アルバム・カバー曲6曲めは伊藤久男さんの「イヨマンテの夜」です。Kiinaの歌唱はこちら↓
https://m.youtube.com/watch?v=EBdW4lr_CUs
歌詞は歌ネットより。
https://www.uta-net.com/song/221009/
オリジナルは1950年(昭和25年)リリース。作詞菊田一夫さん、作曲古関裕而さん。歌唱は伊藤久男さんとコロムビア合唱団です。
国際フォーラムのスペシャルコンサート。「白雲の城」で幕を下ろした後、地の底から湧いてくるような男性合唱の「アーホイヤー」を繰り返す声とともに再び幕が上がった瞬間、5000人の観客から歓声が上がりました。
真っ赤なライトの真ん中にスックと立つ真っ赤な衣装のKiina。
ボールAに響き渡る「アーホイヤー〜〜〜♫」の声。
そして階段を埋め尽くして風にたなびく真っ赤なドレープ。
それよりも何よりも一番豪奢だったのは、その衣装がまったくコケ脅かしにならないKiinaの声量と堂々たる振舞いでした。
聴き終えて全身に鳥肌の立つ思い。どれだけ強く手を叩いても感動が伝えきれないもどかしさがありました。
Kiinaも絶対の自信を持って「イヨマンテの夜」に挑んだのでしょう。
真紅を身にまとえは「やっぱりきよしくんには赤が似合う」と思い、ブルーを着れば「やっぱりブルーはきよしくんのカラー」と納得し、全身ゴールドの衣装で登場すれば「ゴールドを着て衣装に負けないのはきよしくんだけ」と。早い話が、どんな色も似合ってしまうという(笑)。
「衣装は鎧」という強い意志で着こなしてしまうのでしょうね。
ここで「イヨマンテの夜」という曲のタイトルと歌詞の内容のことを少し。
「イヨマンテの夜」は歌詞の中で「熊祭り」とは言っていますが、アイヌの人たちの行う「イオマンテ」〜"熊送りの儀式"の実相とはまったくかけ離れた歌の内容になっています。
アイヌの人たちは長い間狩猟採集民族でしたから、動物が常に身近にありました。動物とは神様が人間のために毛皮や肉を携えて世に現れた姿。それなら人間世界の楽しさを堪能して喜んでいただいてお帰り頂こう。そうすればこれからも何度も来てくださり、毛皮と肉の恵みを授けてくださる。(「図解アイヌ」:靳紀元社より)
そうした考えから、春に小熊を村に連れ帰り、大切に育てた上で、翌年の春に熊の肉体と神を分離して天界に送る。その厳粛な儀式が本来の「イオマンテ」(霊送り)であって、歌にあるように「アーホイヤー」とは叫ばないし、南の島のようなタムタム太鼓も叩きません。
この曲は、実在のアイヌの人たちの生活とはまったく関係のない、どこか架空の世界の祭りの歌と思って聴くのが正しい鑑賞のあり方のような気がします。
「ゴールデンカムイ」というベストセラーになった漫画があります。明治後期の北海道を舞台にした漫画で、昨年映画として実写化され大変話題になりました。
私も遅まきながら今年に入ってから観に行きましたが、その当時のアイヌの人たちの風習やコタンの様子を驚くほど丁寧に再現していました。
資料に当たり関係者から話を聞き、実際の生活を再現するのは並大抵のことではなかったはずです。そこには映画関係者のアイヌ文化に対する確かなリスペクトがありました。
相手を理解しようとする心にだけリスペクトは生まれます。同じ日本国民でありながら、少数民族であるということだけで私たちはアイヌの人たちの文化を理解することを遠ざけてはないか、もっと言えばその努力を面倒臭がっているのではないか。自分自身に対してそんな忸怩たる思いがあるのです。
「イヨマンテの夜」は歌としては大変立派な作品だと思います。Kiinaの歌唱も素晴らしいです。
でも、聴きながら(でも、これアイヌの歌じゃないし…)という思いが常にかすめるのも確かなのです。