「着床式洋上風車25基が最大級の地震と津波に十分耐え得るとの主張に対する抗議の意見書」を提出!
福岡県北九州市の若松区沖で建設工事中の響灘洋上ウインドファーム事業の「ひびきウインドエナジー社」に対して、7月12日付で標記の意見書を提出しました。以下、紹介します(要旨のみの個所あり)。意見書には専門用語もあり、ブログをご覧の皆さまには、やや難解な個所もあると思いますが、事業者とはこのようなやりとりをしております。鳥類への影響だけではなく、防災上の懸念もある風力発電の進め方に問題があることを市民の皆さまに知っていただければと思います。
<意見書>
本年5月9日付で貴社に提出しました「響灘洋上風力発電の耐震性における質問書」に対しての回答を6月5日付で頂きましたが、肝要な項目の回答がなされておらず、適合性確認の疑問点や、不十分と思われる自主的な取組みなど、洋上風力発電の防災上の安全性についての懸念がさらに増す回答と言わざるを得ません。企業の技術秘匿という貴社にとって都合のよい理由による回答は看過できないことから、抗議するとともに、下記の意見を提出致します。なお、質問文と回答に対する意見は、「一般社団法人日本国土・環境保全協会代表理事」および「NPO法人防災推進機構理事長」鈴木猛康氏の作成によるものです。
【質問1の回答について】
質問:「津波の荷重をどのように作用させ、どのような解析方法を用いて洋上風力発電施設の安全性を照査されたのか。」
事業者の回答:「津波荷重は暴風波浪時の波力に比べて小さいことを算定によって確認。円筒形構造物は甚大な荷重にはならない。」
回答に対する意見:「結局、円筒型タワー構造であるので、津波の影響は考慮していない(検討の必要がない)と回答されているようですが、これでよろしいのですね。円筒形であっても大型になると、津波荷重による影響は大きくなることが懸念されます。」
【質問2の回答について】
質問:「レベル2地震※に対する適合性確認認定は、沿岸技術研究センターによって行われたのか。同センターの清宮参事によれば、洋上風力発電施設については、モデルの作成、液状化の検討、地盤ばね※、減衰などの入力定数の取り扱い方など、まだ十分に固まっていないことを指摘されている。また東北大学の今村文彦教授も、洋上風力発電の設計法は研究されていないとおっしゃっている。第三者機関で安全性を確認されているのであれば、その根拠となる書類をご提示いただきたい。」(※レベル2地震:構造物の耐震設計に用いる入力地震動で最大級の強さを持つ。極めて稀であるが、非常に強い地震動)(※地盤ばね:地盤の水平方向に対する抵抗力)
事業者の回答:「第三者機関である、沿岸技術研究センターと日本海事協会による適合性確認を受けている。」
回答に対する意見:「沿岸技術研究センターはレベル2地震に対する適合性認証をされる機関のはず。ところが時刻歴地震応答解析※が線形解析※となっている。レベル2地震では非線形解析となる。沿岸技術研究センターの清宮先生の指摘されている地盤剛性および減衰の非線形性、タワー、ブレードの非線形性を考慮していないのではないか。能登半島地震では、靭性の欠如したブレードが破断した。」(※地震応答解析:地震波には建物が応答する。固い建物は早く揺れ、柔らかい(粘度の高い)建物はしなってゆっくり揺れる。建物のしなり、揺れ幅、揺れるスピードは、地震波と建物の相互応答により決まる)(※線形解析:材料の弾性領域内で行う解析。最初の降伏点までは力と変形が比例し、力がなくなると元の状態(弾性)に戻るが、降伏点を越えれば永久的に形が変わり(塑性)、外力が強すぎると破断する)
【質問3の回答について】
質問:「能登半島地震の地震動を入力とした地震応答解析を実施されたようだが、その地震動はどこで観測された地震動なのか。入力されたのは水平成分※だけなのか、水平と鉛直方向を同時入力されたのか。」(※水平成分:上空から見てどちらに揺れたか)
事業者の回答:「震度7を観測した地震動を対象とし、応答解析(水平動、鉛直動も同時入力)を行っている。」
回答に対する意見:「能登半島地震の際、どこで観測された地震動を入力振動として使われたかをお尋ねしましたが、回答されておりません。また、当初は能登半島地震に対しても安全性を確認したというご説明でしたが、第三者機関による確認はなく、「自主的な取組み」と、かなりトーンダウンしていることが気になります。この際、安全性照査の結果を教えていただき、安心させてください。」
【質問4の回答について】
質問:「安全性を確認するためのシミュレーションに使われたソフトウェアの名称を教えていただきたい。安全性照査をどの部材のどのような耐力について行ったのか。港湾空港技術研究所の解析モデルの研究では、ナセルやブレードの安全性を評価できない。能登半島地震ではブレードが折損して落下している。響灘では能登半島より規模の大きな風車が計画されている。
事業者の回答:「地震応答解析にて安全性評価を行っている」
回答に対する意見:「安全性を確認するためのシミュレーションに使われたソフトウエア名称の回答がありませんでした。また線形計算による許容応力度設計※(中規模地震を対象)しか行われていないと解釈されてしまいます。それでよろしいですか?」(※変形破壊に至らない安全と考えられる最大値)
【質問5の回答について】
質問:「東日本大震災を経験して、我が国では津波荷重による構造物の設計方法の開発に着手されたが、津波荷重については具体的な設計法を解説する学会等の報告書はない。延長の長い防波堤を対象とした波力をどのように着床式洋上風力発電施設に適用するのか確認させてください。
事業者の回答:「質問1の回答に集約」
回答に対する意見:特になし
【質問6の回答について】
質問:「津波が発生すると多くの船舶が制御不能となって流され、倒壊した家屋が流されることは、東日本大震災、そして、能登半島地震で知られている。津波が発生すると、密に設置された洋上の風力発電施設に大型漂流物が衝突する確率は極めて高くなる。設計では、このような施設と漂流物の衝突はどのように評価しているか。」
事業者の回答:「風力発電施設の倒壊リスクは十分に小さいものと考える。」
回答に対する意見:「小型船舶が衝突したとしても倒壊に至らないことを確認されているようだが、どのクラスの船舶をどのように衝突されたかについて公開していただけないか。この点、秘匿性はないと思われる。」
以上、設計について、できる限り情報を公開して、洋上風力発電に関する懸念を払しょくされることを切に希望します。
【「風力発電が野鳥に与える影響を考える会北九州」代表より】
貴社の響灘洋上ウインドファーム事業計画については、環境アセス手続きの段階から、日本野鳥の会北九州支部が「このまま事業計画を進めるべきでない」と意見を提出してきました。その主な理由として、「響灘海域に生息する鳥類のバードストライクや生息放棄などの悪影響を及ぼす重大な懸念がある」「響灘海域は北九州市の豊かな生物多様性を有する稀な島嶼地域であり、25基の洋上風力発電設置によってその多様性が大きく損なわれる重大な懸念がある」などを指摘してきました。それでも貴社は何ら実効性のある対策を示さないまま、建設工事を開始したため、当会(風力発電が野鳥に与える影響を考える会北九州)としては、建設工事の中止を求める行動に至ったところです。今、風力発電による悪影響は近隣住民の健康問題や自然破壊と防災上の問題へと大きくなり、自治体を巻き込む社会問題にも発展しています。そのような状況の中において、貴社がこのまま建設工事を進め、野生生物や人への影響を軽視し、さらに防災上の懸念を棚上げするかのような姿勢は看過できず抗議します。響灘洋上風力発電に反対する市民も少なからずいることを踏まえて、引き続き建設工事の中止を求めます。なお、この意見書につきましては、洋上風力発電の安全性を広く市民のみなさんに問い、懸念を認識していただくために、貴社に提出後、公開させていただきます。ご承知おきください。
◆この意見書は共同出資企業の九電みらいエナジー(株)、電源開発(株)、西部ガス(株)、(株)九電工、(株)北拓の五社社長宛にも送付しました。また、この事業を誘致した北九州市の市長宛にも「市民のこえ」制度を利用して送付しました。問題の重大さを真摯に考えてほしいものです。
◆7月22日、この意見書を政府の資源エネルギー庁 再生可能エネルギー推進室に送りました。数々の問題点を棚上げし、積み残したまま、建設工事をこのまま進めていいのかと、今後の再生可能エネルギーの進め方の参考にしてもらうことを願って送付しました。北九州の小さな団体から届いた文書に目を通してくれるのかどうかもわかりませんが、中央政府から見て、特に波風は立っていないように見える?北九州市沖の洋上風力発電事業にも、鳥類への影響や防災上の懸念のため事業に反対する市民がいることくらいは知ってもらいたいものです。