、リビングの隅っこで。
 昼間は、妻が、頑張っていた。しかし、結局、同じことの繰り返しだと言う。小も、大も、床にしてしまう。妻は、年中、粗相の始末をすることになる。学校から帰った息子たちも、小学生だから、当然、お手伝いはする。しかし、戯れ合う方が、優先。しかも、自分の子ども時代と違って、二人とも大柄で、サッカーや空手や水泳もやっているやんちゃ坊主。だから、しろにトイレを教えると言っても、怒鳴り散らす。自分が、息子たちを叱って、もっと優しくと教えるが、そんな根気はない。結局、自分が教えるしかない。会社から遅く帰った夜中だけだが。だから、余計に覚える筈がない。
 ただ、妻は、昼間は、庭に出して遊ばせ始めていた。すると、しろは、迷いなく、庭の隅の草むらや木陰に行って、してくるらしい。だから、妻は、昼間は、困らなくなっていた。
 そして、一週間が、経った。父に、ぼちを捨てに行かされた、同じ一週間が。ただ、夜の家の中では、結局、しろは、トイレで出来ないでいた。何だ、結局、自分も、父と変わらないじゃないか。教えられない。がっかりたな。もちろん、しろにではない。自分にだ。結局、自分は、所詮、父の子どもなんだな。
 そんな休日の夜の団欒の時だった。今日も、庭で遊ばせている時は、問題ない。初めて見て、感心した。ささっと、隅に行ってしてくる。ただ、室内に戻ると、駄目。したそうなしろを、犬のトイレに抱っこして行く。見つめ合っているが、ひぃーひぃーと、犬らしくない悲しげな声で、低く泣いているだけ。もじもじしているが、してくれない。諦めて、様子を見ようと、トイレの外に出すと、結局、一瞬の隙に、されてしまう。フローリングに。
 困ったねと、リビングで、ソファに腰掛けながら、妻と話し合っていた。すると、しろが、リビングの雨戸のところに行って、ガラス戸をがりがり。初めてでは無い。叱ろうとするが。あれっ?妻と顔を見合わせる。もじもじ、しているよ。そう言えば、ガラス戸をがりがりすると、いつも、抱き上げてしまっていたのだが、そう言えば、必ずもじもじしていた。でも、まさかね。この夜中に、子犬を外には出せないよな。
 うーんっ、ちょっと試してみるか。妻も、そうだね、と。ガラス戸と、雨戸を開けて、しろをコンクリートのたたきに下ろした。見失うと、まずい。でも、ささっと、しろは、木陰の草むらへ。まずいかな、と思った。庭に降りようと、身を乗り出した。あれっ、しろ!
 戻ってきた!さっぱりした顔で。そうか、しろは、外じゃないと出来ないんだ‼︎妻と、また顔を見合わせる。そう言えば、しろは、貰われてくる前に、庭でお母さんと暮らしていた。だから、きっと庭の隅ですることを、お母さんに習って、覚えていたんだ。何だ、こっちが、勝手に色々と思い込んで。空回りしていたけど。そんなに、お利口だったのか‼︎もう、後は、リビングに敷いたタオルで、直ぐに、ぐっすりだ。
 そうして、しろは、当分、そんな風に、家の中で暮らすようになった。する時は、外に下ろすと、すすっと。庭の隅。外で遊んでいる時は、もちろん。家の中で、するなど、二度となかった。犬は、綺麗好き。自分の家で、する訳は、なかった。庭でする習慣のあったしろは、したくても、家から出られず、困っていたのだ。そんなことも気づかずに。何て、お利口な子なんだ、と。勘違いしていたのは、この頃だけだったが…
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