どきどきした
怖くて…わくわくして
何でも、大変らしい
かつてない
大きな台風だと言う
おまえは、幼稚園児で
一家は、その年の春に
引っ越して来たばかり
新築のしっかりした家
でも、建つのは
海辺の高台
まだ、家もまばら
新興住宅地には
前を遮る物もない
広く開けた湾の真ん中
海岸から1km
でも、普段から
潮風に晒されていた
おとなたちは
深刻そうに話し合う
雨戸は、木の引き戸
夕方に帰って来たとうさんが
真っ暗な夜の庭
筋交いを打ちつけている
多分、もう停電していた
少し大きめの座卓
真ん中に蝋燭が一本
ばあちゃん
かあさん
にいさん
ねえさん
蝋燭に浮かぶ顔、顔
皆、不安気に
とうさんを待つ
おまえは
どきどき…わくわく
だって、みんな一緒
ほっこり、あったかいよ
遠い、記憶
きっと、彼の地では
もっと、強い台風も来た
でも、新築の家で
初めての台風
伊勢湾台風の思い出…