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国は東電支援の抜本的な見直しを(日経6月23日社説より)

国は東電支援の抜本的な見直しを(日経6月23日社説)(1週間程度で削除されるようです。)

東京電力への支援に関して「分野によっては国が前面に出ることを検討すべき」という日経社説。

「東電は昨年4月に収支改善策を盛った「総合特別事業計画」を作り、国に支援を仰いだ。支援の主な中身は、国が資本を注入したうえで、賠償資金を5兆円の範囲内で交付するというものだ。」

事故処理の費用総額が膨らみ続けていることも、支援の先行きを不透明なものにしている。

 事故処理は被害者への「損害賠償」、土地や建物から放射性物質を取り除く「除染」、事故を起こした原子炉を解体する「廃炉」の3つに大別できる。このうちの賠償だけで、支援上限の5兆円に達する勢いで支払いが続く。さらに除染に5兆~10兆円廃炉にも数兆円を要する可能性が強いことも分かってきた。」

当サイトでも何回かふれましたが、損害賠償と除染について、東電は実質的粉飾を行っています。廃炉に関しては、引当金が十分なのか疑問があります。

まず、損害賠償については、将来、特別負担金として返済しなければならない交付金を利益計上することにより、損害賠償の特別損失を消すような処理(特別損益の部の中で両建て)を行っています。(2013年3月期については、特別損失の方が少し先行する形になっていますが、後発事象の注記によれば、それは新年度の第1四半期に特別利益が追いつく予定になっています。)

除染については、今年の株主総会の総会通知の中でも明らかになったように、合理的な見積りができないなどの理由で1円も計上していません。

廃炉費用については、計上していないわけではありませんが、2013年3月期の連結財務諸表の注記をみると、「福島第一原子力発電所の事故の収束及び廃止措置等に向けた費用または損失」に対する引当金として、482,879百万円が計上されているのみです。不思議なことに、この金額は前期より少し減っています。もちろん目的使用で減っているのだと思われますが、きちんと追加費用を見積もっているのでしょうか。いずれにしても、すでに目的使用された支出を加えても、日経社説で言っている数兆円にはまったく届かない金額です。

社説で言っている金額を足すと廃炉を除いても10兆円を超えることになりますが、この損失を(少なくとも当面は)財務諸表に計上しないようですから、近い将来には、世界に例を見ない巨大な粉飾金額になります。もちろん、現時点でも5兆円程度にはなっているものと考えられます。

「事故処理の費用総額が膨らみ続けている」はずなのに、決算にはそのことがほとんど表れてこないという異常な状況になっているのです。

(2011年3月期こそ約1兆円の特別損失(損害賠償金はゼロ)を計上していますが、2012年3月期は特別損失と特別利益はほぼ同額であり純額ではほとんど影響なし。2013年3月期は特別損失の方が約3000億円超過になっていますが、後発事象の注記にあるように、2014年3月期の第1四半期にそれ以上の金額が交付金増額分として特別利益で取り戻される予定。なお、リストラによる特別利益は事故関係の利益・損失と比べればごく少額です。)

「膨らみ続ける負担によって再生の道筋が見えない東電は、組織としても衰えつつある。」

実質的粉飾決算をして実態を隠しているのですから、自業自得といえます。税金を使って支援するにしても、実態を表す正直な決算が前提でしょう。

(参考)

「資金援助を受けるにあたっては、機構法第52条第1項の規定により機構が定める特別な負担金を支払うこととされているが、その金額については、当社の収支の状況に照らし連結会計年度ごとに機構における運営委員会の議決を経て定められるとともに、主務大臣による認可が必要となることなどから、計上していない。」(東京電力2013年3月期連結財務諸表注記より)

「・・・平成25年5月31日に、原子力損害賠償支援機構(以下「機構」という)に対し、「原子力損害賠償支援機構法」(平成23年8月10日 法律第94号)第43条第1項の規定に基づき、資金援助額の変更を申請した。これを踏まえ、同年6月6日に、同法第46条第1項の規定に基づき、特別事業計画の変更の認定について、機構の運営委員会による議決を経て、機構と共同で主務大臣に対し申請していたが、同年6月25日に、同計画について認定を受けた。
・・・
結果として、原子力損害賠償支援機構資金交付金が666,255百万円原子力損害賠償費が102,433百万円増加する見込みである。」(同上「重要な後発事象」より)
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