凄いんだよねっ、ママが帰ってくると。4mの長い繋ぎケーブル。首がもげるかと思う程、引っ張って。ランニングケーブルじゃ無くなったから、届かないんだけど。何とか、首を出そうと。生垣に、突っ込んで行く。きゃい〜んっ!はふっ、はふっ。きゃい〜んっ!はふっ、はふっ。息も荒く。泣き叫ぶ。ママ、早くって、か。
とにかく、亭主は、仕事は遅い上に、付き合いとかで、随分遅く帰っくる。悪ガキの息子たちは、年中遊び回っていて、家では、ゲームに浸りっきり。主婦の日常の癒しは、… しろちゃ〜んっ、だけになってしまった。また、このしろいいぬが、しろいのが毛色だけで、本当は、相当に腹黒いことが、後々、分かったんだけど。餌係、散歩係の、ただのおばさんが、外出から帰ってくると、そのぶりぶり、ぶりっ子ぶりが、大変だった。
ママ〜っ、もっと、早く帰って来てくれないと、ぼくちゃん死んじゃうみたいな。悲鳴のような泣き声で、ママに擦り寄る。本当は、その頃は、前の通りを、散歩の犬が通ったりすると、野太い声で、吠え立てていた癖に。「おい、俺様を舐めんじゃないぞ」とばかりに。そんなガラの悪い犬、誰も好んで、舐める訳ないのに。
と、言うことで、まず、おばさんは、生垣に、手を突っ込む。「しろちゃ〜んっ、う〜んっ」みたいな。玄関に、回って、庭に入るおばさん。「ママっ、ママっ、ママっ!」みたいな。きゃい〜んっ、きゃい〜んっ。はふっ、はふっ。ひぃ〜っ、ひい〜っ。「しろちゃ〜んっ、ただいまっ!う〜んっ」おばさんが、こんなとこで、悶えていても、仕方がないと思うんだけど。犬も、悶えてるし。顔を、スリスリ。母を訪ねて、三千里でもないし。十年ぶりって、訳でもない。ちょっと、出掛けて、帰って来ただけでしょ。
良かったね。おばさんも。夫にも、息子も、かまってくれないけど。しろが、いる。ああ、良かった。と言うことで。おばさんは、この毛並みがしろで、腹は、毛が薄くて、ピンクに透けているけど。腹のなかは、真っ黒な犬に、すっかりと、騙された訳です。本当は、普段は、「うぉんっ、うぉんっ」野太く、ガラが悪く、誰彼なく、吠え立てでいるくせに。側から見ると、呆れるばかりだけど。
とにかく、おばさん。知っている筈なんだけど。犬の食習慣は、しっかりと。それが、なんか、人が目を離すと。すぐ、撫で撫で。ひぃ〜っ、ひぃ〜っ。ジャーキーだ、煮干しだ。おまけに、ごはんになれば、こっそり、牛肉。血統書付きのハスキーが、無闇に捨てられて、保健所行きの時代だった。こんな雑種、雑犬が、どんだけ良い思いしてんだ!って、話だった。