映画から自己実現を!

映画を通して 人間性の回復、嫌いな自分からの大脱走、自己実現まで。 命をかけて筆をとります。

『ギルバート・グレイプ』PART2~最上の芸術作品!人生、数滴の涙とささやかな笑いが同居中~

2023-09-28 04:58:40 | 日記

『ギルバート・グレイプ』PART2

 

 

 

12.情事の行方

 

ギルバートは浮気のことを責められることを恐れながら、ベティの夫のオフィスを訪ねました。

 


ベティの夫:

「落ち着かないか?」

「それは、よくわかるよ」

「俺が君ならパニックを起こす」

「君のことを調べた」

「医療保険にも入ってない」

「災害保険も生命保険も」

「ギルバート、万一の用意は?」

「思いもかけぬ災難に見舞われたら?」


 

ギルバートはかかってきた電話の音にビクつきました。

 


ベティの夫:

「残された君の家族はどうなる?」

「それを考えた事が?」

「自分より家族の事を」

「路頭に迷わせたいかね」


 

浮気の事を責められると思っていましたが、保険の勧誘でした。

その電話はベティからの電話でした。

ギルバートはベティが腹いせに浮気をバラしたのではないかと恐れました。

ギルバートとベティの夫は家に向かいます。

ギルバートに出ていかれたショックで、オーブンの火を止めず、家中煙が充満していました。

ヒステリーを起こしたベティの夫は、中々懐かない子供に焦げたクッキーを無理やり食べさせます。

この可笑しげでジョークの効いた修羅場を、ギルバートは一刻も早く逃げ出そうと車のエンジンをかけますが、中々かかりません。

そこにベティーが近づいて来ました。

 


ベティー:

「どんな男でも選べたのよ」

「だけど私はあんたを選んだ」

ギルバート:「なぜ、俺を?」

ベティ:「それは、あなたならこの町から出ていかないから」


 

ギルバートにとってこの一言は苦しい言葉でした。

「あなたは一生あの家族の犠牲になってこの町で生きていくんだ」と言われたようなものです。

ベティの夫はすごい癇癪持ちですぐにキレるんですね。

ベティーの浮気の理由や子供たちが懐かない理由がわかって面白いですね。

そして、その晩に興奮しすぎたベティの夫は心臓発作で倒れ、倒れた所が運悪く子供用のビニールプールだったため、その浅さでも溺死してしまいました。

子供用ビニールプールの周りは刑事事件現場の立ち入り禁止テープで四角に区切られていました。

その内容をギルバートとタッカーともう一人の葬儀屋の友人ボビーがカフェで話します。

ボビーはスプーンをベティの夫に見立てて、ヒザと首を折り曲げて、灰皿に顔を浸け溺死の状況を説明します。

スティーブン・キングのホラーコメディ小説のようですね。

タッカーはベティが殺したのではないかと邪推します。

 


ギルバート:「分からない。可能だとは思うけど...」


 

ギルバートにはベティに対する愛情は少しもないのですね。

 

 

13.ベッキーのカウンセリング

 

ギルバートとアーニー、そしてベッキーは川のほとりでくつろいでいました。

世間の常識に捕らわれないベッキーは川に入り、安らぎを感じているようでした。

アーニーはそばで大好きな木登りをして、小躍りしています。

 


アーニー:

「僕はいないよ。どこにもいない」

「”アーニーはどこ?”って言って」

ベッキー:「川に入りなさいよ」

アーニー:「”アーニーはどこ?”って言ってよ」

ベッキー:「アーニーはどこ?」

アーニー:

「僕はいないよ!」

「もう一度言って」

「そう言って僕を探して」

ベッキー:「一緒に泳ぎましょうよ」

ギルバート:「無理だよ。水を怖がってて絶対に入らない」

アーニー:「水には入らない」

ベッキー:「あなたはどう?」

ギルバート:「イヤだ」

ベッキー:

「どうして?」

「あなたも水が怖いの?」

「入らない?」

アーニー:「怖いのさ」

ギルバート:「こうすればいいのか?」


 

ギルバートは静やかに足だけ川に浸しました。

 


ギルバート:「派手に?」

ベッキー:「もっと」

ギルバート:「こうかい?」


 

ギルバートは怒涛のごとく大股で川を闊歩して、ベッキーのそばまで水しぶきを上げながら近づいてきました。

 


ギルバート:「これでどう?満足かい?」


 

何かにチャレンジするには勇気が必要です。

そして行動することによって、その行為に意味を感じはじめるのです。

川に飛び込む行為を ”そんなことはくだらない” と人は考えがちです。

最初から意味のないことだと考えてしまうのです。

何かをやる前に無意味だ、ナンセンスだと考えてしまうとそれはニヒリズムに結び付けられてしまいます。

とうとう最後には ”生きることは意味がない” という考えに行き着いてしまいます。

しかし楽しかった、体が軽くなった、感動した、普段とは違った感情を得られたなど、行動を通してのみ、心の中に変化が現れます。

最初に意味を考え付くのではなくて、人はその行為の中から段々と ”意味を感じて” 、生きるためのエネルギーを体の中に取り込んでいくのです。

行動の後に自分だけの意味付けが行われるのだと思います。

 


ベッキー:

「あなたの望みを思い浮かべて」

「あなたの望みは?」

「早く」

ギルバート:

「新しいものを。新しい家を僕の家族に」

「それから、お袋にエアロビクスを」

「妹が大人になること」

「アーニーに新しい脳を」

「それから...」

ベッキー:

「自分には?」

「自分の望みは?」

ギルバート:

「いい人間になりたい」

「こういう事、苦手だな」


 

ギルバートは自分の願望や希望は持ってはいけないと思って生きてきたのだと思います。

どこかで自分の欲求を無意識の深くに抑圧してきたのだと思います。

 

 

14.母ボニー、外に出る

 

ギルバートはベッキーとの心地よい時間を過ごしリラックスしていて、アーニーのことを忘れてしまっていました。

アーニーはまた給水塔の鉄塔に登ってしまいます。

ギルバートはその場に間に合わず、高所作業車が出てきてアーニーを引きずり降ろしました。

ギルバートは警官に懇願するも受け入れられず、アーニーは留置所に入れられてしまいました。

母のボニーはアーニーを溺愛していました。

 


母ボニー:

「上着を」

「早く!」


 

ボニーの巨体は町でも笑い者になっており、彼女はその事をとても気にして、長年の間外出していませんでした。

それでもアーニーのために勇気を出して、警察署に連れ戻しに行きます。

過食症ということはうつ病も同時に患っていたことでしょう。

外の社会が普通の人の何倍も怖かったに違いありません。

かつては町一番の美人だったというボニー。

警察署長に大声で叫びます。

 


母ボニー:「ジェリー!ジェリー!」

ボニー:「ジェリー、私の息子を返して」

署長ジェリー:「手続きがある」

母ボニー:

「イヤよ、返して!」

「息子を返して!」

「私の息子よ!返して!」


 

警察署長と顔見知りだったらしく、ボニーの剣幕に押されて、アーニーを釈放しました。

もしかしたら、かつての恋人だったのかもしれません。

 


母ボニー:

「わたしの太陽!よかった!」

「もうどこへも行かないで。いいわね?」

「大丈夫よ、帰りましょう」


 

釈放されて警察署から出た時、ボニーが家から出てきているということで見物人が周りに集まっていました。

指を差す者、写真を撮る老人、嘲笑する子供。

その中を、家族寄り添いながら、母親を守るように堂々と歩くギルバート、エミー、エレンはとても誇らしく、思わず涙してしまうシーンです。

町の人に嘲笑を受け家に帰ってきた母ボニーは気落ちしていました。

アーニーの楽しい声だけが響きいっそうもの悲しさが増す家族の夕食でした。

 

 

15.ベティとの別れ

 

ベティの夫のお葬式が終わり、ベティは雑貨屋に別れの挨拶をしに来ました。

 


ベティ:

「セントルイスへ」

「あの家は出るわ」

ギルバート:「ご主人のことは本当に...」

ベティ:

「皆私が殺したと」

「そう思う?」

ギルバート:「いいや」

ベティ:

「いい夫だった」

「悲しいけど、悲しくないの」


 

ベティは手が震えてタバコに火をつけることが出来ませんでした。

ギルバートは愛情を込めてそっとマッチに火を灯しました。

 


ベティ:

「ギルバート、あなたはどうするの?」

「考えてない?」

「かわいそうにここにいて、自分を捨てて皆の世話?」

「時々思うの。うちの子たちもいつかあなたのようにと」

「あなたのように育ってくれたらうれしいわ」


 

そこにベッキーが買い物に店に入ってきました。

ベティは別れを惜しみながらギルバートの頬に最後のキスをしました。

ベティはベッキーに言いました。

 


ベティ:「譲るわ」


 

ベティはたばこをくわえ凛とした雰囲気を持って店を出て去っていきました。

 


ベッキー:「彼女を忘れない?」

ギルバート:「ああ」

ベッキー:「よかった」


 

ベッキーはギルバートに自身の経験を消さないで大切に持っていてほしかったんだと思います。

 

 

16.小さな町の地殻変動

 

何もない田舎町アイオワのエンドーラにバーガー・バーンというハンバーガーチェーンが来ました。

移動式の店舗で、トレーラーでやってきました。

ギルバートの閉ざされた心をノックするかのように、キャンピングカーや移動式店舗が訪問してきます。

オープニングセールで皆にハンバーガーやシェイクなどを振る舞います。

タッカーはそこに就職して店員として働きます。

 


司会:

「皆さん、ご来店を感謝します」

「エンドーラの新しい時代が始まります」

「”バーガー・バーン”と皆さんに反映が訪れる事を」

「我々のチェーンはお客様と末永いお付き合いを望んでいます」

「不景気と言われていますが、この町は我々を受け入れて歓迎してくれました」


 

何も変わらないこの町にも少しずつ変化が現れ始めているという雰囲気を出す良い演出です。

 


ベッキー:

「直ったわ、トレーラーよ」

「明日出発するの」

アーニー:「明日の僕のパーティーへ来て」

ベッキー:「招待されたわ」

ギルバート:「いいよ」


 

ベッキーは涙を堪らえながら言いました。

 


ベッキー:「私を引き止めてたい?」

ギルバート:「いいや、行くなら行けよ」

ベッキー:「それじゃ、これでお別れ?」

ギルバート:

「行かなきゃ」

「気をつけて」


 

ギルバートは無関心を装い、心を押し殺してしまうんですね。

アーニーはベッキーに抱きつきました。

 


ベッキー:「さよなら、アーニー」


 

あれ以来風呂に入るのを嫌がるアーニーはギルバートから走って部屋中を逃げ回ります。

ケーキを運ぼうとしている姉エミーにぶつかり、ケーキが床に落ちてぐちゃぐちゃになってしまいました。

姉エミーは2度と作らないと泣き叫びます。

ギルバートは決心を決めてライバルのスーパーマーケットにケーキを買いに行きます。

運悪く店を出てきた瞬間に雑貨屋のオーナーと鉢合わせして、気まずい雰囲気になりました。

 

 

17.兄弟けんか

 

家族総出で誕生パーティーの準備をします。

母ボニーは人前に出るのを拒否してしまいます。

アーニーは冷蔵庫に入れて置いたケーキを食べてしまいました。

 


ギルバート:

「あのケーキにいくら払ったのか知ってるのか?」

「風呂に入れ」

「風呂に入るんだ。ふざけてないで服を脱げ」

「服を脱ぐんだ、さあ!」

「動くな」


 

嫌がるアーニーを無理やり服を脱がします。

アーニーはギルバートの髪を引っ張りました。

ギルバートは逆上して思わずアーニーを何度も殴りました。

我に返ったギルバートはその場にいられなくなり、感情のまま車で町外れまで飛び出しました。

今考えるとベティの夫のヒステリックな性格の描写などは、ギルバートの抑圧されたものを爆発させる要因となるものだったのかもしれません。

今のギルバートには自分でも忘れてしまっている閉じ込めた感情を吐き出すということが必要だったのだと思います。

ギルバートに生まれて初めて殴られたアーニーはとてもショックを受け、家を飛び出しました。

姉エミーと妹エレンは車でアーニーを探しに行きます。

アーニーはベッキーの所に泣きついてやってきました。

ギルバートは町外れで気持ちを落ち着かせた後、気持ちを整理して再び戻ります。

そしてギルバートはベッキーの所に立ち寄ります。

 


ベッキー:

「大丈夫、怖がらないで」

「アーニー、怖くないわよ」

アーニー:「歌を歌おう」

ベッキー:

「ほらね?大丈夫でしょ?」

「偉いわ、怖くないでしょ?」


 

何と水を怖がっていたアーニーはベッキーの優しい手ほどきで川に飛び込みます。

大好きな兄に嫌われたことがとても辛かったのでしょう。

兄にいつまでもそばにいてもらいたくて、アーニーは必死だったのかもしれません。

木に隠れて見ていたギルバートはその光景を見て微笑み、安心しました。

ベッキーに力を貰ったアーニーはすっかり元気になりました。

 


アーニー:「僕、溺れただろ?そうだろ?」

ベッキー:「きれいになったわ」


 

そこに姉エミーが迎えにきました。

ベッキーは隠れていたギルバートを発見しました。

 


ギルバート:

「殴った」

「あいつを本気で...」

ベッキー:「気にしないで」

ギルバート:

「あいつを殴るなんて...」

「帰らなきゃ」


 

ベッキーはギルバートを包み込むようにそっと抱きしめました。

 

 

18.父への愛憎

 

 

ギルバートはキャンピングカーに乗り込み、ベッキーといっしょにこの町を出て行きたかったんですね。

 


ギルバート:

「僕は行けない」

「ママの食費を稼がねば」

ベッキー:「あなたのせい?」

ギルバート:

「ママは何年もショック状態だった」

「おやじが別れも言わず、ある日突然消えた」

「地下室で首を吊ってた」

「ママはそれから...」

「昔は美人だった」

「とても美人だった」

「陽気で」

ベッキー:「じゃあ、お父さんのせい?」

ギルバート:

「いいや」

「おやじは何を考えてたのか」

「感情を表した事がない」

「子供と一緒に遊んだ事もなく、笑ったりうれしそうな顔もせず、怒りもせず、無表情」

「最初から死んでいるようだった」


 

ベッキーは笑って言いました。

 


ベッキー:「そういう人知ってるわ」


 

ギルバートも笑い返します。

自分が父アルバートとそっくりなことをギルバートはよく知っているんですね。

ギルバートは自分たちを置いて行って死んだ父親が憎かった。

でも同時に愛しているのではないかと思うんです。

理由は、自分と父が似ていると言われた時に強く否定しなかった。

もう一つはあの家が父の形見であり、父そのものだったから離れたくなかったのだと思います。

なので無意識の内に父の喋り方や表情を真似ているんだと思います。

ギルバートも母同様に父が恋しかったのだと思います。

父親のせいかと聞かれた時、違うと言ったのはそれでも父が好きだったからだと思うし、自分の考え方次第でどうにでも環境を変えることができたと気づいたからだと思います。

もっと自分と正面から向き合うことができていたら、家族を幸せにできたことに気づいたからだと思います。

自分の弱さに気づいた時、父や母の弱さを愛せるようになったからだと思います。

自分のいやな所が相手にも見えると、人はその人を憎みます。

自己嫌悪や劣等感で抑圧したものを相手の中に見てしまうからです。

ベッキーや雑貨屋のオーナーに父親とそっくりだと言われた時、自分のことを落ち着いて客観的に見ることができたのだと思います。

自分がどんな人間かが分かった時、人は自分を受け入れ、蘇生しはじめます。

無意識に抑圧されていたものが意識下に現れることで、人はよりいっそう強くなります。

ギルバートとベッキーはそのまま一夜をともにしました。

 


ギルバート:

「今日はアーニーの誕生日だ」

「帰らなきゃ」


 

 

 

19.人を結びつける誕生パーティー

 

庭には色とりどりの風船をたくさん準備してあり、招待客たちは楽しく語らったり、遊んだりしています。

その中で主賓のアーニーもきちんとネクタイをして楽しく遊んでいました。

雑貨屋のオーナー夫妻は姉エミーにお母さんは元気かと気にかけます。

ギルバートが帰ってきた時、妹エレンは皮肉を込めて言いました。

 


妹エレン:「エミー、お客様よ」

タッカー:「どうした、大丈夫か?」

ボビー:「生きてたか?」


 

アーニーはギルバートを見つけると、少しうつむいた後、姿を消しました。

 


ギルバート:

「エミー、アーニーは?」

「エミー、言ってくれ」

「様子は?」

姉エミー「本人に尋ねたら?」

ギルバート:「どこに?」


 

姉のエミーもギルバートに対して腹をたてていました。

しかし、アーニーが木の上に登りギルバートに分からないようにかくれんぼをし始めます。

それを見て、エミーはギルバートを許したんだなと悟りました。

そして、ギルバートに笑って言います。

 


姉エミー:「どこかしら?」


 

ギルバートは姉エミーが演技をしているのを知って微笑みます。

ギルバートは困った表情を作り、アーニーに聞こえるように大声で叫びます。

 


ギルバート:「エミー、アーニーはどこにいる?」

姉エミー:「一緒じゃなかったの?」

ギルバート:「違うよ」


 

アーニーはとてもうれしそうに木の上ではしゃぎました。

 


ギルバート:

「アーニー!」

「誰かアーニーを見たかい?」

「弟を見た?」


 

アーニーはギルバートをびっくりさせるように、木からジャンプして降りてきました。

目を合わせた二人はしばらく目線を外し、沈黙します。

ギルバートとアーニーは強く抱きしめ合いました。

 


ギルバート:

「驚かすな」

「驚かすな、いいな」

アーニー:「驚かさないよ」


 

アーニーはギルバートを押し倒し、軽く何度もビンタしました。

姉エミーはそばで微笑みました。

妹エレンはカメラで二人を撮り、母ボニーはカーテンを少し開けて、二人の様子を温かく見守っていました。

ギルバートは母ボニーの所へ行きました。

 


ギルバート:「ママ」

母ボニー:

「何て事を」

「かわいそうな子なのよ」

「その上消えたりして」

「ひどい子」

「本当にひどい子」

「家を出ていったのかと」

「この上お前まで」

「でも戻ってきてくれた」

「どうして?」

「なぜ戻ったの?」

ギルバート:「分からない」


 

二人だけの空間で、ギルバートは母ボニーに甘えるように寄り添いました。

 


ギルバート:

「でも、戻った」

「戻った」

母ボニー:

「戻ってくれた、パーティーに」

「ギルバート、あんたたちには本当につらい思いを」

「こんな重荷の母親を」

ギルバート:「やめて」

母ボニー:

「本当よ」

「母親を恥と思ってる」

ギルバート:「ママ」

母ボニー:

「こんな風になるつもりはなかったのよ」

「人の笑いものになるつもりは」

ギルバート:「そんな事...」

母ボニー:「そんなつもりは...」

ギルバート:「笑いものじゃないよ」

母ボニー:「ギルバート、お願いよ、黙って姿を消さないで」


 

ボニーは泣きながらギルバートを強く抱きしめました。

ベッキーがパーティーにプレゼントを持って来ました。

 


ギルバート:「いいかい、ある人に合わせたい」


 

母親を恥だと思っていたギルバート。

自分の運命を受け入れ、己の憎しみも愛情も受容して、母を紹介できるまでに成長しました。

 


ベッキー:「いいわ」


 

ギルバートにとって、ベッキーは家族と同じく大切な存在です。

 


ギルバート:

「ママ」

「紹介したい人が...」

母ボニー:「イヤよ」

ギルバート:

「お願い」

「僕のために」

ベッキー:「いいのよ、次の機会に」

ギルバート:

「会わせたい」

「僕のために」

「彼女は笑わないよ」

「僕は二度とママを傷つけたりしない」

「お願い」

母ボニー:「いいわ」

ギルバート:

「ベッキー」

「ベッキーだよ」

母ボニー:「昔からこんなでは...」

ベッキー:「私も昔はこんなでは」


 

二人は微笑みました。

 

 

20.それぞれの別れ

 

ベッキーとの別れの時が来ました。

 


ベッキー:「楽しかったわ」

ギルバート:

「分かってる」

「何て言えばいいのか」

アーニー:「”ありがとう”と言うんだよ」


 

ギルバートとベッキーは涙を拭いて、アーニーの言葉に笑いました。

 


ギルバート:「ありがとう」

アーニー:「さよなら」

ベッキー:「”さよなら”じゃないわ」

アーニー:

「じゃあ、”お休み”」

「僕はまだ”お休み”じゃないよ」


 

ベッキーは光あふれるキャンピングトレーラーに乗って去って行きました。

勇気を振り絞って、息子のためにベッキーと顔を合わせたボニー。

それから彼女は自ら歩いて2階の寝室へ階段を懸命に登りました。

彼女は家族のために変わろうとしたかったのだと思います。

母ボニーはギルバートに言いました。

 


ボニー:

「お前は光輝く甲冑を着た王子様よ」

「お前は光り輝いている」

「まぶしく光り輝いている」

ギルバート:「休んで、眠るんだよ」


 

しばらくしてアーニーは母の寝室に行きました。

しかし、母親は静かに亡くなっていました。

 


アーニー:

「ママ」

「ママ!ママ!目を覚まして!」

「隠れてるの?」

「分かってるぞ」

「目を開けて!」

「ママ!目を覚まして!」

「ママ、やめてよ!」

「ママ、やめて!」


 

そして死んでしまったと悟ったアーニーは泣きながら2階から降りてきて、自分の頭を叩き庭で暴れました。

そのシーンのキャメラは遠くの方からアーニーを優しく撮影しているんですね。

とても気の利いた優しい演出です。

私達にもアーニーに共感してほしいという気持ちがわかります。

夕陽につつまれたせつなくも美しいシーンです。

 


ギルバート:「クレーンが必要かな」

妹エレン:

「人が集まるわ」

「見物人が大勢...」


 

ギルバートは決して入らなかった地下室へ行き、柱を力の限り、なぎ倒しました。

ギルバートは初めて感情をだして、運命を呪ったのだと思います。

母のために抑圧していた父への恨みを力の限り、父親がつくったこの家にぶつけました。

 


姉エミー:「いい顔だわ」


 

エミーは妹エレンに微笑みました。

 

 

21.自由そして新しい世界へ

 

 


ギルバート:

「笑いものにはさせないぞ」

「笑いものにはさせない」

「アーニー、お前も手伝え」


 

そして、グレイプ一家は家を母親ごと燃やす決断をします。

家財道具を皆で運び出し、火をつけます。

家族は庭で家が燃え尽きるまでその様子をじっと見つめ続けました。

家族を取り込んでいた亡霊から解き放たれた瞬間でした。

彼らは自由になりました。

ギルバートはアーニーに ”これからはどこにでも行けるよ” と言いました。

あくる年、二人は冒頭シーンのようにキャンピングトレーラーが来るのを待っていました。

 


アーニー:「ギルバート、あれ?」

ギルバート:「まだだよ、もう少し待て」

アーニー:「いつ来るの?」

ギルバート:「すぐ来るよ、もう少し待て」

アーニー:「ギルバート、見て」

ギルバートの心の中:

「アーニーは19歳になる」

「19歳だ」

「エミーは町のパン屋の店長」

「エレンも一緒に転校」

「アーニーは ”僕らはどこへ?” と」

「僕は言った、”どこへでも” と」

アーニー:

「ベッキー!」

「ベッキーが来る」

ギルバート:「そうだよ、じき会える」

アーニー:

「ベッキー!」

「ギルバート、迎えに行こう!」


 

ベッキーが窓から顔を出し、懐かしそうな笑顔で手を振っています。

ベッキーの髪は少し長くなっていました。

そして、ギルバートとアーニーはベッキーのキャンピングトレーラーに乗り込み、旅に出ました。

 

 

 

22.おわりに

 

この作品は次男ギルバートの心の成長の物語です。

好対照な2つの家がよかったですね。

ひとつは自由でキラキラしたしっかりした作りのキャンピングトレーラー。

もうひとつは屋根は錆びて、木材の柱は朽ちて暗い洞窟のような今にも壊れそうな古い家。

未来と過去とも読み取れます。

希望と現実とも思えます。

動と静、軽いと重い、流れと淀みなどいろいろ連想できます。

ギルバートは自分の家を遠くから見て言いました。

 


ギルバート:「驚いたな、遠くで見るとあんなに小さいんだな」


 

小さな頃から背負ってきた責任が大きかったんでしょう。

ふと気が抜けた時、小さな家だということに気づかされたんですね。

次男は母を食べさせなければならない。

母をこれ以上悲しませてはいけない。

母を笑い者にさせてはいけない。

妹を立派な大人にしなくてはならない。

姉にも負担をかけてはいけない。

弟の面倒を一生面倒見なくてはいけない。

弟が周りの人に迷惑をかけさせてはいけない。

これらすべての責任がまだ若い青年ギルバートを背に乗っかっていました。

素晴らしいのは周りの人達がギルバートの人柄を感じ取っていて、優しく助けてくれるんですね。

振り返って見ると、登場人物には誰一人、悪人はいませんでした。

こころ優しい美しい作品でした。

泣きながら笑うことのできる映画です。

さまざまな小道具が意味を持ち、映像言語の役割をしっかり果たしています。

☆人生のような長い長い坂道

☆キラキラしたエアストリーム

☆細いフレームの軽い自転車

☆癒やしの川

☆別れを告げる自動車部品

☆生気ある新鮮なスイカ

☆幼児性を表す子供プール

☆身体を模したスプーン

☆死の灰皿

☆人間の悩みなんて小さいと感じさせてくれる夕焼け

☆セックスシンボル的なアイスクリーム

☆弾けだしそうな心の不安定さを感じるトランポリン

☆情事の終わりを告げるオーブン

☆心の安定の必需品であるタバコ

☆終焉を告げる喪服

☆過去と現在を分かつ立ち入り禁止テープ

☆細々と暮らす一家の郵便受け

☆抑圧しきれない心を表す軋む床

☆父の寝床である地下室

☆墓の主のいない父の墓

☆ひと目を隠す毛布

☆現実逃避のテレビ

☆人生には逃げれない場面があることを教えてくれる、かからないエンジン

☆苦悩を消滅させるマッチ

☆生き物ははかないことを想起させるバッタ

☆形が変わってしまう買い物袋

☆アーニーが決してたどり着けない健常性を示す給水塔

☆事件とオモチャ、見る者によって思いが異なるパトカー

☆命を確認するための誕生日ケーキ

☆家族が息を吹き込んだ風船

☆兄弟の愛情を確かめ合う木登り

☆吊るされたタイヤのブランコ

☆心の自由を印すバーガー・バーンの移動式店舗

☆いつでも死が近くにあるよと告げる霊柩車

☆ささいなアイテムで幸せになれるバーガー・バーンの帽子

☆雑貨屋のオーナーの憎きスーパーマーケットのロブスター

あなたは何を連想しますか?

映画は自分を写す鏡だと思います。

あるものを見ても、人によって捉え方が違います。

そこに自分だけの癒やしの効果が映画にはあると思うのです。

アップルパイを見て、母親を思い出す。(私の心の中です)

釣り竿を見て父親を思い出す。

青いシャーペンを見て、恋人を思い出す。

線路を見て小2を思い出す。

これらのアイテムが物語に紡がれて、過去に旅したりできると思うのです。

過去の喜びや悲しみ、寂しさ、嫉妬、妬み、心地よさなど追体験できます。

そして俯瞰的視点で自分を見つめて、現在の自分と比較したり、未来に向けて良い計画を立てることができます。

また、今の悩みの小ささに笑ってしまうかもしれません。

自分だけでなく、年が離れた親の気持ち、性別がちがう友人やパートナーの気持ちに共感できます。

段々と自分の気持ちが整理されて、いい結論が出てくれることがあるかもしれません。

今回は特にそういった映画の役割が十分に出ている作品です。

よろしければ、是非とも観ていただけると幸いです。

のちにビッグスターとなるディカプリオ、ジョニー・デップ、ジュリエット・ルイスの若き年代の作品ですので、彼ら目当てでも見る価値は十分にありますよ。

それでは、またの作品で。

さよなら。

 

 

23.関連作品

 

『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』 ラッセ・ハルストレム監督

 

 


『ギルバート・グレイプ』PART1~最上の芸術作品!人生、数滴の涙とささやかな笑いが同居中~

2023-09-28 04:58:40 | 日記

『ギルバート・グレイプ』PART1

 

 

0.はじめに

 

~《あなたに観せたい美しいキャメラシーン》~

警察署に勾留された重度の知的障害をもつ息子を過食症で巨大な体になってしまった母ボニー。集まってきた町の見物人から彼女を守るように家族全員が支えながら歩くシーン

1:06:54~1:08:14

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~《誰かに伝えたい名セリフ》~

ベッキー:「じゃあ、お父さんのせい?」ギルバート:「いいや」

1:27:25~1:31:15

背景:グレイプ一家の不幸に対して、ギルバートは自ら犠牲になりにいったのに気づき、自分に正面から向き合って、父親、母親そして自分の弱さを認めることが出来た時に言ったセリフ

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1.作品の際立った特徴

 

この作品の原題は『What's Eating Gilbert Grape』です。

”ギルバート・グレイブをイライラさせている物事”という意味になるそうです。

この作品や監督のラッセ・ハルストレムの他の作品でも、主人公はとてもつらい環境で過ごしています。

ですが、暗いトーンだけでは決して描画していません。

微笑ましくコミカルなシーンを入れて描出しています。

主人公や登場人物に思いやりの気持ちを持って共感しているからだと思います。

ある場面ではとても悲壮な場面を洒落た小話にしているところもあります。

観ている者を悲しみの深淵につき落とすことなく、涙と笑いで包み込んでくれます。

関西のローカル番組の『探偵ナイトスクープ』のような感じです。

この作品の特筆すべきは、映画ならではの視覚芸術です。

レオナルド・ディカプリオ扮する、主人公の弟アーニーは重い知的障害を持っています。

障害の重さや特徴は演じる役者の表情、行動、言葉を通してすばらしい演技でないと皆さんに伝わらないと思います。

そのほかにも視覚でないと伝わらないシーンはたくさんありますが、その都度お伝えさせていただこうと思います。

 

 

2.希望に満ちた冒頭シーン

 

この作品はある一家の物語です。

映画の冒頭、アイオワ州の田舎町エンドーラ、長い長い一本道で二人の兄弟が何かを待っています。

年の割に子供っぽくはしゃぐ弟とどこか無気力な兄。

待っているのはこの田舎町を通り過ぎるエアストリームと呼ばれるキャンピングトレーラーの隊列でした。

坂道の向こうから無数の光が差し、銀色のボディにキラキラと光を浴びながらそのトレーラーはやってきました。

明るく希望に満ちた冒頭シーンですね。

 

 

3.鬱屈した一家

 

重い知的障害を持つ18歳間近のアーニーは医者から10歳までは命が持たないと言われていました。

バッタを捕まえて、郵便受けの扉で挟み、死んでしまったと言って泣きだします。

姉のエミーは小学校で調理師として働いていましたが、火事で焼けてしまって、家にいます。

歯の矯正器具を外したばかりのまだ大人になりきれていない反抗期の妹エレン。

長男のラリーは大学を卒業後、家族を捨てて家を出ました。

町一番の美人だった母親のボニーは夫の自殺後に過食症を患い、巨体で動けなくなり、人の目から逃れるため何年も外出していません。

主人公で次男のギルバートのナレーションで淡々とコミカルに家族紹介をしています。

 


母ボニー:「わたしの太陽はどこ?」


 

母親はアーニーを溺愛してそう呼んでいます。

姉のエミーと次男のギルバートはアーニーのかくれんぼに優しくつきあいます。

 


ギルバート:「エミー、アーニーは?」

姉エミー:「あんたと一緒では?」

ギルバート:「いいや、どこかな?」


 

アーニーは木の上に隠れて夢中ではしゃぎます。

 


姉エミー:「どこかしら?」

ギルバート:「エレン、アーニーは?」

妹エレン:「木の上よ」


 

エレンはいじわるに本当のことを教えました。

ギルバートはエレンを睨みつけます。

 


姉エミー:「ちゃんと探したんでしょ?」

ギルバート:「探したよ」


 

アーニーはギルバートの正面に降りてきてびっくりさせます。

 


ギルバート:「よせ、驚かすな」

アーニー:「木に登ってたんだよ。分からなかった?」


 

そういって、アーニーをおんぶして車まで行きます。

アーニーの飛びつく勢い、しがみつく仕草。どれだけ兄ギルバートが大好きなのが分かります。

仲睦まじい兄弟のシーンです。

 

 

4.ギルバートってどんな青年?

 

ギルバートは町の小さな雑貨屋で働き、一家の生計を立てています。

眼の前に大きなスーパーがオープンして、ギルバートが働く雑貨屋はあまり繁盛していません。

店のオーナーも諦めて弱気になっています。

 


店のオーナー:「スーパーでセールでも?」


 

ギルバートは慈愛に満ちた表情で言います。

 


ギルバート:「あんな店近づく気もありません」

店のオーナー:

「ロブスターだな?」

「水槽で生きてるロブスター、そうだろ?」

ギルバート:

「心配ありませんよ。ひとときだけの事です」

「客は戻ってきます」

店のオーナー:「本当に?」

ギルバート:「絶対ですよ。絶対に」

店のオーナー:「その言い方、おやじさんにそっくりだ」


 

このようなやりとりの中でギルバートはとても優しい青年だとわかるんですね。

この作品は不幸な家族の描写と同時に滑稽な場面がたくさんあります。

ギルバートの浮気相手である中年女性のベティは度々ギルバートを配達に呼び寄せて、逢瀬を重ねます。

ギルバートはあまり気乗りではないんですね。

そこにベティの夫が帰ってきます。

なぜか彼女のシーンの時はアイスクリームがたくさん出てきます。

セックスしている時もアイスをくわえます。

フロイトの『口唇期欲求』を暗示しているのでしょうか。

面白い表現ですね。

ベティの夫が陽気に帰ってきます。

ベティたちがセックスしていると同時に夫は庭で子供といっしょにトランポリンでぴょんぴょん跳ねているんですね。

すごいジョークが効いていますね。

ギルバートは口にアイスクリームが付いているのに気づかずに、にこやかに大分年上のベティの夫に挨拶をします。

ベティの夫は財布からチップをギルバートに渡します。

浮気の事に気づいているのかどうか分からない、この優しさが怖いんですね。

 


ベティの夫:「オフィスへ来い。話したい事がある」


 

ベティの夫は保険屋をしているんですが、浮気に気づいているのかどうかを曖昧にしたまま、オフィスに来いとギルバートに告げます。

そんなやり取りの最中、目を離した隙にアーニーがいなくなりました。

50mはある高い給水塔に登っていました。

そこには大勢の見物人と警察が集まっていました。

 


ギルバート:「アーニー、降りてこい!」

アーニー:

「登っておいで。前よりも高いところまで行くぞ」

「もっと高く!」

ギルバート:「アーニー!」

アーニー:

「見て!落ちないよ!」

「靴が落ちた!」

「ギルバート、靴が落ちた」


 

そこでギルバートはアーニーをあやすように好きな歌を歌います。

 


ギルバート:

「♫ アーニーを知ってるかい?」

「♫ もうじき、18歳の誕生日」

「♫ アーニーを知ってるかい?」

「アーニー、降りてこい!」

「♫ ボンベが爆発 ドカン、ドカン!」


 

アーニーは思わず釣られて歌いだします。

 


アーニー:「♫ ボンベが爆発 ドカン、ドカン!」

ギルバート:「♫ ボンベが爆発 ドカン、ドカン!」

アーニー:「♫ ボンベが爆発 ドカン、ドカン!」


 

アーニーは興奮が収まり、やっと塔から降りてきました。

 


ギルバート:

「いいぞ!」

「いい子だ、早く降りてこい」


 

その場に居た人みんな、温かい拍手をしました。

何てのどかな雰囲気の田舎町でしょうか。

微笑ましいシーンです。

キャンピングカーで旅をしている、若い年頃の娘ベッキーもその様子を見ていました。

ベッキーはギルバートの優しくてどこか無気力な大人しい所に惹かれます。

 


ギルバート:

「本当にすみません」

「連れて帰ります。もう二度とさせません」

警官:「いつもそう言って何度登ったと思う」

ギルバート:「今度こそ最後です。そうだろ?」

アーニー:「最後だよ」

ギルバート:「さあ帰ろう」

アーニー:「また登りたい!」


 

 

 

5.巨大な母

 

家に戻り家族で食事の支度をします。

大きな食卓を母ボニーの座っているソファーまで運びます。

友人のタッカーが冷蔵庫を直しにやってきました。

そこに小さな男の子が母ボニーの巨大な姿を見に来ました。

ギルバートは男の子を抱え上げ、窓越しに母ボニーを見せてやります。

 


男の子:「見ちゃった!見ちゃった!」

タッカー:「何をする」

ギルバート:「悪いか?」

タッカー:

「いけないよ」

「お袋だろ?」

「お袋だ。あんな事よくないよ」


 

ギルバートはどこか気持ちが歪んでいるんですね。

こうしたエピソードでギルバートの心の軋みを表現しています。

何気ないシーンやセリフでギルバートの母への抑圧されている憎しみが現れています。

就寝の時間、アーニーは ”おやすみ” を間違えて ”さよなら” と言いました。

 


ギルバート:「 ”さよなら” はどこかへ行く時だ。今は違う」

アーニー:

「そんな事、分かってるよ。ギルバート」

「僕と兄ちゃんはどこへも行かない」

「さよなら」


 

何気ないセリフの中に、ギルバートがこの家族を捨ててどこかへ行ってしまうかもしれないという気持ちを演出として匂わせているんですね。

友人とのセリフで、

 


タッカー:「お袋さんは?」

ギルバート:「太ってる」

タッカー:

「そんな言い方はよせよ、ギルバート」

「収穫祭でもう少し太っている男を見た」

ギルバート:「もう少し?」

タッカー:「上には上がいる」

ギルバート:「お袋はクジラさ」

タッカー:「散歩をさせろ」

ギルバート:「ジョギングも?」


 

こういった話を親身になって聞いてくれる友人はとても貴重な存在です。

ギルバートは悪口であっても本音で話せるんですね。

息抜きになっています。大切な友人です。

 

 

6.自由奔放なベッキーとの出会い

 

カフェレストランで雑談中にベッキーが通り過ぎます。

彼女は細い体でキリッとした目つきです。

そんな彼女にマッチした細いフレームで美しいデザインの自転車を、彼女は押して歩いていました。

一瞬、ギルバートとベッキーの目が合います。

アーニーは瓶の中でバッタを飼っていて、雑貨屋のオーナーは品物のレタスをちぎり、えさとして与えてくれました。

 


アーニー:「バッタだよ」

雑貨屋のオーナー:「レタスをやろう」

アーニー:「僕の友達だ」

雑貨屋のオーナー:「見ろ、食ってる」

ギルバート:「お礼は?」

アーニー:「ありがとう、ありがとう、ありがとう」


 

アーニーには町の人がとても優しく接してくれます。

店にベッキーが買い物に来て、トレーラーまで配達することになりました。

 


アーニー:「君の?僕が乗せるよ」


 

アーニーは楽しそうに自転車を車の荷台に乗せます。

三人は並んで車に乗っています。

 


アーニー:「いつでも配達を。いつでも」


 

アーニーはベッキーに顔を近寄せて言いました。

 


ギルバート:

「アーニー、よせ」

「すみません、場所は?」

ベッキー:「このまま、真っ直ぐ」

アーニー:

「ママが18歳の誕生パーティーをしてくれる」

「そうだろ?」「パーティーはいつ?」

ギルバート:「あと6日だ」

アーニー:

「あと6日で僕は18歳だよ」

「君は招待されてない」

ギルバート:「アーニー、失礼だよ」

ベッキー:

「いいのよ」

「彼は正直なのよ」


 

アーニーはギルバートをからかって笑いました。

キャンピングカーが停泊している所に着きました。

 


アーニー:

「僕が運ぶよ」

「大丈夫、僕が運ぶよ」


 

アーニーは買い物袋を落としてしまいました。

アーニーはとても落ち込み、自分の頭を何度も叩きました。

ディカプリオのオーバーアクションのない自然な素晴らしい演技です。

 


ベッキー:「いいのよ」

ギルバート:「すみません」


 

ベッキーはパニックになっているアーニーを優しいまなざしで見つめました。

 


ベッキー:「いいのよ」

ギルバート:「でも...」

ベッキー:

「やめて」

「悪いと思う?」

「私も悪いと思わないわ。謝らないで」

アーニー:「僕は悪くない」


 

ベッキーの優しさが分かるシーンです。

 

 

7.家族の軋み

 

家では家族でアーニーの誕生パーティーの話し合いをしていました。

 


母ボニー:

「ウィンナ・ソーセージがいいわ」

「グレープ・ジェリーでソースを」

アーニー:「ママ、ホットドッグも」

姉エミー:

「ハワイ風のオードブルは?」

「缶詰のパイナップルをベーコンで巻いて楊枝を刺すの」

母ボニー:「ベーコンは?」

姉エミー:「オーブンで」

母ボニー:

「ベーコンはカリッと焼かなきゃ」

「ベタッとしたのはダメ」

「あれはまずいわ」

アーニー:「ホットドック!」

母ボニー:「もちろん、ホットドッグもよ。約束するわ」


 

妹エレンは口に食べ物を入れて喋ります。

 


妹エレン:「私の知ってるパーティーでは...」

ギルバート:

「エレン、エレン」

「食べながら話すな。吐き気がする」

妹エレン:「何ですって」

ギルバート:「吐き気がする」

妹エレン:

「わかったわ、パパ」

「謝るわ、パパ」


 

アーニーは面白がってリピートします。

 


アーニー:「いいわ、パパ。謝るわ、パパ」


 

ギルバートはいらいらして、家族が傷つくことを言ってしまいます。

 


ギルバート:「パパは死んだ」

姉エミー:「ギルバート、やめて」


 

アーニーはまた復唱してしまいます。

 


アーニー:「パパは死んだ!」

姉エミー:「アーニー、やめなさい」

アーニー:「パパは死んだ!パパは死んだ!パパは死んだ!」

母ボニー「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!」


 

母ボニーはヒステリックになり、床を何度も踏み始めました。

こぼれたミルクを拭こうとギルバートは食卓の下にしゃがむと、母ボニーの地団駄で床が軋んでいるのを見つけました。

 


ギルバート:「エミー、見ろ」


 

悲惨さの中にどこか可笑しさを含ませているんですね。

ギルバートは友人タッカーを呼び、床を見てもらいました。

母ボニーに気づかれないように床を調査します。

母ボニーはテレビを見ながら、うたたねをします。

ギルバートはテレビを消そうとリモコンをオフにしますが、ボニーが起きてしまいました。

 


母ボニー:「何してるの?かして」

姉エミー:「ママ、ベッドで寝たら?」

母ボニー:「どうして?」

姉エミー:「気分が変わるわよ」

母ボニー:「私はここでいいの」

姉エミー:「本当に?」

母ボニー:「いい子たち..」


 

ギルバートはボニーのタバコに火をつけ、エミーは毛布をかけてあげます。

子供たちがどれだけ母に気をつかいながら生活をしているのか、また家族の重荷になっているかをユーモラスに表したシーンです。

 

 

8.封印された地下室

 

翌日、タッカーが床を直しに来ました。

タッカーは地下室でいっしょに手伝ってくれといいます。

ギルバートは嫌がって、アーニーに行かせようとします。

 


タッカー:「手を貸してくれ」

ギルバート:

「アーニー、手伝いを」

「地下室だよ」

「アーニー、地下室だよ」

アーニー:

「あそこは僕、イヤだ」

「イヤだ、絶対に行かないよ」

タッカー:「どうした?」

アーニー:

「パパがいる!」

「パパがいるからイヤだ」


 

アーニーはゾンビのマネをして怖がります。

首吊りの仕草をしました。

 


ギルバート:「アーニー、黙れ!」


 

作業が終わって、

 


タッカー:

「あの角材を6本使えばなんとかなるだろう」

「支えられるよ」

「つい忘れた」

「あそこでお前のおやじが...」

ギルバート:「まあな」

タッカー:「悪かった」

ギルバート:「いいんだよ、気にするな」


 

もしかしたらギルバートは父が死んでいる姿を直接見てしまったのかもしれません。

家族の家は何十年も前に父親が自ら建てました。

なのでとても古く壊れやすいものでした。

グレイプ一家の生活のシーンでは死んだ父親の暗い影がずっしりと居座っています。

この作品がとても上手いなと思うのは、そのギルバートの抑圧された気持ちの象徴が古くなった父親が建てた家であり、床を支える木材なんですね。

それが今、限界をむかえて軋み始めているんですね。

なにかが崩れ去ろうとしています。

 

 

9.ギルバートの憂鬱

 

ある日またアーニーが給水塔に登ろうとしていました。

今度は妹のエレンが乱暴に止めます。

アーニーはケガをしてしまいました。

ギルバートはアーニーの傷の手当をします。

 


ギルバート:

「忘れるなよ」

「誰かが殴ったり指一本お前に触れたら、お前はどうする?」

「俺に言うんだ。俺がやっつける」

「なぜか分かるか?」

アーニー:「ギルバートは兄ちゃんだから」

ギルバート:「その通り、誰にもお前はいじめさせない」


 

そんな弟思いのギルバートなのですが、息抜きもできずストレスが溜まっていました。

車に乗り込み一人ドライブに出かけます。

ベッキーとそのおばあさんの所に気晴らしに立ち寄ります。

ギルバートはベッキーが長年ひとつの場所に住んでいたおばあさんを連れ出し、自由気ままな放浪生活に連れ出したことを知りました。

 


ベッキー:

「私は外見の美しさなんかどうでもいいの」

「長続きしないもの」

「いずれ顔にしわができて顔には白髪が、オッパイも垂れる、そうでしょ?」

「何をするかが大事なのよ」

ギルバート:「そうだな」

ベッキー:「あなたは何をしたい?」

ギルバート:「ここでは何もする事がなくて...」

ベッキー:「ここでも何か一つぐらいあるはずよ」


 

ギルバートは自分のしたいことを我慢しすぎて無意識に中に抑圧しているんですね。

中々やりたいことを思いつくことができなくなっています。

どこか燃え尽き症候群のような無表情さがありました。

二人はアイスクリーム屋に行ってデートしました。

 


ベッキー:「取り替えっこしない?」


 

そこを子供連れのベティが目撃します。

またベティとアイスクリームの共演ですね。

ベティは動揺していました。

夕焼け空を見ながらギルバートとベッキーはゆったりとした時間を語らいます。

ベッキーの大らかで自由な性格でないとギルバートはこういう時間を過ごすことはなかったと思います。

 


ベッキー:

「色が変わっていく」

「夕焼けってステキね」

「見ているうちにゆっくり変わっていく」

「空って大好き」

「広くて果てしない」

ギルバート:「そうだな、とても大きい」


 

ギルバートにはゆっくり空を見るゆとりも発想も自由も今までなかったんですね。

 


ベッキー:

「”大きい”なんて言葉、空には小さすぎるわ」

「空を表すのにはもっと大きな言葉を」


 

そんなやすらぎのひとときでもギルバートは家の用事を思い出して、ベッキーを残し家に戻ります。

家に戻ったギルバートにアーニーは嬉しげに飛びつき、おんぶしてもらいます。

ギルバートはアーニーをお風呂に入れ、体を洗ってやります。

 


ギルバート:

「今日は遊んでる暇がない」

「首を伸ばして」

「それでいい、お前はもう大きい」

「もう大人だ」

「自分で体ぐらい洗えるはずだよ」

「どうだい?大人だろ?」

「洗って。タオルはあそこにある」

「ローブはあそこにある」

アーニー:「僕は自分で洗える」

ギルバート:「偉いぞ、俺は用事がある」


 

ギルバートはアーニーを浴槽に残して、ベッキーの所へ戻りました。

 

 

10.自己主張と自己蔑視

 

 


ベッキー:

「見逃したわ」

「日没よ」

「素敵だったわ」

「あなたの家を見せて」

ギルバート:「やめとけよ」


 

ギルバートは家族を恥じているんですね。

ベッキーはギルバートに心を開いてもらうために身の上を話しました。

 


ベッキー:

「見るだけよ、いいでしょ?」

「両親は離婚したの」

「2人の間を往復して、引っ越しばかり」

「でも私の人生だからいいの」


 

ベッキーは自分と親とをしっかり切り離して考えて生きていました。

親からの自由と自我がしっかりしているんですね。

 


ギルバート:

「僕らもよそへ移りたいけど、お袋が家を離れたがらない」

「離れたがらないのではなく、家にくっついてる」

ベッキー:「どういう事?」

ギルバート:

「あれだよ、僕の家だ」

「驚いたな。遠くで見るとあんなに小さい」

「中の人間は大きいのに」

「テレビで浜に打ち上げられたクジラを?」

「それがお袋だ」

「お父さんは?」

「それはまたいつか話すよ」

「とても楽しかったよ」

ベッキー:

「そうね」

「おやすみ」


 

人と人とが距離を縮めたり親密になるとはこういう事ですね。

お互いのことを知るとはお互いの弱いところを知ってもらう事です。

虚勢を張って自分をよく見せることでは決してありません。

本心を打ち明けることを通じて、話を聞いてもらうことで癒やされ、聞いた側は慈しみを与えるのだと思います。

表面的で本心を言わない、自己主張しない、傷つくのを避けている関係は親しい関係ではないんですね。

母を悪く言ったギルバートをベッキーは何も咎めませんでした。

ギルバートには深い心の傷があることを知ったからだと思います。

只々、ギルバートを癒やすように彼の思いを聞いてあげていました。

 

 

11.仲たがい

 

ギルバートは帰宅して床につき、朝目覚めます。

顔を洗おうと洗面所に行くと、なんとアーニーは昨日の夕方からずっと風呂に入ったまま、浴槽の中で震えていました。

ギルバートはごめんよごめんよと必死で謝ります。

こういうシーンは本当に映像が一番良く感動が伝わります。

寒さに震えているアーニー、必死で体を温めるためアーニーを抱きしめるギルバート。

 


母ボニー:

「最近のお前は変よ」

「しっかりして、ギルバート」

ギルバート:

「謝るよ」

母ボニー:「謝るだけじゃ足りないわ、頼りない子ね」


 

ボニーはギルバートに依存しきっています。

ギルバートの心には全く無関心です。

ある日、ギルバートはベティの所に配達に行きます。

ちょうどアイスクリームを作っていました。

ベティはギルバートがベッキーとデートしていた事の腹いせにベティの夫に電話をかけさせます。

そしてわざといやらしい事をしました。

ギルバートは腹をたてて出ていこうとします。

 


ギルバート:

「殺されるよ」

「殺される」

ベティ:「ちょっとふざけただけよ」

ギルバート:「ひどいな、じゃあこれで」

ベティ:

「待って」

「あの娘の所?」

ギルバート:「ご主人に呼ばれたんだよ」

ベティ:

「行かせないわよ」

「出ていったら許さないわよ」


 

オーブンのアラームが鳴り、ギルバートはその隙を突いて出ていきました。

 

PART2へつづく

 

 


『フリー・ウィリー』~親がしなければならないたった一つのこと”I love you because you are just you."~

2023-09-17 08:44:20 | 日記

 

『フリー・ウィリー』

 

 

 

1.はじめに

 

~《誰かに伝えたい名セリフ》~

『グレン:人生で最高の愛は一つしか持てないという事さ』

55:53~56:13

背景:これから大事な人のために愛情と時間とお金に使うと決意し、大好きなクラシックカーを手放したことについてグレンが言ったセリフ

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

~《皆さんに観せたい美しいキャメラシーン》~

月の光が水面を反射して、水槽に落ちたジェシーをウィリーが静かに水上まで運ぶシーン

31:11~33:11

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

2.作品紹介

 

昔、よくテレビの「日曜洋画劇場」などで放映され、見たことある方やタイトルを聞かれた方がいらっしゃると思います。

この作品は、親に捨てられた少年ジェシーが同じく家族と離れ離れになったシャチとの心の触れ合いを通じて、社会に心を開き、大人に成長する物語です。

特に子供の時に、親が居なかった人、無視され続けた人、干渉され続けた人、虐待を受けて育った人に見ていただきたい作品です。

今、現在生後4ヶ月の子猫を飼っていますが、生まれて間もない頃から親猫から離れて育っています。

その子はいつも、スキンシップを要求して、近寄ってきます。

そして安心なのがわかると少し離れた所で、遊びだします。

その間もちらちらとこちらを見て、保護者の居場所を確認した後、安心だと分かるとまた無邪気に遊び回ります。

生後1年くらいの猫もいるのですが、彼らはそれほど密着しには寄ってはこないものの、いつも2メートル範囲内にはいて、安心を確認しながら横たわったり、毛づくろいをします。

やがてその範囲も広がってきて、自由に行動していくのだと思います。

人間も同じだと思います。

そういう触れ合いがどれだけ大事なのかを教えてくれる作品です。

 

 

3.シャチの家族

 

作品の冒頭シーンはキャメラが美しいシャチを雄大に泳ぐ姿から映し出されところから始まります。

海面に大きな黒いヒレが現れます。

ザバーンという水しぶきに巨大なシャチが中を舞います。

辺りは夕陽一面で、キラキラした波がオレンジ色に光っています。

かもめの鳴き声とともにシャチの群れが泳ぐ楽しそうな声。

そしてキャメラは海中を写します。

シャチの親子はたくさんのクラゲに囲まれて、その巨大な体をくねらせています。

空からは無数のカーテンのような光が海中に差し込んでいます。

そして、そこに双眼鏡をのぞく男たち、隠れていた船が現れ、けたたましいスクリュー音とシャチを追い込む船員の金属音が鳴り響き、1頭のシャチを取り囲みました。

シャチの家族たちは悲鳴をあげます。

そして、家族と引き離され、人間に捕まりました。

 

 

4.ジェシーという少年

 

場面は変わり、主人公の少年ジェシーは、観光地の客を騙し、物乞いをします。

観光客向けのレストランで、客の食べ残しをテーブルから拝借します。

ジェシーは同じ年頃の男の子と一瞬目が合います。

家族に囲まれた彼を羨ましがる気持ちと自分は何なのだろうという哀れな気持ちがありました。

トリュフォー監督の “大人は判ってくれない” のラストシーンのような、ジェシーの不安そうな顔を観客に見せています

ジェシーの母親は6年前にジェシーの目の前から姿を消しました。

彼は捨てられました。

それでも子供というのは親を悪く思わないんですね。

親が自分を捨てたと認めることは、自分が惨めになるから、自分の存在を否定することになるから絶対に認めることができません。

それでも、心の奥底では深く傷ついています。

彼は孤児院で育てられ、脱走を繰り返し、非行に走っていました。

犯罪を繰り返しながら、悪友に囲まれて生活しています。

ある夜、警察に追われたジェシーと仲間は水族館に逃げ込みます。

水族館の観覧席をカラースプレーで落書きして、ジェシーは埋められない空虚さを満たします。

そこで見つけた1頭のシャチに偶然出会います。

その巨大なシャチに見とれてしまい、警察に捕まります。

裁判ののちに少年院に送られるところ、水族館の落書き消しだけで済みました。

ジェシーのことを親身になって世話をする黒人警官のドワイトが迎えにきました。

 


ドワイト:

「幸運にもお前は裁判を受けずに済む」

「あのペンキを落とすだけでいい」

「それが条件だ。文句があるか?」

ジェシー:「あるよ」

ドワイト:

「なぜパークに入ったんだ? 素直に答えてくれ」

「またここを脱走したら二度と助けんぞ」

「今度は少年課に回され、裁判にかけられる」

「まだ未成年だから、少年院の独房送りだ」

「いいかい、里子に行く話は壊れていない 先方もOKだ」

ジェシー:「だから?」

ドワイト:「つまり、里親はとても子供を欲しがってる」

ジェシー:「どうしよう?」

ドワイト:

「君はまだ幼いし、チャンスだと思うよ」

「でも大きな期待は持つな」

「少しだけだ」

「分かったな?」

「この件に関して何か質問は?」


 

彼の周りの大人たちはすごく優しいんです。

彼の境遇を分かっていて手助けしたり、里親を提供したりと、ジェシーを救おうとしています。

 


ジェシー:「ママから何か?」

ドワイト:「まだママのことを?」

ジェシー:「元気でいるのかな」

ドワイト:「この6年、連絡がないんだ」


 

ジェシーは母親が迎えに来るのをずっと待ち続けています。

母親に捨てられたというのを無意識に持ち続けているジェシーは、社会に対して敵意をもっていました。

自分を捨てた母親をそのまま拡大して、周りの人間をすべて敵とみなしていました。

母親に存在を認めてもらえず、自分に劣等感を持ってしまい、あらゆる人が信用できなくなっていました。

母親が迎えに来てくれるとジェシーは信じています。

そう思わないと、ジェシー自身の存在が消えてしまうからです。

自尊心が空っぽになってしまうからです。

ジェシーの心は危機的な状況です。

 

 

5.知らない里親たち

 

そんなジェシーに里親の応募があり、仮契約でいっしょに住むことになります。

里親と初めての顔合わせです。

 


アニー:「ハイ、ジェシー」

グレン:「待っていたよ」


 

グレンはジェシーに手を差し出します。

ジェシーは嫌そうに手を伸ばして握手しました。

 


グレン:「荷物、運ぼうか?」

ジェシー:「ノー」


 

ジェシーは強く拒否しました

 


アニー:「家に入って夕食にでもしましょう」


 

グレンとドワイトは手続きの書類にサインをします。

 


グレン:「この子の場合は仮の契約だ」


 

家に馴染めるかどうか、性格がどうなのか、品定めという感じです。

里親の夫婦、グレンとアニーはとても優しい夫婦です。

 


アニー:「コンピューターが好き?」

ジェシー:「ノー」

アニー:「教えてあげてもいいわ」

ジェシー:「興味ないよ」

グレン:「おれもだ」


 

人との関わりを拒絶します。

ジェシーは準備されていた夕食を、野良犬のように食いつきます。

 


グレン:「君の好きなことは?」

ジェシー:「食事中、話さない事」


 

グレンとアニーをつっぱねるジェシー。

グレンとアニーはどうしようもないなという感じで顔を見合わせました。

 

 

6.感じたことがない暖かさ

 

ジェシーは自分の部屋に案内されました。

 


グレン:「君の部屋だよ」

アニー:「ここは眺めが最高」


 

夕日と海が見える温かな部屋でした。

ベッドの上にはきれいな服と新しいナイキのハイカットのスニーカー、そしてプレゼントが置いてありました。

 


グレン:

「君への歓迎プレゼントだ」

「あとで開ければいい」

アニー:

「着る物やソックスを少し買い揃えておいたわ」

「ブルーが多いけど、好きな色だと聞いたから」

「着てみて気に入らなければ、取り替えるわ」

「よく来てくれたわ、ジェシー」


 

グレンとアニーの心遣いに驚き、困惑しました。

どういう態度を取ればいいのか、わからないのですね。

ジェシーにとって、とても温かく最高の環境です。

ジェシーはリュックからハーモニカを取り出し、困惑した気持ちを落ち着かせました。

次の日、新しく買ってもらっていた自転車に乗って、水族館にペンキ消しに行きます。

管理人のランドルフを訪ねました。

 


ランドルフ:「絵描きが戻ってきたな、ようこそ」


 

そこで、シャチに再会します。

 


ランドルフ:

「体重は3.5トン」

「アゴは強力で骨をかみ砕く」

「ウィリーに近づくと危険だ」

「ちょっかいは出すなよ」


 

あの巨大なシャチはウィリーという名前でした。

会場では調教師のレイがアシカショーをしていました。

ジェシーは調教師とアシカの触れ合いを見て、心を和ませます。

ウィリーも会場に移動します。

 


レイ:「お絵かき坊やね」

ジェシー:「まあね」

レイ:「観覧室を汚したわ」

ジェシー:「ごめんね」


 

反抗した目つきで言いました。

 


レイ:「ウィリーが好き?」

ジェシー:「好きだよ」

レイ:

「ウィリーは人に懐かないわ」

「変わってるの、特別にね」

ジェシー:

「だから?」

「僕もそうさ」


 

夕方、うめようのない寂しさからハーモニカを吹いています。

そこにグレンがやってきて、キャッチボールに誘います。

 


グレン:「野球は?」

ジェシー:「野球?」

グレン:

「キャッチボールでもどうだ?」

「中学から使ってるグラブだ」

「ピシッと音を立てて、かっこよく受けたんだ」

「受けやすい形にへこんでるだろ?」

「やろうぜ?」

ジェシー:「看守としての給料は?」

グレン:

「看守?」

「君の監視ですごい給料をもらってるさ」

「君はでかい金脈だ」

「300歳の時、退職金は100万ドル」

「だから協力してくれ」

「まず、君のために規則を作れと言われている」

「だが、俺自身規則破りが得意だからね」

「君はどんな規則がいい?」

ジェシー:「僕に聞くの?」

グレン:「規則に詳しいだろ?」

ジェシー:「知らないよ」

グレン:

「よせよ、少年院で経験してるだろ?」

「言ってくれ」

ジェシー:

「ええと、分かった」

「第1の規則は、毎週お小遣いをくれる事」

グレン:

「5ドルだ」

「次は何?」

ジェシー:「さあね、考えるよ」

グレン:

「毎晩10時までにベッドに入れ」

「朝食の時間には起きろ」

「毎晩7時には家に帰る事」

「だれかに断らずに姿を消すな」

「居所を知りたい」

ジェシー:「分かったよ」


 

 

 

7.寂しいウィリーとジェシーの出会い

 

次の日、観覧室のペンキ消しをやり終えたジェシーはまたハーモニカを吹きます。

その悲しい寂しい音色に同調するかのように、ウィリーが姿を現しました。

ウィリーは楽しそうな鳴き声でジェシーに寄ってきました。

シャチは水中からも地上の音を聴くことができます。

水中からじっとジェシーを見つめました。

ウィリーは嬉しそうに背面ジャンプをして、歩いているレイに水しぶきをかけました。

それを見たジェシーは見たことのない笑顔で大笑いします。

 

 

8.この人たちは安心だろうか?

 

 


ジェシー:「人をからかっているみたい」

レイ:

「そうね」

「誰も芸をさせるのは無理だわ」

「頭はいいんだけど、ウィリーは乱暴よ」

レイ:「好きなの?」

ジェシー:「うん」

レイ:「よかった、手伝って欲しいの」


 

ジェシーはウィリーのえさの準備を手伝います。

 


レイ:

「これは傷物、見て、これはいい魚よ」

「悪い魚、いい魚、悪い魚」

「毎日こうしてウィリー用に仕分けるの」

ジェシー:

「ウィリーは海の殺し屋?」

「僕らを殺す?」

レイ:

「いいえ、シャチのエサは主に魚よ」

「時々イルカも食べるわ」

「それに鳥とか、サメもね」

「一番の好物はサケよ」

「人間にとってのチョコと同じ」


 

ジェシーは夜、家を抜け出しウィリーのところに行きます。

足を滑らせ頭を打ったジェシーは気絶したまま、水中に落ちてしまいます。

沈むジェシーをウィリーが鼻で担ぎ上げて、プールサイドまで運びました。

月の光が反射した水に揺らめき、そっとジェシーを運ぶ、静かで神秘的なシーンです。

飲み込んだ海水を吐き出して、意識を取り戻したジェシー。

 


ジェシー:「命の恩人だよ」


 

ランドルフの家で体を温めます。

 


ランドルフ:「助かったのは特別の理由だ」

ジェシー:「何なの?」

ランドルフ:「君の血筋のせいか、先祖に偉人がいたとか」

ジェシー:「まさか」

ランドルフ:「ただ幸運な少年というだけか」

ジェシー:「ウィリーと僕はお互いを認め合ってる」

ランドルフ:「なるほど、だから助けた?」

ジェシー:「なぜ、みんなウィリーを怖がるの?」

ランドルフ:

「やつは人間嫌いだ」

「君はなぜそばへ?」

ジェシー:

「別れを言いに」

「仕事も終わるし、別れたくないけど」

ランドルフ:

「ウィリーの目を見た?」

「あの目が星を発見した」

「人間が地球に現れる前にね」

「魂ものぞける目だ」

「ウィリーはレイや俺を見ない」

「だが君を見てる」


 

周りから見て、不安で攻撃的で怯えてるものは異質で怖いものなんですね。

いつのまにか壁ができてしまう。

そうなってはお互いに心を通わせることができません。

ジェシーは不安ながらもグレン、アニー、ランドルフ、レイと距離を少しずつ縮めてお互いのことが少し分かりました。

そうやって段々と防御の構えを下ろしていくんですね。

家に着いた時、グレンとアニーは心配して起きていました。

 


アニー:

「どこにいたの?」

「びしょ濡れね」

ジェシー:「働いてた」

グレン:「夜遅く家を抜け出しペンキ消しか、信じられん」

ジェシー:「ヘマして水槽に落ちたんだ」

アニー:「シャチの水槽に?」

グレン:「何の事かだれか説明してくれないか?」

ランドルフ:

「ランドルフです。パークでジェシーの監督をしてます」

「いろいろ手伝ってよくやってます」

「だから夏の間、この子に働いてもらいたい」

「バイト代も少し払います」

「どうです?」

ジェシー:「僕も働きたいよ」

グレン:「好きな物でも見つけた?」

アニー:「昼間だけよ、夜は抜け出さないで」

ジェシー:「いいよ、約束する」

グレン:

「これから正直に言えよ」

「私達にじかに頼むんだ」

「遅いから息子はすぐ寝ろ、家に入って」

ジェシー:「息子じゃない」

グレン:「分かってる」


 

 

 

9.自分の居場所はどこだろう?

 

朝、水族館に行くとウィリーが網で動けなくされて無理やり検査をされていました。

不安そうに鳴くウィリーはジェシーの姿を悲しそうに見つめていました。

ジェシーはこっそりとロープを解き、網からウィリーを救い出しました。

 


ランドルフ:「見てたぞ」

ジェシー:「だから?」

ランドルフ:

「いいんだ」

「ウィリーは喜んでる」


 

ジェシーは魚市場に行き、ウィリーのために魚をもらいに来ました。

ジェシーが誰かのために、行動するのは初めてのことではないでしょうか。

そこで悪友ペリーと会います。

 


ペリー:「ジェシー、どうした? 新しい服で仕事か?」

ジェシー:「他の人と」

ペリー:

「よかった」

「警察に捕まったのに...」

ジェシー:

「罰はペンキ消しだけさ」

「今は働いてる」

ペリー:「俺は手配中?」

ジェシー:「いいや」

ペリー:

「よかった」

「お前だけ捕まって悪かったな」

ジェシー:「いいんだ、君はどこにいる?」

ペリー:

「デートンの下で仕事だ」

「警察を見張るとか」

「世話してやるぜ、お前さえよけりゃ」

「考えておくよ」

ペリー:「チャンスだぞ」

ジェシー:「それじゃあまた、戻らないと」


 

 

 

10.距離を縮めて

 

ジェシーはウィリーに魚をあげて、恐る恐るウィリーの鼻を撫でました。

 


ジェシー:

「ゴムみたいだ。皮がむけてる」

「でも美しい動物だね」

「じゃあ、ウィリー、もう行かないと...」

「残った魚はまた後にしよう」


 

ジェシーは最初、ウィリーに噛まれるかもしれないと考えていました。

実際には、ウィリーはジェシーに体を触ることを許しました。

その感触はゴムのように柔らかいものでした。

触れ合いとはこの誤解を解くためにするものだとこの作品は教えてくれます。

去っていくジェシーにウィリーは静かに付いていきます。

 


「ジェシー:いっしょに行きたい?」


 

ウィリーはお腹を見せてヒレを高く空に上げました。

 


ジェシー:

「僕もできる」

「もう一方のヒレでもやれるかい? できる?」


 

ウィリーはジェシーを見つめて、反対のヒレを高く上げました。

 


ジェシー:

「振れるかい?」

「ダンスは踊れるかい?」


 

通りかかったランドルフとレイはその光景を見ていました。

 


ジェシー:「回れるかい? 目が回る」

レイ:「エサをやれる?」

ジェシー:「やれるよ。簡単だ」

レイ:

「海ではシャチたちは家族で暮らしてるの」

「生涯、母親から離れずにね」

ジェシー:「絶対に?」

レイ:

「一つの社会を作ってるわ」

「50頭くらいが群れをなして、生涯一緒のことも...」

ジェシー:「海で見た?」

レイ:「父は海軍で音波探知機で研究したの、わたしも一緒に」

ジェシー:「ここでも研究を?」

レイ:「ここじゃ調教師だけど、海へ出たいの」

「海洋生物学の学位も取るわ」

ジェシー:「あなたがいなくなったら、ウィリーはどうなる?」

レイ:「チャーリーはまだ大学生だから...」

ジェシー:「チャーリー?」

レイ:

「彼氏よ」

「彼女はいる?」

ジェシー:「いると思う?」

レイ:「聞いただけ」


 

ジェシーは自分以外の人とコミュニケーションをとり始めます。

人が関心を示している事

将来の夢

現在の状況

何を思って生きているのか

こうして人はお互いのことを知って親しくなります。

他人を身近に感じ始めます。

ジェシーはレイに調教のやり方を教えてもらいました。

ジェシーは愛情の受け取り方がわかったのだと思います。

ジェシーはランドルフに一冊の本を渡されます。

 


ジェシー:「何なの?」

ランドルフ:

「君に教えたくてね」

「それは父からもらった、”ハイダ”だ」

「わたしの部族だよ」


 

ランドルフはネイティブ・インディアン出身なんですね。

彼もある意味マイノリティの民族でアメリカ社会の中では弾かれ者なんですね。

この作品ではこのように個と共同体とは何かと教えてくれます。

 


ランドルフ:

「300年前、水には魚が満ちていた」

「だから食料集めは週1日だ」

「十分に食えた」

ジェシー:「仕事は何をしたの?」

ランドルフ:「トーテム彫りや音楽を作ったり、赤ん坊を育てたり」

ジェシー:「素敵だね」

ランドルフ:

「”スカーナ” シャチのことだ」

「大昔、ナチクラネーというハイダ族の男がいた」

「戦士たちと魚をとりに出かけ、彼だけ道に迷った」

「道を探すうち激しい嵐になった」

「ナチクラネーは避難する場所がなかった」

「カワウソが彼を安全な水底に連れて行った」

「嵐の後、ナチクラネーはまた仲間を捜したが、丸太を見つけただけだ」

「彼は丸太に偉大動物を彫り、海へ運ぼうとした」

「だが海ではなく池を見つけた」

「その彫刻は水底に消えてしまった」

「ナチクラネーは座って待ち続けた」

「知らない祈りを唱えながら...”サラナ・エイヨ・エイシス”」

ジェシー:「”サラナ・エイヨ・エイシス”」


 

つぎにシーンが変わり、ジェシーは物語の感動をアニーに伝えました。

 


ジェシー:

「祈り続けたの」

「気味の悪い言葉でね」

「初めて聞いたんだ」

「やがて奇妙な事に水が吹き出し始め、すごい事が始まったんだ」

「まず彫刻が飛び出してきた」

「だと思ったら、本物のシャチだ」

「シャチは海まで飛んでいった」

「ナチクラネーはシャチを追って海岸へ行き、シャチに乗って家へ帰った」

「どう?」

アニー:

「素敵よ」

「これは何?」


 

アニーはジェシーが手にもっていたものを指さします

 


ジェシー:

「ウィリーと同じシャチだ」

「インディアンの古い彫刻さ」

アニー:

「すばらしいわ」

「さあ、もう眠るのよ。いい夢を見て」


 

ジェシーはアニーとも打ち解け始めました。

感動を人に伝えることで、愛情を与えることができるようになったのだと思います。

こうやって人と人は距離が近くなって行くんですね。

 

 

11.僕に必要なものは何か?

 

ある夜、ウィリーは海に向かって鳴いていました。

 


ジェシー:「どうした? なぜ悲しい声を出す?」


 

近くに海まで来ていた家族に向かって鳴いていたんですね。

ジェシーは家族がいないウィリーの気持ちが誰よりも強くわかります。

ジェシーはいつも自転車で移動しているんですが、その小さな自転車の乗り方でジェシーの心が分かるんですね。

丘を降り駆け抜け水族館へ颯爽と乗って行きます。

誰かと結びつきたいという気持ちの強さや性急さ、彼の幼さが痛いほど分かります。

とても映画らしいです。

ジェシーはグレンが働いている自動車の修理工場へ弁当を届けます。

グレンの机にアニーの写真と付け加えられた自分の写真を見つめます。

悪い気はしていないようでした。

クラシックカーの写真を見て興味を示します。

 


ジェシー:「わあ、かっこいい車だ。すごいな」

グレン:「気に入った?」


 

クラシックだ、一番愛してた

1年半かかってオリジナル通りに復元した

だが手放した

 


ジェシー:「なぜ?」

グレン:「人生で最高の愛は一つしか持てないという事さ」


 

お金も時間もいちばん大切な事に使うと決心したということでしょうか

 


ジェシー:「あなたとアニーは喧嘩する?」

グレン:

「するよ。大体1ヶ月おきにやってるね」

「なぜ?」

ジェシー:「聞いただけ」


 

もしかすると、ジェシーは幼い頃に両親が喧嘩していたのが怖かったのかもしれません。

コンピューターにもキャッチボールにも興味を示さなかったジェシーが勇気を持って自分からコミュニケーションをとりはじめている所に感動を覚えます。

 


ジェシー:「おや、これは?」

グレン:「俺と母親だ。大昔だよ。君の年頃だ」

ジェシー:「お母さんはどこ?」

グレン:「実はもう死んだ、2年前にね」

ジェシー:「僕のママは迎えに来る」

グレン:「本当?」

ジェシー:「もうじきだ」

グレン:「それは変だな。話が違うな」

ジェシー:「僕を信じない?」

グレン:「そうじゃない。ただ俺の聞いた話じゃ...」

ジェシー:「お役人はたちは何も知らないよ」


 

ジェシーを哀れに思ったグレンはジェシーの頭を撫でようとしますが、ジェシーは拒否しました。

 


ジェシー:「ママは今、都合が悪いけどきっと迎えに来る」


 

それほど子供と母親の結びつきは強いことがわかります。

どんな母親であれ、子供にとって母親は自分が住む世界のようなものです。

受け入れられて当然だと本能的に誰しも思うのです。

いい解釈しかできません。

でないと自分の存在が否定されてしまいます。

 

 

12.本心を打ち明ける

 

ジェシーをめぐり、アニーとグレンは口論を始めます。

 


アニー:「あの子は?」

グレン:「いない」

アニー:「パークに? もう11時過ぎだわ」

グレン:

「分かってる!」

「...すまない」


そこにジェシーが帰ってきました。

 


アニー:「ジェシー、どこへ行っていたの?」

グレン:

「どういう事だ?」

「我々に断りなしに出かけるとは」

ジェシー:「僕を追い出せばいい、ここにはしばらく泊まってるだけさ」


 

ジェシーは2階の自室へ行ってしまいました。

 


グレン:

「あれは何だ?」

「やっと心が通じてまともになってきて、会話も交わせると思ったら...」

アニー:「何かおびえてるのよ」

グレン:「追い出したい」

アニー:「そんな事言わないで!」

グレン:「なぜ怒る?」

アニー:「あの子をどなるのはよくないわ」

グレン:「腹が立つ!」

アニー:「なぜか分かる?」

グレン:「なぜだ?」

アニー:「あの子を見ると自分の少年時代を思い出すから」

グレン:

「努力はした。できるだけの事はしたんだ」

「これは慈善か?」

アニー:

「そんなんじゃないわ」

「これは人間の問題よ」

グレン:「お前と二人きりで幸せだ」


 

ジェシーは2階から二人の会話を聞いていました。

ジェシーは二人からのプレゼントに添えてあった手紙を読みます。

 


手紙:「ジェシーへ 我が家へようこそ アニーとグレンより」


 

ジェシーはプレゼントの新しい野球のボールを手に取り、窓の外へ投げました。

ジェシーは自分がお荷物であるという事に傷つきました。

母親にも、グレンにも...。

それは自分が一番認めたくないことでした。

グレンもまた、ジェシーを家に迎え入れることの心の準備が足りなかったのだと思います。

仕事で疲れ、集中が足りなかったのもあると思います。

孤児院には愛情に飢えた子たちがたくさんいます。

彼らは引き取ってくれてありがとうという気持ちでは決してないのです。

守られて居心地のいい環境から何が起こるか分からない見知らぬ建物、見知らぬ人の所へ連れ出されることですから。

彼らを決して同情心で迎え入れてはならないのだと思います。

彼らには過去の自分と決別して、ここが安心だと感じるための時間が必要です。

割れた窓ガラスが今のジェシーの心の形のように思えて、胸が痛くなります。

ジェシーは反抗的だったのが一瞬にして消えました。

自分がまた捨てられるのではないかと不安になったんですね。

それほど捨てられた事が残酷に心にずっと突き刺さっています。

彼の心は限界に達していました。

ジェシーはベッドで泣き崩れます。

アニーとグレンが駆けつけます。

 


アニー:「ジェシー、大丈夫?」

ジェシー:「ただ怖かったんだ」

アニー:「何が怖かった?」

ジェシー:

「わからない」

「喧嘩してたね、怖かった」

グレン:

「大人は時々言い争う」

「でもだれも傷つきはしない」

「アニーもね」

「君もだ」

「分かってくれ」

ジェシー:「分かるよ」

グレン:「贈り物を開けたね」

ジェシー:「ありがとう」

グレン:「外へボールを探しに行こう」


 

ジェシーの勇気のある所は今の気持ちを正直にアニーとグレンに打ち明けた事です。

いろんな人との触れ合いの中で、相手もまた必死で生きていることを知り、気持ちを知ることができたからだと思います。

アニー、グレン、そしてジェシーが本音を言い合ったからこそ、お互いの距離が縮まったんだと思います。

それからグレンとアニーは粘り強くジェシーを見守ります。

今まで盗みをしていたジェシーは初めてウィリーのために、好物のサーモンを自分のお小遣いで買います。

自分以外の誰かのために、愛を貰えなかったジェシーが、今度は愛を与える側になります。

当たり前にもらえるはずの親の愛をもらえなかったジェシーが、愛に飢えて、周りを敵にしてきたジェシーが、今度は愛を与える側にまで成長しました。

 

 

13.それぞれの居場所

 

咥えタバコでペリーが現れます。

デートンといっしょにロサンゼルスに仕事を移るのでいっしょに行かないかと誘われます。

 


ペリー:

「さてと、おさらばだ」

「ロスへ行くんだ」

「デートンと俺は仕事仲間さ」

「お前も歓迎だ」


 

ジェシーはウィリーを見つめながら、

 


ジェシー:「ペリー、今は無理だ」

ペリー:

「よせよ、これは本格的な仕事だ」

「もうかるぞ」

「いいよ、好きにしな」

「これだ。向こうの住所だ、決心がついたらそこへ」

ジェシー:「分かった、さよなら」


 

キャメラはペリーの後ろ姿を写しました。

彼の将来を心配するようでした。

ジェシーはウィリーに話しかけます。

 


ジェシー:

「ヘイ、ウィリー、寂しい?」

「僕のママは困るよ」

「子供を放りっぱなしだからね」

「幼い頃別れたきりさ」

「今でもママが恋しいんだ」

「里親のグレンとアニーはいい人だよ」

「でも、なかなか慣れないんだ」

「波長が合わない、無理なんだよ」

「ホントだ、分かるかい?」

「お前も家族が恋しいか?」

「家族と会えるといいね」

「愛してるよ」


 

ジェシーはウィリーに芸を習わせ、水槽を大きくしてもらい待遇をよくしてもらおうと努力します。

ウィリーはジェシーに懐き、たくさん芸をするようになります。

しかし、人に慣れていないウィリーは大勢観客がいる本番のショーでは全く芸をしませんでした。

ウィリーは怯えていました。

水中をのぞく大勢の観客が観覧室のドアを叩きます。

まるでジェシーから見た外界と同じものです

ジェシーはとても落ち込みました。

自分の失敗だと思い、何もかも自暴自棄になります。

何をやっても自分には無理だと思ってしまいます。

 


レイ:「おびえたのよ」ジェシー:「いいや」レイ:「あなたのせいじゃないわ」


 

皆の大きな期待に答えられずに、もともと自尊心が少ないため自己否定してしまい、どうしてもそこから逃げ出したくなるんですね。

やけになっている所にグレン、アニー、ドワイトが慰めます。

ジェシーはゴミ箱を蹴ります。

 


ドワイト:「ジェシー、もっと蹴れ」

アニー:「ジェシー、あなたはとても勇敢だったわ、あんな大きな動物を扱って」

グレン:

「あのシャチは芸が嫌いなんだ、君はよくやった」

「やれる事は全部やってみたんだ」

アニー:

「自慢できるわ」

「あんな大勢の前ではみんなアガるのよ」

ドワイト:

「どうした?」

「失敗は...」

ジェシー:「全部ぶち壊した」

ドワイト:「運がないと?」

ジェシー:「いつも同じだ」

ドワイト:「里親とはいい感じじゃないか」

ジェシー:

「見た目だけさ、うんざりだ!」

「ママを捜しに行く」

ドワイト:「また路上で暮らすのか?」

ジェシー:「ママを捜すんだ」

ドワイト:

「そうか」

「州警察もFBIも捜せないんだ」

ジェシー:「僕が捜すよ」

ドワイト:

「分からず屋め」

「大人になれ、ママは戻らない」

「捨てられた日のことは?」

「もう忘れたのか?」

「ママは車で走り去った、振り返らず、バックミラーも見ずにね」

「母親と言えるか?」

「あの2人は友達になる気だ」

「ママよりもましだ、友達は役に立つ」

「もし一人で飛び出せば、結局ろくな事にはならん」

「分かった?」

ジェシー:「ほっといてくれ」

アニー:「ウィリーのことは残念ね」

ジェシー:「僕もだ」

アニー:

「でもね、動物は意外なこともするし、よく悪さもするわ」

「人間と同じよ」

「だから、許せるんじゃない? そうでしょ?」


 

ジェシーの枕元にはグレンがくれたボールとペリーの残したロサンゼルスの住所が書いたハガキが置いてありました。

ジェシーはどっちを取るだろうかという感じのシーンです。

運命の分かれ道が映像によって表現されています。

ジェシーはロサンゼルスのペリーの所へ行こうと決意し、夜に家を飛び出しました。

 

 

14.大切なもの

 

ジェシーはウィリーに別れを告げに夜の水族館に来ました。

ウィリーはジェシーに遊んでくれと言うように浮き輪を口に加え、近寄ります。

 


ジェシー:「何の用だ? 向こうへ行け、離れろ」


 

ジェシーは浮き輪を遠くに投げて、ウィリーを遠ざけようとしました。

ウィリーは浮き輪を取ってきて、また遊んでとジェシーに近づきました。

月の光にゆらゆらと照らされた美しい静かなシーンです。

 


ジェシー:

「僕と遊びたいのか?」

「今日はどうした? すっかり突っ張ってさ」


 

ウィリーは水しぶきをジェシーにかけます。そんなこと言うなよと言うように...。

 


ジェシー:

「やめるんだ、よせ!」

「もう、バイバイだ」

「この笛は二度と使わない」


 

ウィリーは悲しい声をあげました。

 


ジェシー:

「もうやめてくれ」

「旅に出る、カリフォルニアへ、楽しくやれよ」


 

ウィリーは海に向かって悲しく泣き始めました。

ジェシーは高台に登って、海の方を見るとそこにはウィリーの家族の姿がありました。

ジェシーは何を感じたのでしょう。

家族の暖かさを感じかけていたジェシーはアニーたちが恋しくなったのではないかと思います。

このあと、保険金目当てのために水族館の経営者に殺されかけるウィリーを救うために水族館から入江までの脱走劇がはじまります。

ウィリーを運搬中にトレーラーがぬかるみに足を取られ動かなくなります。

 


ランドルフ:

「押しても引いても動かない、お手上げだよ」

レイ:「助けがいるわ」


 

ランドルフとジェシーは万策尽きて諦めかけます。

ウィリーは干上がって瀕死の状態です。

ジェシーは初めてグレンに頼みます。

車内の無線で心から呼びかけます。

 


ジェシー:

「グレン? アニー?」

「いますか? おじさん?」

グレン:「ジェシーか?」


 

グレンとアニーはすぐに駆けつけました。

 


アニー:「ジェシー、無事なの?」

ジェシー:「大丈夫」

グレン:

「何があった?」

「俺のトラックでシャチを?」

ジェシー:「殺される」

アニー:「シャチが?」

ジェシー:

「だから海へ逃がす」

「おじさん、助けて! 助けてくれたら何でもする」

グレン:「何してくれるんだ?」

ジェシー:

「それがよく分からないけど」

「でもね、どうしてもウィリーを助けたい」

「分かる? お願いだよ 助けてくれない?」

「殺したくない」


 

攻撃的で周りを敵だと見なしていたジェシーが、自分のためではなく友人のために、グレンに必死で頼み込みます。

このグレンを演じているマイケル・マドセンはジェームス・ディーンのようなすごく哀愁ある目をしているんですね。

 


グレン:「座席の裏に鎖とウィンチがある、取ってこい」


 

ジェシーはグレンに抱きつきました。

 


ジェシー:「ありがとう」


 

アニーは涙目で二人を見つめていました。

 

 

15.鎖を断ち切る

 

ウィリーの脱走はジェシーの囚われた心からの脱走でもあるんですね。

自分で囲いをつくってしまった自分の中の檻からの脱出です。

捨てられて自分の存在がなくなってしまって、そんな瀕死の自分を守るため、敵だと錯覚した周りの人間から守るために作った自分の檻を壊そうとしています。

最後の入江を囲っている防波堤のウィリーの大ジャンプこそが、ジェシーにとっての大ジャンプです。

それは簡単なことではありません。

勇気が必要です。

高い高い堤防です。

とても飛び越えれるとは思えないほどです。

跳ね返されそうです。

衝撃で傷つきそうです。

もう立ち直れないかもしれません。

絶望するかもしれません。

でもジェシーは勇気を振り絞りました。

 


ジェシー:

「さあ、おいで」

「寂しくなるよ、僕のこと忘れないでくれ」

「君のママによろしく」

「愛している、君を信じているよ」

「君ならできる、自由になれる」

「やるんだ、やれ!」

「さあ、君ならやれる、飛び越えられる」

「君を信じてる、きっとできるよ」

「自由になれるんだ、跳ぶんだ」

「たった1回だけやればいいんだ」

レイ:「あの高さを飛べる?」

ランドルフ:「奇跡は起きる...」

ジェシー:「”サラナ・エイヨ・エイシス...”」

ランドルフ:「”サラナ・エイヨ・エイシス...”」

ジェシー:

「さようなら」

「寂しいな、またいつか会いたいよ」

「愛してる」


 

ジェシーはグレンとアニーに心からお礼を言いました。

 


ジェシー:

「ほんとにありがとう」

「さよなら、ウィリー」

アニー:「帰りましょう」

ジェシー:「うん」


 

そして、ジェシーも真に安心できる”家”に帰りました。

 

 

16.親とはどういうものか

 

ウィリーはジェシーと同じ境遇でした。

この作品ではジェシーとウィリーは鏡のような存在です。

家族と離れ離れになってしまったウィリーも母親に捨てられたジェシーもお互いの気持ちが分かるようです。

ジェシーはウィリーが悲しく鳴き、人間を敵視するのを見て、自分の姿と重ね合わせます。

自分の今の姿を客観的に見ることができるんですね。

自分とウィリーには何が必要なのか、大事な事は何か、それは触れ合いであり、安全な場所である事を知ります。

海の向こうでウィリーの家族が彼を待っています。

ウィリーは大切に思われている。

自分はどうかと考えれば、母には捨てられたけれど、里親のグレンとアニー、保護員のドワイト、管理人のランドルフ、調教師のレイなど沢山の人達が優しく接してくれているのを知ります。

それで、自分の安全地帯がどこなのか知ることができるんですね。

潰れかけた自尊心がもう一度芽生え、少し自分を好きになって、周りとの交流で他者を理解するようになり、心が変化していきました。

社会の愛を受け入れることができました。

敵としてではなく、一人ひとりの特徴をもった、自我をもった優しい人々だと知りました。

母親の罪は大きいです。

悲しいことに子供はそれがどんな親でも否定することができません。

でも、それを乗り越えないと自分を作り直すことができません。

”フリー”というのは愛してくれない母親への想いからの自由という意味です。

幼少期に子供を孤独にさせることは、暗黒に突き落とすのと同じくらいのことです。

単に側にいないというだけではなく、無関心、過干渉、条件付き愛情などもそうです。

条件のない愛情、そこに存在するだけでいいよという安心感を与えるような愛情でないとだめなのです。

そこに愛情がないと、子供は孤独なのです。

安心できないのです。不安でいっぱいなのです。

自分で身を守ろうとして社会への敵意が生まれます。

皆さんも野良犬や野良猫に近づくと威嚇されたことがあると思います。

彼らは身を守っているだけです。

際限のない不安から周りに威嚇し、強い誰かに迎合し、保護してくれそうな誰かに依存する、叶わないと分かると無気力になる。

自分自身を愛する気持ちが微小か皆無だからです。

自分の心を牢屋に閉じ込めている人は念じてください。

 


「私は決して悪くない、私は決して悪くない、私は決して悪くない。」

「私も生きていい、私も生きていい、私も生きていい。」


 

過去の親と決別してください。

かばう必要は全くありません。

当然もらえるはずの愛情を与えなかったんですから。

このことをはっきりと自覚しなければ、これから前には進めません。

そこからが本当のスタートラインです。

自分が恐れていた周りは、自分が怯えから作った幻想です。

勇気を持てば、自分の家は自分でつくり出せます。

所属を変えるということです。

そうやって人はどんどん所属を変えて行って、責任を担う役割を持つようになり、自分のアイデンティティを獲得して、大人に成長していきます。

あなたは自分の子供に対して、そこにいるだけでいいよという安心を与えていますか?

 


”I love you because you are just you."


 

そういった愛情を子供に与えることは何十億を与えるより価値のあることです。

いくらお金があっても、自尊心がなければ、自信がなければ、人を愛することができなければ、不幸せに生きていかなければなりません。

フリー・ウィリーは何度も見たくなるような清々しい作品です。

では、次の作品でまたお会いしましょう。

さようなら。

...THE END AND TO BE COUNTED..  

 

 

17.関連作品

 

『フリー・ウィリー2』ドワイト・H・リトル監督

『フリー・ウィリー3』サム・ピルスバリー監督

『フリー・ウィリー4』ウィル・ガイガー監督

『大人は判ってくれない』 フランソワ・トリュフォー監督

 

 


『マディソン郡の橋』PART1~「初めて言う言葉だ。これは生涯に一度の確かな愛だ」~

2023-09-17 05:55:44 | 日記

 

『マディソン郡の橋』

 

 

 

 

1.良識があるアメリカ映画

 

昨今、日本では不倫の話題が世間でにぎわっていますね。

この作品も不倫がテーマです.

意見は賛否両論分かれると思います。

『失楽園』のように、欲望のまま不倫して、やがて二人は勝手に死んでいく。

そんな身勝手な恋愛ではないんです。

『マディソン郡の橋』の主人公は、夫、子供の心情や将来のこと、悩んで悩んで葛藤します。

それが、アメリカ映画なんです。

認められないんですね。そんなこと、アメリカ人が、アメリカの社会が。

キリスト教が主な国ですから、倫理観がしっかりしています。

すべてのことが自由主義ではないんです。

あなたに観て頂きたいのは、主人公の心の中の葛藤、純粋な乙女のような恋心、不倫を知った子供たちの心の揺れ、そしてこのメロドラマの見事な演出です。

 

 

2.母の遺品から出てきたモノは...

 

冒頭シーンは、一人の老女の遺品整理から始まります。

ともに40歳代の長男のマイケルと長女のキャロリン、マイケルの妻、弁護士が立ち会っています。

母の遺言は自分の遺体を火葬して、ロズウェル橋に遺灰を撒いてほしいとありました。

 


マイケル:

「火葬だなんてバカな!」

「うちは火葬じゃない」

「父さんが前から夫婦の墓地を買ってある」

「母さんは頭がボケたんだよ」

弁護士:

「遺言は明確だ」

「”遺灰をローズマン橋から撒いてくれ”と」

マイケル:「何だって?」

キャロリン:「本当にママが書いたの?」

弁護士:

「ルーシー・ディレー二ーが立会人だ」

「彼女に聞くがいい」

マイケル:「ルーシー?」

キャロリン:「ディレーニー夫人よ」

マイケル:

「法的にはどうあれ、火葬にして灰を橋から撒くだと?」

「灰は散って墓参りもできやしない」

「絶対に反対だ」

「反キリスト教的だよ」


 

そして弁護士の預かり物の中から、写真が出てきます。

それは、白い屋根の付いた橋の前で少女のように笑顔で写っていた母フランチェスカでした。

 


キャロリン:「マイケル、見て」「見たことある?」「1965年の封付よ」


 

遺書を読み進めるキャロリンは母が不倫をしていたことを知ります。

彼女はマイケルを呼び寄せ、事情を知らせます。

 


キャロリン:

「マイケル、マイケル、ちょっとこっちへ」

マイケル:「どうした?」


 

しばらく二人で話した後、

 


マイケル:

「もし、よければ箱の中身は僕とキャロリンで調べる」

「君らの時間を取るだけだから」

「後で事務所の方に連絡します」


 

そして、兄弟二人だけで遺品の中の手紙を読みます。

 

 

3.母の不倫を知った子供たち

 

 


男:

「僕は必死に思い込もうとしています」

「僕らは別々の人生を歩むべき運命なのだと」

「なのに、カメラをのぞくとあなたが見える」

「記事を書き始めるとあなたを想って書いている」

「僕らはあの4日間のためにお互いに出会うために生きていたのです」

マイケル:

「やめてくれ、焼き捨てろ」

「聞きたくない、捨てちまえ」


 

しかし、気になってしょうがないマイケルは、

 


マイケル:「それから?」

キャロリン:

「こう書いてあるわ、”万一連絡が必要ならナショナル・ジオグラフィック誌へ”」

「カメラマンなのよ」

「”手紙はこれ限りと”」「そして、あとはこれだけ、”愛しています、ロバート”」

マイケル:「ロバート?呆れたな。殺してやる」

キャロリン:

「もう亡くなっているのよ、これを見て、彼の弁護士から」

「遺品はすべてママに残すって」

「ロバートの弁護士より、故人の希望で”遺体は火葬にしてローズマン橋から灰を撒け”と」

マイケル:

「やっぱり!入れ知恵されてたんだ」

「その変態野郎が母さんをたぶらかしたんだ」

「いつ死んだって?」

キャロリン:「1982年よ」

マイケル:

「じゃあ、父さんが死んで3年後だ」

「僕らが子供のころか?」

「信じられない」

「母さんはそいつと寝たのかな?」

キャロリン:「兄さんって一体いつまで子供なの?」

マイケル:

「だが、僕の母さんなんだぞ」

「あの母さんが...」

キャロリン:「何だっていうの?」

マイケル:「考えたくはないさ」

キャロリン:

「私に一言も言わずに...」

「週に1度は必ず電話で話してたのよ」

マイケル:

「父さんは知っていたのか?」

「封筒の中にまだ何か?」


 

そしてキャロリンが封筒の中を探すと1本の鍵が出てきました。

心当たりのあったキャロリンは母の大事にしていた木箱の鍵だとわかります。

その箱の中にはペンダントとカメラ、メモ、ドレス、3冊のノート、そしてマイケルとキャロリン宛の手紙が出てきました。

 

 

4.母の生き様を子供に伝えたい

 

 


キャロリン:「読んで」

マイケル:「読めよ」

フランチェスカの手紙:

「1987年1月、愛するキャロリン、マイケルも一緒かしら?」

「彼はこれを一人で読めないだろうし、理解できないでしょう」

「あなたたちを愛してることをまず言っておきます」

「元気なうちに心の整理と身辺整理をしたいのです」

マイケル:「だじゃれのつもりか?」

フランチェスカの手紙:

「貸金庫を開ければ、きっとこの鍵が見つかるはずです」

「子供に語りにくい話を、なぜ自分の死と共に葬らないのか」

「でも、年をとると恐れは薄れるのです」

「そして愛する人に知ってほしいと思うのです」

「この短い人生をどう生きたかを」

「どんな人間だったかを知ってもらわずに死ぬなんて、とても悲しいことです」

「親は子供を無条件で愛します」

「でも子供の親に対する愛は複雑」

「あなた達にも反抗期がありました」


 

マイケルとキャロリンは涙ながらに微笑みました。

 


フランチェスカの手紙:

「彼の名はロバート・キンケイド」

「写真家で1965年に雑誌の仕事で屋根のある橋を撮影しにここへやってきたのです」

「雑誌が出た時は町の人々は大得意」

「うちも購読を始めました」


 

キャロリンは箱の中から雑誌を見つけます。

 


キャロリン:「ローズマン橋よ」


 

そして、雑誌の中にキンケイドの写真を見つけます。

 


キャロリン:「彼がロバート・キンケイド?」


 

写真の中で彼が母のペンダントをつけているのを見つけました。

 


キャロリン:「ママのペンダントだわ」

フランチェスカ:

「どうか彼を恨まないで」

「すべてを知れば、彼を許し感謝さえ感じるはずです」

マイケル:「感謝?」

フランチェスカ:

「3冊のノートを読んで下さい」

「あれはイリノイ州の州祭りがあった週」

「キャロリンが子牛を品評会に出すので、あなた達は出かけた」


 

ここからシーンが過去に変わります。

 

 

5.出会いは突然に

 

 


フランチェスカ:

「出発は日曜の夜で、正直言って、私はほっとしました」

「帰るのは金曜日、4日間、たった4日間」


 

フランチェスカはオペラをかけて食事の準備をしています。

イタリア出身の彼女は少し、アメリカ人とは感性が違うんですね。

音楽でオペラを流したり、アイスティーを飲んだりします。

読書家でイェーツの詩集なんかも読んでいます。

食事のために部屋に入ってきた夫リチャードと17才のマイケルは

強く戸を締めます。

 


フランチェスカ:「静かに戸を閉めてっていつも言ってるでしょう」


 

続いて2階から降りてきたキャロリンはフランチェスカがかけていたオペラの曲をポップスの曲に変えます。

フランチェスカが家族のために我慢をしている描写です。

フランチェスカは食事前にお祈りをしてと言いますが、キャロリンは”お祈り”とだけ言って食事を食べ始めてしまいます。

キャロリンは今、反抗期なんですね。

フランチェスカは食事を作り終えて一息して、家族が食べるのを見守ります。

そして食事をする家族を見ながら、微笑みます。

でも、どこかさみしげな退屈そうな表情をします。

フランチェスカは家族の世話でとても忙しい日々を送って過ごしています。

家族を旅行に見送ったフランチェスカは、好きなオペラをかけて一人の時間を満喫します。

のんびり羽を伸ばしながらも、家の片付けなどをしていました。

そして小休憩で軒先でアイスティをひとり飲んでいると、1台の車がやって来ました。

ワシントンのカメラマンのロバート・キンケイドです。

彼は紳士的な優しい雰囲気が漂っていました。

 


ロバート:「どうやら道に迷ったらしいです」

フランチェスカ:「アイオワで間違いない?」

ロバート:「ええ」

フランチェスカ:「じゃあ、大丈夫よ」

ロバート:

「橋を探してるんです」

「屋根がある橋が近くに?」

フランチェスカ:「ローズマン橋?」

ロバート:「それです」

フランチェスカ:「じゃあ近いわ、3キロ先よ」

ロバート:「どっちへ?」

フランチェスカ:「そっちよ、カターの角で左へ」

ロバート:「カター?」

フランチェスカ:

「カター農場よ」

「小さな家だけど、ほえつく黄色の犬がいるわ」

ロバート:「ほえつく黄色の犬...」

フランチェスカ:

「そのまま真っ直ぐ行くと道が二股に分かれているの」

「数百メートルほど先よ」

ロバート:「二股はどっちへ?」

フランチェスカ:

「右よ。それから...」

「違ったわ、ごめんなさい」

「ピーターソンの所を、ピーターソン農場よ。その先の古い校舎を左へ」

「道に名前があれば楽なのに...」

ロバート:「そうですね」

フランチェスカ:

「案内しましょうか?」

「それとも説明する?」

「どっちでもあなたのいいように」

ロバート:「でもご迷惑では?」

フランチェスカ:

「いいえ、アイスティを飲んで一息入れようと...」

「靴を履くわ」


 

ロバートはにこやかにフランチェスカの後ろ姿を見つめます。

そして、フランチェスカは道案内のため車に乗り込みます。

 

 

6.屋根付きのローズマン橋へ

 

 


ロバート:「それで?」

フランチェスカ:「出て右に曲がるの」

ロバート:「出て、右へ」


 

時折、カメラがフランチェスカの視線に変わるんです。

それがフランチェスカの興味や心情などを伝えていて、見ているこちらがドキドキします。

すばらしい演出です。

 


ロバート:「アイオワの匂い、この土地独特の香りがします」

フランチェスカ:「そう?」

ロバート:

「言葉では言えないが、土の匂いです」

「肥沃な大地の匂い」

「生きてると言うか...」

「感じない?」

フランチェスカ:「さあ、住んでると...」


 

フランチェスカが田舎に飽き飽きしているのがよくわかります。

 


ロバート:

「分からない?」

「いい匂いです」

フランチェスカ:「ワシントンの方?」

ロバート:「20才過ぎまで暮らして、結婚してからシカゴへ」

フランチェスカ:「それで今はワシントン?」

ロバート:

「離婚してね」

「いつ結婚を?」

フランチェスカ:「大昔よ」

ロバート:

「大昔か」

「ご出身は? 失礼かな?」

フランチェスカ:

「いいえ、いいのよ」

「私の出身はイタリアなの」

ロバート:

「イタリア?」

「イタリアからアイオワへ?」

「イタリアのどこ?」

フランチェスカ:「イタリアの東のバリよ。誰も知らない小さな町」

ロバート:

「バリ? 知ってます」

フランチェスカ:「まさか、本当に?」

ロバート:

「ギリシャで仕事があって、バリを通ってブリンディジへ」

「美しい所だったので、汽車を降りて数日滞在しました」

フランチェスカ:「美しかったので途中下車を?」

ロバート:「ええ、そうです」


 

ロバートはダッシュボードの中のタバコを取ろうとして、彼女の脚に少し触れてしまいます。

フランチェスカはロバートを少し意識するんですね。

そして、タバコを顔に差し出される時もびっくりしています。

タバコをもらったフランチェスカはタバコに火をつけてもらいます。

外から風が入ってきているので、火が消えないように、ロバートの体と手で風を防ぐために、ロバートは彼女の顔に近づくんです。

そういうのを何気に観客に見せる演出がうまいです。

いやらしくないんですね。

 


ロバート:「それで、アイオワには何年?」

フランチェスカ:「もう長いわ」


 

あまりその話はしたくないんですね。

フランチェスカは話題を戻します。

フランチェスカ:「本当に見知らぬ町に降りたの?」ロバート:「ええ」

そのローズマン橋への途中、2つの古い橋を渡り、やっとローズマン橋に着きます。

 


フランチェスカ:「あの橋よ」

ロバート:

「美しい!」

「写真になる」


 

周りはトウモロコシで埋め尽くされた綺麗な橋が現れました。

 

 

7.魅力的なロバート・キンケイド

 

フランチェスカは橋の隙間からロバートの姿をじっと見つめます。

 


ロバート:

「暑いですね」

「荷台に飲み物がありますよ」

フランチェスカ:「頂くわ」


 

フランチェスカは車の荷台に取りに行きます。

旅行カバンから下着が見えて、気になります。

フランチェスカは喉を潤している間にロバートを見失います。

ロバートは辺りの花を摘んで探していて、フランチェスカにプレゼントします。

 


ロバート:

「あなたに花を」

「女性に花を贈る、時代遅れかな?」

「感謝のしるしです」

フランチェスカ:「いいのよ、毒草だけど」


 

ロバートは驚いて花を地面に落とします。

フランチェスカは大笑いして、

 


フランチェスカ:

「冗談よ、ごめんなさい」

「本当にごめんなさい」

ロバート:「いじわるを言う趣味が?」

フランチェスカ:

「まさか、わたしったら...」

「すてきだわ」

「ごめんなさい」


 

このやり取りで二人の距離がグッと縮まります。

同時に素敵な音楽が流れてきます。

二人は家に戻ってきます。

 


ロバート:「本当に助かりました、ジョンソンさん」

フランチェスカ:「フランチェスカよ」

ロバート:「ロバートです」

フランチェスカ:「家でアイスティを飲みませんか?」

ロバート:「ええ」


 

 

 

8.刺激的な会話

 

フランチェスカはもらった花を花瓶に挿します。

 


ロバート:「毒草では?」

フランチェスカ:「ごめんなさい、なぜあんなことを言ったのかしら」

ロバート:「お子さんは何歳?」

フランチェスカ:

「17と16よ」

「皆変わっていく」

ロバート:

「それが自然の法則です」

「変化を恐れず、こう思うんです」

「すべて変化する、それが自然なのだと」

「かえって支えになります」

フランチェスカ:

「そうかもね」

「でも、私は変化が怖いの」

ロバート:「どうかな」

フランチェスカ:「なぜ?」

ロバート:

「イタリアからアイオワに来た」

「それは大きな変化だよ」

フランチェスカ:

「それはリチャードが軍隊にいて、彼とナポリで出会ったからよ」

「アイオワを知りもせず、アメリカに行けるんだと思ったわ」

「リチャードがいてくれたし...」

ロバート:「どんなご主人?」

フランチェスカ:「とても真っ当な人」

ロバート:「真っ当?」

フランチェスカ:

「そう、いいえ無論それだけでは...」

「働き者で家族を大切にして、正直で優しい」

「いい父親よ」

ロバート:「そして、真っ当?」

フランチェスカ:「ええ、真っ当」

ロバート:「アイオワに来てよかったわけだ」

フランチェスカ:「うーん、そうね」

ロバート:「正直に、誰にも言いませんよ」

フランチェスカ:

「こう答えるべきね」

「後悔はないわ」

「静かな所で人々は皆、親切」

「大体はその通りよ」

「静かなところで皆いい人たち、普段はね」

「病気とケガとか困っていると近所の人が来て、コーンや麦の収穫を手伝ってくれる」

「車はロックせず、子供を自由に遊ばせても、危険はない」

「本当にいい人たちよ」

「そのことはすばらしいと思うわ」

「でも...」

ロバート:「でも?」

フランチェスカ:「わたしが少女の頃描いていた夢とは違うの」

ロバート:

「この間、こんなことを、車を走らせてて時々書き留めるんです」

「昔の夢はよい夢」

「叶わなかったがいい思い出」


 

二人は顔を見合わせます。

ロバートは照れくさそうにして、

 


ロバート:

「何となくいい文句に思えてね」

「とにかく気持ちは分かります」

フランチェスカ:

「夕食をいかが?」

「町にはろくなものがないし、独りで食べるのよ」

「私も独り」

ロバート:

「そうだな、喜んで」

「家庭料理は久しぶりです」


 

フランチェスカは井戸水で体を洗うロバートの体をこっそり見ます。

フランチェスカは主婦から女性になってきているんですね。

フランチェスカは自分に言い聞かせます。

 


フランチェスカ:「気は確か?」


 

それでも、徐々にロバートに引かれていくんですね。

フランチェスカは楽しそうにイヤリングを付けました。

 

 

9.二人の夕食

 

 


ロバート:「手伝いましょうか?」

フランチェスカ:「手伝う? 料理を?」

ロバート:「男だってできる」

フランチェスカ:「いいわ」


 

座って黙々と食べるフランチェスカの家族と対照的に描かれてますね。

ロバートは近づき、手を伸ばしてフランチェスカの向こう側の食材を取るんです。

ロバートは独り身だからか、それを取ってくれと言わず、自分で取るような癖がついているのでしょうか

フランチェスカはロバートを意識してしまいます。

ロバートは車のビールを取りにドアを開け、優しく締めます。

 


フランチェスカ:「いい人...」


 

とつぶやきます。

夕食になり、ロバートの旅の話で二人は盛り上がりました。

 


フランチェスカ:

「今までで一番面白かった所は?」

「それとも、もう話し疲れた?」

ロバート:

「あなたは世間知らずだな」

「男は自慢話が大好きなんですよ」


 

フランチェスカは”世間知らず”という言葉に敏感に反応しました。

フランチェスカは田舎ぐらしで何も知らないことにコンプレックスを持っています。

フランチェスカの表情を見たロバートは、

 


ロバート:「すみません、バカなことを言ったかな?」

フランチェスカ:「ど田舎の主婦が相手では退屈じゃないかと」

ロバート:

「ど田舎? あなたの家ですよ」

「退屈だなんて」


 

ロバートは夜の散歩にフランチェスカを誘います。

 


ロバート:

「いい所だな」

「今までに行った一番いい所です」

「”月の金のリンゴ、太陽の金のリンゴ”」

フランチェスカ:

「イェーツね」

「”さまよえるアンガスの歌”」

ロバート:

「いい詩人です」

「リアリズム、無駄の無さ、官能性、美、魔力」

「僕のアイルランドの血に合う」

フランチェスカ:

「うちで何か飲みませんか?」

「コーヒーかブランデー」


 

フランチェスカは外に出たことで、急に罪悪感が芽生えました。

 


ロバート:

「フランチェスカ、大丈夫?」

「フランチェスカ、悪いことはしていない」

「お子さんにも話せる」

フランチェスカ:「そうね」


 

そう言って、ロバートのグラスを受け取り、乾杯しました。

 

 

10.子供たちの反応

 

 


マイケル:

「母さんを酔わせたんだ」

「無理やり犯されたんだ」

キャロリン:

「やめて、違うわ」

「素敵な人だわ」

マイケル:「すてき? 人妻を誘惑して?」

キャロリン:

「人妻を誘惑したからって悪人では」

「例えば、うちのスティーヴ」

「女に弱くて、いつも嘘ばかり」

「でもいい人間よ」

「夫としては落第」

マイケル:「そんなひどい目に?」

キャロリン:「いいのよ、別れないわたしが悪いんだから」

マイケル:「別れれば?」


 

キャロリンは母の気持ちが少し分かるんですね。

 

 

11.夜明けの語らい

 

 


フランチェスカ:

「質問してもいい?」

「なぜ離婚を?」

ロバート:

「僕は旅ばかり」

「なら、なぜ結婚したか?」

「戻る所が欲しかったんです」

「旅ばかりだと自分を見失う」

「ところが、僕は旅をしてる方が自分を見いだせた」

「世界中が僕の家」

フランチェスカ:「寂しくならない?」

ロバート:

「寂しさは感じません」

「世界中に友達がいていつでも訪ねられる」

フランチェスカ:「女のお友達も?」

ロバート:「僕だって僧侶じゃありません」

フランチェスカ:「でも、誰もいらない?」

ロバート:

「すべての人をほしいんです」

「人間が好きだ、皆に会いたい」

フランチェスカ:

「アイオワでは会うのはいつも同じ人ばかり」

「だからディレーニーさんとルーシーの不倫で町中大騒ぎ」

ロバート:

「よくわかります」

「こういう考え方のせいです」

「これは僕のもの、彼女は僕のものと手で囲ってしまう」

フランチェスカ:「独りぼっちが怖くない?」

ロバート:

「いいえ、全然」

「僕にも謎です」

フランチェスカ:「後悔はない?」

ロバート:「後悔?」

フランチェスカ:「離婚したことよ」

ロバート:「いいえ」

フランチェスカ:「家族がいなくても?」

ロバート:「それを選ぶ人間もいます」

フランチェスカ:

「自分の好きに生きるわけ?」

「他人はどうなるの?」

ロバート:「人間は好きです」

フランチェスカ:「特定の関係は避ける」

ロバート:「愛は同じです」

フランチェスカ:「違うわ」

ロバート:

「違うかもしれないが、悪いことじゃない」

「道を外れてもいません」

フランチェスカ:「誰もそんなこと...」

ロバート:

「アメリカ人の頭は家族礼賛の倫理に惑わされているんです」

「僕のような男にはそういうレッテル”家庭の幸せを知らず、世界をさまよう哀れなやつ”」

フランチェスカ:

「惑わされて家庭を持ったと言うの?」

「アフリカを知らなくても自分で人生を生きてるのよ」


 

フランチェスカは自分の人生を重ね合わせます。

 


ロバート:「離婚もできる?」

フランチェスカ:「まさか、何を言うの?」

ロバート:「すみません、言い過ぎました」


 

ここではお互いのアイデンティティを守っているんですね。

どちらも一歩も引けません。

 


フランチェスカ:「なぜそんな質問を?」

ロバート:「質問し合ってた流れでつい...」

フランチェスカ:

「私はただ話をしていたのに」

「何も分かってない単純な女だというような質問を」

ロバート:

「悪かった、謝ります」

「では、夜明けの橋を」

「失礼します」

フランチェスカ:「ごめんなさい」

ロバート:

「謝るのは僕です」

「あんな質問を...バカでした」

フランチェスカ:「せっかくの夜を」

ロバート:

「いいえ、楽しい夜でした」

「最高の夜です」

「あの散歩」

「それに楽しい話とブランデー」

「あなたはいい人だ」

「ブランデーはまた役に立ちますよ」

「もう一つ、フランチェスカ、あなたは単純じゃない」


 

ロバートはフランチェスカの生き方を尊重していたんですね。

芯を持った強い女性であることを。

そして、ロバートは出ていきます。

彼を追いたい時に夫リチャードから電話がかかってきました。

話もうわの空でロバートの方を見てを見送っていました。

一晩中話をして、夜が明けようとしていました。

 

 

12.もう一度会いたい!

 

眠れないフランチェスカはイェーツの詩を読みました。

また琴線に触れるような音楽が流れ、彼女は自分の首筋を触り、着ているローブを解き、夜風に体を涼ませます。

私はまだ、女として大丈夫かしらと考えているかのようです。

すごく哀愁が漂った、フランチェスカのかわいいシーンです。

夜明け前の綺麗な空が見える書斎でフランチェスカはメモを書きます。

それはロバートへの誘いのレターでした。

イェーツの詩に乗せて書いています。

 


フランチェスカのメモ:

「白い蛾が羽を広げる頃、また夕食にどうぞ」

「お仕事が終わった後、何時でも構いません」


 

そして車をローズマン橋まで走らせ、メモを橋に残します。

夜明け前、黄色い犬が並走する美しいシーンです。

フランチェスカが朝の畑仕事から帰ると、電話がなっていました。

ロバートからだと思ったフランチェスカは急いでトラクターから飛び降り、走って電話を取りました。

 


フランチェスカの電話の声:「ジョンソンです」

ロバートの電話の声:

「ロバート・キンケイドです」

「メモをありがとう」

「イェーツの詩も」

「読まずに先に撮影してしまいました」

「光を逃したくなくて」

「喜んで伺いますが、遅くなりそうです」

「ホリウェル橋を撮りたいので」

「9時すぎかな」

フランチェスカの電話の声:

「いいわよ、お仕事が第一ですもの」

「何か作っておくわ」

ロバートの電話の声:「それとも一緒にどうです?」

フランチェスカの電話の声:

「いいわ、橋の所までうちの車で行くわ」

「いい?」

「何時に?」

ロバートの電話の声:「6時は?」

フランチェスカの電話の声:「いいわ」

ロバートの電話の声:「それじゃ...」


 

フランチェスカはとても上機嫌になり、貯金箱のお金を取り、町に買い物に行きます。

そして、素敵なドレスを買いました。

ルーシーという女性の不倫が街中の噂になっています。

ロバートが食事をしているレストランにルーシーがやって来ます。

周りの客も店員も皆、不倫のことを知っているんですね。

白い目で彼女を見ます。

ロバートはルーシーに隣の席を譲ってあげます。

店員の態度も何しに来たかのように振る舞います。

 


カフェの店員:「それで、ご注文は?」

ルーシー:「いいえ、気が変わったので...」


 

ルーシーは店を出ました。

周りの態度にルーシーは悲しみ、車の中で一人泣きます。

田舎らしい、厳格な倫理観。排他的なところです。

そういう現場を見たロバートは、フランチェスカに連絡します。

もし、迷惑がかかるなら夕食はキャンセルしてもいいと言います。

フランチェスカはそれでも会いたいと言います。

 


ロバートの電話の声:

「変に取られると困るが、会うのはマズくない?」

「町でルーシーって人を見かけてね」

フランチェスカの電話の声:「聞いたのね」

ロバートの電話の声:「雑貨屋のおやじさんからね」

フランチェスカの電話の声:「彼は町の放送局よ」

ロバートの電話の声:

「僕の結婚よりその不倫に詳しくなった」

「君がマズいと思うなら、今夜は取り消そう」

「僕はそういう判断が下手でね」

「君を困った立場に置きたくない」

フランチェスカの電話の声:

「よく分かるわ」

「お気遣いありがとう」

「ロバート、でも会いたいわ」

「とにかく橋の所で会って、あとはなりゆきで」

「私は平気よ」

ロバートの電話の声:「分かった、じゃあ橋で」


 

PART2へつづく

 

 

 

 


『マディソン郡の橋』PART2~「初めて言う言葉だ。これは生涯に一度の確かな愛だ」~

2023-09-17 05:55:44 | 日記

 

『マディソン郡の橋』

 

 

 

 

 

13.運命の4日間

 

今度はホリウェル橋で会いました。

白い屋根の付いた美しい橋です。

そこでロバートは橋を背景にフランチェスカを撮りました。

照れた少女のようなフランチェスカが素敵です。

ロバートはフランチェスカの料理を手伝ったり、テーブルを整えたりして、フランチェスカにとても優しく接します。

 


フランチェスカの心の中:

「たった数分前、彼が使った浴槽」

「彼もここで体を洗ってた」

「とてもエロチックに思えた」

「彼のすべてが私にはエロチックに思えた」


 

そして、フランチェスカはドレスに着替えて来ました。

 


フランチェスカ:「何なの?」

ロバート:

「息が止まった」

「正直に言うとね」

「男なら皆、息を止めてうめく」


 

心が通じ合おうかというその時に、電話が鳴ります。

フランチェスカは迷いながらも電話に出ます。

それは近所の友人のマッジからでした。

彼女はロバートの体に触れながら、マッジと会話します。

そして、二人は恋人関係になります。

ここで電話の相手が夫でないのがいいんですね。

もし夫だったら作品の品が無くなりますね。

アメリカ映画のいいところです。

 


キャロリン:「どうしたの?」

マイケル:「外の空気を吸う」


 

キャロリンはマイケルなら当然そうなると思い、笑いました。

 


フランチェスカ:

「どこかへ連れて行って」

「あなたが行ったことのある所へ」

「地球の反対側へ」

ロバート:「イタリアは?」

フランチェスカ:「いいわね」

ロバート:「バリは?」

フランチェスカ:「汽車を降りて、それからどうしたの?」

ロバート:「駅を知ってるだろ?」

フランチェスカ:「ええ」

ロバート:

「向かいに日除けを掛けたレストランが...」

「アランチノを食わせる」

フランチェスカ:

「アラッチノよ」

「店の名は”ゼッポリス”」

ロバート:「そこでコーヒーを飲んだ」

フランチェスカ:「席は入り口の側?それとも教会に面してた?」

ロバート:「教会側だ」

フランチェスカ:

「私もそこに座ったわ」

「今日のように暑い日だった」

「買い物のあとで足元のいくつもの袋をゴソゴソ動かしてた」

「...話の続きを忘れたわ」

ロバート:「忘れていい」

フランチェスカの心の中:

「これからどうすればいいのか」

「彼はそれを読み、自分を捨てて、私を満足させてくれた」

「これが自分だと思っていた女はどこかへ消えた」

「私は別人となり、でも真の自分を見出していた」


 

フランチェスカはロバートに7歳の誕生日から身につけているペンダントをロバートに渡しました。

 


ロバート:「僕にはできない」

「一生を数日で生きることさ」


 

ロバートは彼女について来てほしいんですね。

これで終わりにしたくないんですね。

 

 

14.マイケルとキャロリンの心の変化

 

 


キャロリン:「どこへ行ってたの?」

マイケル:「酒場で飲んできた」

キャロリン:

「ベティに電話を?」

「しなさいよ」

マイケル:

「ルーシーの話を聞いた」

「ディレーニーと結婚した女だ」

キャロリン:「最初の奥さんが亡くなって?」

マイケル:

「その後、ルーシーと再婚した」

「ずっと不倫の関係だった」

「最初のかみさんは冷たくてね」

キャロリン:「つまり、セックスで?」

マイケル:「母さんは違った」

キャロリン:

「ワイルドな都会にあこがれてたけど、アイオワも相当なものね」

「酔ってるの?」

マイケル:「これからさ」


 

兄弟は母のことを想いながら楽しく会話しました。

 


マイケル:

「僕は結婚してから浮気をしたことはない」

「そりゃ思うけどね」

キャロリン:

「これからは?」

「僕も母さんのマネを?」

キャロリン:

「私はもう40女なのよ」

「20年間ひどい結婚生活を我慢した」

「”離婚はいけない、我慢しろ”と教えられたからよ」

「セックスでアフリカへ飛んだことなんか一度もないわ」

「ただの一度もね」

「なのに良妻賢母のあのママがチャタレイ夫人だった」

マイケル:

「僕は、父さんより僕が裏切られた気がする」

「これは異常かな?」

「一人息子は言うなれば、一家の王子って存在だ」

「王子を産んだ母親は性欲を持ってはいけないんだ」

キャロリン:「やはり異常よ」

マイケル:

「不幸なら、駆け落ちっていう道は?」

「先を読もう」

「ここまでは何て?」

キャロリン:「ママは彼を寝室へ連れて行った」

マイケル:「父さんの寝室?」

キャロリン:「いいわ、そこは飛ばして、ここから」


 

マイケルは酒瓶を一気に飲み、読み始めました。

 

 

15.失うことの恐れ

 

フランチェスカの心の中:「ロバートは横で眠ってた」「私は眠れなかった」「明日が来たら?」「彼は去り、新しく知った貴重ですばらしいものは消え去る」

朝、フランチェスカはいらだちながら、ロバートが朝食を食べるのを見ていました。

 


フランチェスカ:

「よく眠れた?」

「よかった」

「コーヒーまだいる?」

「一つ聞いてもいいかしら?」

「世界のあちこちにいる女たちとはどうしてるの?」

「時々は会うの?」

「どんどん忘れてしまうの?」

「時々は手紙を書くの?」

「どうするの?」

ロバート:「なんだって?」

フランチェスカ:「あなたの決めてるやり方を知っておきたいの」

ロバート:

「決めたやり方だって?」

「ひどいな」

フランチェスカ:「違うの?」

ロバート:

「決めるのは僕か?」

「夫を捨てないと決めたのは君だよ」

フランチェスカ:

「駆け落ち?」

「人間は好きだけど、特定な関係は嫌いな人と?」

「何の意味が?」

ロバート:「僕は正直に話した」

フランチェスカ:

「そうね、その通りよ」

「何も必要としない人だってことが分かったわ」

「じゃあ、なぜ眠るの?健康でしょ?」

「食べ物も要らないはずよ」

ロバート:「どうした?」

フランチェスカ:「世界中を家と呼べるような豊かな経験の方ですものね」

ロバート:「僕の経験を知りもせず...」

フランチェスカ:

「でも分かるの」

「孤独は謎だなんて言う人にここの暮らしが理解できる?」

「強がりばかり言って」

ロバート:「もうやめよう」

フランチェスカ:

「わたしは一生ここで考え続ける」

「今、あの人と一緒ならばと」

「彼は今頃、ルーマニアの農場の主婦の台所で、世界各地の女友達の話を聞かせてるのかしら」

ロバート:「何を言わせたい?」

フランチェスカ:

「何も言わないでいいわ」

「言う必要はないの」

ロバート:「とにかくもうやめよう」

フランチェスカ:

「いいわ」

「卵?それとも床でファック?」

ロバート:「僕は自分自身を恥じてもいないし、間違っていたとも思わない」

フランチェスカ:

「そういう人よ!」

「気分次第で傍観者で世捨て人でまた愛人にもなれる人!」

「我々は目をかけていただいた一瞬をありがたく感謝する!」

「孤独と恐れを感じないなんて人間じゃないわ」

「偽善者でウソつきだわ」


 

 

 

16.ロバートの本心

 

 


ロバート:「君が必要だとも」

フランチェスカ:「本当?」

ロバート:「だが叶わぬ望みだ」

フランチェスカ:

「だから抑えてるわけ?」

「お願い、ロバート、本当の気持ちを聞かせて」

「聞かないと気が狂ってしまうわ」

「正直に言って、どうしても聞きたいの」

「明日ですべてが終わってしまうんですもの」

ロバート:

「僕が君にこう思わせた?」

「僕が何度もこういう想いを経験していると?」

「そう思わせたのなら謝る」

フランチェスカ:「何を言いたいの?」

ロバート:

「なぜ僕は写真をつくるのか、その理由はここで君と出会うためだった」

「僕の今までの人生は君と出会うためのものだった」

「なのに僕は明日去る」

「君を残して...」

フランチェスカ:

「離さないで」

「どうすればいいの?」

ロバート:

「行こう」

「僕と一緒に」


 

そして、フランチェスカは旅の支度をします。

フランチェスカは悩み続けます。

 

 

17.板挟み、そして決断

 

 


ロバート:「行かないんだね」

フランチェスカ:「何度も何度も考えたけど、正しくないことだわ」

ロバート:「誰に?」

フランチェスカ:

「家族、皆に」

「町の噂に殺されるわ」

「リチャードは理解することができない」

「立ち直れないわ」

「誰も傷つけたことのない彼をそんな目に?」

ロバート:「それでも人は生き続ける」

フランチェスカ:

「100年以上もここに居着いた農家で、よそでは暮らせない人よ」

「それに子供たち」

ロバート:「もう大人で話すこともなくなったと」

フランチェスカ:

「話はしないけど、キャロリンはまだ16歳」

「今から男と女の関係を知る年頃よ」

「誰かに恋をして、いずれ誰かと家庭を持つ」

「そういう娘にどんな影響が?」

ロバート:「じゃあ、僕らは?」

フランチェスカ:

「分かってるはずよ、心の奥でね」

「今の気持ちは長続きしない」

ロバート:「そう、いい方に変わる」

フランチェスカ:

「この家からどんなに遠くに離れようと、私の頭にはいつも彼らのことがある」

「そして、その苦しみをあなたのせいにする」

「そして、すばらしかったこの4日間までバカな間違いに思えてくる」

ロバート:

「僕らが感じているこの気持ちを経験する人間は少ない」

「もう一心同体だ」

「多くの人は経験どころかその存在も知らない関係だ」

「それを諦めることが、正しいことだと君は本気で言うのかい?」

フランチェスカ:

「どういう選択をするかが人生よ」

「分からない?」

「そうでしょ?」

「女ならば結婚して子供を産もうという選択をする」

「そこから人生は始まり、同時に止まってしまうの」

「日々の些事に追われて、子どもたちが前進できるよう、母親は立ち止まって見守る」

「子供はやがて巣立っていって、さて、いよいよ自分の人生を歩もうとしても、歩き方を忘れてしまっている」

「そういう女にこんな恋が訪れるなんて」

ロバート:「でも、訪れた」

フランチェスカ:

「だから一生大切にしたいの」

「この気持ちのままあなたを愛し続けるわ」

「ここを捨てたらその愛は失われる」

「新しい人生のために過去を消し去れと言うの?」

「心の中の私達を支えに生きていくわ」

「分かってちょうだい」

ロバート:

「こんな恋を捨てるのか?」

「そう考えるのはこの家にいるせいだ」

「明日、家族が戻ったら考えが変わるかもしれない」

フランチェスカ:「どうかしら」

ロバート:

「僕はもう数日この町にいる」

「心を決めるのは先でいい」

フランチェスカ:「ロバート、苦しめないで」

ロバート:

「ここで別れるなんて」

「まだ時間はある」

「気が変わるよ」

「話し合えばきっと変わる」

フランチェスカ:

「その時はあなたが決めてね」

「わたしはとても...」

ロバート:

「一度だけ言う」

「初めて言う言葉だ」

「これは生涯に一度の確かな愛だ」


 

ロバートは出ていきました。

 

 

18.一心同体

 

もう一生会えないと思ったフランチェスカは走ってロバートを追いかけます。

そして、家族が帰ってきました。

目を真っ赤にしたまま、家族を迎え入れます。

 


フランチェスカの心の中:

「あなたたちが戻ってまた日常の暮らしになった」

「2日ほど過ぎると日常の雑事が彼への想いを紛らわせ、あの4日間を遠いものにした」

「安全なホッとする思いだった」


 

ある雨の降る日、フランチェスカは夫と町に買い物に出かけました。

フランチェスカは雑貨屋で買い物を先に終え、車に戻ってきました。

すると、通りの向こうにロバートの車が止まっています。

ロバートは車から降り、ずぶ濡れになって、フランチェスカを見つめました。

フランチェスカは決死の目つきでロバートを見ました。

そして彼は数歩歩み寄り、二人は見つめ合いました。

フランチェスカは少しだけ微笑みかけました。

さようならとでも言うように...。

そしてロバートは優しく微笑み返します。

ありがとうとでも言うように...。

ずぶ濡れのロバートはゆっくりまるで死んだかのような顔でまばたき一つせず、車のほうに振り返り、去っていきました。

何とロバートの無様な姿でしょう。

孤独を好み、寂しさや恐れがないと言ったロバートの哀れな姿。

あなたはきっとこのロバートの姿に胸を打たれることでしょう。

この微笑みだけの言葉のない会話のなかに、どれだけの想いが二人の間に伝わっていたでしょうか。

イーストウッドとメリル・ストリープの迫真の演技です。

後世に必ず残る名シーンです。

 

 

19.現世での別れ

 

フランチェスカはうなだれ、涙が止まりません。

そこに夫が帰ってきました。

 


フランチェスカの心の中:

「一瞬どこにいるのかを忘れた」

「彼はわたしをあきらめたというような足取りで、歩み去って行った」


 

ロバートの車をリチャードが追い越そうとした時、ロバートは割って入り、そのまま信号を待ちます。

リチャードの車はロバートの車の後ろに停車しました。

フランチェスカは一瞬も見逃すまいとロバートの後ろ姿をじっと見つめます。

 


フランチェスカの心の中:

「彼は物入れの方に手を伸ばした」

「8日前も彼はそうして、腕がわたしの脚に触れた」

「1週間前のわたしはドレスを買ってた」


 

ロバートはフランチェスカのペンダントをバックミラーに優しくかけました。

これからこのペンダントを君だと想って、独りで生きていくよと言っている風でした。

 


リチャード:

「遠くから来た車だ」

「ワシントン州」

「カフェで噂を聞いた写真家だな」


 

信号が青になりましたが、ロバートは車を進めません。

 


リチャード:「早く行けよ」


 

もう会えないと思ったフランチェスカは助手席ドアノブを強く握り、駆け出そうとします。

そしてドアノブを回転させ、今にもドアが開きそうでした。

リチャードはクラクションを鳴らしました。

その音でフランチェスカは我に帰りました。

 


リチャード:「出せよ」


 

ロバートはリチャードに促されるように、車を左折させました。

そのままリチャードは直進します。

ロバートが曲がる時、ロバートの顔が見えました。

フランチェスカはまばたきもせず、じっと見送りました。

フランチェスカはドアノブを握りしめていた手の力を抜きました。

 


フランチェスカの心の中:

「行かないと言ったわたしが悪いのよ」

「でも、行けないの」

「なぜ、行けないのか言わせて」

「なぜ、行くべきなのか言って」

「彼のあの言葉が聞こえた」

「”これは生涯に一度の確かな愛だ”」


 

リチャードは理由がわからず泣くフランチェスカを見て、

 


リチャード:

「どうした?」

「いったいどうしたんだ?」

フランチェスカ:「すぐ落ち着くわ、リチャード」


 

フランチェスカはロバートに対して、

 


フランチェスカ:「許して...」


 

と言いました。

家に帰るとフランチェスカはラジオの音量をあげて、部屋の隅で独り泣きました。

 


フランチェスカの心の中:

「沈黙がありがたかった」

「わたしは知った、愛は期待に答えぬことを」

「愛の謎は純粋で、しかも絶対的」

「ロバートと一緒になったら、愛は長続きせず、リチャードと別れたらその絆はたちまち消える」

「このことを家族に話せたら、話したら家族はどう変わってたか」

「あの美しさは理解されただろうか」


 

 

 

20.その後の生涯

 

 


フランチェスカの手紙の中:

「わたしとルーシーは親友になった」

「でもなぜか、あの話を打ち明けたのは2年後」

「でもルーシーといると安心して彼のことを考え、愛し続けられるように思えた」

「私達は町の噂など、気に留めなかった」

「お父様もね」


 

やがて年を取り病に伏すリチャードはフランチェスカに言います。

 


リチャード:

「フラニー、お前にはお前の夢があったんだろう?」

「それを与えてやれなかった」

「でもお前を愛している」

フランチェスカの手紙の中:

「お父様の死後、ロバートに手紙を書きました」

「でももう雑誌社を辞めていて、連絡先は不明でした」

「残されたつながりはあの日彼と行った場所」

「私は毎年、誕生日にその場所を訪ねました」

「ある日、彼の弁護士から手紙と包みが届きました」


 

そこにはロバートの遺品と彼女への手紙が入っていました。

愛用のカメラと、ロバートの著書”永遠の4日間”、彼のブレスレットとペンダントです。

本を開けると最初のページに、フランチェスカが夕食に誘ったメモが挟まれていました。

そして、最初のページには親愛なる”F”へ捧ぐと書かれていました。

ロバートの言葉”これは生涯に一度の確かな愛だ”は決してうそではなかったのです。

彼のブレスレットを身に付け、ずっと彼がかけていたペンダントをいたわるように優しく握りしめました。

ロバートの死を知ったフランチェスカ。

どんな想いでペンダントを握ったのでしょうか。

ロバートもまた、どのような気持ちで生涯を閉じたのでしょうか。

 


「昔の夢はよい夢」

「叶わなかったがいい思い出」


 

自分を納得させながら生きていたのだと思います。

キャサリンとマイケルは、母たちが飲んだブランデーを母たちが飲んだグラスで乾杯しました。

 


フランチェスカの手紙の中:

「彼を思わぬ日はありませんでした」

「彼が一心同体と言ったのは正しかったのです」

「私達は一体でした」

「彼なしでは長い歳月を農場で暮らせなかったでしょう」


 

この文で、子どもたちがロバートに”感謝”する理由が分かると思います。

この4日間があったからこそ、家族と向き合う決心がつき、ここの暮らしを我慢できたということです。

 


フランチェスカの手紙の中:

「あなたがほしいと言ったドレス」

「”ママが着ないから”と」

「でも笑わないでね」

「私にはウェディングドレスのように大切だったの」

「この手紙を読んで、火葬を望む理由が分かったと思います」

「老女のたわ言ではないのです」

「わたしは家族に一生を捧げました」

「この身の残りは彼にささげたいのです」


 

 

 

21.母への理解

 

マイケルは妻のもとに戻り、言いました。

 


マイケル:

「君は幸せかい?」

「それが僕の望みだ」

「なによりもね」


 

そして抱きしめました。

マイケルは母の気持ちを知り、妻が心配になったのでしょう。

面白いですね。

あなたは日常の生活に追われて、ついパートナーに対して単調で淡々としたコニュニケーションやスキンシップになってないでしょうか?

悪い言い方をすれば、自分の所有物のように、何も考えていないとお思いではないでしょうか?

すれ違いの始まりですね。

気にしてあげたいですね。

キャロリンは母の大切なドレスを着ました。

そして母に勇気をもらって、夫に連絡します。

 


キャロリン:

「あなた?わたしよ」

「元気よ、あなたは?」

「話があるの、今ここで」

「しばらくここで暮らすわ」

「いつまでかは...」

「何も怒ってないわ、スティーヴ」

「本当よ、怒ってないわ」


 

これがキャロリンの選択でした。

夫への愛情を再確認したのかもしれませんね。

 


フランチェスカの手紙の中:

「写真集はルーシーに預けました」

「興味があれば見て」

「わたしの言葉の足りない所は写真が物語るでしょう」

「それがアーティストの作品なのです」

「あなたたち2人を心から愛しています」

「恐れずに幸せを求めて」

「人生は美しいものです」

「幸せに、わたしの子どもたち」


 

そして、二人は心からの母の確かな気持ちを受け止め、ローズマン橋から遺灰を撒きました。

愛情をもって母をロバートの所に行かせてあげました。

 

 

22.愛のカタチ

 

フランチェスカは家族を傷つけず、思い出も美しいまま、この世を去りました。

ロバートを傷つけてしまったという罪悪感と彼についていきたいという抑圧を胸にしまいながら、ルーシーにだけは打ち明けて、生涯を閉じました。

あなたは今の妻や夫、恋人以外でこのような思い出がありますか?

過去にはあったという人はいるのではないでしょうか

それは今のパートナーや家族との愛情に負けず劣らず、輝くいい思い出なのではないでしょうか?

愛情ってなんて不思議なのでしょうね。

1つだけで存在するとはかぎらないですね。

あなたが人を愛した数だけ存在します。

一番大事な人だけれど、それをいい思い出のままにするという選択。

なんて人間は聡明であることか!

たった4日間だけ、彼女は自分のために生きました。

たった4日間だけですが、命をかけたこの恋愛が彼女のその後の人生に活力を与えました。

この4日間がなければ、その後の人生に耐えられなかったと言っています。

一方、ロバートもつらかったでしょう。

彼女を愛していたからこそ、苦しみながら人生を歩ませるのはかわいそうと思ったのでしょう。

恋愛とは相手が自分の一部分となる気持ちだと思います。

別離とはその一部分が離れることです。

こんな辛いことはありません。

フランチェスカはロバートのことを想わない日は1日もなかったと言っています。

雑誌の写真のロバートは首にフランチェスカのペンダントをつけていました。

ロバートも同じく、1日たりともフランチェスカを想わない日はなかったはずです。

若い人にはたくさん、恋をしてほしいと思います。

それがどれほど大切な思い出になるか、

年を経るごとに輝きは増すと思います。

人生を後悔しなくなります。

たとえ死期が迫っていても、あの思い出があるから、いい人生だったと思えるのです。

 

 

23.批判に耐えうるメロドラマの演出

 

そして、この作品のすごさはやはりその演出です。

 


☆遺品整理から始まるストーリー

☆遺言という形で母の生き様を伝えた事

☆長男から見た母の恋愛の反応

☆長女から見た母の恋愛の反応

☆子どもたちの現在の境遇と重なるところ

☆フランチェスカの自由を求める気持ち

☆フランチェスカの聴く曲

☆フランチェスカの視線で心情が分かるカメラワーク

☆家族とロバートのドアの閉め方の違い

☆田舎の人の排他性とまっとうな暮らし

☆家畜のいる家にいつもいる蝿

☆自家用に乗るトラクター

☆美しいローズウェル橋のラブロマンスの調和

☆家庭的な人妻と孤独で自由な男の対比

☆倫理観の象徴となっていた家庭的な食卓や寝室

☆フランチェスカとロバートに突き刺さる倫理観

☆妻に逃げられて、田舎でで暮らし続けるのは耐えきれないというリチャードへの思いやり

☆フランチェスカの誰も傷つけたくないという理性

☆4日間を後悔させたくないための決断の聡明さ

☆どしゃぶりの中、ずぶ濡れの哀れな姿のロバート

☆初老のロバートの哀愁がある白髪と顔のしわと体つき

☆ロバートがフランチェスカに去らせずに、自分から去っていったという優しさ

☆臨終のリチャードがフランチェスカに謝るシーン

☆名演技のメリル・ストリープとクリント・イーストウッド

☆大人になった子どもたちに気持ちを知ってほしいという母心

☆同じ境遇で苦しんでいるルーシーとフランチェスカの心の通い合い

☆恋人の代わりのペンダントと思い出のドレス

☆ローズウェル橋で死後二人はいっしょになるという演出


 

名シーンのオンパレードのような映画でした。

 

 

24.愛を追憶することの価値

 

これほど悲しみがジーンと長く続く作品はありません。

長編物語を見てきたかのような、ずっと続く寂しさと切なさです。

ロバートが言った貴重な経験、

 


「僕らが感じているこの気持ちを経験する人間は少ない」

「多くの人は経験どころかその存在も知らない関係だ」


 

このような貴重な恋を、若い人にたくさんしてもらいたい。

そして、パートナーや家族がいる人は昔を思い返してみてください。

そういった思い出を掘り起こしてみてください。

それを思い返した時、今の生活をより価値のあるものに変えていけると思います。

是非とも、この作品を観てください。

観た方はもう一度見返してください。

人生のステージによっても見え方が変わってくるので、何度でも観てほしいです。

長い間、お読みくださり、ありがとうございます。

それでは、また次の作品でお会いしましょう。

さよなら。