北九州市若松区響灘沿岸の風車10基、寿命を迎え撤去!
2003年3月の運転開始から20年が経過し、設備のメンテナンスや修理が頻繁になるなど、安全性の担保が難しくなってきているという理由で、2023年10基の風車が撤去されました。北九州市は「10基の風車は産業・観光面で役割を果たしてきた」としている。が、その一方では・・・。
10基の風車は環境にやさしくなかった
~風車を危険なものと認識できなかった?野鳥たち~
近年の風車の大きさと比較するとかなり小ぶり(1500kw)ですが、沿岸にずらりと並んだ10基の風車は、響灘を渡って来る渡り鳥たちや、海上と埋立地を往来する野鳥たちにとって、さぞかし厄介な存在であったに違いありません。風力発電事業者は野鳥への影響低減策として、「鳥類が風車に馴れる期間を設ける」とよく言います。鳥類が風車に馴れると、風車が危険なことを認識し、近づかなくなるとでも言いたいのでしょうが、それは事業者に都合のいい勝手な言い分で、全くそんなことはありません。この10基の風車の運転開始12年後に約1年間、風車周辺で鳥の死骸を探す調査をした報告では、3羽の死骸発見と複数の羽毛散乱個所がありました(羽毛をDNA鑑定すれば鳥の種は分かったでしょうが、そんな気はなかったようです)。その後も野鳥の会会員がハシブトガラスの死骸を発見しました。私たちはこれらの死骸すべてが風車の羽根に弾き飛ばされたものと推定しています。さらに、釣り人が鳥の死骸を目撃したという話も聞きました。野鳥たちが毎年数羽ずつ弾き飛ばされたとしても、単純に計算して、20年の間に100羽くらいは犠牲になったと推測してもおかしくはありません。比較的大きな鳥の死骸が発見される傾向があるので、ヒヨドリやカワラヒワなど小鳥の群れも犠牲になっていたとすれば、その何倍もが犠牲になった可能性も否定できません。響灘地区で年中暮らしているトビやカラスも、毎年越冬に来るカモメ類も、毎年遠い国から渡って来て子育てする海鳥も、ぶんぶん回っている風車に「危ないから近づかないようにしよう!」とは判断できなかったようです。
~今考えれば、建設位置は適切でなかった!~
20年前といえば、大きな風力発電施設は珍しく、私も熊本県の山の尾根の風車を初めてみたとき、「おーこれが自然エネルギーの風力発電か」と、ランドマークのように見たものです。この10基の風車建設に当たっては、当時野鳥の会北九州支部は事業者からヒヤリングを受けたようですが、その頃は風力発電が野鳥に与える影響など、危機感も持ち合わせていなかったでしょうし、増してや事業者も対策の必要性も感じていなかったことでしょう。形だけの自主的な環境アセスくらいは実施したかもしれません。海上すれすれを飛んできたヒヨドリたちが、沿岸に着いて高度を上げた途端に巨大な風車に阻まれて、群れの中の何羽かが羽根に弾き飛ばされるくらいは容易に考えられたでしょうが、「避けて飛ぶだろう」くらいの考えだったかもしれません。現在であれば、野鳥にはかなりリスクの高い位置にある風車のため、環境アセス審査では「基数を減らすか、立てる位置を変更すべき」という計画見直しの意見が出ることでしょう。保護団体からは当然「計画の撤回」を求めることになるはずです。事業者にとってはどこからも異議が出ることなく都合のいい時期だったと言えます。
~火力発電所は変わらず稼働。CO2削減に本当に貢献したのか!~
野鳥たちに犠牲を強いての20年間の発電は、私たち電気を享受する身としては、なんとも複雑な心境です。稼働率30%と言われる風力発電ですが、天候のせいで不安定な風力発電のために、電力会社はいつでも発電を補えるように、火を焚いて待機しておかなければなりません。つまり、風力で発電はしていても火力発電ではCO2を出し続けているということです。野鳥の犠牲を低減する策も実施せず、火力発電も減っていないのに、電力料金から「再エネ賦課金」を天引きされているのは納得できません。風力発電事業のために森林は伐採され、土砂崩れを心配し、住民の健康を脅かし、野生生物を追い出すなど、決して“環境にやさしい風力発電”ではありません。今後促進される洋上風力発電も問題だらけです。若松区響灘埋立地北岸の風車10基の撤去を機に、国がごり押し促進する風力発電を含めた自然エネルギーの進め方について、自治体も対応を見直すべきでしょう。
『“環境にやさしい風力発電”とは、CO2を減らすことはもちろんのこと、人が暮らす環境、野生生物そのものとその生息環境(森や川や海)に影響を与えないことが“本当に環境にやさしい風力発電”なのです。当たり前のことですが。』
写真上:徐々に解体が進む風車(2023年8月26日、夕暮れ時の現場)