「俺は城ホールに地獄を見た」
悲劇は前日依頼を受けたことから始まった・・・。
依頼内容はえいちゃんこと矢沢永吉さんの
大阪城ホールでのコンサートの人員整理。
俺はえいちゃんのお客さまを知らなかった・・・。
まさか!
まさかあんな恐ろしい目にあおうとは・・・。
その日は2日間ある公演の1日目であった。
大阪城ホールで行われるコンサートは大抵前日に搬入作業がある。
1日目といえばそのしんどい作業が無く、しかも搬出作業もない。
つまり、楽ではないが、このバイトのおいしい部分、
コンサートを聴きながらバイトができる仕事人員整理のみなのである。
ラルクやグレイ、浜崎、T.M.R.・・・etc
今まで数々のコンサートをお金をもらって聴いてきた。
このバイトはそう言う点ではほんとにおいしいし、とてもいい思い出になる。
そしてそう、この日もそんな思い出の一つに数えられるはずだった。
だが・・・
この日はまずチーフの顔付きから違っていた。
なにやら神妙な面持ちで、ピリピリとしたムードが漂っていた。
なにかある。そう感じたことはいうまでもない。
そのような中で、いつもと同じように場内施設の説明、個人の業務内容があった。
この日の俺の開場時のお仕事はカメチェ。カメチェ・・・。
カメチェは一番当たりたくなかった・・・。(カメチェとは)
そして開演時のポジションはアリーナ。つまり場内。
場外にあたると当然聴けないのでとりあえずはよかった。
場内に入るスタッフは普通、舞台を背にし、客の方を見なければならない。
しかし俺のポジションは舞台の下手(客から見て左側)のすぐ手前にある倉庫につながる扉の前。
仕事は舞台に平行に走る通路の整理(客が自分の席から大きく前に出るのを注意する)。
つまり、客を横から見ることになり、左にちょっと目を向けるとすぐそこに舞台が!
数少ない舞台をもろに見れる絶好のポジションであった。
しかしこの日は・・・
そしてここからがいつもの流れとは少し違っていた。
いつもならここで休憩が入り、そのあと開場時のポジションにつくのだがこの日はその前に、
このコンサートを企画しているイベンターの人から直々に話しがあったのである。
何回も人員整理に入っているが、この日以外にはそんなことはなかった。
その話を聞いてチーフがピリピリしていた理由がわかった。
さっきまでの浮かれ気分がふっとんだ。
その話によると、派遣会社Wが永ちゃんの仕事を手がけて17年になるという。
俺達、若い年代はよく知らない人も多いと思うが、
矢沢永吉といえばその昔、俗に言うつっぱりや暴走族からカリスマ的存在とされていたのである。
だからコンサートの客もそういった人ばかり。
当時は大阪城ホールの前には特攻服を着た暴走族が列を作ったり、
場内では毎回乱闘が巻き起こったり、
バリケードを持っているスタッフが殴る蹴るされたりしていたそうである。
そんな中に女性は危なくて入れず、男性客がほぼ10割だったらしい。
しかし昔、十数年前そのようなことをしていた人達も、もう家庭を持ち子供がいる年になっている。
そのため、マナーもよくなり、女性も連れてこられる情況になったという。
それでもやはり男性客のほうが多く、女性客は2割程度らしい。
そういった客に失礼の無いよう応対せよといったところが話の内容であった。
このコンサート・・・や、やばいかもしれない・・・
そして休憩をとりカメチェをするため北口に向かった。
そして
そこで目にしたものは・・・
な、な、なんて客層なんだ!
俺は目を疑った
客の約8割は男。
約7割が永ちゃんのロゴ入りタオルを肩にかけるか手に持っていた。
約3割が皮ジャン、皮パン。
約1割が赤や黄や青の色スーツ!
そして
男の約6割がオールバックかリーゼント!
とにかくイカツイ!怖い!恐ろしい!
あの中には絶対
現役のヤ〇ザさんもたくさんいた。
その人達のカメチェは本当に怖かった。
だって持ち込み禁止物ならまだしも、
見てはいけないものまで出てきそうだったんだもん!
カメチェネタ事例5はこの時のもの。
なんとかカメチェを終え、開演時のポジションにつきに行くことになった。
ロビーはタバコの煙で充満していた。そしてそんなロビーを歩いていると、
なにやらうなりをあげた音が聞こえてきた。どうやら場内からである。
しかしまだ開演までは時間がある。
奇妙に思いつつアリーナへつながる階段へたどりつくとさらにその音は大きくなった。
やはり場内からである。
そして
恐る恐るアリーナの扉を開けてみると・・・
のーーー!!!!!!
(アリーナ客)
えいちゃん!\(メー_-)/
(スタンド客)
\(-_ーメ)/えいちゃん!
(アリーナ客)
えいちゃん!\(メー_-)/
(スタンド客)
\(-_ーメ)/えいちゃん!
アリーナ客がスタンド客をあおって交互に
(アリーナ客)
えいちゃん!\(メー_-)/
(スタンド客)
\(-_ーメ)/えいちゃん!
(アリーナ客)
えいちゃん!\(メー_-)/
(スタンド客)
\(-_ーメ)/えいちゃん!
永ちゃんコールで大乱舞!!
(アリーナ客)
えいちゃん!\(メー_-)/
(スタンド客)
\(-_ーメ)/えいちゃん!
イカツイおっちゃんたちが大乱舞!!
(アリーナ客)
えいちゃん!\(メー_-)/
(スタンド客)
\(-_ーメ)/えいちゃん!
現役のヤ〇ザさんたちが大乱舞!!
(アリーナ客)
えいちゃん!\(メー_-)/
(スタンド客)
\(-_ーメ)/えいちゃん!
たーすーけーてー(;′Д`)
(アリーナ客)
えいちゃん!\(メー_-)/
(スタンド客)
\(-_ーメ)/えいちゃん!
ゆーるーしーてー(;′Д`)
(アリーナ客)
えいちゃん!\(メー_-)/
(スタンド客)
\(-_ーメ)/えいちゃん!
ここからだーしーてー(;′Д`)
(アリーナ客)
えいちゃん!\(メー_-)/
(スタンド客)
\(-_ーメ)/えいちゃん!
とそこへチーフが駆け寄ってきた!
そして俺に耳打ちした言葉は!
俺はその言葉に救われた!
「ポジションチェンジ。北口に戻って、遅れて来る人のカメチェやってくれ。」
\(′O`)/
いつもは悪魔に見えるチーフもこの日ばかりは天使に見えた。
地獄の底に舞い降りた、天国から俺を連れ戻しにやってきた天使に。
舞台をもろにみれるポジションなど
もはやどうでもよかった。
とにかく早く、早くこの生き地獄から抜け出したかった。
俺はなんのためらいもなくポジションを離れ、急ぎ足で北口に向かった。
北口に着いたころようやくコンサートは始まった。
結局、最後までそこに残り、中に入ることは無く、永ちゃんは見れなかった。
しかしそんなことは少しも残念には思わなかった。
みんなの青ざめた顔を見て・・・。