つらつら日暮らし

雑 第二十五 其17(富永仲基『出定後語』を学ぶ44)

ここ1年以上にわたって、最後の一章「雑」を採り上げています。本章は「雑」の字の通りで、他に一章を立てるほどが無い程度の内容でもって、様々な事柄を富永仲基が論じたものです。本当に種々雑多な内容ですが、見ていると20前後の節に分けられそうなので、一つ一つ見ていきたいと思います。

 阿弥陀仏土、人人皆な身光有り、常に明らかにして闇からず。日月の光明を仮らずして、安んぞ昼夜を分かたん。然るに、其の経文、又た昼夜六時及び清旦等の語有り、是れ作者の破漏する処。
 仏土の衆鳥は、罪報の所生を嫌う。故に下に之を説いて云く、「是れ仏変化の所作」と、是れ作者の密なる処。
    岩波書店『日本思想大系43』104頁を参照して拙僧が訓読した


まぁ、これは、富永一流のいちゃもん付け、という感じですね。まず、阿弥陀仏土というのは、いわゆる極楽浄土のことですが、そこに住む人々は、光り輝いているというわけです。この辺、「昼夜の六時」云々とあるので、おそらくは『阿弥陀経(小経)』が典拠として言われるものだと思います。少し探してみると、以下の一節を見つけました。

たとひわれ仏を得たらんに、国中の人天、一切万物、厳浄光麗にして、形色殊特にして、窮微極妙なること、よく称量することなけん。
    『無量寿経』第二十七願


どうも、こちらが該当するように思うのですが、どうなのでしょうかね。光麗は光るという意味持たせて良いんでしょうかね?他に、衆生自身が光り輝いていると示しているのは、無いように思うのですが・・・ただ、例えば、阿弥陀仏(無量光仏)の光を受けて、極楽浄土の衆生も光り輝いている、というような意味でしたらば、納得は出来ます。

それで、富永のいちゃもんですが、要するに極楽の衆生は皆、光り輝いているので、太陽・月の光が無くても、仏土全体が明るく、よって、昼夜として分けられることはない、としたのです。或る意味、北極圏の白夜みたいなものですかね。しかし、経文を見ると、「昼夜の六時」「清旦」などの語句が出ているとしています。

また舎利弗、かの仏国土には、つねに天の楽をなす。黄金を地とし、昼夜六時に天の曼陀羅華を雨らす。その国の衆生、つねに清旦をもつて、おのおの衣裓をもつて、もろもろの妙華を盛れて、他方の十万億の仏を供養したてまつる。
    『阿弥陀経』


富永は、上記の通り、極楽浄土を説明した言葉の中に、「昼夜六時」と出ていますが、人々が輝いているのに、どうして昼夜があるのだろうか?という話になるわけです。「清旦」も、直訳すれば「清らかな夜明け」となるでしょうから、夜から朝への移動が想定されています。これもダメだということになり、富永はこの文脈を、「作者の破漏(=文脈が破綻)する処」だとしています。

それから、「仏土の衆鳥」については、以下の通りです。

また次に舎利弗、かの国にはつねに種々奇妙なる雑色の鳥あり。白鵠・孔雀・鸚鵡・舎利・迦陵頻伽・共命の鳥なり。このもろもろの鳥、昼夜六時に和雅の音を出す。その音、五根・五力・七菩提分・八聖道分、かくのごときらの法を演暢す。その土の衆生、この音を聞きをはりて、みなことごとく仏を念じ、法を念じ、僧を念ず。舎利弗、なんぢこの鳥は実にこれ罪報の所生なりと謂ふことなかれ。ゆゑはいかん。かの仏国土には三悪趣なければなり。舎利弗、その仏国土にはなほ三悪道の名すらなし。いかにいはんや実あらんや。このもろもろの鳥は、みなこれ阿弥陀仏、法音を宣流せしめんと欲して、変化してなしたまふところなり。
    『阿弥陀経』


こちらもまた、富永のいちゃもん付けの対象です。なお、上記の通り、経文では「鳥なり」とのみありますが、善導大師『法事賛』では、「衆鳥」としているので、富永はそちらも読んだのでしょう。それで、この場合何を言っているかというと、極楽浄土に鳥がいるというのは、上記の通り、「三悪道」が無いとなると、いわゆる「畜生道」が無いので、鳥が生まれるはずがないわけです。よって、「この鳥は実にこれ罪報の所生なりと謂ふことなかれ」や、「このもろもろの鳥は、みなこれ阿弥陀仏、法音を宣流せしめんと欲して、変化してなしたまふところ」などという説明がされています。

富永はこれらを、「是れ作者の密なる処」としていますが、この場合の「密」はおそらく「緻密」の意味で使われていると言って良いのでしょう。

ということで、残りの連載が3回程度になりましたが、最後まで富永の思考の様子を見ておきたいと思います。

【参考資料】

・石田瑞麿訳『出定後語』、中公バックス日本の名著18『富永仲基・石田梅岩』1984年
・水田紀久編『出定後語』、岩波日本思想大系43『富永仲基・山片蟠桃』1973年

これまでの連載は【ブログ内リンク】からどうぞ。

この記事を評価して下さった方は、にほんブログ村 哲学ブログ 仏教へにほんブログ村 仏教を1日1回押していただければ幸いです(反応が無い方は[Ctrl]キーを押しながら再度押していただければ幸いです)。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「仏教・禅宗・曹洞宗」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事