つらつら日暮らし

東嶺円慈禅師『臘八示衆』参究2(令和3年度臘八摂心短期連載記事)

臘八摂心、2日目である。この辺は【摂心―つらつら日暮らしWiki】という記事の通りで、元々は「定坐」という名称だった行事が、名称の1つだった「摂心」が、明治時代以降に定着した印象である。

それで、今年はたまたま入手できた『臘八示衆』(貝葉書院・年代不明なるも古い版本)を学んでみようと思う。聞けば、本書に収録される提唱をされたのは、臨済宗妙心寺派の白隠慧鶴禅師(1686~1769)の弟子である東嶺円慈禅師(1721~1792)とようである。当方では、版本が手に入った御縁を大事に、どこまでも当方自身の参究を願って学ぶものである。解釈についても、独自の内容となると思うが、御寛恕願いたい。

それから、この『臘八示衆』だが、東嶺禅師『五家参詳要路門』(小川源兵衛・文政10年[1827]跋、或いは『大正蔵』巻81)の附録として入っている「二門」の1つであり、白隠禅師の弟子を代表する東嶺禅師の見解が、しっかりと込められているのだろう。

 第二夜示衆に曰く、
 楞厳経に曰く、一人道を成じて真に帰れば十方虚空悉く消殞す、と。
 凡そ、道を修する処、必ず護法神有り、魔障神有り。譬へば、城市に人多く聚まるときは、則ち賊盗亦た随て聚まるが如し。心願強きときは則ち護法神力を得、心魔動くときは則ち障神力を得。是の故に、学道は先づ須らく大誓願を発し、辞譲謙遜を専らにし、心を一切衆生の下に置き、咸く皆、度脱せんことを要すべし。
 仏祖の大道、願力無くしては能く徹底する者有ること無し。譬へば射を学ぶ者の如し、一箭一箭、鵠に中らんことを欲して、中らずと雖も、久しくして已まざれば、必ず其の妙を得。参学も亦復、然り。一念一念、大憤志を起こし、精神を抖擻して須らく大道の淵源に徹せんことを要すべし。
 是の如く念念退かざるときは、一切の法理、現前せざること無く、無上菩提、猶を俯して地芥を拾ふが如くならん焉。
    版本『臘八示衆』1丁表~裏、原典に従って訓読、段落は当方が付す


示衆という、或る意味自由な発話による説法だと思われるので、第二夜は『首楞厳経』巻9の一節を元にお話しされた。ところで、この引用文については、実は、本来の経典の文章とは相違している。本来は「汝等一人発真帰元、此十方空皆悉銷殞」となるべきである。しかし、禅宗では、「若有一人発真帰源、十方虚空悉皆消殞」(『圜悟録』他)という表記が一般的で、確かに全体として8字の2句になる語句ではあるが、その表現には若干の違いがあるのである。意味的には、ほとんど変わりはないが・・・

ところで、何故『首楞厳経』を引用したのか?だが、見ただけでは分からなかった。ただし、一人が成道すれば、十方虚空が全て消えるという表現自体は、我々自身の一心の働きが、すべての世界に及ぶことを示すので、そういう観点から読んでみると良いのかもしれない。そこで、続く文章を読みながら、その意図を探ってみたい。

まず、仏道を学ぶ者のところには、必ず護法神と、魔障神があるという喩え話をしているのだが、これは、街に人々が集まる時に、盗賊もまた集まる様子である。その際、心が強ければ、護法神力を得て、心魔が動くときには障神が力を得るというが、この辺が何を意味しているのかが分からない。街中で犯罪を犯す人の有無などを指しているのだろうか。

そこで、この示衆で主張されていることとしては、仏道を学ぶにはまず、大誓願を起こし、「辞譲謙遜」を専らにすべきであるという。辞譲も謙遜も、いわゆる「へりくだること」を意味しており、特に、自らを一切衆生よりも下に置くことで、一切衆生をお支えし、度脱していただくようにするべきだとされる。

それから、仏祖の大道を成就するには、願力が無ければ徹底できないという。その時の譬えとしては、弓矢を射る時に、一本一本ごと、「鵠(的の中央の星のこと)」に当てようと願いつつ、しかし当たらない場合でも、しばらくの間当てようとすれば、その内に当たるという。そして、参学もまたその通りで、一念一念に志を起こし、精神を抖擻(頭陀に同じ)によって、大道の淵源に徹底するべきだという。

このように、各々の念が退かなければ、一切の法理が現前しないことはなく、無上菩提はしゃがんで地面の上にある塵を拾う程度の話となるだろう、としている。昨日からの課題である「見性」については、この日の示衆ではよく分からないままであった。或いは、本来はその文脈で解釈されるべきことを、当方が気付いていない可能性もあるが、どちらにしても、よく分からない。

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