ハチは、駅の改札の
まわりを、彷徨く
野良犬みたいに
なっちゃったんだけど
駅の周りのお店のひととかが
先生を、待っていた
ハチのことを、知っていたから
虐めるひとも
いなくなって
みんなが、ハチを
守ってくれるように
なったみたいだ
良い子だねって
餌をくれたり
撫でてくれたり
そして、ハチは
相変わらず
毎日、毎日
先生を送りに来て
迎えに来ていた
きっと
ハチだけに見える
先生を
それで、ハチは
人伝てに、どんどん
噂になっていったんだ
亡くなったご主人を
ずっと、ずっと
ずっと、待ち続ける
お利口な、いぬとして
ちょうど、時代が
戦争に向かう
軍国主義の時代で
ご主人を、待ち続ける
忠義で、健気な
いぬってことに
なっちゃったんだろう
お国に尽くす
兵士や、軍用犬のようだ、と
余計に、美談に
されてしまった
そうなのかも知れない
本当は、ハチは
先生が、ただ大好きで
大好きなだけで
とにかく、また
会いたい
抱き締めて欲しい
その一心な
だけだったんだ
自分は、そう思う…
でも、やがて
大手新聞社が
ハチの話を
軍国美談みたいにして
記事に、取り上げたんだ
それで、ハチは
日本一有名ないぬに
なってしまった
日本中から、見物人が
渋谷に、押し寄せたみたいだ
だから、ハチは
生きてる頃から
渋谷の名物犬になって
ハチを可愛がる
近所のひとたちや
遠くからの見物の人々に
囲まれていたんだ
まるで、現代と同じだね
でも、現代の銅像のハチは
ただ、待ち合わせ場所に
利用されちゃってる
だけ、だけどね
そして、初代の
ハチの銅像は
ハチが生きているうちに
建てられたんだ
だから、初代の
ハチ公像の、除幕式には
ハチも参列したんだ
でも、ハチは
もう歳だったから
銅像が、出来て
しばらくしてから
死んでしまった
フィラリアが
死因だったらしい
昔も、今も
フィラリアは
いぬには
いちばん怖い、病気みたいだ
ハチの遺骸は
渋谷だけど
いつもは、歩いていない
場所だったらしい
いぬには、野生があるから
死期を、悟ると
自分で、身を隠すって
そんな話、聞いた事がある…