つらつら日暮らし

東嶺円慈禅師『臘八示衆』参究3(令和3年度臘八摂心短期連載記事)

臘八摂心、3日目である。この辺は【摂心―つらつら日暮らしWiki】という記事の通りで、元々は「定坐」という名称だった行事が、名称の1つだった「摂心」が、明治時代以降に定着した印象である。

それで、今年はたまたま入手できた『臘八示衆』(貝葉書院・年代不明なるも古い版本)を学んでみようと思う。本書に収録される提唱をされたのは、臨済宗妙心寺派の白隠慧鶴禅師(1686~1769)の弟子である東嶺円慈禅師(1721~1792)のようである。当方では、版本が手に入った御縁を大事に、どこまでも当方自身の参究を願って学ぶものである。解釈についても、独自の内容となると思うが、御寛恕願いたい。

 第三夜示衆に曰く、
 如来の正法眼蔵、的々相承、是を伝灯の菩薩と謂ふ。
 如来の正法眼蔵、能く護持するとき、是を護法の菩薩と謂ふ。
 伝灯・護法、猶を師家と檀越との如し。師檀合わざるときは、大法独り行われざる。而して護法を最上と為す。
 昔、弘法大師、嘗て大日如来に祈請して曰く、誰か是れ護法の最上なるや。
 如来告て曰く、弁財天に如くは無し、と。是れ伝灯は第一為りと雖も、若し護法の力無きときは、則ち仏法只だ独り行われざる所以なり。是の故に護法を最上と為すなり。
 又、坐禅は一切諸道に通ず。若し神通を以て之を言はば、則ち身は即ち天地の小なるものなり。天地は即ち身の大なるものなり。天神七代・地神五代、並に八百万の神、悉く皆な身中に鎮座せり。此の如く鎮座の諸神を祭祀せんと欲せば、神史に所謂、霊宗の神祭に非んば、則ち之を祭といふこと能わざるなり。
 脊梁骨を豎起して気を丹田に充たりして正身端坐、眼見耳聞、一点の妄想を雑へず、六根清浄なることを獲るとき、則ち是れ天神地祇を祭るなり。一炷の坐と雖も、其の功徳、鮮と為さず。是の故に、道元禅師曰く、勤むべきの一日は、貴むべきの一日なり。勤めざるの百年は、恨むべきの百年なりと。嗚呼、恐るべく、慎むべし。
    版本『臘八示衆』1丁裏~2丁表、原典に従って訓読、段落は当方が付す


3日目の夜に行われた示衆であるが、内容は如来の正法眼蔵の受け嗣ぎ方で、的的(嫡嫡と同じ)相承なる「伝灯の菩薩」と、良く護持する「護法の菩薩」を挙げておられる。そして、伝灯の菩薩は師家、護法の菩薩が檀越に位置付けられるというが、師・檀が合わない時には、大法の実践が続かないので、護法を最上としている。第2日目にも「辞譲謙遜を専らにし、心を一切衆生の下に置き、咸く皆、度脱せんことを要すべし」とあったが、やはり謙譲の坐禅を強調されたということだろうか。

そこで、この提唱では、弘法大師に基づく説話を紹介している。大日如来に祈り、「誰が護法の最上であろうか?」と問うたところ、如来は、弁財天が最上の護法だと述べた。そして、伝灯が第一ではあるが、護法の力が無い時には、仏法が行われず、そのために護法を最上としている。「弁財天」が出て来ていることから、経済的な側面にも配慮した教えと受け取ることも出来よう。

その上で、坐禅は一切の諸道に通じ、神道・神祇にも通じていくため、坐禅人の身中に、あらゆる神、それこそ八百万の神も皆、鎮座するという。よって、身中に鎮座する諸神を祭祀することについて、「霊宗の神祭」を用いるべきだというが、具体的には背骨をしっかりと立てて、気を丹田に充満させ、一点の妄想を混ぜず、六根清浄の時、天神地祇を祀るという。

ただ一座であっても、この功徳が少ないとはしないとしつつ、その典拠として道元禅師の『正法眼蔵』「行持(上)」巻の「しかあれば、一日はおもかるべきなり。いたづらに百歳いけらんは、うらむべき日月なり、かなしむべき形骸なり。たとひ百歳の日月は声色の奴婢と馳走すとも、そのなか一日の行持を行取せば、一生の百歳を行取するのみにあらず、百歳の他生をも度取すべきなり。この一日の身命は、たふとぶべき身命なり、たふとぶべき形骸なり。かるがゆえに、いけらんこと一日ならんは、諸仏の機を会せば、この一日を曠劫多生にもすぐれたるとするなり」の教えを、「勤むべきの一日は、貴むべきの一日なり。勤めざるの百年は、恨むべきの百年なり」という風に約めて仰っているのかとも思う。

そして、護法神などを恐れつつ、自らを慎んで坐禅修行に励むべきだということになるだろう。そして、『臘八示衆』に於ける「見性」については、今後の学びに於いて更に確認していきたい。

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