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男を横抱きに、時速80㎞で移動する……そういう少女が居ても良い。
などと、自分のを慰める術をグランドオーダーで身につけた術の一つである。情けない限りだが……
「先輩!お屋敷が見えます!本格的なカントリーハウスです!」
マシュが興奮して言った……
おかしいな……全力疾走なはずなのに……
「そこだよ、マシュ……そろそろ下ろしてくれないか?」
さすがに恥ずかしい格好のまま家に帰るわけには行けないという無意味なプライドがあった。
それを察してくれたのか、彼女は真実也を下ろす。
屋敷の木々が風に揺れている。
懐かしきブロウン館。
帰ってきたと言うよりかは……戻ってきた。
そういう感慨がよぎった。
「行こうか……」
「はい!」
二人は屋敷林(これは『2代目』が作った)を通り抜け、玄関へ歩いていく。
時代がかった扉にはノッカーがあったが……
それには手をかけずに、真実也はドアノブに手をかけた。
「お屋敷の方は?」
「いないよ……基本的に僕と叔父しかいない。叔父は……しばらく帰ってないから……」
「鍵は?」
「ここに来る前に電話をかけたろ?ここを管理して貰ってたサリンジャーさんに鍵だけを開けてくれるように頼んでおいたんだ」
まあ、電話口では小言を言われたが……純日本人にイギリス貴族の誇りをと言われても……
真の主TCはイギリス人だけど「2代目」とは血がつながっていない。
その2代目との縁で高藤真実也はここに預けられたのだが……
その紆余曲折はまた語られる機会があるだろう。
ドアノブを引き、扉を開ける。
「わぁ!」
一瞬だけ見えたバロック調の壁の一面。
しかし、次の瞬間。
真実也は、ドアを閉めた。
「先輩?」
扉に体重を預け、俯いた目は焦点が定まってなかった。
「……なんで?」
呟きをなんとか吐き出し、マシュを見る。
心配そうと言うよりかは、何か信じられないという驚きの表情だ。
多分、彼女は何が起きたかわかっていないだろう……
と、次の瞬間……
預けた体が不意に軽くなった。
「……何をしている?」
そこには、ブラウスにスラックスをサスペンダーで止めた男装の麗人……ブラウスは確かに白いが……全体的に黒い。
日本人特有の肌色。目は切れ長で綺麗と言うよりかは凛々しい……これは、彼女の家系の女子全般に言えることだが……
曰く「整った鉄面皮」があった。
くわえタバコにまだ火は付いていないことから……着いて間もないか……
「僕を待っていたのか……」
「さすがに……家主がいない屋敷に入るなど常識のないことはしないよ」
清々しいほど透明感のある声が響いた。
「ただ、君が随分と、待たすから……体が冷えてしまってね」
女性らしい理由だな。
などと、真実也は思ったが……
「あ、すみません!私がわがままを言って、しばらく歩いていたんです!」
ようやく気がついたのか、屋敷から出てきた女性はマシュを見た。
「シャロンから女性連れで来たと聞いたときには、まさかと思ったが……今世紀最大の事件だぞ?」
と、ゆっくりと真実也の肩に手を回す。
その仕草は艶っぽいという訳ではなかった。
マシュの目には……まるで獲物を逃さまいとして、絞り上げる蛇のようの見えた。
「さて、積もる話もあるだろうが?」
なぜか疑問系で真実也に語りかける。
「今からする頼みをーー」
なぜか肩から関節の軋む音が聞こえるような気がする。
「聞いてくれないか?」
次の瞬間……あっという間にマシュが先輩と呼ぶ男は気絶した。
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