映画から自己実現を!

映画を通して 人間性の回復、嫌いな自分からの大脱走、自己実現まで。 命をかけて筆をとります。

『マイ・フレンド・フォーエバー』 ~「寂しさ」についての物語。救いたい、守りたい、そばにいたい。たった一人の大切な友達だから~

2023-10-30 05:26:34 | 日記


『マイ・フレンド・フォーエバー』

(原題:The Cure「治療法」)

~「寂しさ」についての物語。救いたい、守りたい、そばにいたい。たった一人の大切な友達だから~

 

 


0.はじめに

 

~主な登場人物~

エリック・・・主人公、12歳、母子家庭、虐待児
デクスター・・・11歳、HIV輸血感染、母子家庭
リンダ・・・デクスターの母、息子を失う恐れをもつ
ゲイル・・・エリックの母、アルコール依存、息子に無関心、デクスター親子に拒否反応

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~《誰かに伝えたい名セリフ》~

エリック:「それを抱いて寝ろよ。目が覚めて怖くなったら、こう思うんだ。”これはエリックの靴。僕はこんな臭いスニーカーを抱いてる。宇宙であるはずがない。ここは地球でエリックはすぐそばにいる”」
56:00~59:43

背景:死ぬのが怖いとデクスターはエリックに吐露します。起きて辺りが真っ暗だと何億光年も離れた宇宙にいるようでもう戻れないのではないか、底のない「寂しさ」を感じてしまうと言います。それに対してエリックが贈った言葉。

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~《あなたに観せたい美しいキャメラシーン》~

デクスターとの最後の別れの後、デクスターの家を去っていくシーン。お腹を押さえ、片足を引きずるように歩くエリック。自分のスニーカーをデクスターの手に持たせ、デクスターの靴をお腹に抱えて「寂しく」歩くシーン
1:30:00~1:33:00

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今回の作品は「マイ・フレンド・フォーエバー」です。

あなたは今、「寂しさ」を感じていますか?

以前に「寂しさ」を実感したことはありますか?

自分を理解してくれる人がそばにいない。

楽しいことをおしゃべりする人が近くにいない。

苦しいことを聞いてくれる人が傍にいない。

家族がいない。母子家庭。死別。離婚。別居。独立など。

そういった時、ふとした瞬間に人は独りだということを思い知らされます。

小さい頃、電気を消して暗い暗い部屋の中、一人で寝る時の心細さ。

あなたは今、このような「寂しさ」に慣れてしまっていませんか?

慣れると心の平穏があるかもしれません。

しかし、楽しいことを誰かと共感する。

苦しいことを誰かに知ってもらいたい。

どこか満ち足りないものがある。

心の底の方ではそう思っているはずです。

「寂しさ」は理解してほしい人との心の距離のことです。

「寂しさ」は「むなしさ」に繋がります。

「寂しさ」は「怖さ」に終着します。

「寂しさ」は氷の彫刻のようです。

昼寝をして、日が沈んで真っ暗になって目を覚ました経験はおありでしょうか?

夢から覚めると辺りは暗黒の世界。

周りに誰も居なくぽつんと一人だけ。

色も音もないだだっ広い空間。

ほろ穴、井戸の底、迷いの森。ガライの墓。

その時の何とも言えない「隔絶」。

人間の根源とも思える「独り」を感じてしまいます。

この世に自分ひとりしかいないのではないか。

この作品は真の「寂しさ」を知ることができる作品です。

そして寂しさの「治療法」に到達できる物語です。

本作品の主人公、エリックは「寂しさ」を心の中に抑えながら一人遊びをします。

GIジョーなど人形を用いた一人戦争ごっこ。

相手のいない壁とのキャッチボール。

銃撃戦のテレビゲームにテレビ映画。

懐中電灯にローラースケート、浮き輪。

「寂しさ」を紛らわすための遊び道具をたくさん所持している少年です。

輸血でHIVに感染してしまった友人デクスターは学校に行けず病院暮らしの「寂しい」日々。

エリックの母は夫に出ていかれて、暗い部屋で酒とタバコに依存して「寂しさ」を回避しています。

デクスターの母リンダはデクスターの短命を憂いて、独りの時は未来に訪れる「寂しさ」にいつも泣いています。

登場人物の言動に必ずあぶり出されている「寂しさ」の感情。

願わくはこの作品を単なるお涙頂戴のメロドラマとは思わないでほしいのです。

HIVエイズという病気がクローズアップされますが、人と人との距離の遠さを表しているにすぎません。

原題「The cure」は、”治療法”という意味です。

さあいっしょに「寂しさ」の「治療法」に迫っていきましょう。

 

 

1.エリックの「寂しさ」

 

主人公は12歳の少年エリックです。

Grade6、小学生が終わったところでしょうか、季節は夏の休みになります。

最後の授業を聞いているのですが、キャメラは股の間から出したナイフで椅子を削って遊んでいるシーンを写します。

こういう道具によって一人ぼっちの少年だとわかるんですね。

視覚的な映画にぴったりな表現方法です。

もちろん本当にそうだとは限りませんが、作者はこういった映像をたくさん用いて意図を持って観客に感じさせようとします。

エリックはこれから楽しい夏休みのはずですが、その様子が彼の表情にはありません。

授業が終わり友人とも会話することなく、うつむき加減で下校して夏休みを迎えます。

家に帰ってきて、エリックは庭で一人戦争ごっこをして遊びます。

人形を配置し、土で塹壕を掘り、柵を立て、見張り塔を建てます。

懐中電灯でサーチライトのように辺りを警戒します。

人形の髪や手を燃やし、絞首刑をして遊んでいます。

単純な戦争ごっこなのですが、すごく残酷なんですね。

エリックが心のなかに押し留めている攻撃性を垣間見れてしまうんです。

同時にこの作品の結末が予測できそうな雰囲気をもたらしています。

この攻撃性の原因はいったい何なのでしょうか?

いっしょに住んでいる家族は母親のゲイルたった一人です。

父親はニューオーリンズに住んでおり、別居中か離婚して若い女性と同居しています。

会話の中から、エリックは母親ではなく父親の方に愛着を持っていると分かります。

母は仕事に忙しく、エリックは家に一人でいるのがほとんどです。

父親に預けたり、キャンプに行かせようとしたりしてエリックにあまり関心がありません。

ゲイルはいつも苛立っていて、エリックを少しネグレクトしている状態です。


エリック:「夏休みはパパの所へ行く」

ゲイル:

「電話してパパがいいと言ったらどうぞ」

「ご自由に」

ゲイル:「パパと暮らしてるシンディもお前と同じ子供」

エリック:「23歳だよ」

ゲイル:「あら、お酒の飲める歳ね」

エリック:「彼女は飲まない」


夫の相手の味方をしたエリックに対して、気を悪くしたゲイルはテレビゲームの電源をプツンと切ります。


エリック:「8面まで行ったのに!」

ゲイル:「1日中テレビゲームばかり」


食事はレンジでチンするだけの宅配おかずパックです。

エリックは部屋の壁にボールを当ててキャッチする一人遊びをしますが、最初はゆっくり投げているんです。

しかし次第に「怒り」がボールに乗って叩きつけるように投げます。

心の中がネガティブな気持ちで渦巻いています。

 

 

2.デクスターとの出会い

 

ある日、エリックが庭で戦争ごっこに興じていると隣の庭に気配を感じました。

エリックの爆撃によって燃えた人形の煙のせいで隣の家からせきが聴こえてきます。


隣人:「ゴホン、ゴホッ、ゴホッ」

エリック:「誰だい?」

隣人:「僕のこと?」

エリック:「スパイしてんのか?」

隣人:

「泥の砦を作ってる」

「君は?」

エリック:

「野菜を植えてるのさ」

「君が引っ越しして来たから、友達にホモって呼ばれてる」

隣人:「僕のせい?」


エリックは攻撃的な言葉を言い放ちます。


エリック:「そこにいないで家に入れよ」

隣人:「どうして?」

エリック:「バイ菌が感染って死ぬからさ」

隣人:「空気伝染はしないよ」

エリック:

「でも感染ったら困る」

「家に入っててくれ」

デクスター:「この砦はどうするの?」


隣の家の11歳の少年、デクスターは今よりもっと幼い頃に輸血からHIVウイルスに感染してしまいました。

母親のリンダとともに最近隣の家に引っ越してきました。

専門の病院が近くにあるのが理由かもしれません。

町中の人がエリックの家の隣人がエイズだと知っているんです。

差別されています。

エリックの家と隣の家は高い高い木の柵の壁で区切られています。

エリックは壁まで近づいて言いました。


エリック:「そっち側へ行ってケツをぶっとばすぞ」

デクスター:「時間かかる?」

エリック:「10秒で片づけてやる」

デクスター:「じゃあ、その後で砦を仕上げるよ」


柵の間から少しだけ、隣の様子が分かります。

エリックは興味を持って隣人を覗きました。


エリック:「殴ってもいいのか?」

デクスター:「抵抗したいけど、僕はチビだから」

エリック:「それなら5秒で済む」

デクスター:「殴りに来る?」

エリック:「あとでな」


デクスターの母リンダが買い物から帰ってきました。

この母親役の女優さん、見るからに慈しみが深そうな人柄なんですね。

なんとも愛情豊かな表情をします。

素晴らしい配役です。


リンダ:「また、そんな泥んこになって」


普通は母親が息子を叱るのかと思ってしまいます。

リンダはデクスターを追いかけて、動けないようにしてこちょこしょこと脇腹をくすぐりました。

体勢が入れ替わると、デクスターが上になって母を押さえ込み、プロレスのフォールのカウントを取りました。


デクスター:「1,2,3 僕の勝ち!」


スキンシップがたくさん取れた、仲の睦まじい親子です。

ある日、二人の少年は庭の柵を隔てて、積極的にコミュニケーションを取るようになります。

お互いの「寂しさ」が自然と二人を引き合わせます。


デクスター:「赤ん坊の僕に1リットルも輸血をした」

エリック:

「おばあちゃんは言っていた...」

「君は太陽よりも熱い地獄に落ちるんだって」

デクスター:「おばあさんは天才だ」

エリック:「何だって?」

デクスター:

「死んだ後どうなるかお医者も知らないって」

「おばあさんは天才だ」

エリック:「Kマートの事務員だよ」

デクスター:「隠れた天才だよ」

エリック:「馬鹿な女さ」

デクスター:「じゃあ、地獄はウソかい?」

エリック:「本当に空気伝染しない?」

デクスター:「ああ、なぜ?」


エリックの差別的な言葉にも心動じず、理論立てて会話します。

11歳のこの年齢で病気がつらくないことはないと思います。

デクスターは決して人をけなさないんですね。

母との関係に対してとても満ち足りているんですね。

自分に自信を持てています。

病気にも関わらず自分に対して「無価値感」を持ってないんです。

なので他者に対して攻撃性が全くありません。

エリックとは対称的なんですね。

 

 

3.垣根を越えて

 

エリックは高い壁に釘を打ち付け足場を作り、よじ登ってデクスターの元までやって来ました。

デクスターはとても驚きました。

母親以外の初めての友人として、デクスターの人生の中に入ってきました。


エリック:「歳は幾つ?」

デクスター「11だよ」

エリック:「チビだな」

デクスター:

「11歳の平均身長より10センチ低いだけだよ」

「それで、軍艦ゲームは知ってる?」


デクスターはすごく物知りな少年です。

友達との関わりが今までになかったのでしょう。

本や新聞やテレビからの知識が豊富なんですね。

エリックとデクスターは一人では決してできない遊びをたくさんします。

デクスターはやったことのない危険な経験もしました。

独りでは怖くてできない冒険です。

デクスターは貯金箱を開けて外に遊びにいきます。


エリック:「金持ちだな」

デクスター:「小遣いさ、罰金も」

エリック:「罰金?」

デクスター:「説明が難しい」

エリック:「いいぞ、僕がガイドになって、君は会計係だ」

デクスター:「会計係って?」

エリック:「支払いをするのさ」

デクスター:「君の分も?」

エリック:「ガイド代さ、あいこだろ?」

デクスター:「目的地は遠いの?」

エリック:「なぜ?」

デクスター:「僕、疲れやすいんだ」


いつも健康のため果物か野菜中心の食生活のデクスター。

二人は町のスーパーに出かけました。

エリックは店内でこっそりチョコバーを食べさせてやります。

デクスターは母に教わらないことをたくさん教わりました。

デクスターをショッピングカートにちょこんと乗せて辺りを散策します。

デクスターは買い物袋を軍服代わりに、エリックの指示で主砲から目標目がけて石を投げます。

戦車の乗組員です。

とてもかわいいシーンなので皆さん必見ですよ。

それに二人の役者とも美少年なんですよ。

そこでエリックたちは同級生に絡まれてしまいます。


同級生:

「ホモ達を買ったのか?」

「とっとと消えやがれ、ホモ禁止区域だぞ」

エリック:

「僕もこいつもホモじゃない」

「血液で感染ったんだ」

同級生:「やけにくさいぜ」

エリック:「お前のお袋を踏んづけたからさ」

同級生:「何だと?」


同級生達が近づいてきたので、エリックは石を握りしめました。


同級生:「こっちは3人だ」

エリック:

「お前にぶつけてやる」

「お前の弟はどうだ?」

同級生:「どうって?」

エリック:

「ジャングルジムから落ちて入院した」

「病気が感染ってる」

同級生:「バカ言え」

エリック:

「もし感染ってたら、お前の弟もホモと呼ばれる」

「それで病気になって死んで...」

「墓石にはこう書かれるんだ」

「”ホモのエディー”」

「教えてやろうか?」

「そういう奴を殴っていじめるバカがお前なんだよ!」


連れの仲間がシラけて、もう行こうと言います。


同級生:「...同情するよ」

デクスター:「ありがとう」


同級生は諦めて去っていこうとしました。

ですがエリックの怒りは収まりません。

いつもはあまり相手にしませんが、今日は友だちを侮辱されました。

同級生に向かって石をぶつけて逃げます。


エリック:「ざま見ろ!頭にクソの詰まってるホモめ!」


そこからドタバタ追走劇になります。

ショッピングカートで下り坂を勢いよく降ります。

ゴミ収集車、よたよた歩くおばあさんをなんとかかわして家に帰還しました。

 

 

4.リンダとゲイル、二人の母親

 

エリックと母ゲイルの寂しい夕食の時です。

冷凍のおかずにじゃがいも。

母親はワインとタバコを片手に雑誌を読みながらの悲惨な食事です。


ゲイル:「スーパーにエイズの子がいたって」

エリック:「新聞に出たの?」

ゲイル:

「ジャンから聞いたの」

「庭で遊んでるのを見かけたけど」

エリック:「僕はせきを聞いた」

ゲイル:

「心配しないで大丈夫よ」

「柵が立ってるから」

「遊ぼうと誘われたら?」

ゲイル:

「言い訳をするのよ」

「得意でしょ?」


こうしたちょっとした会話にも皮肉が入っており、悪意が出ます。


エリック:「道で出会ったら?」

ゲイル:「安全な距離を保てばいいのよ」


エリックは酔っ払ったゲイルを警戒しているんですね。

うそをついたり、自分を殺して母親の考えに合わせようとしています。

これは虐待家族の典型です。

こうして子供は自分を主張しなくなり、自己喪失していき「無気力」になっていきます。

抑圧された心は他者への攻撃に変わります。

そうして自分への「無価値感」が増大していってしまいます。

次の日エリックはデクスターに夕食を誘われました。

今度はデクスターとリンダの食事の風景です。


リンダ:「ボクちゃん、人参は?」

デクスター:「要らない」

リンダ:「じゃあ、デザートを?」


エリックはデクスターの呼び方をくすくす笑っています。

すると豪華なパフェが3つやってきました。

大喜びのエリック。

リンダはエリックの話を熱心に聞きながら、自分の髪の毛を触ります。


デクスター:

「25セント!」

「罰金だ」


リンダはとても悔しがりました。

髪を触ると罰金25セントという取り決めがデクスターとの間にはあるんです。

エリックの母親とは対照的に、デクスターの母リンダは息子を愛おしんでいます。

デクスターを一人の自我を持った存在として接し、愛しています。

お互いの関係、境界、距離感が正常な愛情ある親子関係なんです。

一方エリックの母親は息子を道具か居候として見ているような悪意が感じられます。

またリンダが髪を触る癖はリンダの不安な気持ちの現われとして表出されています。

エリックはデクスターの食べ残したパフェを狙って、指さしました。


エリック:「それを残すのかい?」

リンダ:

「本当は安全なんだけど、あなたはよその子だから...」

「やめておいて」

エリック:

「そうだな」

「こうしよう」

「治療法が見つかったらデカいモンスター・サンデーを買ってみんなで食べよう」


するとリンダの表情が少し曇りました。

そして涙目で声を詰まらせながら言います。


リンダ:「楽しみだわ」


二人はリンダの表情を察知しました。


エリック:「何だい?」

デクスター:「治療法はたぶん間に合わない」


エリックは自分の未来を言ってのけるデクスターの言葉に呆然としました。

この歳ですでにデクスターが自分の病気を受け止めていて、彼の今までの心の遍歴が分かったからです。

同時にエリックはデクスターが病気のためにいろいろな事を我慢して生きてきたというのを察するんですね。

エリックはデクスターの「寂しさ」に段々と共感していきます。

 

 

5.「治療法」を探して

 

ガンの治療法を捜す映画を見て、それを実行に移そうとするエリックとデクスター。

食餌療法と称してデクスターはチョコバーを食べ続けます。

被験者が多く必要だと言って自分も食べるエリック。

エリックは”食べたキャンディーの記録”と言う題名の表をホワイトボードに作成
しました。


デクスター:「バカみたい」

エリック:

「50年前、ある医者がパンに生えたカビを患者に食べさせた」

「皆は”バカみたい”と言ったがその正体は?」

「アスピリンだ」


気分、体温、体調を調べ、ノートに記しました。


エリック:「次はチョコレートに風船ガムを混ぜて」

デクスター:「なぜ君も一緒に試すの?」

エリック:

「科学の実験を知らないのか?」

「結果を比較するグループが必要なんだよ」

デクスター:「君がそのグループ?」

エリック:「そうだ」


二人はルイジアナ州の医師がHIVの特効薬を開発したという新聞記事を見つけます。

沼地地帯に生育している植物から発見したという記事でした。

エリックとデクスターは林を探検しながらいろいろな植物を煎じ、お茶にして試飲実験します。


エリック:「飲めよ」

デクスター:「クソの味だ」

エリック:「やはり葉っぱは虫のトイレかな」


エリックは角砂糖を一握り取って混ぜました。


デクスター:「甘いクソだ」


子供の会話の中にも可愛らしいユーモアがありますね。

リンダ、デクスター、エリックは3人で買い物に出かけ、楽しい夕食を過ごします。

スーパーで少し興奮しているデクスターを見て、リンダはエリックの頭にキスをしました。

それはデクスターの友達になってくれた感謝の表現でした。

エリックは普段は貰ったことのない愛情表現に少し戸惑い、感じるものがありました。

心地よさ。安心感。回復魔法ですね。

昼寝を忘れたデクスターは疲れてしまい、夕食中に寝てしまいます。

リンダに抱えあげられながら、眠気で目がとろんとした表情でエリックに言います。


デクスター:「ごめんよ」

エリック:「おやすみ」


デクスターの病気とリンダの愛情とエリックの「愛情飢餓感」が同時に感じられるいいシーンです。

治療ノートを忘れたエリックはデクスターの家に取りに戻ります。

その時リンダが独り、ノートを見ながら泣いているのを目撃します。

リンダは明るく振る舞っていますが、心の中はデクスターを失う不安でいっぱいでした。

夕食の招待から帰ってきたエリックを酔っ払った母ゲイルが待ち構えていました。

真っ暗な部屋でワインを飲んでいたのです。


ゲイル:「今までどこへ?」

エリック:「...」

ゲイル:「質問に答えて」

エリック:「ゴードンにゲームセンターに誘われて、一緒に行ってたんだ」

ゲイル:「ゴードンって医者の息子の?」

エリック:「ああ」

ゲイル:

「そういう時はメモを置いてって」

「花火へ行く時、その子を誘ったら?」

「そうだね」


ゲイルの様子は明らかに神経症的なものでした。

涙を流し、手は震え、言葉をゆっくりと発しました。

エリックはその姿に怯えて、またうそをついてしまいます。

自室で眠れないエリックは懐中電灯をサーチライトのように天井に光を写し退屈を紛らわせます。

その光りよりもっと明るい、赤い異質な光りが加わりました。

デクスターの家に救急車が来たのです。

リンダが慌ててエリックの家に来ました。


リンダ:

「エリックは起きてる?」

「話を...」

「うちの子に草を」

ゲイル:「うちの子が関係を?」

リンダ:

「今日、デクスターに草を煎じて飲ませた?」

「毒草らしいの、ノートを見て」

エリック:

「川岸に生えていたんだ」

「橋のかかってる所だ」

ゲイル:「家に入りなさい」


エリックを家に入れた途端、ゲイルはエリックの頭を掴み、両腕で強く押さえ込みました。

そして平手打ちを数回しました。

胸ぐらを掴み、何度もエリックを押さえつけました。


ゲイル:

「一体何を考えているの!」

「言いなさい!」

「はしかや水ぼうそうじゃなくエイズよ!」

「私まで殺そうっていうの?」

「今まで通りにさせてはおかないわよ」


ゲイルはくわえタバコで指を震わせながらリンダに電話をしました。


ゲイル:

「あなたがどう言おうともう行き来させないわ」

「たとえ友達でも一切接触させませんからね!」


ゲイルは強い勢いで電話を切りました。


ゲイル:

「命に別状はないそうよ」

「でも監督不行き届きで次は母親が罰せられるわ」

「お前は月曜からサマーキャンプへ行くのよ」


ゲイルは自分の不利益しか考えていませんでした。

子供の気持ちなどを考えることができない母親でした。

人を真に愛することができない人です。

 

 

6.二人だけの旅

 

エリックは特効薬を開発した医者にデクスターを診せるため、遠い州まで行く決心をします。


デクスター:

「向こうへ行って眠る所は?」

「食べる物は?」

エリック:

「心配するな、パパの所に泊めてもらえるよ」

「釣りに連れてってくれる」

デクスター:「ダメだよ」

エリック:「僕は明日キャンプなんだぜ」

デクスター:「ママが心配する」

エリック:

「病気で十分心配させたろ?」

「ママをハッピーにさせたきゃ、その新しい薬で君が元気になることだ」


二人は旅に出ることを決意しました。

エリックには母親との決別の決心もありました。


デクスターの手紙:

「ママ、僕は旅に出ます」

「薬は全部持ったし、危ないことやバカなことはしません」

「テレビの”スター・ウォーズ”を録画しておいて」

「ママを愛してます、デクスター」


トムソーヤの冒険のごとく、手製のいかだで近所の支流からルイジアナ州ニューオーリンズを目指します。

約2000キロの長旅です。

広大なミシシッピ川の大冒険です。

二人は夜間に静かに出発しました。

並んでいかだに横たわり、無限の夜空の星を見つめます。

はじめて会う牧場の馬たちに手を振り、急流でも見事なオールさばきで巧みに操縦し、
釣りをして、川の水を掛け合い、外の世界でも二人で居れば怖いものはありませんでした。

川幅は段々と大きくなって、いかだは支流から本流に近づいて行きます。

河の大きさに対して二人の姿の何と小さいこと。


デクスター:「時速何キロかな?」

エリック:「5キロってとこかな」

デクスター:「ニューオーリンズまで何キロ?」

エリック:「約2000キロ」

デクスター:「着くのに何日かかる?」


いかだでは何日もかかるということに気づき、船のヒッチハイクをします。

この冒険で船上での生活や大人の世界を知ります。

二人は船内でエッチな雑誌を発見します。


デクスター:「見たことないぜ、ママとは大違いだ」

エリック:「こいつらはママじゃない、本物の女だ」

デクスター:「コンピューターアニメさ」

エリック:

「コンピューターアニメが海岸を歩くか?」

「クラシック音楽を聞くと思うか?」

デクスター:「1975年生まれだって」

エリック:「オバンだな」


子供が真剣に空想と子供独自の考えを交えて会話する所がとてもユーモラスで面白いですね。

エリックたちは乗り合わせた若い子の背中にドキドキしながらサンオイルを塗ったりして異性を意識します。


デクスター:「名前は?」

若い女性:「エンジェルよ」

デクスター:「タトゥーの文字の”ANGEL”(エンジェル)が"ANGLE"(アングル)になってるよ」

若い女性:「余計なお世話よ」


不機嫌になった女性はエリックのサンオイルを取り上げ離れて行きました。

エリックはデクスターに余計なことを言うなと目配せしました。

気を取り直し二人は浮き輪ボートを楽しみます。

女性と乗れず不機嫌のエリックと陽気な笑顔のデクスターの二人乗り。

 

 

7.宇宙で独り

 

夕食で大人たちとノケモノにされた二人。

テントを張って寝ることにしました。

真夜中にデクスターは汗をびっしょりかいて震えていました。

エリックはうなされているデクスターを起こしてやります。


エリック:「僕だよ」

「濡れてるぞ、小便したのか?」

デクスター:「汗だよ」

エリック:「汗?」

「ガタガタ震えてるのに?」

デクスター:「震えてて汗をかくんだ」

エリック:「僕のシャツを着ろよ」

「僕の所で寝ろ」

デクスター:「ありがとう」

エリック:「悪い夢でも見たのかい?」

デクスター:「違うよ」

エリック:「じゃ何だ?」

デクスター:

「目が覚めて、真っ暗だとよくこうなる」

「宇宙の直径は180億光年だって知ってる?」

エリック:「だから?」

デクスター:

「その先をさらに180億光年進むと、きっと何もない」

「その先を1兆倍進んだら?」

「もう何も見えない」

「宇宙の光が届かない距離だから」

「死ぬほど寒くて死ぬほど暗い」

「時々、夜中に目が覚めて真っ暗だと怖くなるんだ」

「僕は宇宙にいて、もう戻れないような気が...」


エリックは自分の片方のスニーカーをデクスターに渡しました。


エリック:

「それを抱いて寝ろよ」

「目が覚めて怖くなったら、こう思うんだ」

「”これはエリックの靴”」

「”僕はこんな臭いスニーカーを抱いてる”」

「”宇宙であるはずがない”」

「”ここは地球でエリックはすぐそばにいる”」

デクスター:「いい考えだ」


デクスターはスニーカーを取って抱きしめ、また眠りました。


エリック:「明かりを消さないでおく?」


デクスターは安心してぐっすり眠っていました。

「死」の形容がとても優れている描写です。

光も音も届かないとても寒い無音空間。

描写のイメージと題名から尾崎豊さんの”音のない部屋”が思い出されます。

心が通わないパートナー同士の心情を歌った曲です。

この曲から受ける情景と本作品の「寂しさ」がピッタリと合います。

よろしければ、聴いてみてください。

臭い温かみのある土のついた友のスニーカーとシャツがデクスターを「孤独感」から救います。

最高の交信機と宇宙服です。

あなたはお持ちでしょうか?

真の友達。忘れられない大切な思い出。交信するための優しさという能力を。

「寂しさ」を感じる時というのは本当に大切なものは何かを知ることができる神様がくれた機会です。

今までの生き方は本当によかったのか?

本当に欲しいものは何なのか?

不必要だと考え捨ててきたものは何か?

必要なものは何なのか?

人に褒めてもらうこと?

目標を達成すること?

自力で?

もうひとつ、尾崎豊さんの”シェリー”という曲の歌詞に次のようにあります。


 

『シェリー』

♪ シェリー 俺は転がり続けてこんなとこにたどりついた


♫ シェリー 俺はあせりすぎたのか むやみに何もかも捨てちまったけれど


♪ シェリー あの頃は夢だった 夢のために生きてきた俺だけど


♫ シェリー おまえの言うとおり 金か夢かわからない暮しさ


♪ 転がり続ける 俺の生きざまを時には無様なかっこうでささえてる


♫  シェリー 優しく俺をしかってくれ


♪ そして強く抱きしめておくれ


♫ おまえの愛が すべてを包むから

 


シェリーという人に話しかけることで心の安定を図っているように思えます。

人が生きていくのに空気が必要ですが、その空気を意識して生きている人がどれだけいるのでしょうか?

地球には重力がありますが、その重力を意識して生きている人がどれだけいるでしょうか?

人とのふれあいが「空気」であり、寂しさは「重力」だと思います。

ふれあいがないと寂しさという重力に押しつぶされて心は死にます。

どんな人でもです。弱くなれば弱くなるほど。

 

8.格闘

 

一向に出発せずに乱痴気騒ぎの船。

デクスターが持ってきた薬はもう3日分しか残ってませんでした。

しかたなくエリックは彼らの金を奪って去ります。

しかし長距離のバスターミナルで彼らに捕まり、逃げた二人はとうとう追い詰められました。

エリックは小さなナイフで応戦します。


船長:

「行き止まりだ」

「どうする、マニキュアしてくれんのか?」

「金を返せ」

エリック:「旅費にいるんだ」

船長:「旅費だと?大人をナメやがって」


船長はズボンからさらに大きなバタフライナイフを取り出しました。

それを見たデクスターはエリックのナイフを取り上げ船長に威嚇しました。


エリック:「何する!よせ!」

デクスター:「僕はどうせ死ぬんだ」

船長:「何だと?何の話だ?」

エリック:「エイズなんだ!」

デクスター:

「僕を刺してみろ」

「僕の血は毒なんだぞ」

「1滴で死ぬぞ」

船長:「ウソだろ?」


デクスターは勇気を振り絞って手をナイフで切りました。

小さな手のひらから血が出ます。

船長は追跡の時に有刺鉄線で腕を怪我をしていて、感染を恐れました。

相手は恐れてその場から逃げ出します。


デクスター:

「僕の血は猛毒だ!」

「コブラより猛毒だ」

エリック:

「ざま見ろ」

「スーパー・ヒーローも真っ青だぜ」

「カッコよかった」


デクスターは血が流れる手を上に向けながらその場に座り込みました。

自分の言った言葉が波のように自分に跳ね返って来ます。

彼はとても傷つきました。

考えないように押さえつけていた「死」の現実に直面させられました。

エリックは血を止めるため着ていた服を脱いでデクスターに近づきました。


デクスター:

「来ないで!」

「気分が悪いんだ」


 

 

9.帰郷

 

エリックたちはバスターミナルまで戻り、デクスターを休ませます。


エリック:「寒いのかい?」

デクスター:「僕の血は毒なんだ」

エリック:

「ウイルスのせいだよ」

「治療法が見つかったら僕らと何も違わないんだ」

「フィッシュバーン博士が治療法を...」


デクスターは傷つき、もう気力を失っていました。

エリックは黙って隅にある公衆電話をじっと見つめました。

エリックはリンダに電話をして、家に帰る決断をします。

バスの中でデクスターはエリックの肩によりかかり静かに眠りました。

やがて故郷にバスが着きます。

待っていたリンダは気もそぞろに降りてくる客を一人ひとり確認しました。

デクスターとリンダは再会し抱き合いました。


デクスター:「ごめん」


リンダはエリックとデクスターに会うことを禁じました。

エリックはデクスターに会いたいとリンダに懇願しました。


エリック:「会わせてください」


リンダは二人を不憫に思い、再会を許しました。

 

 

10.入院生活

 

デクスターは入院していました。

二人は病院で再会します。


デクスター:「吐き気がして、鼻から胃にチューブで栄養を送るんだ」

エリック:「最低だな」

デクスター:「痛いんだよ」

エリック:「何も食えないのか?」

デクスター:「今はね」

エリック:「それは残念」


エリックは周りに人がいないのを確認した後、服の中からチョコバーを取り出しました。


デクスター:「潰してチューブに入れよう」


デクスターは描いたイラストをエリックに見せます。

それは1歳から10年ずつの80歳までのデクスターの姿を描いたものです。

叶えてあげたいイラストです。


デクスター:

「見て」

「似てる?」

エリック:

「君かい?」

「かわいくない赤ん坊だ」


そういってデクスターのほっぺたを軽くつねりました。

デクスターはせきをしました。


エリック:

「大丈夫?」

「この結婚相手は”アングル”?」

「80歳はヨボヨボだ」


退屈なデクスターの入院生活にエリックはいろんな遊びをして楽しませてやります。

電動ベッドでぬいぐるみを吊って死刑執行しました。

中でも悪意ある遊びがありました。

それはデクスターが息をしていないと言って泣きながら看護婦や医師を呼んできて、急にビックリさせるという悪ふざけでした。


エリック:

「大変だ」

「息が止まった」

「息をしてない」

「しゃべってたら途中で急に...」

看護婦:「いづれ、こうなると...」


聴診器をあてたとたんにデクスターは医師をびっくりさせました。


医師:

「何てことを!」

「悪い冗談だわ」


二人は看護婦と医師のびっくりした表情を楽しみつつも、その言葉に不安な未来を予感しました。


デクスター:「”いつかこうなる”だって」


主治医の医師がエリックとデクスターの所にやってきました。


主治医:

「君がエリック?」

「ノーベル医学賞を取り損なったって?」

エリック:「失敗でした」


主治医はデクスターの診察をしました。


主治医:

「口を大きく開けてアーと」

「胸毛を拝見」


デクスターはエリックに目配せして、質問してと頼みました。


エリック:「死ぬんでしょ?」


主治医は少し怒ってエリックの話を聞きました。


エリック:「看護婦に死んだマネをしたら、”いづれ死ぬんだ”って...」

主治医:「だましたのか?」

エリック:「死んだふりをして生き返って驚かせたんです」

主治医:「腰を抜かしたろ?」

エリック:「デクスターは大笑い」

主治医:「何か隠してる、ダイエットのはずだぞ」


チョコバーが見つかってしまいました。

その間に主治医は頭を整理して、デクスターに言い聞かせるように言いました。


主治医:

「いいかい、歴史を読むとひどい病人が突然元気になった話が幾つもある」

「人はそれを”奇跡”と呼んでる」

「私には分かる、君は特別な子だ」

「奇跡が起こるかもだ」

「私を信じるかい?」

「それを感じているはずだ」

「私をがっかりさせないでくれ」

「私が有名人になれる」


デクスターを勇気づけて主治医は去っていきました。

 

 


11.予期せぬ別れ

 

エリックとデクスターは幾日もいたずらを続けました。

エリックは家で昼寝から起き、急な「孤独感」に襲われました。

雨の中、外に駆け出しデクスターの家の庭を確認します。

二人の指揮官のいない戦争ごっこの遊び場が虚しく雨に濡れていました。

彼もまた、親友を失う恐怖に怯えていました。

デクスターの容態は日に日に悪くなっていきました。

そしてある日のいたずらの時、老齢の医者が聴診器を聴くとデクスターは静かに亡くなっていました。

さよならも言わずに。

エリックにとって残酷な別れでした。

辛すぎる罰でした。

エリックは茫然としてしまいます。

エリックは親友を、リンダは愛息を失いました。

病院からの帰り道、リンダは歩道を横断する親子を涙で目を腫らせて見つめます。

リンダは車を止め、堰を切ったように泣きました。


リンダ:「ごめんなさい」

エリック:

「僕こそ」

「僕のせいです」

リンダ:「どうして?」

エリック:「治療法を探せず...」

リンダ:

「何を言うの」

「精一杯やってくれたわ」

「病院と暮らしてたあの子...」

「独りぼっちでつらい日々をあなたが変えてくれた」

「いい友達ができて幸せだったわ」

「幸せだったのよ」

「あの子の残した物をあげたいの」


リンダはエリックを息子のように強く抱きしめました。

 

 

12.母として

 

家に到着し車を停めると、鬼のような顔をしたエリックの母ゲイルが待っていました。

そしてエリックを車からひきづり出しました。


ゲイル:

「出なさい」

「黙って車に乗りなさい」


エリックはゲイルがつかんだ腕を、行動の正しさを誇示するように勇敢に振りほどきました。

エリックはゲイルのいいなりになるのを断固拒否しました。

ゲイルはリンダの目の前でエリックの顔を何度も殴ります。


ゲイル:「黙って車に乗るのよ!」

リンダ:

「ちょっと待って!」

「聞いて」

ゲイル:「話はないわ」

エリック:「ママ...」

リンダ:

「黙って」

「1分だけ家の中へ」

「お願い」

「1分だけ」


リンダはゲイルに家に入るように言います。


ゲイル:「何なの?」


リンダは涙を抑えきれずにゲイルの胸ぐらをつかみ、哀しみで倒れ込むようにゲイルを壁に押し付けました。

悲哀で心身が限界の状態にもかかわらず、「残された息子」エリックのために力を振り絞ります。


リンダ:

「2つだけ言うわ」

「エリックの親友が今日死んだの」

「お葬式に来させて」


ゲイルを掴んだリンダの両腕からさらに全身が震えました。


リンダ:

「もう一つ」

「今度あの子に手を上げたら、あなたを殺すわよ!」

「いいわね?」


リンダの母としての怒りでした。

家から出てきたリンダはエリックを見つめて、大丈夫よと2度うなずきました。

 

 

13.親友といつまでも...(マイ・フレンド・フォーエバー)

 

デクスターのお葬式。


リンダ:「ゆっくりお別れをして」


リンダはエリックを息子と二人だけにして最後の対面をさせてあげました。

デクスターはきちんと髪を整えられ、黒い服を着て、紺色のネクタイを締め、黒い靴を履き、静かに眠っていました。

見る人が心を痛めてしまうほど小さな棺でした。

エリックはデクスターがもうこの世にいないことを確かめるように、胸に手をあてました。

そして組まれたデクスターの手をそっと握りしめました。


エリック:「先に帰ってもいい?」

リンダ:「もちろんよ」


足早に帰るエリックにリンダは髪を触りながら言います。

寂しさと感謝を込めて。


リンダ:「時々遊びに来てね」

エリック:「25セント!」


僕たちは家族だよとリンダを勇気づけるようにエリックは冗談を言いました。

リンダに優しい笑顔が戻りました。

エリックの後ろ姿を温かく見送ります。

リンダはエリックが不自然に足を動かして歩いているのに気づきました。

リンダがデクスターの棺を見に行くと、デクスターの両手にエリックの愛用のスニーカーが持たせてありました。

リンダは優しく微笑みます。

エリックはかつてデクスターと探検した川のほとりに座ります。

懐からデクスターの靴を取り出して川面に浮かばせ、そっと流しました。

以前病院でデクスターが書いた80歳までのイラストを叶えてあげるように、人生という川にそっと足を踏み入れさせてあげたかのようでした。

 

 


14.合流

 

川の優しいせせらぎから植物がそよ風に揺れ、そのままエンディングロールの終了まで続きます。

そこに加わるデイヴ・グルーシンの安らかなピアノ曲。

別々の支流からミシシッピ川という広大な河の本流に流れ込むような美しい美しいエンディングでした。

「寂しさ」の整理をさせてください。

エリックの母ゲイルは夫と離別しており、「寂しさ」を埋めるパートナーがいません。

もともと依存性のある性格のためか、アルコールやタバコで自身の「寂しさ」を一時的に満たす日々。

エリックに対して愛情を示さず、ゲイル自身の「無価値感」を否定させる道具として息子を扱ってしています。

デクスターの母リンダは「将来」に対して不安を抱えています。

息子を失ってしまうという恐怖、不安、喪失感。

現在を戦っているリンダはいつ心が崩れてしまってもおかしくはないほどでした。

エリックがデクスターを連れて旅に出た時の「寂しさ」はどれほど深かったのか想像に難くありません。

また、デクスターは表情が出ることはあまりありませんが、死への恐怖がいつも心の底にありました。

エリックに告白した、愛する人から離れる「寂しさ」。

自分だけが先にこの世からいなくなり、親しい人から離されてしまう。

これから誰もいないところに一人で行かねばならない11歳の少年にとっては残酷すぎる「現実」を受け入れなければならない。

デクスターには理解してくれる母親の存在があります。

同年代の親友エリックの存在も心強いと思います。

人間関係は人数ではなく、その深さがとても大事だと分かります。

二人がいるだけで十分彼の心は満たされているんですね。

そして主人公エリックの「寂しさ」。

母ゲイルとの心理的距離がとても遠いですね。

いっしょに住んでいるのに心が通っていない。

いつも一人で戦争ごっこをすることで「寂しさ」を紛らわし、「怒り」をガス抜きします。

隣家との高い壁を越えるパワーとなったのはエリックの「寂しさ」から抜け出したいという気持ちでした。

デクスターと出会い、次第に心が満たされていくのが分かると思います。

エリックにとって、デクスターは必要とする弟であり、リンダは希求する母親です。

デクスターが入院した時、エリックはデクスターの死を予感しました。

リンダと同じ「将来」に対する恐怖です。

目を覚まし、デクスターがいつも遊んでいる庭に誰もいないという正夢。

一瞬すべての時が止まり、そこにエリックだけが取り残された絶望感。

この「将来に対する孤独への恐怖」を見ないようにするかのように、二人はいたずらを続けます。

冒険をします。
危険に挑戦します。
病気の完治を諦めません。
チョコバーを食べます。
差別と闘います。

エイズの治療法は見つからなかったけれど、二人が見つけた「寂しさ」の緩和法。

それは深い深い心の触れ合い。友情。人が寄り添うことで生まれる新たなパワーでした。

彼らは「The cure(原題)」”治療法”を見つけました。

「寂しさ」を根絶する「治療法」を。

人とのつながり無しには「寂しさ」は「治療」することはできないことを教えてくれた素晴らしい作品です。

デイヴ・グルーシン(Dave Grusin)はジャズピアニストです。

作品中、優しく包む彼のピアノは思わず涙を誘われます。

映画芸術は音楽に一番近いと言われます。

時間の流れと感情の流れがブレンドされて、私達の記憶にいつまでも留めてくれるからだと思います。

是非とも音楽にも注目してこの作品を見ていただけたら至極幸いです。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

あなた様と「寂しさ」を共有できて感謝いたします。

それではまたの作品でお会いしましょう。

 

 

15.関連作品

 

『音のない部屋』5thアルバム”誕生”より 尾崎豊

『シェリー』2thアルバム”回帰線”より 尾崎豊

『ニュー・シネマ・パラダイス』 ジュゼッペ・トルナトーレ監督


『リバー・ランズ・スルー・イット』~ただ、ただ、美しい...叙景詩であり叙情詩。ブラックフット川が育んだ賜物~

2023-10-16 04:39:09 | 日記

『リバー・ランズ・スルー・イット』

 

 


皆様、こんにちは。

今回の作品は情景がとても美しい映画となっております。

カメラという動画記録が作者の目を通して、どれだけ真の自然を美しく詩的に描けるか。

私達の目、音、触感、匂いなどの感覚器官をどれだけ満足させることができるか。

いつでも観たいという気持ちにさせることができるか。

絵画でもなく、音楽でもなく、写真でもなく、すべての思い出をパッケージ化する映画の可能性を広げてくれる作品です。

 

 

冒頭シーンでは、川のせせらぎの心地よい音と共に、川面の優しいゆらぎが映し出されます。

一人の老人が慣れた手付きで針にドライフライという疑似餌を付けています。

 


老人のナレーション:
「昔私が若かった頃、父は私に言った、”ノーマン、お前はものを書くことが好きらしい”」

「”それならいつの日か、家族のことを書け”」

「”何がなぜ起こったのかが分かるだろう”」


 

モンタナ州ミズーラ、大自然の豊かな森林とそこを流れる大きな川が横たわった町に住むマクリーン親子。

父親は牧師をしていて、厳格ではあるが、二人の息子に愛情を持って育てています。

母親は父の教育方針についていくという感じでどことなくマクリーン家では存在感がひかえめ。

長男のノーマンがこの作品の主人公でナレーター役です。

この作品は年老いた彼の追憶という形で描かれています。

父に比較的従順な息子ノーマン。

次男のポールに対しては兄弟ならではの嫉妬心があり、それでいて愛情もあります。

どこか神にも愛されているかのような孤高なポールに対して、ノーマンは人間的。

次男、ポールは厳しい父の教育環境にも反発しながら、自分の芸術性を高めて成長していきます。

牧師の父の厳しい教育環境によって、卑屈になることはなく、彼独特の生来の精神性をそのまま持って成長していきます。

モンタナ州ミズーリのとある森林業のさかんな町で二人の兄弟は育ちます。

舞台は第一次世界大戦後のアメリカの好景気1920年代です。

牧師の父の教育のもと、厳格な質素な見本的な生活を送っていました。

父親はメトロノームでリズムを刻みながら、フライフィッシングのロッドのキャストを息子たちに教えました。

兄弟の友達は学校で学んでいますが、マクリーン兄弟は父の元で読み書きをじっくり学びました。

 

 

 


老人のナレーション:
「あの頃のモンタナは最適の地だった」

「朝露に濡れてるような世界」

「限りない神秘と可能性に満ち満ちていた」


 

兄のノーマンは新聞記事の要約を何度もさせられます。

心地よい午前の勉学の後、午後は開放的に遊びに繰り出して行きます。

父親は文章を書くことの他に、人生を楽しむこととしてフライフィッシングを息子たちに教えます。

フライフィッシングの中には自然との調和の中に神を感じてほしいという思いがあったのでしょう。

父親は釣りの中にも精神性を追求させます。

釣り竿を後ろに傾け、糸を川面に投げ込むリズム。

竿を後ろにしならせ、停止させる。

すると急停止した竿によって、糸は美しい横Uの字を一瞬描き、キャストの瞬間まで糸の緊張が続き、ゆらゆらと流れる水面にフライが放たれます。

昆虫たちが生命の弧を描き乱舞するような軌道を模して...。

 

 

兄弟は町での大人のケンカを見て真似てみたり、売春宿をこっそり覗き見したり、社会というものを自分の目でしっかり確認しながら成長します。

ポールは朝食の麦を食べるのを拒否したことがありました。

父親は食べ終わるまで食卓を離れることを許しません。

しかしポールは昼食まで拒み続けました。

 


老人のナレーション:
「ポールは体の芯に強さを秘めていて、その強さを自分で知ってた」


 


ポール:「大きくなったら何になる?」

ノーマン:

「牧師かな、ボクサーでもいい」

「お前は何に?」

ポール:「プロのフライ・フィッシャーマン」

ノーマン:「そんな職業ないよ」

ポール:「ないの?」

ノーマン:「ないさ」

ポール:「じゃあボクサーだ」

ノーマン:「牧師はイヤか?」


 

ポールは苦笑いしました。

 

 

青年になり夜中に家を抜け出し、町の仲間たちと夜遊びします。

町を流れるブラックフット川。

その中で、ポールは度胸試しをしようとボートで急流下りを提案します。

 


ポール:

「いい考えが。歴史に残るぞ」

「ボートを調達して滝を下るんだよ」

「英雄の葬式をしてくれる」

ノーマン:「町のキングになる」

ポール:

「有名になって新聞に写真が出る」

「やるぞ、絶対にな」


 

意気揚々とボートを運び滝にやってきます。

水量が浩大で、水流が獰猛で、飛瀑する滝をまざまざと眺め入っていました。

仲間は怖気づき縮みあがって参加しません。

ノーマンは弟ポールへの対抗心と兄であるプライドからでしょうか、心ならずも激流と堅固な岩々、急落下する滝に挑戦します。

兄弟はオールを匠に扱い果敢にボートを操縦し、阻む岩からコースを変えます。

しかし待ち構えていた滝の急降下に真っ逆さまに落ちてしまいます。

渓流の瀑布に飲み込まれて激流に振り落とされてしまいました。

岩場に激突し裂けたボートを発見した仲間たち。

慌てて駆け寄った一人の仲間の背後からビックリさせるようにポールが出てきて、取っ組み合いをします。

ポールの確固たる決意と恐怖心を知らない度胸、普通の人とは違う命の危うさ、型破りで破天荒さを秘めていました。

簡単に命を ”賭け” に捧げました。

 

 

父に説教をされるノーマンとポール。

 


父親:

「教会に行って神の許しを請え」

「母さんは死ぬほど心配したんだぞ」

母親:「キャメロンさんが電話を...」

父親:「ボートはどこから?」

ポール:「借りた」

父親:

「借りた?」

「まったく何てことを」

「自分らで働いてボートを買って返せ」

ノーマン:「はい、父さん」

ポール:「僕が言い出したんです。僕が...」


 

ノーマンが一人朝食を食べていると、ポールがやってきます。

ノーマンは弟への劣等感から馬鹿なことをして母を心配させたこと、父に怒られたこと、そして弟に擁護されプライドを傷つけられたことに苛立ちをおぼえていました。

一方、川下りの興奮から冷めやまない弟。

ポールは苛立っている兄の朝食に嫌がらせをします。

 


ポール:

「何をのせた?」

「足りないよ、サーディンものせろ」

ノーマン:「サーディンは嫌いだ」

ポール:

「あいつら自分たちもボートに乗ってたと言うぜ」

「僕なら新聞に書く、”兄弟の快挙”」

「せめて学校新聞に、真相をね」


 

ポールはサンドイッチにサーディンを大量にのせてパンを押し付けました。

 


ノーマン:「サーディンは嫌いだ!」


 

そこでノーマンとポールは生まれて初めて殴り合いのケンカをしました。

母親が決死に止めに間に入りますが、ケンカの勢いで足を滑らせてしまいます。

 


母親:「二人とも止めて!」

ポール:「母さんを殴ったな!」

ノーマン:「殴ったのはお前だ!」

母親:「足がすべったのよ!」


 


老人のナレーション:
「兄弟ケンカはそれ一度」

「どっちが強いかを言い合ったが、疑問に答えが出ないときは若者は蒸し返すことをしない」

「僕らは神の教え通り、仲の良い兄弟に戻った」


 

 

 

深いミズーラの山の森林に鳥の鳴き声がこだまします。

大量の太陽光線が当たり黄金に光った川面。

豊富な水量の川に荘厳な川のせせらぎが響き渡ります。

移動する度に陽気に跳ねる水しぶきの音。

時の緩急をもたらすリールを小気味よく巻き上げる音と竿のしなる響き。

ラインの軌道で瞬きほどの短い時間に美しいUの字を何度も形づくります。

ノーマンは針に引っかかった鱒をいたわるように自分の近くに寄せてきて、銀色に光るお腹を優しく抱きあげて、微笑みます。

ノーマンは向こう側でポールが釣りをする姿に美しさを感じました。

 


老人のナレーション:
「その時、僕の目は捕らえた」

「ポールは父から学んだ技を一歩超えて、自分のリズムをつかんだのだ」


 

ノーマンは川の流れ、鱒の動き、ラインの軌道、竿のしなりすべてに調和し一体となったポールの姿に見入っていました。

 


 

最後に親子3人で釣果を競います。

ノーマンとポールが釣ったきれいな文様の鱒が並びます。

 

 

 


父親:「両方とも見事だ。」


 

父親は籠からそれは大きな鱒を得意げに取り出して、並べました。

ノーマンとポールはこの大きさはありえないという顔でした。

 


父親:

「今日は皆に神の恵みがあった」

「それも特に父さんにね、ハッハッハッ」


 

父親は大きな鱒を釣り上げて、得意げに満足に笑いながら我が家に帰途に着きます。

やがてノーマンは故郷を離れて勉学のために、アメリカ東部にあるダートマス大学に進学します。

そして文学を修め、スポーツを楽しみ、仲間との交流で人間を知り、成長します。

ここに幼き頃から習慣としていたノーマンの文芸の才能が花を咲かせます。

ポールは地元の大学に入り、その間もブラックフット川で幻の大物を追い続けていました。

大学を卒業した後、近隣の市に移り新聞記者として働いていました。

ポールもまためったに父と母の元に帰らなくなっていました。

ノーマンは意気揚々と煙を吐き出す機関車とともに故郷に帰ってきます。

車窓には田園、森林、丘、谷など懐かしい故郷の風景が広がっていました。

ノーマンは懐かしそうに笑みを含ませながらその風景を見つめていました。

故郷を離れてから6年の歳月が経っていました。

プラットホームでは少し老いた父と母が愛する長男の帰郷を待ちわびていました。

停車しようとする列車にノーマンを確認した父親は喜びのあまり手を高らかに振ろうとしましたが、威厳をもたそうとして下ろしました。

ノーマンは家の雰囲気にどことなく変化を感じていました。

それはノーマンが帰郷したにもかかわらず、ポールが顔を見せに来なかったという些細な出来事からでした。

ノーマンは自らポールが働く新聞社を訪れて会いにいきます。

雑談中のポールはドア越しにもたれかかっていた見覚えがある顔を発見しました。

兄弟二人は抱き合い、6年ぶりの再会を喜びます。

 


ノーマン:「ゆうべは?」

ポール:

「すまん、帰ろうと思ったが..」

「おやじは言ったろ?”ノーマン、書斎へ”」

「本当に教授みたいだ」

「乾杯しよう」

ノーマン:「昼間から?」

ポール:「東部でなまったか?」

ノーマン:「言ったな」

ポール:「東部で釣りは?」

ノーマン:「全然」

ポール:

「全然?」

「ブラックフットへ行こうぜ」


 

 

 

懐かしきブラックフットの川に帰ってきたノーマンは立ち止まって微笑みました。

6年前と何も変わらない懐かしい生命の匂いと、輝きに満ちたこがね色と濃緑の世界が横たわっていました。

久しぶりに共に釣りを興じた兄弟たち。

ブランクで勘が戻ってこないノーマンに対して、ポールは悪気なく手ほどきします。

 


ポール:

「リールをうまく使うんだ」

「もっと遠くへ」

「少し向こうへ」

「そのまま糸を流れの中心に投げるといい」

「勘はすぐ戻るよ」


 

ノーマンは少しムッとします。

嫌がるノーマンに気づいたポールは兄を思い遣って一人で上流へと向かいました。

ノーマンは慎重に狙いを定め、竿に全集中します。

竿のしなりを解き放ち、ラインの重みを感じながら鱒が潜んでいそうなポイントにキャストします。

川の流れとドライフライの調律があった瞬間でした。

鱒は川面を移動する影にたまらず飛びついた瞬間、ノーマンはまたとないタイミングで針を鱒の口に合わせました。

鱒が川面の上をピチャピチャと跳ね踊る軽快な音に合わせてリール音が追いつきます。

鱒の重みで竿とラインが柔らかくしなりました。

久方ぶりの鱒との格闘に勝利したノーマンは満足感を体中で味わいました。

ノーマンはふとポールのことが気になり覗きに行きます。

ポールはノーマンと会っていない間にまた技術が上がっていました。

川と一体化する弟に見惚れていました。

その時ノーマンの弟への劣等感は憧れ、敬意の念そして愛情に変容していました。

帰郷しても何も変わらない雄大な川の偉大な包容力がノーマンの心を包み込んでいました。

 


老人ノーマンのナレーション:
「”シャドウ・キャスティング”」

「水面すれすれに糸を泳がせて虹鱒を誘う」

「ぼくのいない間に弟はアーティストになっていた」


 

 

 

しかし、ポールの私生活は荒れ果てていました。

ある夜の独立記念日のパーティーでノーマンはジェシーという女性に一目惚れします。

そして兄弟でダブルデートになります。

ポールが連れてきたのは先住民の女性です。

まだまだ差別が色濃く残る1920年代。

ノーマンたちがやってきた酒場では先住民の立ち入りが禁止されていました。

しかしポールはかまわずに入店します。

周りの客の目線に対して、堂々と睨みつけるポール。

 


ジェシー:「とてもきれいな髪の毛ね」

先住民メイベル:「切ろうかと...」

ジェシー:「ダメよ、もったいないわ」


 

さきほどまで店員の態度に憤っていたメイベルはポールの方を見てにっこりと笑いました。

ノーマンはジェシーの優しい人柄を知りました。

そして4人は出会いを祝して乾杯します。

 


ノーマン:

「”ロウソクは両端から燃え、じき燃え尽きる”」

「”友も敵も分け隔てなく今宵を楽しもう」


 

ジェシーはノーマンの即興の詩に驚きと尊敬の念を持ってノーマンを見つめます。

新聞記者としての記事も有名で社交的なポールとジェシーは気が合います。

先住民の女性とポールは激しくも華麗なダンスを周りの客に見せつけるように踊りました。

年老いた閉鎖的な時代を爽快に突き抜けるような二人のダンスでした。

ポールの破天荒な性格は少しも変わっておらず、どことなく生まれつきの反抗心がそのまま閉鎖的な町やその時代に対しても不服従を貫き通すように拡大した感じでした。

新聞記者という職業からもそんなポールの気質を垣間見ることができます。

ノーマンもジェシーをダンスに誘いました。

 


ノーマン:「弟には到底及ばないが踊らないかい?」


 

 

 

あくる日、ノーマンはジェシーに告白のラブレターを送ります。

 


ノーマンの手紙:「

ジェシーへ

月が名残惜しげに

山かげに消えようとしている

僕の心は歌っている

何かのメロディーではなく

何か別のものに合わせて

記憶の中を、歌が流れていく

鹿しか足を踏み入れたことのない緑の草原

緊張した僕の腕の中で踊っている

君の思い出と共に...

ノーマンより


 

 

 

ポールは昼間に酒を飲むことがあり、夜には博打小屋に入り浸って膨大な借金をしていました。

ある夜、ノーマンは警察署からポールがケンカで先住民のメイベルと共に捕まっているという連絡を受けます。

身柄を引き受けた帰り道。

 


ノーマン:

「もし金が要るなら...」

「金だけでなく何でも...」

ポール:「彼女の家はすぐその先だ」


 

ポールはノーマンの言葉を遮りました。

 


ノーマン:「遠慮せずに...」

ポール:「曲がってくれ」


 

ノーマンはジェシーに頼まれてハリウッドから帰郷していたジェシーの兄を釣りに連れていきます。

ノーマンはポールに頼んで釣りの約束をしました。

ジェシーの兄は売春婦を連れて酔っ払ったまま釣りに来ました。

呆れ果てたノーマンとポールはジェシーの兄に愛想を尽かします。

 


ポール:「あいつは?」

ノーマン:「知るか」

ポール:「おれたちで助けるんだろ?」

ノーマン:「あんな奴どうやって?」

ポール:「釣りに誘ったろ?」

ノーマン:「奴は釣りもモンタナも僕も嫌いなのさ」

ポール:「人の助けを感じないのさ」


 

ノーマンは彼の言った言葉に、ポールの顔を見ました。

ポールは自分もそうかもしれないと感じたと思います。

ポールは自分を憐れむようにジェシーの兄のことを感じたと思います。

ジェシーの兄は日中裸で寝てものすごい日焼けになりました。

ジェシーの兄を家まで送った時にノーマンとジェシーは険悪になります。

 

 

その夜、一家は久しぶりに夕食を共にします。

うなだれて食が進まないノーマン。

ポールは陽気に父と母を会話で楽しませます。

 


父親:「どういう記事を書いているんだ?」

ポール:「マクリーン牧師一家はロースト肉の夕食を囲んで、長男以外は楽しい時を過ごした」

母親:「どうしたの?」

ポール:「面白くない、面白くない男」


 

ポールはジェシーがノーマンに言ったセリフを言いました。

 


父親:「人間の取り柄はそれだけではない」

ポール:「退屈でもいい」

母親:「お前はいい息子よ」


 

ポールは親孝行にも父と母をたくさん喜ばせました。

 


ポール:「母さん、うまかったよ」


 

帰ろうとするポールに父と母は落ち着きなく不安そうに寂しがります。

ポールが退席した後、父と母は気落ちしてそのまま食事は終わりました。

ノーマンのいない間、父と母にとってポールは太陽のような存在になっていたんですね。

ジェシーの家族みんながジェシーの兄に絶えず気をつかうシーンと似たものがあります。

ジェシーの一家は落ちぶれた家の希望のような存在として、ジェシーの兄に過度に丁重に接していたんですね。

人間の寂しさ、喪失感、空虚感を感じる一幕だと思います。

 

 

ノーマンにかねてから応募していたシカゴ大学から教授への依頼がやってきました。

ノーマンは手紙を読み、歓喜に震えます。

父親の書斎から聞こえてくるワーズワースの詩の一節が聴こえて来ました。

ノーマンは静かに近寄りその声に呼応し目を合わせながら共に吟じます。

 


 

Splendor in the Grass」
『草原の輝き』

Not in entire forgetfulness and not in utter nakedness.
すべてを忘れることなく、また赤裸々でもなく、

But trailing cloud of glory do we come from god who is our home.
我らは栄光の雲から出ずる。神は我らが家なり。

Though nothing can bring back the hour of splendor in thegrass, of glory in the flower, we will grieve not.
草原の輝きはもはや戻らず 

Rather find strength in what remains behind.
花は命を失っても後に残されたものに力を見いだそう。

In the primal sympathy which having been must ever be.
本能的な思いやりのなかに、

In the soothing thoughts that spring out of human suffering.
苦しみの末の和らぎのなかに、

In the faith that looks through death. 
永遠なる信仰のなかに、

Thanks to the human heart by which we live, thanks to itstenderness, its joy, its fears.
生きるよすがとなる人の心。その優しさとその喜びに感謝しよう。

To me, the meanest flower that blows can give thoughts that dooften lie too deep for tears.

人目にたたぬ一輪の花も、涙にあまる深い想いを我にもたらす。

 


 


離れていくポール、離れつつあるノーマンたちへの寂しさ、惜別。

父親は信仰の中に心の安らぎ、生きる目標、救いをを求めていました。

父親もノーマンもこの詩を暗唱している。

人生で一番この詩がふさわしい時に思い浮かぶ。

苦々しくも思い出深いこの父の書斎で。

このシーンに父親とノーマンのこれまでの人生が正しかったであろうことが涙を持って伝わってきます。

 

 

ノーマンとジェシーの家族はジェシーの兄が西海岸に戻る見送りをします。

ジェシーの兄ニールが帰郷した時、彼は虚栄心でいっぱいでした。

家族の期待を一身に背負っていました。

自分を成功者と見せようとした苦悩は計り知れないものです。

そして今、暖かな安らぎの下、故郷で癒やされたニールはまた西海岸に戻ります。

ゆっくりゆっくりと列車はこの町を離れていきます。

乗客とその家族の運命を背負ったその堂々とした力強さと雄叫び。

列車は夕陽の向こう側に静かに消えて行きました。

見送りの後、ノーマンとジェシーは近くを散歩します。

 


ジェシー:「兄が来年戻ってきたら相手を?」

ノーマン:「君がそう望むなら」

ジェシー:「兄は戻らないわ」

ノーマン:「向こうにも友達が...」

ジェシー:

「ロナルド・コールマン?」

「友達が欲しいくせに人って素直じゃないのね」

ノーマン:「どうしてかな」

ジェシー:「泣きたいけど我慢するわ」


 

涙が頬をつたうジェシーにノーマンはそっとハンカチで涙を留めてやります。

 


ノーマン:「見せたいものが」

ジェシー:「何かいいものなら」

ノーマン:「読めよ」


 

そう言ってノーマンはシカゴ大学からの誘いの手紙を読ませました。

 


ノーマン:「どう思う?」

ジェシー:

「どう思う?すごいじゃないの!」

「シカゴに行けるなんて!すばらしいわ」

ノーマン:「知ってる?」

ジェシー:

「私はここヘレナしか知らないわ」

「おめでとう、ノーマン!」

ノーマン:「僕は迷っている」

ジェシー:「モンタナはどこへも行かないわよ」

ノーマン:「モンタナじゃない」

ジェシー:

「じゃ何なの?」

「何よ」

ノーマン:「君から離れたくない」


 

ジェシーはノーマンにしがみつくように抱きつきました。

 

 

ノーマンがジェシーとの婚約をポールと祝ったその夜、明朝親子3人で釣りをしようと言い残して、ポールはまた危険な賭けポーカーの闇に消えていきました。

いつもなら約束の時間を守るはずのポール。

30分過ぎてやっと姿を現しました。

ノーマンはポールの身の安全に心底安心しました。

4人で朝食を取る中、ノーマンはシカゴ大学の職が決まったと家族に告げます。

 

 

そして歓喜の中、親子三人で釣りに行きました。

 


父親:

「私は今日は上流へ行くとしよう」

「穴場がある」

ポール:「きっと釣れるよ。きっと釣れる」


 

ポールは陽気に父親を送り出しました。

 


ポール:「今日はいっしょに釣ろう」

ノーマン:「いいね」


 

大きな岩が沢山横たわり、川のせせらぎの高低が大きく、その音は深く川そのものが呼吸をしているかのようでした。

早速ノーマンは鱒をゲットしました。

そして苦戦を強いられてるポールをよそに、ノーマンはまた一匹釣り上げました。

ポールは前夜から酒と賭け事で、心身ともに疲れていました。

なかなか釣れず、イライラしています。

ノーマンにドライフライの種類を尋ねます

 


ポール:「針は何を?」


 

ノーマンはわざと聞こえないフリをします。

 


ノーマン:「何て?」

ポール:「針は何を?」


 

ノーマンは今度は少し笑いながらまた聞こえないふりをします。

 


ノーマン:「聞こえない」


 

ノーマンの悪だくみを理解したポールはまた呼びかけます。

今度はポールが声を発さず口パクだけで言います。

兄弟だけが幼い頃からしている言葉遊び。

 


ポール:

「よく聞けよ」

「.........」

ノーマン:

「バンヤンの針だ」

「一つ持っていこうか?」

ポール:「俺がそっちへ行くよ」


 

ノーマンのところにドライフライを取りに行くのですが、足がよろけるんですね。

それはポールの心と身躯の末期状態を告げ知らせるようでした。

まるで針が口に食いついて観念して動きが弱り、ノーマンの袂に身を委ねた鱒のようでした。

ノーマンはタバコに火を付け一服した後、ポールに渡します。

ポールは受け取りまた一服し、ノーマンに返します。

 


ノーマン:「ジェシーに求婚する」

ポール:

「本当に?」

「今日は良い日だ」


 

一呼吸した後、ノーマンは優しくそして憐れみではなく敬意を持って弟に言います。

 


ノーマン:

「お前も一緒にシカゴへ」

「3000キロ離れてて新聞もたくさんある」

「活気のある大都会だ」

「どうだ、いっしょに行こう」


 

ポールは怒りもせず、兄に敬意を払って言いました。

 


ポール:「俺はモンタナを離れないよ」


 

ノーマンと父親はそれぞれ満足の行く大きさの鱒を釣り上げており、二人で一服しながらポールの姿を遠くから見ていました。

ポールは岩影の淀みに狙いを定め、精神を統一して竿を後ろに整然と倒しました。

そしてラインを前方に解き放ちます。

空気を切りながらラインは弧を描いて真っ直ぐにポイントに向かいました。

やがてラインが緊張し、鱒が食らいつきます。

今にも消えそうなポールの瀕死の魂に、一瞬火が灯りました。

ポールは急流深く流されながら、生死をかけてその鱒と格闘しました。

ラインを緩めては鱒の勢いをいなし、強めては自分に手繰り寄せます。

どんなに引っ張られても自分の顔までの深さまで流されても決して竿を離しませんでした。

ポールの献身的な気性がこの時のために育まれてきたかのように、命を賭けて鱒と闘います。

奮闘の末、ポールは父親の鱒を二周りも超えるような大きさの鱒を釣り上げました。

父親は自分のことのように歓喜して、写真におさめました。

 


父親:「お前はすばらしい釣り人だ」

ポール:「あと3年で魚の考えが読める」

ノーマン:「今でも並ぶ者のない釣り人だ」


 


老人ノーマンのナレーション:
「その瞬間僕ははっきりと感じた」

「完成されたものの美を」

「そこはブラックフットの川辺ではなく、弟は芸術品のようにこの世を超えた空間に立ってた」

「だが同時に僕は感じていた」

「人の世は芸術ではなく、永遠の命を持たぬことを」


 

 

 

それが最後のポールの姿でした。

ノーマンはポールが賭け事のいさかいから、殴り殺され道端に放置されていたということを警察から知らされます。

ノーマンから知らせを受けた母と父。

父と母は意気阻喪して、足取り重く静かに二階の自室に上がって行きました。

 


老人ノーマンのナレーション:
「その後も父は思い出にすがるためか、僕に”知っていることはそれだけか”と」

「僕は答えることがなく、”ポールって奴はただ一つ釣りはすごかった”」

「父は”それだけじゃない、あの子は美しかった”と」

「だがポールは父の心に生き続けた」

「僕は父が亡くなる前の最後の説教を覚えている」


 


父親の説教:

「人は皆、一生に一度は似た経験があります」

「愛する者が苦しんでいるのを見て、神に問う」

「”愛する者を助けたいのです。何をすれば?”」

「本当に助けとなることは難しい」

「自分の何を差し出すべきか」

「あるいは差し出しても相手が拒否してしまう」

「身近にいながら腕の間をすり抜けてしまう」

「できるのは愛すること」

「人々は理屈を離れ、心から人を愛することができる」


 

息子の死以来、父親の長年の苦悩を告白した教談でした。

一人の大人である人格を持った人間に対して何ができるのか?

相手に対して誰も何も矯正はできません。

 

 

ただただ、愛情を持って見守ることしかできません。

そして時は経ち、悠久の川に一人老人がフライフィッシングをしていました。

子供も独立し、妻、父、母とはもう死別し、独りになったノーマンでした。

故郷に戻り、昔の憧憬を懐かしみながら釣りに興じていました。

昔と何も変わらず、荘厳で静穏な神のような輝かしい川がノーマンを優しく包み込んでいました。

 


老人ノーマンのナレーション:
「あの頃、理解し合えずでも愛した者たちは、妻を含め世を去った」

「今は心で語りかける」

「この歳で釣りもおぼつかない」

「友達は止めるが、一人で流れに糸を投げ入れる」

「谷間にたそがれが忍び寄ると、すべては消え、あるのは私の魂と思い出だけ」

「そして川のせせらぎと四拍子のリズム」

「魚が川面をよぎる期待」

「やがてすべては一つに溶け合い、その中を川が流れる(A river runs through it.)」

「洪水期に地球に刻まれた川は、時の初めから岩を洗って流れ、岩は太古から雨に濡れてきた」

「岩の下には言葉が...」

「その言葉の幾つかは岩のものだ」

「私は川のとりこだ」


 

ブラックフットの川というキャンバス。

そこに様々な個性ある色が集い、主張し、共演する。

だが一体感を持って調和している。

それは人の世、現実を超えた悠久の美が陽光がせせらぎに反射した数だけ発生します。

この作品の主題は、

『故郷とは?美しさとは?』です。

この作品の特徴はと言うと、

 


1.モンタナの川の悠久さと包容力

2.そこに棲む鱒と人間との調和と一体、そして旋律

3.ポールの選ばれし芸術家としての刹那的な生き方

4.ノーマンの人間力の結実


 

この4本の柱で構成されています。

そこにブラックフットの川が深く関わっています。

 

ブラックフット川がもたらす役割:

故郷

精神性

共存

不変

包容

輝き

静けさ

遊技場

教室

癒やしの場

 

老いてなおノーマンが川に行くのは、そこに愛するもの達がいるからです。

こぼれ落ちてしまった美しい弟が、畏怖と敬意と誇らしさで見ていた父親が、仲間との馬鹿げた企みなど過去の犯されない美しい思い出が真空パックのように時を止めて鮮明に輝いています。

この作品はただただ美しい...。

理屈では語れない映像美。

この作品は何だったのでしょうか?

言葉では表しづらいが、また見たい。

ここに帰って来たいと思わせてくれる作品です。

心にいつでも開けられるそんな作品です。

監督がロバート・レッドフォードでブラッド・ピットの美形の譜系でしたね。

それでは、次の作品で。

サヨナラ。

 


~関連作品~

 

『華麗なるギャツビー』ジャック・クレイトン監督、ロバート・レッドフォード

『愛と哀しみの果て』シドニー・ポラック監督、ロバート・レッドフォード

『心が2つある大きな川』ヘミングウェイ著

『草原の輝き』ワーズ・ワース著