会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

オリンパスの監査人交代はあずさ監査法人との見解の相違が原因(ロイターより)

Olympus removed auditor after dispute

オリンパスが2009年に監査人を替えたのは、いくつかの買収案件の会計処理に関して見解の相違があったことが原因であるという記事。そのうち翻訳版も出ると思いますが、重要なニュースなので取り上げることにします。

Japan's Olympus Corp replaced its auditor in 2009 after a disagreement over how to account for several acquisitions, but it decided not to reveal the dispute to investors, an internal document shows.

2009年5月、当時の菊川社長は、KPMGとの監査契約が終了しE&Yが新しい監査人に就任することを公表した。

In May 2009, Tsuyoshi Kikukawa, the then president of the camera-maker and medical equipment firm, announced that the contract for its then auditor, KPMG, had ended and that another global accounting firm, Ernst & Young, would take over.

日本の開示ルールでは、退任する監査人の意見に関する事項を投資家に公表することが求められているが、菊川氏は、KPMGとの争いについてふれることはなかった。

Kikukawa made no mention of any row with KPMG, although Japanese disclosure rules require companies to notify investors of "any matters concerning the opinions" of an outgoing auditor.

社内の機密文書の中で菊川氏は、米国と欧州の役員に対し、KPMGとの間で見解の相違があったが、株式市場にそれを公表する予定はないと述べていた。

In a confidential internal document, Kikukawa wrote to executives in the United States and Europe, revealing that there had been a disagreement with KPMG which he did not plan to disclose to the stock market.

「本日公表されるプレスリリースでは、監査人の任期満了を退任理由としている」と2009年5月25日付の書簡で菊川氏は述べている。

"The release to be published today says that the reason of this termination is due simply to expiry of accounting auditors' terms of office," Kikukawa said in the letter dated May 25, 2009, which was written in English.

「しかし、私は個人的におふたりに、この決定の背景をお伝えする」

"I, however, would like to personally tell both of you about the circumstances behind this decision for your understanding."

菊川氏は、いくつかの連結会社ののれんの減損および22億ドルを費やした英ジャイラス社の買収をめぐって、経営陣とKPMGの間で生じた亀裂について概要を述べている。

Kikukawa outlined a rift between management and KPMG over the goodwill impairment of some consolidated firms and over its $2.2 billion purchase of UK medical device firm Gyrus in 2008.・・・

「監査役を含む我々とあずさ監査法人の間で以下のような大きな見解の相違がある。いくつかの連結会社ののれんの減損テストに関する見解、ジャイラス社の買収にかかる取得価額の配分と減損テストに関する見解である」

"There are the substantial difference of views on the below mentioned issues between us including the (internal) company auditors and KPMG AZSA; the view of impairment test on goodwill of some consolidated companies, the view of purchase price allocations and impairment test of Gyrus acquisition."

オリンパスの監査人交代は、後任監査人による監査報酬のダンピングが理由であるかのように週刊ダイヤモンドで報じられ、個人的にもそのように理解していましたが、このロイターの記事のとおりだとすれば、オピニオンショッピングが疑われます。

記事の後半では、会計処理や開示についてふれています。

KPMGが最後に監査したジャイラス社の財務諸表において、KPMGは、ケイマン諸島に本拠を置くAXAM Investments Ltdに対してジャイラスの優先株の形態で与えられたアドバイザリー報酬の会計上の扱いについて懸念を述べている。

In the last set of Gyrus accounts KPMG handled, the auditor voiced concerns over the accounting treatment of a big portion of the advisory fee, which was awarded to Cayman Islands-based AXAM Investments Ltd in the form of Gyrus preference shares.

英国KPMGは、この優先株は普通株より社債に近いものであり、負債に相当し、公正価値で記録されるべきであったと述べている。ジャイラス社の取締役は、この優先株を額面である177百万ドルで評価していた。

KPMG's British auditors said they felt the preference shares, more akin to bonds than ordinary shares, amounted to a liability that should have been recorded at fair value. Instead, Gyrus directors valued them at a face value of $177 million.

ロイターが入手した内部文書によると、英国KPMGがこの件に関して反対意見を記したのとおなじころ、オリンパスは、額面の3倍以上である620百万ドルでこの株式をAXAMから買い戻している。

Around the same time KPMG Audit Plc noted its objection about this, Olympus repurchased the shares for $620 million from AXAM, more than three times their face value, according to other internal documents obtained by Reuters.

英国KPMGは、会社から十分な情報が与えられなかったことを記しつつ、AXAMがオリンパスの関連当事者かどうかについても疑問を呈している。英国KPMGは、適切な会計記録が保持されていないと述べている。

KPMG Audit Plc also questioned whether AXAM was a related party to Olympus, noting that it had not been given enough information from the company to clarify this issue. It said proper accounting records had not been maintained.

アドバイザーに報酬として与えられた優先株が、負債なのか、資本(連結ベースでは少数株主持分)なのかは、非常に重要です。負債であれば、買い戻しは(ジャイラスにとって)自己株式の取得(連結ベースでは持分の買い増し)ではなく、負債の償還なので、額面との差額は損失になるはずであり、連結ベースでのれんには計上できません。

ただ、このケースで、現地で適用しているIFRSが適用されるのか、それとも、日本基準(優先株を負債とするルールはない?)が適用されるのかについては、微妙かもしれません。

それでも、わけのわからない会社に子会社が巨額の優先株を発行したこと、それを額面の3倍もの金額で買い戻したことは、親会社の監査人も十分検討すべき事実であったと思われます。たぶん検討はしていたのだと思いますが・・・。

KPMG queried Olympus purchases and payments(英テレグラフ紙)

社説:オリンパス問題の幕引きを許すな(英フィナンシャル・タイムズ紙)

「いずれにしても、外部の規制当局は今ここで踏み込んで、オリンパスで何が起きたのか、すべてが開示されるようにしなければならない。

金融庁と東京証券取引所はこれまで、大手上場企業での危機について驚くほどのんきに構えてきた。当局は、ジャイラスに関する手数料と一連の買収について調査すべきである。そうすれば少なくとも、投資家が消えた資金の一部を取り戻す助けになるかもしれない。

オリンパスの監査法人にも疑問がある。不可解な支払いのためにオリンパスの英国子会社の会計に限定意見がついたにもかかわらず、そのことがグループ全体の会計報告に一切触れられていないのはどういうことなのか?」

インタビュー:オリンパス<7733.T>第三者委、徹底調査できるか疑問=企業統治問題の専門家・大楠氏(ロイター)

「(違法性が確認された場合は)オリンパスの現在の取締役会は、案件にかかわった元取締役らを刑事告訴すべきだろう。これは、会社法違反(特別背任)や、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の恐れもあり、オリンパスの株式は上場廃止の恐れもあるくらい大きな問題だ。一連の会計処理を認めた監査法人にも責任が問われるだろう。問題は本当に根深く大きい。開示された財務情報を信じ投資をした株主は、損害を受ける。当然、株主代表訴訟になるだろう」
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