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N響 2024年4月B定期( エッシェンバッハ 指揮)

2024年04月29日 | pocknのコンサート感想録2024
4月25日(木) クリストフ・エッシェンバッハ 指揮 NHK交響楽団
《2024年4月Bプロ》 サントリーホール


【曲目】
1.シューマン/歌劇「ゲノヴェーヴァ」序曲
2.シューマン/チェロ協奏曲イ短調 Op.129
【アンコール】
 ♪ ルシア民謡/シーラーズの娘
 Vc:キアン・ソルターニ
3.シューマン/交響曲第2番ハ長調 Op.61



エッシェンバッハ指揮のN響を聴くのは2017年以来2度目。前回はあまり印象に残らなかったが今夜は違った。オール・シューマンの地味なプログラムだが、どの曲も充実した演奏だった。

最初は「ゲノヴェーヴァ」序曲。重心が低く音が練られていて、風格を感じる演奏。エッシェンバッハの職人的な音作りの巧さを感じた。続くチェロ協奏曲は、チェロのソルターニが好印象。粘りがある密度の濃い音で、しっかりと雄弁に歌い上げるチェロからは郷愁も漂って来た。感情をストレートにぶつけるのではなく落ち着きと節度のある演奏は、エッシェンバッハの作る音楽と共通性を感じる。両者による演奏は緻密で堅実で完成度も高いが、もう一つライブならではのサプライズ的な決め手が欲しい気もした。

そんなエッシェンバッハ/N響の印象が、プログラム後半で大きく変わった。いや、基本的な演奏スタイルや響きが変わったわけではないのだが、そこに魔法のような光が射したのだ。それは熱いテンションと強い方向性。第1楽章から音楽がどこへ向かうのかがありありと感じられ、オケ全体が高い集中力で結集した。第2楽章ではむやみに暴れ過ぎることなく、しかし颯爽と畳みかけて要所を押さえて進んで行く様子が実に勇ましい。対抗配置のヴァイオリンの応酬も効果的。その一方で、トリオでの歌はシューマンならではの叙情味溢れた夢想の世界を表現していた。

3楽章はそんな抒情の極致と云えるような演奏。何よりも称賛したいのは木管の各プレイヤーのほれぼれする歌心。なかでも中村さんのクラリネットの柔らかな弱音は、たった数小節のフレーズで何という存在感を示したことか。吉村さんのオーボエ、神田さんのフルートも溜めやアゴーギクに独特の魅力を感じた。一人一人の妙技が演奏全体の印象をどんどん高めて行くところも「魔法」の一要素となった。

アタッカで突入した第4楽章で、エッシェンバッハ/N響は益々熱量を上げた。その火付け役とも云えるのは、今月からゲストコンマスに就任した川崎さん。大きなモーションでオケを先導し、要所で度々腰を浮かせる気合いの入りよう。ヴィオラの村上さんやチェロの辻本さんも全身で入魂の演奏。そんなトップ奏者の気合いがオケ全体に忽ち伝播してN響の本気度が聴き手の心を大きく揺さぶり、最終盤では全身トリハダで聴き入った。

エッシェンバッハがここまでの演奏をしてくれるとは。アグレッシブな表現も憧れの表現もやり過ぎることなく堅実でありながら、どれもが熱くストレートに訴えてきて、個々のソロの妙技と濃密で精度の高い合奏の両面から築き上げた名演となった。全楽章から溢れる愛を感じたのはシューマンのクララへの思いが体現されていたのでは?

問題ありとされることが多いシューマンのオーケストレーションは、実際、響きが野暮ったく感じることもあるが、今夜の演奏からはそれを全く感じなかった。サヴァリッシュだったかのインタビュー記事で、「オーケストレーションの問題ではなく演奏の問題」と語っていたことが、説得力を持って思い出された。会場は大喝采とブラボーで溢れた。最近は定番になっているソロカーテンコールだが、いつもはオケが退場を始めると一旦は止む拍手が鳴りやまず、独りで再登場したエッシェンバッハは熱い拍手とブラボーを浴び続けた。


エッシェンバッハ指揮 N響(ブラ4&1)2017年10月26日 サントリーホール

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