長い、長〜いっ散歩の帰り道だった。くんくんっ。こらこらっ。今度は、あっち。くんくんっ。ええ、まだあ？早くう。おっとっ！急に。走り出す。しろ。突然！急ブレーキ。くんくんっ。そんなに、他人、いや、他犬のを、嗅いで、どうする？
おしっこは、ともかく．こんもり、くまなく。何が、そんなに楽しい？ああっ！田んぼに、落っこっちゃうよっ！お父さんまで。そんなに、突っ込んで、鼻先。草むら。ふんふんっ。あっ、こらっ！鼻先を叩く。蛙の死体だ。お腹、壊すだろう。そんな、いつもの散歩…
最後の田んぼ道だ。家に近い、分譲住宅地の裏手の高い階段が、見えてきた。結構な上り階段。分譲住宅は、里山丘陵地帯を、切り崩して、造成したらしい。だから、かなりの高台。ただ、我が家の近くにある調整池は、もともとあった池で、我が家の辺りは、両脇の里山を切り崩して、盛り土されたらしい。まあ、どちらにしろ、問題は、あの階段の角地の家だ。あそこの犬だ。
何か、牝犬なのか、しろに、気が有り気だ。階段を、しろと上がっていくと、色っぽく尾を振りながら、近寄ってくる。若くて元気なしろ。媚びられれば、満更でもない。近寄って行く。下手をすれば、ぶちゅっ、だ。それは、駄目だ。
お父さんは、許しません。何しろ、あの犬、汚な過ぎる。飼い主が、あんまり、手入れをしてやらないみたい。だいたい、あの犬、夜中に、ふらついていることがある。飼い主が、夜中に、放しているらしい。牝犬のようなのだが、心配じゃないのだろうか。本当に、いい加減な飼い主だ。近所迷惑も良いところ。
と、考えごとをしていた。おっ、まずい。シェパードだ。もう、向かってくる。あれは、ちょっと怖い方だ。若くて、逞しい。もう一頭、良くすれ違うシェパードがいるが。そっちは、大丈夫。多分、おばあちゃんみたいで。デカいけど、大人しくて、歩き方も、よぼよぼしている。でも、このシェパードは、そうじゃない。一度、しろに、向かって、前足を上げて、襲いかかるポーズ。すれ違いざま。もちろん、飼い主は抑えるから、事なきを得たが。しろ、ひぃ〜っ、ひぃ〜っ。いつもの泣き声。山羊じゃないんだから。すれ違ったあと、一度振り向かれて、ガン垂れられて。ふふんって、感じ。びびっていた、しろ。恥ずかしい。
また、だよ。しょうがない。お父さんが、前を行こう。あれっ．しろ、止まった？おおっ、ファイティングポーズ！姿勢を、屈めて。声は、出さないけど。ぐるっ、ぐるって。唸りそうな勢い。やった！しろは、やっぱり、おとこのこだな。
って、違うだろう！だって、完全にお父さんの陰に、隠れてるじゃないか。そんなとこで、イキってたって、しょうがないよ‼︎まったく。
それで、ずっと、お父さんの陰を、じわじわ移動しながら。ぐるっ、ぐるって、唸りそうで、唸らない。身を屈めて。お父さんを、盾にしているじゃないか。完全に。
おっと、しろ！身を翻して、飛び掛かる、って。もう、とっくに行っちゃってるじゃんっ。今更。しかも、ひとの前に出て、不安になったの？直ぐに、また、ひとの陰に、隠れようとした。まったく‼︎
やっと、前に歩き出す、しろ。お兄ちゃんたちが、いなくてよかったな。完全に、笑われて、馬鹿にされちゃったな。もうこの頃になると、しろの散歩時間が長いから、お兄ちゃんたちは、サッカーの練習に専念。その代わり、夕方に、また、お兄ちゃんたちと散歩。いったい、この犬は、どんだけ散歩してるんだ⁉︎あっ、そろそろ、階段だ。しろ、今日は、ぶちゅっ、は無しだよ。
