太陽が睨め付けるヴァルカンの地。荒涼とした砂漠地帯、しかし人が住める程度には木々や草が茂る場所。オアシスからやや外れた、岩肌に囲まれた小さな村に、男はいた。
トラハと称されるその男は、大人でも見上げるほどの背丈に隆々とした筋肉から逞しさが迸る、正に巨漢であったが、厳つい見た目に反し表情は柔らかに緩んでいた。
「こちらです、トラハ様。」
老人…村長に案内されて向かった先には幾つかのテントがあり、そのうちの一つから青年が顔を出した。こちらに気付くと一礼をし、手招きをする。
促されるようにテントに入れば、そこには翼の生えた小さな獣が何匹も走り回っていた。一匹が青年の元に駆け寄り、ひゅうんと声をあげる。乳白色の身体に、黒い斑点のある前身。背中は赤褐色で白い斑点がある。体の割に合ってない翼を時折はためかせ、尾羽を振り、小首を傾げる様は非常に愛らしい。
「よっ、と…この仕草、可愛いですよね。村長によれば、音を拾っているとの事です。アシオは耳がいいので、より遠くの音を聴き分けることができ、事前に危険を察知するように見えることから、夜の守護者と呼ばれています。」
青年に抱き上げられた『アシオ』と呼ばれる生き物は、返事をするようにひゅうん!と鳴いた。先程小さな獣と言ったが、アシオは青年と比較すると頭が膝のあたりにある。やや寸胴で手足の短い見た目から小さな印象を抱いていたが、この個体はそれなりに大きいようだ。しかしながら青年が抱えられるほどには軽い。
「今年のアシオは毛艶が良い。きっと立派に育つでしょう。」
青年に頭を撫でられ、アシオは目を細めてご満悦のようだった。
「アシオはその見た目から愛玩用として人気がありますが、昔は旅の共として連れ歩いたものです。きっとトラハ様の力になってくれるはずです。」
村長がテントに入ってくると、青年はアシオを下ろし、会釈してから下がっていった。
「さて、どの仔を連れて行かれますかな?」
そう、トラハはアシオを買いに来たのだ。
トラハと呼ばれる者は生まれながらにその身に何らかの力を宿している。焼ける炎のヴァルカンに生まれたそのトラハは、元来優しく穏やかな性格であったが、それでも戦う宿命にあった。
慣れない戦いに身をやつし、心身の疲弊にあったトラハであったが、ある日アシオの存在を知った。アシオに会う為に仕事を増やし、ゴールドを集め、一日五回の食事を三回に減らした。そうして、今日を迎えたトラハの気分は最高潮だった。
どの個体がいいだろうか、とトラハが悩んでいると、先程青年と戯れていたアシオが足元でひゅうんと鳴いた。クリッとした目と目が合う。直感した。
こいつがいいと言うと、村長は灯りをつける為の兜を持ってきた。兜をアシオの頭にかぶせ、灯りを固定し、首にリボンを巻いてやる。
「さあ、お前も今日から夜の守護者だ。トラハ様の力になりなさい」
ひゅうん!アシオは元気よく鳴いた。
かくして、トラハとアシオの冒険は始まった。アシオはいつだってトラハの後ろをついて回る。
そして時折、頭を撫でろと言わんばかりに、兜を脱ぎ捨てるのだった。
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アシオかわいいよアシオ
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